Side.アスナ
……結論から言えば、私達の挑戦は成功した。
見事に、1パーティ7人だけで、階層ボスを倒し、メンバー全員の名前を『剣士の碑』に刻むという偉業を成し遂げたのである。
……それはいいんだけど、その前後にね……色々と問題があった。うん、あったの。
「悪いな、ここから先は……通行止めだ」
最っ高のタイミングで駆けつけてくれた、私の旦那様。
そのまま、小馬鹿にしたように、ギルドの人たちが放った攻撃魔法を、ソードスキルで切り裂いて消滅させるという神業を披露し、そのギルドの人たちだけでなく、ユウキ達の度肝も抜いていた。
うんうん、こういう無茶苦茶なことをあっさりやってのけてこそキリト君よね。……まあ、この程度で驚いてちゃ、キリト君とは付き合えないんだけどね。
「おぉーい! 俺もいるぜー! 見えねえだろうけどよー!」
それに加えて、クラインさんや他の仲間たちも駆けつけてくれて……さらに、キリト君は、このあいだの戦いで手に入れた『聖剣エクスキャリバー』を取り出して、超久々の『二刀流』の構えになって、私達のために立ちはだかってくれている。
これは……ここまでされちゃったら、私も、私達も意地を見せるしかないわよね。
何が何でも突破して、ユウキ達と一緒にボス攻略、やり遂げなきゃ!
……ここまでだったら、特に何も問題なく、皆で力を合わせて戦いました、まる、だったんだけど……その後にね。色々あったらしいんだ。
いや、助けに来てくれたのは確かだし、実際助かったんだけど……
何が起こったかっていうと……私たちも、ボス部屋に入ったか入らないかくらいの出来事だから、全部を見たわけじゃないんだけどさ……キリト君やクラインさん達に加えて、どうやら、私の仲間、知り合い、友達がほぼ全員集合しちゃったみたいでね?
しかもそのほとんどが、SAO生還者やらALOトッププレイヤー級だったから、そりゃもう、すごいことになったっていう話。
後からキリト君に聞いた、あくまで伝聞の話ではあるんだけど……正直、ちょっと直接見たかったな、と思った。
ちなみにキリト君も、流石にフルレイドの敵を相手に1人で勝てるとは思ってなかったらしく、時間稼ぎの玉砕のつもりで来たらしいんだけど……その予想外にもほどがある展開のせいで、不覚にも生き残った、って乾いた笑いを浮かべていた。
……さて、前置きが長くなったけど、その時起こったことについて。
簡単に言えば、SAO帰り勢とALOトップ勢が大暴れした。これだけだ。
さっきは略しちゃったけど、あの場には、キリト君とクラインさんに加え、リズ、シリカちゃん、サチちゃん、シノのん、リーファちゃん、クラインさん、エギルさんといういつものメンバー。
さらに後方には……どこで嗅ぎつけたのか、お母さん――エリカに、クラディール先生、グリセルダさんにグリムロックさん、デュークさんにヨルコさんも来ていた。
さらに、『月夜の黒猫団』や『黄金林檎』、『風林火山』のメンバーまで来ていて……いや、逆にこれどうやってこんだけ集めたのってくらいの数が集まってた。
来てないのって、まだ海外にいるナツメ先生と、それに同行したストレアさんくらいかも。
それでも人数は、敵ギルドの方が多かったけど……残念ながら、個々の質が違うというか。
SAO攻略組級、ないしはそれに匹敵するレベルのプレイヤー達を、グリセルダさんやヨルコさん、デュークさんといった超一流の指揮官が統率して戦うんだから、その脅威度は推して知るべしだ。
「はぁああぁああっ!」
「ぎゃああぁぁああ!」
「誰か、誰かあいつを、
「無理だろあんなの! 近づいた瞬間に斬られぐわぁぁあ!?」
「おいおい、よそ見すんなよ、俺もいるってさっきから言ってんだろうが!」
「くっ……おい、皆集まって固まれ! 複数で一気にかかれば……」
