ちょっと今回、シリアス成分多めです。
そして徐々に始まっていきます。原作世界のブレイクが……
【2023年4月13日】
ここんとこずっと忙しくて、ろくに日記を書く時間もなかったな。
なので、ってわけじゃないが……繫忙期?を脱した今日くらいは、きっちり日記をつけて、習慣を少しでも元に戻しておこうと思う。
こういうのは、一度休みがちになるとそのままフェードアウトすることが多いからな。
去年の11月にデスゲームが始まってから、もう5ヶ月になる。
……まあ、1層攻略に1ヶ月もの時間を要したという時点で、超がつく長期戦になるであろうことは、ほぼ全てのプレイヤーが覚悟していたことだ。
……していた、としても……さすがに精神的にくるものがあるな。
5ヶ月もの間、僕らプレイヤーのリアルでの時間は止まったままだ。
以前、突然ほとんどのプレイヤーの意識が一斉になくなり、その後約2時間ほどで復帰した事件があったが……恐らくあの時、一時的に回線が切断され、恐らく僕らの肉体は、その間に病院に搬送されたのだろう。
そして今は、点滴による栄養補給等によって生かされている状態だ。多分。
それだけでも大変なことだし、この5か月間の間、僕らを一生懸命生かしてくれている、病院の人たちに対しては、もう感謝しかないのだが……それはひとまずおいておく。
ここに来るまでに経過した5ヶ月という時間は、そのまま僕らのリアルの時間が、その分永遠に失われてしまったということを意味している。
仕事を持っている人、家庭を持っていた人、学業に邁進していた学生……そんな彼ら、彼女が大事にしていた時間が、もう5ヶ月分も、何もせずに過ぎてしまった。
その事実が、プレイヤー達にもたらす影響は、決して小さくなかった。
こんなに職場を留守にしたら、クビになってしまう。
リアルに残してきた家族に会いたい。
進めていた仕事はどうなったんだろう。
志望校に合格するために、一生懸命勉強していたのに。
もうすぐ子供が生まれるはずだったのに。
もう長くない祖母のそばにいてあげたかった。
……こんなのはほんの一部だ。僕の『カウンセリング』に持ち込まれた、相談の中身の。
デスゲームも3か月を超えたあたりから、あまりにも長くリアルの世界から引き離されていることに不安と絶望を覚えたプレイヤー達。
その感情が再び吹き出し始め……それを相談しにくるプレイヤーが一気に増えた。
おかげで、一時僕のレベル上げやら何やらを中断、あるいはペースダウンしてまでそっちに対応する必要があったくらいだ。
正直手間だったし、そもそも『カウンセリング』を生業にした覚えもなかったので、いい加減に解放されたいと思い、雲隠れすることも考えたのだが……なんというかね、さすがに放っとくのも良心がとがめた、と言いますか……。
だって……程度に差はあれど、ほとんど皆、泣きそうだったり、今にも自殺しそうな感じでくるんだもの。こんなに深刻に悩んでる人ばっかなのか、ってくらいに。
でも考えたら、それも当然なんだよな。
そういう人ばっかりなんじゃなくて……『そういう人が』僕に相談に来るんだろう。
ちょっとした程度の悩みなら、身近にいる仲間や友達に相談して解決する、あるいは乗り越えるんだろうし、自力で抑え込むなり、気分転換してどうにかするようなこともできるだろう。
しかし、身近にそういう人がいなかったり、あるいは……相談してもどうにもならないようなレベルの悩みであればどうか。
悩みを抱えたまま、時間だけが過ぎていく。しかもこの世界においては、時間は味方ではない。むしろ、時間がたつごとに徐々に悩みが強く、深くなっていくだろう。
そんな感じで、もうどうしようもないという所まで追い詰められてしまった人が、藁をもつかむ思いで最後に頼りにするのが……『ドクター』であり『カウンセラー』である僕だったのだ。
コレをないがしろにするというのは……流石に僕でも無理だった。
なので、思い切って攻略を一時中断し、第1層に宿をとって腰を据えて『カウンセリング』の業務に当たることにした。
半ば自棄になっていた気がしなくもないが……結果的には、それで助けられた人もいただろうと考えれば、よかったんじゃないかな。なんとなくだが。
朝起きると、朝食や牛乳一気飲みを含めた日課を一通りこなした上で、アルゴさんに相談して仲介してもらって手に入れた、レンタルのプレイヤーホーム(アパートっぽい)に行く。
そしてそこに、『ナツメ心療内科医院』の立て札をかけたら……午前8時30分、業務開始。
来た人を順番に入室させ、『カウンセリング』を行う。
順番待ちになるくらいには混雑するので、素早く、しかしおざなりにならないように。
