ソードアート・オンライン 青纏の剣医   作:破戒僧

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どうも、お久しぶり……ってほどでもないかもですが、破戒僧です。
本編終了ということで、番外編を投稿します。

……番外編1発目からこんなネタというか、色モノな話ってどうなんだろう、と思いつつですが……どうぞ。



後日談・番外編
番外編1 マザーズ・ハザード


 

 

「…………どういうことなの」

 

 今日も今日とて、ALO内の僕らの拠点と化している、キリト君達のログハウスにて、今後の打ち合わせ? みたいなものを行うために、僕とエリカさんはそこを訪れていた。

 

 そしてそこで、家主である一家3人が、リビングのソファに座っていた。

 

 キリト君と、ユイちゃん。

 そして……お腹の大きくなっているアスナさん。

 

 

 ……もう一度言おう。

 

 お腹の 大きくなっている アスナさん。

 

 

 …………いや、何事だホントにコレは?

 

 

 数十秒後、この事態を引き起こした『当人』から説明を受けるまで……さすがの僕らも、しばし混乱してその場を動けなかった。

 

 

 ☆☆☆

 

 

「『妊娠体験ソフト』のβテスト……ですか?」

 

「ええ、ちょっとアスナちゃん達に協力してもらってね? データ収集のために、一時的にアバターにインストールさせてもらってたの」

 

「そ、そうでしたか……いや、またてっきり僕は、キリト君が今度はどんな奇跡を起こしたのかと」

 

「いやナツメ、いくら何でも俺もそんな、アバターデータ妊娠させるような真似できねーから」

 

 不具合や超常現象じゃなく、狙って引き起こされた、ちゃんとした事象だったようで何より。

 ちゃんと、ALOのGMサイドにも許可取ってるそうだ。母さんの話によれば。

 

 ……そう、今回のコレ、主犯は僕の母である。

 キャラネーム『パンドラ』。リアルネーム『西神忍』。僕こと西神千里の、リアルの母親だ。

 

 アバターの見た目は、ユイちゃんやシリカちゃんとどっこいって感じの、背の低い幼女的な見た目で、どう見ても中学生以上には見えない。ちなみに種族はケットシー。白い毛並みが特徴的だ。

 

 ……が、実はこの人、大体リアルでもこんな感じの見た目だからな……。

 僕、龍馬兄さん、奏一郎兄さんを生んで育てた3児の母でありながら、どう見ても中学生以上に見えない幼い見た目という、まさかの現実に存在した合法ロリ。『いつまで待っても成長期が来ない』って、笑えない冗談をよく言う。

 

 そしてこの見た目のせいで、父さんがロリコンだという風評被害が各所で……やめよう思い出すの。切なくなってくる。

 

 そんな合法ロリな母さんであるが、産婦人科業界における権威であり、最近ではデューク兄さんと一緒に、VR技術を医療現場に応用する研究を進めてるって聞いていた。

 

 今回のコレは、その一環ってことか。『妊娠体験ソフト』……お腹に赤ちゃんがいる状態の女性の、体の重さや動きづらさなんかを、アバターで疑似的に体験できるわけだ。

 

「VRの技術は、産婦人科における……簡単に言えば、新しくママになる女性の、妊娠から出産までをシミュレーションするのに適していると常々思っていまして。以前から研究・開発を進めていたんです。それで今回、βテストと言う形で、アスナちゃんにご意見をもらおうかと思って、本日お邪魔させていただいていたんです。驚かせてごめんなさいね」

 

「そ、そうでしたか……しかし、なぜうちの娘に? 西神忍先生との接点は、私の知る限りなかったように思えたのですが……」

 

「この研究、うちの息子……デュークに加えて、昨今『オーグマー』で話題になっている重村教授にもご協力いただいているんです。すでにコレ専用のソフトではテストを終えているんですが、汎用性や、使用者ごとの適応性能を高めるために、こうして様々なゲームにインストールしてデータを集めている段階なんですが……ちょうどその時、最近重村教授の所で懇意にしているキリト君と一緒に研究室を訪れたのがアスナちゃんでして。ついで、と言う形で申し訳ないんですが、協力をお願いしたんです」

 

「あー……なるほど。そういえばキリト君、最近、将来のために重村教授に色々と教えてもらってたんでしたね」

 

「ああ。もっとも、その日はアスナは、ユナに用事があって偶然一緒に来てたんだけどな」

 

「正直、ちょっと興味あったから、その場でキリト君と話してOKしちゃったの。ごめん、お母さん、何も相談せずに決めて……データ上のことで、一時的なものだから、いいかなって」

 

「ま、まあ……そういうことならいいわ。正直、驚かされたけど……うん……」

 

 ……エリカさん、家に入ったら何の前触れもなく娘が妊娠してたもんだから、卒倒しそうになってたもんな。

 

 アミュスフィアの安全装置が働くんじゃないかって割と本気で思うくらいに顔青かった。

 

