ソードアート・オンライン 青纏の剣医   作:破戒僧

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第61話 お説教の時間

 

 

Side.キリト

 

「もう、どうしてキリト君ってばいつもいつも大変なことに首つっこむの!」

 

「ママを心配させるようなことは控えてください、パパ!」

 

「ご、ごめんなさい……」

 

「ははは……き、キリト君を責めないでやってくれないか、アスナ君に……ユイ君、だったかな? もとはと言えばこの話は、僕の方からキリト君に持ちかけたものなわけだし……」

 

「あーご心配なく、それについては我々の方でこの後きっちり追及いたしますので」

 

「キリト君は安心してアスナに怒られていなさい。じゃあアスナ、続きどうぞ」

 

「うん、ありがとうお母さん、ナツメ先生」

 

「は、ははは……こちらもお手柔らかにお願いいたしますね、結城教授に西神先生……おっと失礼、エリカさんにナツメ先生、でした、はい」

 

 ……今俺は、怒られている。アスナとユイに。

 俺の隣にいる、メガネをかけた『ウンディーネ』の優男……『クリスハイト』も同様だ。

 

 正確には、こいつはこれから怒られる。と思う。

 

 アスナとユイはもちろんだが……同席している、ナツメとエリカさんに。

 

 ふっ……長い夜になりそうだぜ……(遠い目)。

 

 

 

 事の発端は、今から2週間くらい前に遡る。

 

 その日、俺はこのクリスハイト……現実での名を『菊岡誠二郎』という、総務省仮想課の役人である彼に呼び出され、ある依頼を受けた。

 

 昨今『GGO』で話題になっている『死銃』と呼ばれるプレイヤーについての調査を。

 

 詳しい話は省くが、どうやらこの『死銃』……ゲーム内で撃たれると現実でも死ぬ、という噂があり……しかも、実際に撃たれたプレイヤーが死亡しているという。

 死因は心不全。どちらも、アミュスフィアを装着した状態で、死後数日経った状態で発見されたそうだ。そう、菊岡さんに聞かされた。

 

 どうやらこの『死銃』は凄腕プレイヤーにしか接触しないらしく、菊岡さんも身内に頼めそうなレベルのプレイヤーがいないもんだから俺に声をかけたようだったんだが……要するにコレ、ホントに死ぬかどうか試しに撃たれて来い、ってことだよな。

 

 一般人の、しかも未成年のゲーマーにんなこと頼むか、普通……

 

 まあ、危険……かもしれないことを頼むだけあって、安全面には最大限に配慮してくれてるんだけどな。

 

 具体的には、この『バイト』のために、病院の個室を使わせてもらって、そこからダイブすることになっている。加えて、ダイブしている最中は、体に心電図とかの電極をつけて、リアルタイムでバイタルをチェックしてもらい、何か異常があったら外部から回線を切断してもらえる。

 

 そもそも、絶対に安全、が謳い文句のアミュスフィアを使って殺人なんてできるとは思えない、という専門家の意見が既にあるらしいし……だから、大丈夫だろうと思って引き受けた。

 

 報酬として提示された、プロのGGOプレイヤーが一ヶ月に稼ぐ金額……30万円というそれも、学生の身分である俺には中々抗いがたいものであったのは確かでして……

 

 ……なんて甘い考えで安請け合いした結果が、依頼人共々こんな夜中に呼び出され、奥さんと娘からお説教されるというこの状況なわけだ。

 

 ちなみに、今俺が使っているアバターは、いつも使ってる『キリト』とは別の奴だ。

 『キリト』は今、GGOにコンバートしちゃってるしな。

 

 これは……1つしかアカウントがなかったはずの俺のアミュスフィアのメモリーに、いつの間にか入っていたものである。

 どうも、ナツメが用意して、ユイとストレアが協力してネットの中から何かやったらしい。

 

 お前らさあ……何の前触れもなく凄いことするよな、時々……。

 何をどうやったのか、姿かたちも俺に結構似てるし。

 

 種族はシルフ、キャラネームは『カズキ』。『キリト』と同じく、俺の本名のもじりである。

 誰が考えたんだって聞いたら、ユイだそうだ。

 

