ソードアート・オンライン 青纏の剣医   作:破戒僧

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今回より『GGO』編突入です。
本章では、ナツメ以外も暴れさせる予定です。多少ですが。

リアルの仕事がやばい時期に入ってきたので、SAO編やALO編書いてた時ほど頻繁に投稿はできないかもですが……ともあれ、まずは新章1発目をどうぞ。


第3章 ファントム・バレット編
第56話 ドクターゲーマーと銃の世界


 

 

【2025年11月30日】

 

 突然だが、明日から12月である。

 

 12月を和暦で言うと『師走』である。

 師――すなわち、先生が走り回るような忙しい時期であることを指し示しているそうだ。

 

 そんな時期に僕は、SAO生還者のための臨時学校で教務主任を務めている、本田蔵人先生……またの名をクラディール先生から、相談を受けていた。

 

 実際に忙しいらしいが、それは別として、ゲーム絡みの相談だそうだ。

 

 曰く、教育委員会や保護者会で――『SAO』からのユニット名的なアレじゃなくて、リアルの方ね――最近話題になっているゲームがあるらしい。

 

 話題と言っても、いい意味でとは言い難いようで。

 

 まあ、内容にもよるが、VRゲームが世間様で賛否両論言われることなんて、それこそ日常茶飯事ではあるんだけども……クラディール先生が今回話題にしているゲームは、その中でもぶっちぎりで『否』が多いものらしい。その保護者会では、だが。

 

 その名も『ガンゲイル・オンライン』。略称『GGO』。

 

 最終戦争後の地球が舞台であり、衰退した地球を捨てて宇宙に飛び出した人類が、何やかんやあってまた地球に帰ってきて、過去の技術遺産その他を使って生きている、という世界観になっているそうだ。うん、よくわからん。

 

 僕も、クラディール先生の話を聞きつつネットで軽く調べただけなので、さわり程度のことしか知らないのだが、どうやら『ALO』が剣と魔法のファンタジーな世界なのに対し、こっちはSFがメインって感じのようだ。モンスターとかは出てくるらしいが。

 

 世界観は世紀末。プレイヤーが使う武器は銃火器とか、科学技術による兵器が主。

 実在する銃とか兵器の他、『光学銃』……いわゆるビーム砲とかもあるらしい。

 

 宇宙世紀……いや、スターウ○ーズ? 世界観的にはそれに近い感じのようだ……なるほど、モンスターが出てくるとはいえ、ALOとは世界観も何もかもかけ離れてるな。

 

 説明文のフレーバーテキストやら時代背景とやらに、宇宙戦艦とか普通に出てくるらしいから、近未来と呼ぶにはちょっとぶっ飛びすぎてる気もするが。

 

 ともあれ、その『GGO』がなぜ教育的に問題視されているのかと言うと、理由は2つ。

 

 1つは単純な話だ。銃器類を使って戦うということは……他のプレイヤーとの戦い、いわゆる『PVP』の際にも銃で戦うということだ。人と、銃で。

 レーザーとか近未来的なものがあるとはいえ……人に銃を向けるわけだ。

 

 しかも、ALOとの大きな違いの一つとして、GGOでは、対人戦でPKを行っても経験値が取得できるらしい――説明が後になったが、この世界はレベル制である――という仕様から、ALO以上にPVPないしPKが、対人戦が推奨されている。

 

 ゲームとはいえ実際のプレイヤー=人間を相手に、しかもVRで銃を打ち合うのはどうなんだ……っていうことで、昨今色々なところで議論を沸かせているとのこと。

 

 特に、『SAO生還者』対象の臨時学校に絡む会議ではよく話題に上がるそうだ。

 

 あの学校は、SAOで2年分の時間を失った青少年への救済措置であると同時に、多感な時期にそういうとんでもない環境に放り込まれた彼らが、社会的に問題があるような人格に育っていないかを『監視』する目的も合わせて持っているらしいし。

 

 実際、正真正銘『生きるか死ぬか』の世界で生きて来たSAO生還者は、どこか現実離れした雰囲気を纏っていることも多いしな。環境が環境だから、仕方ないというかなんというか。

 

 そんな彼ら・彼女らに対し、こういう暴力表現が激しい、しかも現実に存在する銃器類を扱って戦うようなゲームは刺激が強いんじゃあないかと、道を踏み外す者が出てくる危険性はないのか、関わらせないように何か対策を講じるべきではないかという話になるんだそうだ。

 

 しかし、それだったら……ALOだって、剣で斬り合うし、弓矢で射るし魔法でバカスカ焼いたりするし……方法が非日常的であるというだけで、暴力表現には変わりない。

 

 正直僕としては、そういうのは考えすぎじゃないかな、と思っている。

 

 ゲームなんて戦闘を盛り込んでいる時点でどれも多少なりそういう側面はあるもんだ。多少暴力に触れたからって、大概の人間はきちんと『ゲームの中のこと』だって言って割り切れるだろうし、逆にヤバい奴は何やったってヤバくなるもんである。身もふたもない言い方だが。