1人1人丁寧に、親身になって、時に優しく、時に厳しく。
いつまでもやっていたらきりがないし、さすがに僕が持たないので、午後7時で業務終了として、打ち切る。そしてまた翌日の朝8時30分に……という運営だ。
業務時間は……途中で昼食と仮眠で休憩入れるけど、それでも1日9時間オーバー。なかなかに僕、身を粉にして働いてますね。
まあ……リアルも結構時間を問わず忙しい職場だったから、割と慣れてると言うか、それ自体はあまり苦痛に感じることもなかったのは、幸いと言っていいのだろうか。
なお、あまりに人が多い場合の人員整理なんかには、これまたアルゴさんが紹介してくれた……現在第一層を拠点に、治安維持やら何やらを担ってくれているギルド『アインクラッド解放隊』の人たちが協力してくれている。無償で。
彼らとしても、こういったメンタルの問題を抱える人が多い現状はどうにかすべきだと常々思っていたらしく、それを一部でも緩和できる僕の『カウンセリング』を支援したいということで、有志ではあるがこうして人員を出して協力してくれていた。ありがたい。
そうして、『医院』の運営自体は特に問題なく進んでいたんだが……問題は別のところにもあった。
……正直に言おう。僕が、つらかった。
業務時間以上に……『カウンセリング』でその人その人の悩み、苦しみを聞いていくのが辛い。
追い詰められてるだけあって、誰も彼も中々に深刻な悩み背負ってるんだもんな……基本的に、リアルではシリアス系や鬱系のゲームやアニメを避けていた僕にとって、相談者たちの1人1人異なる悩み、苦しみをぶつけてもらうのは……つらかった、の一言につきる。
それに……そうまでしてもなお、救えなかった人も、当然のように、いる。
親身になってカウンセリングしたつもりだったけど、結局悩みは解決しなかったようで、数日後にアインクラッドの外縁から飛び降りたプレイヤーもいた。
その人の仲間がここを訪れて、しかし報告だけして責めることはなく、『彼の力になってくれてありがとうございました』って、涙ながらに言って帰っていった。……余計につらかった。
悩みは解決したけど、それで勢いづいて分不相応な自信をつけ、迷宮区に挑んで帰らぬ人となったプレイヤーもいた。
変に元気付けたあんたのせいだ、って、その人の仲間が怒鳴り込んできた。解放隊の人たちが追い返してくれたけど……翌日になって、その人も自殺したと聞いた。
一番つらかったのは……ある女性のプレイヤーが相談に来た時だった。
そのプレイヤーはなんと、お腹の大きい体型をしていた。妊娠7か月で、気分転換のためにSAOにログインしたところを巻き込まれたらしい。ゲーム内のアバターは、『手鏡』を使った当初から体型も何も変化しないから、その時のままなのだ。
予定では、1か月以上前に臨月を迎えたはずだが……ここにいては、わが子が無事に生まれたのかすらわからない。それに加えて、夫や我が子に、眠るばかりで何もしてあげられないこの状況が悔しい、悲しい……そう、絞り出すように言っていた。
その女性プレイヤーは、カウンセリングで少しは気が楽になったようだったけど……数日後、『圏内』である街中で、何の前触れもなくポリゴン片になって消滅し、死亡したと聞いた。
……推察するに、リアルの方の体が死んだんだろう。妊娠で衰弱した体が、寝たきりの生活に耐えられなかったか……。彼女は結局、わが子の顔を見ぬままに亡くなった。
その子供も無事生まれたかどうか……無事だったことを、せめて祈るしかできない。
暗い話、悲しい話、怒り、憎しみ、絶望……その他色々。
はっきり言って聞いているだけで気が滅入るそれに、共感し、親身になって、それを解決あるいは緩和するためのアドバイスなりなんなりをする。
しかも、1人終わったらまた1人、違う人のそれを聞かなきゃいけない。
それを、1日9時間30分の業務時間で入るだけ聞くのだ。
……もはや、重労働を通り越して苦行だ。
自画自賛になるが、1か月以上もよく途中で投げ出さずにやり遂げたよな、と思う。
その支えになったのは、こまめに様子を見に来てくれたアルゴさんや、気さくに声をかけてくれた解放隊の人たちのおかげだろうな、と思う。
それに……カウンセリングで生きる気力を取り戻した、『救えた』人たちから言ってもらえた『ありがとう』や、その笑顔も、確実に、僕の原動力になっていた。
僕、結構ドライで適当な人間だったはずなんだけどな……何だか丸くなったもんだ。
そして、そのカウンセリングのお客の中には、今も付き合いを続けている人たちもいる。
さっき僕は、ぶっ続けでとは言ったものの、不定期で休みの日をもらっていた。さすがにそうしないと僕がもたないので。
