ソードアート・オンライン 青纏の剣医   作:破戒僧

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第70話 絶剣、時々親子

 

Side.アスナ

 

 えーと……順を追って思い出してみよう。

 

 まず、喧嘩するみたいな形になりつつも、お互いにこれがじゃれ合いの範疇だと認識つつ、私とお母さんはデュエルで立ち会って……勝ったのは、私。

 

 もっとも、楽にはいかなかったけどね……。お母さんっては、まだVRMMO始めて1年くらい――というか、ゲームそのものをその頃初めてやったんだっけ――なのに、強すぎでしょ。

 何で、SAOの中で2年間戦って来た私とあそこまで張り合えるの……。

 

 聞いた話だと、大学時代のサークルとか、付き合いの習い事で、フェンシングや薙刀を習ってた時期があったって聞いてるけど……まあ確かに、現実で武術の経験があると、VRの世界でも、動きのイメージがつかみやすいから強いっていうのはあるわね。

 元剣道少年のキリト君や、現役剣道少女(全中ベスト8)のリーファちゃんとかいるし。

 

 後それ以外にも、シルフの領主のサクヤさんも剣道経験者だって聞いた。妹のヨルコさんは違うみたいだけど、お姉さんが剣道やってるところはよく見てて、どういうものかは知ってるみたい。

 

 あと、ナツメ先生やデュークさんも、そこまでやりこんではいないものの、経験はあるらしい。デュークさんは弓道で、ナツメ先生は……システマ、だったかな。例の『エルドビア』での経験から、万が一に備えて習ってたって聞いた。参考兼日々の運動にたしなむ程度らしいけど。

 

 あと、まだ会ったことないけど、2人の1番上のお兄さんがむしろ凄くて、色んな武術の経験者だとか。ゲームやってるなら、会う機会もあるかな?

 

 ……あらためて見ると、私の周り、武術経験者多いなあ……。

 

 ……ああいやいや、話がそれた。

 ともあれ、私はお母さんには勝った。割とギリギリで。

 

 例の、ナツメ先生にもらったっていうOSSが特に怖かったなあ……。

 いやヤバいのは知ってたけど、自分がやられそうになるとやっぱり……じゃなくて。

 

 そしてその後、リメインライトになってしまったお母さんを復活させた後、本来の目的を思い出して『絶剣』の子――ユウキと戦った。

 

 結果は、私の惜敗。

 直前にお母さんと戦ったことで、いい感じに体あったまってたんだけど……及ばなかった。

 

 さすがというか、『絶対無敵』の評判通りの腕前だったなあ……あれが『11連撃』か。

 

 そうして、キリト君の仇討ちは果たせずに、私も負けてしまった――ただし、最後の一撃は寸止めだったので、HP全損はしなかった――けど、問題はその後だった。

 

 何でか、そのユウキに空飛んでその場から連れ出されて……そのまま、世界樹がしたの方に見えるくらいの位置まで飛んでこさせられた。

 そしてそこで、ユウキは私に頭を下げて……こう言った。

 

『お願いします。ボク達に……力を貸してください!』

 

 

 

「……で、そのまま、そのコ達のギルドホームまでついて行って、そこでその『ユウキ』って娘の話を聞いて……協力することに決めた、というわけね?」

 

「う、うん……そうなんです。その……」

 

「そしてその後、色々と話が弾んで時間を忘れるくらいに楽しくやって……」

 

「うん……」

 

「その結果、また夕飯に遅刻したと」

 

「……本当にごめんなさい……」

 

 やれやれ、という感じで、お母さんはため息をついていた。

 こないだに続いてまたやっちゃったよ……反省しなきゃ。

 

 いくら、ユウキ達『スリーピング・ナイツ』の皆との時間が楽しかったとはいえ、リアルをおろそかにしちゃダメだって、いつも言われてるんだから……。

 

 さて、そのユウキ達についてだけど、彼女が『協力してください』って言ったのは、彼女の所属するギルドである『スリーピング・ナイツ』がこれから挑もうとしている、ある目的のためだった。

 

 彼女達は、かつてのクラインさん達『風林火山』みたいに、1パーティのみのギルドであり……そしてその1パーティだけで、『新生アインクラッド』の階層ボスを倒したいのだという。

 

 『新生アインクラッド』には、かつて第一層にあった『生命の碑』の代わりに、同じ場所に『剣士の碑』というものがあって……そこには、各階層のフロアボス戦に参加したプレイヤー達の名前が刻まれていくようになっている。名誉を記録する石碑、ってところね。

 