 家に帰ってしばらくして、ユイ経由でコレのIDとパスワードも渡され、コレを使ってALOにログインするように指示され、イグシティのデュークのプレイヤーホームに来て……現在に至る。

 

 なお、家主であるデュークは仕事でまだインできないそうなので、ホームの合いカギを持ってるナツメがここを開けてくれたわけだが。

 

 

 

 で、お説教の合間に俺も事情を聞かされたんだが……なんて言うかこう、大人ってやっぱすごいな、というのを思い知らされた感じがある。

 人生経験とか、純粋な知識、それに発想力の差っていうのかね? そういったもんがまだまだ及ばないんだな、ってのを突き付けられたというか。

 

 ナツメやエリカさんは、俺やアスナがほとんど愚痴同然にこぼしたワードだけを頼りに、たまたま別件で進めていたGGOの調査から、この『死銃』の一件に気づき、そこからさらに俺達の目的や依頼人の正体まで全部探し当てていた。

 

 これには、当初『ひょっとしてキリト君漏らしちゃったんじゃ……』なんて疑いを持っていたらしいクリスハイトも、唖然としていた。こいつから見ても、ナツメとエリカさんの推理力は脱帽ものだったってことだろう。

 

 実際はその陰には、多分ストレアの情報検索能力とかもあったと思うけど。

 

 彼女の姉であるユイには俺もたびたび世話になってるからわかるんだが、AIである彼女達がネットの海から必要な情報をサルベージする能力は恐ろしく優秀だからな。

 

 で、驚かされたのはさらにそこから先で……何とこの2人、『死銃』の事件について、俺達が必死こいて探っていたものの、未だわかっていない情報ないし手口についてあらかた探り当てていた。

 いや、正確には2人だけじゃなくて、クラディールやグリセルダさんも協力してるらしいが。

 

 死銃が現実で殺人を行っている手口……ゲーム内での銃撃に合わせて現実で薬物を注射しているという見解。その薬物も、おそらくは筋弛緩剤系のものであるとまで見ていた。

 

 その為の住所の特定には、総督府の端末を後ろから盗み見ていると推理。

 

 さらに言えば、昨日決まったBoB本戦出場者のうち、あからさまに怪しい名前の奴が1人いた、とのこと。

 

 『Sterben』。読み方は、俺は最初『スティーブン』かと思ってたんだけど……ナツメ曰く、これは医療用語で『ステルベン』と読めるそうだ。

 意味は……『死』。患者さんが死んだ時なんかに使われる用語であるそうな。

 

 すげえな、ナツメ……っていうか、医者。

 死因から何から全部解き明かしちまったよ。隣でアスナやユイ、クリスハイトも唖然としてる。

 

 いや、全部これが真実だって決まったわけじゃないんだけど、今の所全部、話に筋道通ってんだよな……少なくとも、説得力は十分にあるし、一考に値する情報であることは確かだ。

 

 そして俺はそこにさらに――教えられっぱなしってのも気分的にアレだったので――俺が俺で手にしたというか、見聞きした中で、これはと思った情報についても教えておいた。

 

 予選の最中に総督府のロビーで出くわした、あの骸骨仮面の男のことを。

 

 メーキャップ系のアイテムか何かで、手に『笑う棺桶』の紋様を刻んでいた男。

 俺の記憶が正しければ、あの最悪のギルドのメンバーであり、あの頃も同じように、骸骨仮面に赤い目が特徴的だった……そう、たしか、『赤眼のザザ』。そんな名前だったはずだ。

 

『お前……本物か?』

 

 そんな言葉と共に接触してきた奴には、流石に動揺させられてしまったものの……どうにか精神的に持ち直しつつ、無事に予選を突破することはできたのでよかった。

 

 色々と考えさせられることもあったけど……それはまあ、いい。

 

 あいつが『死銃』だとすれば、SAOの時と同様に……恐らくは、ナツメが見破ってくれたトリックを駆使して、あの世界で殺人を繰り返しているのかもしれない。

 そう教えると、1人を除いて皆、一様に戦慄していた。

 