その日は、戦闘の感覚を忘れないために、上の方の階層でレベル上げの狩りにいそしんだり、美味しいものを食べたりして気分転換してるんだけど……その時に、よく同行してくれているのだ。お客の中でも、最前線で戦っていたプレイヤーの人たちが、僕の護衛兼話し相手として。
もっとも、僕としてはそんな仕事上の付き合いって感じじゃなくて、友達、あるいは仲間として付き合っているつもりだが。
☆☆☆
「おや、また日記かい?」
「うぉわ!?」
そう、突然背後から話しかけられ、驚いたナツメは、そのアイテム……『日記帳』を取り落としそうになっていた。
日記に集中していたせいで、周囲への警戒がおろそかになっていたのだ。その結果、今彼に声をかけたその男が近づいてくるまで、その存在に気づかなかった。
もっとも、彼を含むここにいる数人は、そもそもナツメの護衛として来ているため、周囲への無警戒自体はさほど問題にならないのだが。
つばの広い帽子に、サングラスのようなメガネをかけたその細身の男は、ナツメが驚いてあげた声に自分も驚いた様子で、びくっと体をこわばらせ、一歩後ずさっていた。
「ああ、ごめんごめん……驚かせてしまって。そんなつもりはなかったんだが」
「あーいえ、僕もうっかりしてました……いや、集中しすぎて周りが見えなくなる癖は何とかしたいです、ホントに」
すると、今のナツメの声を聴いたのであろう、周囲を見張っていたらしい2人のプレイヤーが歩いて近寄ってきた。
1人は、すらりとした体型に、切りそろえた茶色の髪が特徴的な女性。片手剣と盾で武装しており、その立ち姿は、装備も含め、一線で戦う戦士として十分に様になっていた。
もう1人は、やけに長い茶髪が特徴的な壮年の男性だった。背中に両手剣を背負っており、こちらも細身のようではあるが、ある程度鍛えられた体格なのが見て取れる。
「ねえちょっと、今何か大声が聞こえたんだけど……何かあったの? ナツメ、グリムロック?」
「……まあ、状況を見るに大体想像はつくな。またグリムロック君の悪い癖が出たか?」
「いや、ちょっと……悪い癖とは人聞きの悪い。別にわざとやったわけではないよ、クラディール。グリセルダも何とか言ってくれ」
「そこで私に振らないでちょうだい……ごめんなさいね、ナツメ。うちの夫が失礼をして」
グリムロック、グリセルダ、クラディール。
この3人はいずれも、ナツメの『カウンセリング』によって、病んでいた、追い詰められていた心を救ってもらった者達だった。
いつ死ぬかもわからない状況で戦い続けるのが辛い。こんな地獄で、他人を気にかけながら、真面目に戦っていくことに意味があるのか。もう何もかも投げ出してしまいたくなる。
現実世界とこの世界で、自分の愛する人が変わってしまったように感じる。このまま自分の手の届かない所に行ってしまうのではないか、そう考えると不安でたまらない。
もともと気の強い人ではなかった自分の夫が、このデスゲームに捕らわれて、日に日に不安で弱っていく姿を見ているのが辛い。自分にできることはないのかと、日々無力感を噛みしめている。
三者三様の苦しみに対し、ナツメは真摯に向き合い、それぞれを答えに導いた。
その結果……もしかしたら辿っていたかもしれない狂気や悲劇から脱し、最悪の運命を回避したことを……当然ながら彼らは知る由もないが、そんなことは問題ではなかった。
それぞれ異なる形で肩の荷を下ろした3人は……攻略組、あるいはそれに準じるレベルのプレイヤーとして、最前線かその付近でも戦えるだけの実力を持っていた。
それを活かして、今日のようにナツメとパーティを組んで同行することが多かった。
そんな3人や、さらに彼らを通して知り合った仲間たちとの時間を、ナツメは心地よく感じていた。
「さて、休憩はこのくらいにして……ん?」
「? どうした、ナツメ君?」
突然、何かに気づいたように歩みを止めたナツメに対し、問いかけるクラディール。
「ああ、はい……メッセージが来たようで」
ナツメはそう答え、右手をさっと振ってウィンドウを開くと、メッセージボックスを呼び出して、今しがた届いたそれを開く。
そこには……数か月前に知り合い、今までにも何度か会って話したりする機会のあった、1人の少年の名前があった。
『相談したいことがある。『カウンセリング』絡みなんだが、時間を作ってもらえないか
キリト』
シリアス展開といい、原作改変といい……思い付き+趣味全開です。
ちょっとコレは、とか、受け付けない、とかいう人がいたらごめんなさい。
原作を知っている人なら、『何が起きた』と思う名前のオンパレードで最後……
詳しい話は今後書く予定です。