 ただ、複数のパーティで挑んだ場合は、各チームのリーダーの名前だけが代表として記載される形になるため、メンバー全員の名前が残るわけじゃない。

 

 つまり、パーティ全員の名前を残すには……単一のパーティ、7人のみで階層ボス戦をクリアするしかないというわけなのだ。

 

 ……いうまでもなく、無謀どころじゃない話である。

 

 この世界はもうデスゲームじゃなくなってるけど……あの世界で、フルレイドじゃないどころか、たった7人で階層ボスに挑むような真似をしてどうなるかなんて、思いだせば……100人が100人『絶対無理だろ』って言うと思う。実際、74層の時に似たようなことがあったし。

 

 それでもやり遂げたい、という、ユウキ達『スリーピング・ナイツ』の熱意に押されて、私は彼女たちに協力することを決め……1戦限りの助っ人として、ユウキ達のパーティに加入した。

 

 来たるべき、その『攻略』の時にそなえて。

 

「……というわけなの。その後も、SAO時代の攻略ノウハウとか生かして、作戦会議とかしてたら……こんな時間になっちゃった。ごめんなさい」

 

「なるほどね……まあ、反省してるみたいだから良しとしましょう。次からは気を付けること……同じ注意の文句を何回も言われることが恥ずかしいことだって、あなたならわかるわね?」

 

「うん……気を付けます」

 

 お母さんが纏っていた緊張感?みたいなものが霧散したことで、その場の私を叱責する気はこれ以上はなくなったと判断し、少しだけ気が軽くなる。

 

 丁度良く夕飯のデザートと、飲み物のお代わりが運ばれてきたので、気分を切り替えて楽しむことにした。見ると、お母さんもそのつもりみたいだし。

 

「それにしても……すごいこと考えるわね、あの子……ユウキちゃんって言ったっけ? あなたとのデュエルは見てたから、とんでもなく強いのはわかったけど……」

 

「まあ、目的だけ聞いたら……絶対無理だって言う人がほとんどだろうけどね。なんていうのかな……ユウキってば、目が本気だったから、応援したくなっちゃって」

 

「ふーん……まあ、向上心があるのは何であれいいことよ。他人様の迷惑にならない限りはね」

 

「うん、この際だから私も思いっきり楽しんでやろうと思ってるんだ。いつものメンバーと違うっていうのが新鮮だし……でもみんないい人で、一緒にいて楽しいし。それにね、ちょっと軽く狩りに一緒に行ってみたんだけど、皆すごく強くてびっくりしたよ。連携も取れててさ」

 

「いいチームなのね、その……スリーピング・ナイツ、だったかしら? そんなに強かったの?」

 

「うん。たとえ方がちょっとなんだけど……皆、SAOでいえば、攻略組くらいの実力は確実にあったと思う。トッププレイヤー級かって言われれば、ユウキ以外はちょっと微妙だけど……まあ、SAOの環境下の強さを普通のゲームの評価基準に持ってくるのはそもそもアレなんだけどさ」

 

 あの世界、武器が近接縛り(チャクラムとかは除く)で、魔法も何もないしね。だから、あそこを基準にすると、シウネーさんとか、ほぼ魔法専門の人の強さを上手く表現できないというか。

 

 それでも、私が言いたいことは大体伝わったみたい。

 

 お母さん、元SAO勢のプレイヤー達とバリバリ交流あるからね。私やキリト君をはじめ、ナツメ先生やクラインさん、グリセルダさんにクラディール先生、その他諸々。SAOの『攻略組』や、そのさらに最先端にいたトッププレイヤー級の強さがどんなものかはよく知ってる。

 

 ……というか、お母さんも何気に攻略組級の強さはあるのよね……今更だけど。

 

 この人の場合、ナツメ先生にデュークさん、グリセルダさんにクラディール先生とまあ、強いだけじゃなく、まさに『教える』ってことが得意な超一流講師陣の指導を受けた、VR英才教育の元で育ったわけだし……本人のもともとの才能もあって、すごい成長速度になったんだろうな。

 

「でも、それだけ強いんなら、ひょっとしたらひょっとするかもしれないわね。SAOの攻略組級が6人に、血盟騎士団の『攻略の鬼』がそれを率いるとなれば」

 

「ちょっ……やめてよそんなアレな名前引っ張り出すの……誰から聞いたのそんなの?」

 

「逆に誰から聞かなかったと思う?」

 

「………………」

 

 どうしよう、私の知り合い、結構嬉々としてそういう昔話しそうな人たくさんいる……。

 狙って暴露しそうなのはリズとかキリト君……普通に武勇伝ってことで良心から話しそうなのはクラインさんとか……まあ、サチちゃんやシリカちゃんは人畜無害だからいいとして……。