 

 ……例外が、放っておいても害はない、あるいは、手を引っ張ってやれば連れ戻せるような者を、意図的に道を踏み外させるような奴……煽り系、扇動系の悪人がいる場合だが。PoHとか。

 

 それはさておき、もう1つ……このゲームが問題視されている理由がある。

 そしてそれは、SAO云々が関係ないところでもよく話題に上がるものであり……そして同時に、奇妙なもので、このゲームが人気である最大の理由でもあった。

 

 『通貨還元システム』と呼ばれるもので……簡単に言えば、ゲーム内の通貨を現実に持ちだせるというものだ。電子マネーとして。

 

 それ聞いた時、僕は思わず『は?』という声が出てしまったのを覚えている。

 

 もう一度言うが、ゲーム内の通貨である。

 ソシャゲの課金とかで手に入る、ガチャを回すためのポイント的なアレではない。モンスターとかを倒すとドロップとして手に入り、武器屋とか道具屋でゲーム内のアイテムを買うために使われる通貨である。SAOで言うコル、ALOで言うユルドである。

 

 色々と感想はあるが、とりあえず『すげーこと考える会社あったもんだな』と一番に思った。

 

 極端な話、ゲーム内でモンスターを倒すなり、クエストをこなすなりしていくらでも稼げる通貨を現実に還元するなんて、そんなやり方で運営が成り立つのか、とかって話だし……いや、そのへんはおそらく、うまいことバランスとってるんだろう。

 

 1ヶ月ごとの『接続料金』……つまりは有料のプレイ料金も、他の有料コンテンツに比べて結構割高らしいし。後は、スポンサーか何かついてるかもしれないな。

 

 まあその辺はいいとして……この『通貨還元システム』は、現実世界で言えば『通貨の売買』にあたる可能性があるため、かなり法的にグレーゾーンであるそうだ。

 

 加えてその性質から、このゲームには『プロ』と呼ばれるゲーマーが一部存在する。

 アマチュアの、ただ楽しみたくてやっているプレイヤー達とは違い……彼らは現実の世界で生活する金を稼ぐためにこのゲームをプレイしているという。現実換算で月に30万円近くを稼ぐプレイヤーもいるとかいないとか……どんだけ時間使ってどんなプレイしたらそんなんなるんだ。

 

 まあ、ゲームして現実の金を稼ぐことができるわけだし、誰でもちらっとは考えるだろうさ。

 そんな上手い話が……少なくとも万人には当てはまらないように、難易度やらゲームバランスは調整されてるんだろうけど。

 

 ……一昔前になるが、小さい子供たちが憧れる職業、ないし将来の夢が『ユー○ューバー』とか『プロゲーマー』とかいう時代があったな。あの時も世間では、時代に合わせた新しい風潮であるという受け止め方がされる一方、『よくわからない不安定な仕事』だとか『ゲームで生活するなんて何をふざけたことを言っているんだ』なんて批判する意見が持ち上がったりもしたもんだ。

 

 動画投稿のために過激な、犯罪そのものの行為をするバカが出たり、『ファミレスで全種類注文してみた』とかやって、動画だけ取ってほとんど料理残すとかの迷惑行為やるアホもいた。

 

 そういう考えなしのせいで風当たり強かった、ないしは偏見が形成された面もあるだろうな。

 後者は友達呼ぶなりなんなりして、きちんと全部食べれば問題ないかもだけど。

 

 まあ僕としては、どっちでもいいというか……個人の問題、あるいは企業が利益をどれだけ追求できるかっていう問題だろうから、好きな人が好きなようにやればいいんじゃないかな、と思っていた。個人的にゲームが好きだったから、どっちかっていえば肯定的だったようにも思えるが。

 

 ……あの頃言われていた『プロ』と、GGOで言う『プロ』では若干意味が違うけどね。

 

 そういう側面があることから、2つの意味で教育上よくないんじゃないか、と話題になっているゲームと言うわけだ、そのGGOっていうのが。

 

 しかし、グレーゾーンなれども法的にはセーフとされていることから、教育委員会でも規制には至っていない。しかし、保護者や有識者の懸念は消えず、たびたび話題に上がると。

 

 それで僕にも、どう思うか……って、クラディール先生から話が来たわけである。

 VRゲームに造詣が深い、また自分と同じSAO生還者という立場からの意見が欲しいと。

 

 と言っても、それを聞いて具体的にどう動く、とかいうのがあるわけじゃなく、

 

 ……結論から言うと、僕としても、ネットから集めた知識しかない以上、他者と……それこそ、クラディール先生と似たような意見・見解しか返せないだろうし、それじゃわずかばかりの進展にもならないだろう。それじゃ、こっちとしてもすっきりしない。

 

 

 

 ……なので、実際にやってみた(言い回しに既視感)。

 

 

 