「チェストォォオオォッ!!」
「固まんなぁ! まとめて斬られるぞ……っていうか何だよあの両手剣使い初老のロン毛野郎は!? いい年してゲームとかやってんじゃぐへぁ!?」
「はいはーい、だからよそ見禁物ですよー、っと!?」
「畜生、なんでエルフ五傑のリーファまでここに!」
「つか移動速ぇな!? さっきまでずっとあっちにいただろ!?」
接近戦では、二刀流を解禁したキリト君を筆頭に、クラディール先生やクラインさん、リーファちゃんといった接近戦型メンバーが真っ向から敵を蹴散らし、
「いぎゃああぁぁあ! あ、頭に矢がああぁ!」
「貫通してる! けどHPまだ残ってるから死んでねえ!」
「落ち武者みたいで逆に怖ぇよ!」
「畜生またかよ! あの弓矢使いどんだけスナイプ得意なんだ、逃げられねえ!」
「んー……射程距離と弾速はいいんだけど……もうちょっと威力ほしいわね。一発で胴体に向こう側が見える風穴があくくらいあればなぁ……(ぼそっ)」
「なんか怖ぇこと言ってるし!」
「早くあいつ落とさねえとどんどん味方が死ぬ……でも、近づくとデュークの奴がガトリングばりに乱射してくるしあああああ!? 矢が、炎の矢が降ってくる!?」
「おい固まるなってだから! あんまりまとまると」
――ドゴォォオオン!!!
「ほう……今のはもしかして新技かい? サチ君」
「あ、はい。『
遠距離では、シノのんやデュークさん(指揮しながら)が弓矢で敵を射抜き、グリムロックさんやサチちゃんが魔法で支援しつつ、場面を見極めてドカンと大規模攻撃を打ち込む。
「くっ、もうHPがやべぇ……おい、スイッチだ!」
「来るな!」
「は!? いや、おいふざけてる場合じゃねーんだって! マジでヤバいから交代頼む!」
「そうじゃなくてお前今戦線離れると逆に危な……」
「何ってあぎゃああぁああ!?」
「あぁ、言わんこっちゃねえ!」
「はいはーいお疲れ様。ゆっくり休んで頂戴な。……セーブポイント戻って、ね」
「よっしゃまた1人仕留めた! さすがリズねーさん!」
「いや、その呼び方やめてって言ってんでょバッカー」
「ダッカーだよ! 何だその悪意感じる間違え方! 俺も悪かったけど」
「どっちでもいいから早くこいバッカー! 次行くぞ!」
「お前もかササマル! なぁ、ケイタとテツオも何とか言って」
「獲物発見! 行くぞお前ら!」
「「了解!」」
「はいよっ!」
「おぉーい!?」
リズやシリカちゃん、お母さんや『月夜の黒猫団』の面々なんかは遊撃に回って、体勢を立て直そうと横にずれたり、他のプレイヤーとスイッチ?で後退したプレイヤーに奇襲をかけて、回復する暇を与えずにとどめを刺したりしていた。
「うわあぁ!? な、なんだこのちっさいドラゴン!?」
「見た目で判断するな! ブレスに当たるな! えげつない状態異常がぐふっ!」
「え、えっと……ごめんなさいっ!」
「よ、幼女に貫かれて死ぬとは……ふっ、それも悪くないぐふっ」
「えっ」
あと、シリカちゃんが地味に怖い。ピナのブレスが支援攻撃として優秀すぎる上に、本人もすばしっこくて鋭い攻撃出してくるから、油断してると殺られる。
「おぉーっと、ここから先も通行止めだぜ!」
「んなっ……どけよおっさん!」
「アバターの見た目が怖いからってビビると思うなよぐぎゃああ!?」
「大きなお世話だ畜生め! アフリカ系アメリカン江戸っ子をなめんなよ!」
「いやそれどこの人だよ!? 全部違う国とか大陸じゃねーか!」
「所詮はランダムで決まった見た目だろ! 何でそんなムキになって……」
「どうでもいいから早く突破しろ! じゃないと後ろからぐへぁ!?」
「なっ!? ま、また……ドラゴン幼女……畜生、今度は麻痺か……」
「そ、そこから先へは行かせません! あとドラゴン幼女って何……と、とにかくトドメです!」