 あの世界を、そして……あの『討伐戦』を知っているアスナはもちろんのこと、知識として知っているだけだったクリスハイトやエリカさんも、AIでありながらきちんと人の心を持っているユイもだ。

 

 あの事件が収束してなお、未だこのVR世界で……どういう目的があってか知らないが、死を振りまこうとしている異常者の存在に、震撼するのを抑えられなかった。

 

 ……そう、『1人を除いて』だ。

 

 言うまでもない。

 というか、この話をした時点で……こうなるんじゃないかな、という気はしてた。

 

 

 

 ……ナツメが、『あの目』になると。

 

 

 

 もっとも、それは一瞬で引っ込んで……殺気をまき散らすようなこともなかったから、アスナがギリギリ気づいたんじゃないかな、ってくらいだったが。

 エリカさんとクリスハイトは、多分気づかなかっただろう。

 

 しかし、間違いなくナツメはこの一件、性懲りもなくあの世界の続きをやらかそうとしている……あるいは『やらかして』いる、ラフコフの残党をロックオンしたことだろう。

 

 あの時と違って、GGOでは殺しても現実でも死ぬなんてことはないから、ナツメがザザを手にかけるようなことはないだろうが……もし本戦でカチ会うようなことがあれば、容赦はしないだろう。誰に手をかけさせる暇もなく、リタイアさせると思う。

 

 とはいえ、正直言ってこれは……ナツメ達が協力してくれるという状況は、俺としては願ってもないくらいに好都合だ。明日の本戦、シノン以外にも、単純に信頼できる味方が増えたとみなして行動することができる。

 

 思うに、あいつは……ただ単に殺しを楽しもうとしているわけじゃなく、『ゲームの中で撃たれると現実でも死ぬ』という点を知らしめようとしている、そんな風な印象を受けた。

 

 だとすれば恐らく、あの銃を使った攻撃と現実での死は、2つでセットだ。

 

 あいつらラフコフの殺人は、妙に美意識みたいなのを重要視してる気配があるから――だからって過信するのは危険だしありえないけども――あいつの銃撃を妨害することができれば、現実で殺人が行われるのを防げるかもしれない、とも考えられる。

 

 すなわち、あの銃でターゲットを撃たせなければ、現実でそのアバターの主が殺されることもない……かもしれない。さっきも言った通り、殺人者の良識なんてもんは当てにできないが、やらないよりはましだろうと思う。

 

 もちろん、動ける部分については今から動く。

 というか、動かす。クリスハイトを働かせる。

 

「そういうわけで菊……クリスハイト。今言った特徴に合致する、SAO生還者の捜索、任せていいよな?」

 

「特徴って言ったって、どのプレイヤーが現実ではどこの誰、なんてことまで僕らは全部リストアップできているわけじゃないよ? ましてや、今どこにいるかなんてことまで……ああでも、他の手がかりになる情報をもとに、純粋にSAO生還者の全リストから洗えばいいわけか……大変だけど」

 

「無関係の一般市民を巻き込むような真似をしたんですから、そのくらいはしていただかないと困ります。仮にも事件性が疑われている案件に、一介の学生を接触させるなんて……」

 

「いやあ、何というか、こちらも色々と大変でして……でも、SAOからの強豪プレイヤーであるナツメ先生達にもご協力いただけるんであれば、鬼に金棒ですよ。我々としても非常に心強いですし、何でしたら今度、ご協力いただいた他の方々にも直にあってよろしくご挨拶を……」

 

「ほう……この期に及んでまだそんな風に軽い感じで言いますか……ゲームの中の会話とはいえ、こちらはいたって真面目に話しているつもりだったのですが、伝わらなかったとすれば残念ですね。これは仕方がないので、きちんとわかりやすく大人らしい方法で意思表示が必要ですか」

 

「ねえアスナ、キリト君、よくドラマとかで『○○に厳重に抗議する』とか、団体名をさして言うセリフが出てくるけど……あれって詳しくはどういう手順でやってるか気にならない? これからナツメ先生と私が、リアルで総務省仮想課を相手にお手本を見せてあげるから見学でも……」