 例によって事前に攻略サイト等を調べて、十分に情報を集めてから行く……つもりでいたんだが、これが何というか、ALOの時に比べて中々難儀させられた。

 

 攻略系サイトの数が少ない。しかも、質があんまりよくない。

 序盤の進め方やチュートリアルの注意点なんかは見つかるんだが、ちょっとプレイを進めた先の攻略情報がほとんど見つからない。有力なプレイヤーの情報、モンスターの種類やドロップアイテム、マップやクエスト情報なんかもほとんどない。

 

 人気ゲームなのに何で? と思ったが……理由はすぐにわかった。

 

 さっき話題にした『通貨還元システム』である。

 

 このゲームは、言ってみればゲームにおける成果がリアルマネーにつながる。というか、言ってみれば、還元が可能である以上、リアルマネーをゲームの中でやり取りしてるようなものなわけだ。

 

 となれば、そのゲーム内通貨を生み出す、モンスターやクエストやらの情報は、そんな簡単に公開されないだろう。稼ぎ口の情報を他人にやすやすと教える人なんて、そう居ないだろうしな。

 

 もしかしたら、そういう門に詳しい攻略サイトを運営側から圧力かけて規制してる、なんてのもありうる……かも? いや、有料+課金系のゲームとはいえ、流石に考えすぎか……。

 

 まあ、そのへんはどうでもいい。

 とりあえず、最低限の情報は何とか手に入ったし、後はゲーム内でどうにかする。

 

 そもそも、今回はやり込み目的でやるわけじゃないしな。クラディール先生他、保護者会が気になってるゲームをちょっと覗いて意見の参考にしよう、っていう目的だ。多少プレイしておおまかな感想をまとめられたら、それ以降やらないものと考えていいだろうし。

 

 アカウントを作って新規に始めるか、それとも持ってるアカウントをコンバートするかでちょっと迷ったが、手っ取り早くコンバートで行くことにした。

 

 キリト君がばらまいた『ザ・シード』を使って作られたゲームは、全て互換性があり……簡単に説明すると、あるゲームで使っているキャラクターないしアカウントを、他のゲームに移し替えることで、そこでも使うことができるようになっている。それを『コンバート』と呼ぶのだ。

 

 もちろん、そのゲームに合った形にキャラは変化する。

 例えば、ALOのキャラクターをGGOにコンバートして使ったとして、妖精のままGGOに行けるわけじゃない。初回プレイする際に、その世界に合ったキャラが新たに作られる。

 

 ただし、キャラクターごとの能力値なんかはある程度の互換性があるため、ゼロからキャラを育成しなおす手間はなくなる。

 

 例えば、キリト君のALOのアバターは確か……STR(筋力値)重視で育てられていた。次いでVIT(生命力)とDEX(器用さ)重視だったと思う。AGI(敏捷性)は低めだったはず。

 それをGGOにコンバートすれば、そのアバターも同じような能力ビルドで構築されるわけだ。

 

 そして、それは既に育てられているキャラクターであるため、ある意味『強くてニューゲーム』みたいな感じになるわけだ。操作に慣れる点だけ何とかすれば、最初から飛ばしていくことができる。これがコンバートの利点である。

 

 そういうわけで、僕はコンバートで行くことにしたが……『ナツメ』を使うのはやめておくことにした。アレは僕がSAOにいた時から、汎用性最重視+接近戦偏重で育ててきたからな……GGOはいかにも遠距離攻撃が重要視されそうな世界だし、やめといたほうが無難だろう。

 

 あと、アイテムとか所持金いっぱい持ってるから、それの処理が手間だ。

 

 コンバートする際に注意点が一つ。SAOからALOに引き継ぎ(?)した時に、アイテム欄が文字化けしたのを覚えているだろうか。あれは、SAOのアイテムデータがALOでは適用できなかったから起こったものだが、ゲーム間でキャラをコンバートする際にも同じことが起こる。

 

 しかもこっちの場合、アカウントごと移す関係上、アイテムのみならず所持金も装備も問答無用で消滅してしまうため、事前に誰か知り合いのプレイヤーに預けるとかの下準備が必要なのだ。

 

 とりあえず事情を話して、今回相談を受けた張本人であるクラディールさんにそれを頼み、僕は……『ナツメ』でも『クリード』でもない、第3のアカウントをGGOにコンバートした。

 

 ALO事件の時、兄さんがネット取引で買ってそれっきりのアカウント、まだまだ余ってるんだよね……今回、有効活用することにした。

 全体的にバランスよく育ててあるが、器用さと敏捷が高めのやつを。

 

 GGOを起動して、コンバートしたアカウントを適用。

 初期設定は、アバターは種族選択とかもなくランダムで決まるから、名前だけ入力。

 

 今回は事前に考えて決めといたから早いぞ(自慢にも何にもならない)。

 

 

 

 キャラクターネーム……『ロックオン』。よし、設定完了。

 

 

 

 




キャラネームは今回も作者の脳内CVからです。

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