「ふっ……むしろご褒美ですぐふっ」
「えっ」
後衛を狙って襲ってくる敵からは、エギルさんや『黄金林檎』の皆さんが護衛を引き受け、一歩も通さない。まごまごしている間に、背後に遊撃部隊が追いついて刈り取られる。
あと、さっきからちょいちょいシリカちゃん相手に殺られるのを喜ぶ連中が混じってるんだけど、コレ通報した方がいいのかしら。……まあ、何かしてこないかぎりはまだ無害か。
今思うと、あのギルドの人たちもそれなりに統率は取れてたと思うけど……あれって主にボス戦用というか、対人戦で有効とは言えない形なのよね。
そして、その陣形の利点も弱点も、グリセルダさんが把握していないはずもなく……見事にその脆弱な部分をつかれた作戦によって総崩れになり、あとは一方的な蹂躙の時間に。
具体的には……攻撃力が強いボスの相手は、体力が減ったらスイッチして後ろに下がり、回復してまた前に出る、という繰り返しなわけだけど……グリセルダさんは、その時に伏兵や、リーファちゃんやお母さんといった高機動型戦力を最大限活用し、そのローテーションをまず潰したのだ。
戦線を引っ張って前に伸ばし、すぐに陣地の中に隠れらないくらいに離れさせ……スイッチしようと前から戻ってきた、体力の減っているプレイヤーにトドメを指す。
それを助けようと前線が下がれば、それを追いかけるように前線で戦っている面々が押し込む。
逆に後衛から押し上げるように救助の仲間が来れば、こちらの後衛の標的をそのメンバーにして近づくことも、スキルを使うことも許さずに蹴散らす。
そしてどっち道、トドメを指した後、遊撃に切り込んだ接近戦担当のメンバーが、がら空きになった後衛に切り込んで、弓矢や魔法使いのプレイヤーを潰す。後方支援と回復ができないようにして、目標達成後は速やかに撤退。
その繰り返しで……最終的に敵は、戦線を維持できなくなっていた。
前衛も後衛も、知らない間に、あるいは目の前でどんどん兵士たちがいなくなっていく光景に、まともに戦い続けられなくなり、動きに精彩を欠いた結果として、討ち取られていった。
後からリズに聞いたんだけど、あの時の戦いは、最早『合戦』だったそうだ。
最後には、封鎖ギルドの人たちは、1人残らずリメインライトに変わってしまっていたそうな。
対照的に、キリト君達は犠牲者0。
正確には、何人か、何度かリメインライトにされてしまった人もいたようだけど、即座にデュークさんが蘇生の魔法薬(課金アイテム)を使って復活させていたらしい。
「ちっ……しくったか。悪ィなデューク、助かったぜ」
「何、かまわんさエギル。タンクは敵の攻撃を一番受けるポジションだからな、むしろこっちが助かっていると言うべきだろう」
「あぁっ、折角倒したのに……」
「ちくしょう! 卑怯だろあんなの……てかあのポーション、ノーリスクで復活できる課金アイテムの奴じゃねえか!? さっきからポンポン使って……どんだけ金つぎ込んでんだよ、課金戦士が!」
「金か! この世は結局金なのか! 金の力が全てなのかよ!」
「はっはっは、負け犬の遠吠えが聞こえるなぁ。個人の預金残高が3000万円にも満たない貧乏人が、私のような高額納税者に意見するとは身の程知らずなことだ。せめて六本木の高級ブティックで女性へのプレゼントを値札を見ずに買い物できるくらいになってから出直してきたまえ」
「「「コイツ最悪だぁ―――っ!?」」」
「……あれってロールプレイでしょうか?」
「だと信じたい」
そんな感じで、皆が奮闘を通り越して蹂躙しているのを後ろに見ながら、私達はボス部屋に飛び込んだわけだけど……その時、最後に見たのは、私達を追いかけて後ろから切り付けようと剣を振り上げている、敵ギルドのリーダー格らしき人。
そしてその人を、背後から串刺しにして貫いて止める、お母さんの姿。