 

「大変申し訳ありませんでした。以後、信義誠実に則って誠心誠意対応及び説明の方させていただきますので、なにとぞご容赦いただけませんでしょうか」

 

 一瞬で立ち上がったうえ、腰を90度に折り曲げ、テーブルに額をこすりつけんばかりの勢いで謝罪するクリスハイト。

 

 どうやらそれをやられると本当に洒落にならないらしい。

 謝罪会見ばりの全力ごめんなさいからは、嘘偽りのない必死さがにじみ出ている。

 

「本当にお願いしますね……そちらの事情も理解できなくはありません。VR分野で有効に動ける人材は育成自体が難しいのはよく知られていますから。だからといって事件性のある案件に、民間の協力者を、それも未成年の学生をホイホイ登用するのはいかがなものかと思いますよ」

 

「ましてキリト君やうちのアスナは、確かにVRのプレイヤースキルで言えば、そこらのゲーマーとは一線を画すレベルでしょうが、それはあのSAO事件があったからです。それを戦闘技能だけに目を向けて、矢面に立たせるような真似をするなんて……挙句の果てに、当時猛威を振るったPKギルドまで……冗談抜きで、事情を聴いている間、どれだけ親として不安をかき立てられたか……」

 

「……ご懸念、ご意見はごもっともです。我々としても、人材の不足を理由に、民間の有力者たるキリト君に、こういった案件を安易に持ち込んでしまう現状については憂慮しているところで……SAO事件の際、何も動くことができなかったことに引き続き、無力を実感するばかりです。今後、人材育成に一層の尽力の上、同じようなことを繰り返すことのないよう図りますので……」

 

「その言葉、ひとまずは受け入れさせていただきます。繰り返して言いますが、手近に使える人材がいるからといって安易に手を伸ばし、国家公務員が本来やるべき案件にキリト君のような一般人を関わらせることを良しとするような体勢を常態化させることだけはやめていただきたい。もしも今後同様のことが続くようであれば……こちらとしても対応を考えざるを得ませんので」

 

「ご理解、感謝いたします。同時に、今回我々の不徳によりキリト君に無用な迷惑と、周囲の皆様に不安をかけてしまったことについては、課題として提起し、改善徹底することをお約束します」

 

「今回は、話を聞く限り、キリト君も納得してこの件の調査に参加しているようですし、問題にはしませんが……れっきとした問題行動であった点は絶対に忘れないでください。全容が明らかになった今だからこそ言えることかもしれませんが、殺人事件、ないしはそれに関連した案件の捜査に、関係者でもない一般人を巻き込んだのと同じ状況だとわかっていらっしゃいますか?」

 

「それについては……我々も見通しが甘かったと反省するばかりです。もちろん、先程申し上げましたように、安易な協力要請が呼び込んだ人為的なものである点は否定しようもございませんので、今後二度と同じことがないように……」

 

 そのまま数分ほど、『大っぴらに抗議はしないけどその代わりに言いたいこと全部言う』という感じで、ナツメとエリカさんから問題点を指摘され続け、クリスハイトはひたすら平謝りしていた。

 

 けどまあ……それは普通に正しい選択だったと思う。

 

 いや、ざまあみろとかそういう意味で言ってるわけじゃなくてな? ただほら、ナツメとかエリカさん相手だと、下手に言い訳したり言い返したら、10倍20倍になって返ってくるだろ?

 

 そもそも2人の言ってること全部正論だし、だったらきちんと謝った方がいい。そうすべきだ。

 

 誰だってそうする。俺もそうする。

 

「ふぅ……さて、今回の件に対する話はこのあたりにして……時間も遅いですし、明日の本戦を前に、具体的な動きや方針、行動目標について軽く打ち合わせをしましょうか」

 

「そうですね……そういうわけだからアスナ、キリト君へのお説教とお仕置きは後回しにしなさいね」

 

「はぁい……」

 

 え、後で……っていうか、まだやんの? しかも俺だけ。

 

 

 

 

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