 

「それにしても……私が勉強不足なだけかもしれないけど、『スリーピング・ナイツ』なんて、ギルドにせよチームにせよ、記憶の限りじゃ聞いたことないわね……いや、それを言ったら、そのリーダーの『絶剣』……ユウキちゃんっていう娘の名前もだけど」

 

「うん、私もそれは思った。どうも、ALO自体を始めたのは結構最近みたいなの。それ以前は、同じメンバーで、色んなゲームを渡り歩いてたんだって。詳しくは秘密って言ってたけどね」

 

「なるほど、VR、恐らくはフルダイブ自体の経験が豊富だったゆえの強さ、ってことか……けど、それだけ強いなら、今後有名になるかもしれないわね。サインでも貰っておこうかしら」

 

「あはは……でも、それがさ……もう間もなく解散しちゃうんだってさ」

 

「え!? そうなの? またそんな、急な……」

 

「この理由も秘密みたいで、教えてくれなかったんだけど……その、解散する前の最後の思い出にするっていうのが、今回の1パーティ挑戦の最大の動機みたいだった。『ボク達がここにいたっていう証を残すんだ』って言ってたから。なんか……すごく真剣な目で」

 

「ああ、それでその……『剣士の碑』に名前を、ってことね…………ふぅん……」

 

 その後私は、お母さんより先に食べ終わったので、また部屋に戻り、宿題を終わらせてからALOにログインすることにしたんだけど……その帰り際に、食卓でまだ食後のコーヒーを飲んでるお母さんが、何やら考え込むような表情になってるのが、ちょっと気になった。

 

 まあ、お母さんも考え事くらいするだろうし……何か大事なことだったり、私に関係あることなら、向こうから話してくるだろうから、特に記憶にとどめるようなことはなかったけど。

 

 

「『ボク達はここにいた』『証を残す』か……まるで、これから居なくなるような物言いね。いや、解散するってことはそういうことなのかもしれないけど……聞いた限りじゃ、ALOに飽きて他のゲームに行こうとしてる感じでもないし……何か不本意な理由で解散せざるを得ない? 話ぶりからして、他のゲームに移るっていう感じでも…………それってまるで…………考えすぎかしら?」

 

 

 ☆☆☆

 

 

 それから数日の間に、この件は急展開を迎えた。

 

 私とユウキ達『スリーピング・ナイツ』は、色々な情報収集を重ねて、作戦も立てて……持ち込むアイテムや設定するスキル、装備、ハンドサイン、その他諸々に至るまで綿密に打ち合わせをして、さあ準備万端、ボス攻略に行こう! ってところで、邪魔が入った。

 

 新生アインクラッドの攻略を進める大手ギルドの1つが、そのボス部屋の前を、大人数で塞いでいたのだ。『もうすぐ自分たちのギルドのチームが挑戦するから、それまで待ってくれ』って。

 

 それまで1時間もこの場で待たされるってことで、当然こちらは不満たらたらなわけだけど……向こうは聞く耳持たずって感じで、あっち行った行った、とばかりにあしらわれる。

 

 いわゆる『ブロック行為』と呼ばれるこの手の迷惑行為は、ボスとかを攻略する手柄を独り占めしたい者が行うマナー違反の行為なんだけど、GMに連絡してどうこうしてもらうレベルの話でもないので、結局は現場の問題になってしまう。

 

 そして、その現場にいる人たちが何を考えたかと言うと、

 

 というか、ユウキが、なんだけど……簡単な話だった。

 強行突破。力で、無理やり押し通る。

 

『全力でぶつかってみなきゃ、わからないこともある』

 笑ってそんな風に言って……しかし、その目はどこまでも本気で、真剣だった。真正面に立ってる、ブロックギルドのサラマンダーの人が、たじろいで後ずさりするくらいに。

 

 そのまま抜剣したユウキにつられる、というかのっかる形で私達も立ち上がり……ボス部屋前を塞いでいたギルドとの真っ向勝負に移行。けど、流石に数の暴力って奴は、相手にするとどうにも分が悪くて……あっちは人数を武器にして、ローテーション組んで回復までしてくるし。

 

 しかも、その間に残りのギルドの人たちが合流してきて、このまま挟み撃ちにされるか……という、絶体絶命の状況になった……その時だった。

 

 

 

「悪いな。ここから先は……通行止めだ」

 

 

 

 




報告。
家族にインフルエンザ発症者が出ました……

今んとこ平気ですが……もし更新が止まったら『やられたな』と思ってください。

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