「悪いわね、娘がせっかく一生懸命になってるの……見逃していただけるかしら?」
「き、
その直後、お母さんの細剣が光を放ち……発動したのは、あのOSS。
発動直後、正面から突っ込んで敵プレイヤーの心臓を一突きにする。
それを抜き取りつつ、敵の剣を切り払いながら逆袈裟の一撃。
さらに武器を横から叩いて体勢を崩しつつ、心臓の位置に十文字に斬りつける。
がら空きの懐にまた踏み込んで、心臓を再度一突きにしつつ……踏み込んで足払いをしつつ、剣をさらに深く差し込んで、ナックルガードの部分で相手の胸を強打。
体勢を崩して反応できない相手から、剣をえぐるように抜き取りつつ、素早くその背後に回る。
倒れ込む相手の後ろから心臓をさらに一突きにし、またえぐるようにして抜き取りつつ、また素早く前側に移動……しつつ、相手の襟元をとって、柔道の要領で体を崩し、体勢を立て直させない。
トドメにそこに、刺突の軌道をを微妙にずらし、しかし全弾心臓に命中するようにした4連撃の突きを、体勢が崩れたままで無防備な相手に叩き込み……そのまま、HPが0になる。
ひゅん、と血を払うような動きで剣を振るったお母さんの背後で、爆発四散する演出と共に、敵のアバターはリメインライトに変わった。
これが……お母さんが、ナツメ先生からもらったOSS……『シアーハートアタック』。
剣を使った全ての攻撃を心臓に命中させ、かつ相手に回避も防御もさせないように動きやら攻撃角度を計算した上で、医者の知識を存分に活用して作られた、徹底した急所狙いの殺人技。
その9連撃で敵プレイヤーを排除したお母さんは、リメインライトの光を背後に背負いつつ、私に『がんばって』とでも言うように、サムズアップをしてきた。
私もそれにサムズアップで返し、ユウキ達を追いかけて扉の中に入っていった。
あの時はテンションのままに『頼もしい!』って思ってたけど……今こうして思い返すと……やっぱりとんでもないかも、私の交友関係。
さて、ここまでがチャレンジの『前』。
けど、私としては……むしろ大事だと思ってるのは、その後なんだけどね。
戦いの後、イグシティで祝勝会して……そこに、ボス部屋前で合戦してたキリト君達もなんだかんだで参加して、大盛り上がりして。
その後、すっかり忘れてた『剣士の碑』の確認に言って……そこに、ユウキ達『スリーピング・ナイツ』全員と、私のキャラクターネームがはっきりと刻み込まれているのを確認した。
皆、やりとげた、っていう達成感とか、感動とか……感無量でもう何も言えない、っていう感じの空気だったな……。
……その、直後のことだった。
私が、ちょっと前からユウキが私のことを『ねーちゃん』って呼ぶことがある、って指摘した時……突然、彼女ははっとしたような顔をして。何か、雰囲気が変わったように思えて。
その後、私が……『解散するまでの間でいいから、『スリーピング・ナイツ』に入れてほしい』って頼んだんだけど……それは、なぜか断られてしまった。
まあ、それ自体はいい。何か、秘密にしてる入団基準?みたいなのがあるのかもしれないし、無理に頼むつもりもなかったから。ちょっと残念だったけどね。
だからそれなら、今まで通り普通の友達として、これからも付き合っていこうと思っていた。
……その時に、なぜか……ユウキ達の表情が、どこか寂しそうな、哀しそうなものになっていたのが、ちょっと気になっていた。
そして、視界の端で……その様子を見て、リズやシリカちゃん、クラインさん達が不思議そうにしているのに混じって……キリト君とデュークさんが、神妙そうな顔をしているのも。
……そして、その翌日から……彼女達『スリーピング・ナイツ』の皆は、私の前から忽然と姿を消し、連絡が取れなくなってしまった。
次回、ようやくあの男が……