 ちなみに、すでに母さん、自分でもテストをしてみているらしい。その『専用のソフト』とやらで。……想像したら犯罪臭が半端ないな。

 いやでも、現実というかリアルで妊娠してんだよなこの人……3回も。

 

 そして、重村教授……頑なにユナさんにこれを試させようとはしないそうだ。

 理由は……まあ、お察しである。あの人親バカで徐々に有名になってきてるからな、一部で。

 

 昨今のARブームと、それに伴う重村教授の知名度にあやかろうと、娘であるユナちゃんにリアルで執拗な取材を行おうとして、教授の不興を買ったある記者が、研究室どころか関係機関すべてに出禁になり、最終的にマスコミ業界から干されたのは有名な話である。一部で。

 

 ……ところで、さっきの話でちょっと気になることが。

 

「ところで母さん? さっき、『アスナちゃん達』に協力してもらった……って言いませんでした?」

 

 この言い方だと、まるで他にも……

 

 ―――バタン

 

「キリトー! アスナー! インストール終わったよー! あっはっは、コレ動きにくいねー!」

 

「「!?」」

 

 リビングのドアが開いて、その向こうから、ユウキちゃんが……いや、さらにその後ろからも、いつもの面々が続々と入ってきた。

 ……アスナさんと同じように、臨月ばりにアバターのお腹が大きくなっている状態で。

 

 

 ☆☆☆

 

 

 というわけで今現在、リビングには、アスナさんに加え……ユウキちゃん、リズベットさん、シリカちゃん、シノンさん、サチさん、そしてリーファちゃん……もとい、『スグ』ちゃんの7人が、お腹を大きくした状態でソファに座り、各々楽な姿勢を模索していた。

 

 ……キリト君を囲む形で。

 

「……中々にすさまじい光景ね、これは」

 

「今なんか、いずれキリト君が本当に行き着く先がこうなんじゃないかって幻視してしまった気がするんですが……いや、やめにしましょう。想像するだに恐ろしい」

 

 ……僕もエリカさんも戦慄を禁じ得ない光景だ。

 これがゲームの中の、それすらも一時的な光景だとわかっていてもなお。

 

 特に、シリカちゃんとかユウキちゃんみたいな、明らかに小さい子もこうなってるから……。

 

 母さん、サンプルがいっぱいほしいのはいいけど、こういうのって実際に使うであろう成人女性とかに絞ってテスター頼むべきじゃないのか……

 

 なお、今僕がリーファちゃんを『スグ』という名前に言い直したのは、今彼女が使っているのが、文字通り、『リーファ』とは別の、『スグ』という名のアバターだからだ。

 

 これは、リーファちゃんこと『桐ケ谷直葉』ちゃんが新たに作ったサブアカウントで、キリト君とお揃いの『スプリガン』のアバターである。

 

 体型や顔つきが大体同じなのに加え、黒髪おかっぱという髪色髪型も手伝って、かなり現実の『桐ケ谷直葉』に似ている見た目となっている。そもそも狙ってそうなるように作ったようだし。

 

 ……その状態で『妊娠ソフト』を使ってるもんだから、ちょっとこう……余計に危険な匂いが。

 

 さらに、ネタ装備というか、どっかのスポーツメーカーとのタイアップアイテムである『ジャージ(上)』を装備しているのもあって……狙ってるよねコレ、完全に。

 

 現実の『桐ケ谷直葉』がこうなった体に限りなく近づけようとしてるよね?

 

 ただのネタやジョークの類であって、本人の無意識下での願望とかではないことを切に祈る。

 

 キリト君の将来に割とうすら寒いものを本気で感じていると……それを悟ったわけではないだろうが、予想できた通りの展開が始まった。

 具体的には、一部のノリのいい? メンバーによる悪ノリが始まった。

 

 口火を切ったのは、リズベットさん。普段は見ない、キリト君をきつく責めるような目つきになって、ぐいっ、とその腕を取って引っ張りながら、冷たい声色で言う。

 

「ねえ……認知してよ、あなたの子供なのよ」

 

「「「ぶふっ!?」」」

 

 それを見ていた全員(母さん除く)が一斉に噴き出す。

 

 おい、何か昼ドラ始まったんだけど!?

 

 なんかリズベットさん迫真の演技だし……臨場感がやばい。

 ……想定されているのであろう状況と設定はもっとやばいが。

 

「言ったじゃない、私と一緒になってくれるって……奥さんと別れて、一緒に暮らしてくれるんでしょ! この子を、この子を父親のいない子にしないでよ、ねぇ……」

 

「ちょっとリズ! さすがに横で見てらんないんだけど、冗談だってわかってても! ていうか、何て設定を即興で作ってるのよ! この泥棒ネコ!」

 

「アスナ、そのセリフもちょっと昼ドラっぽいぞ……っていうかリズ、ホントいきなりそういうのやめてくれ。わかってても何でか心臓に悪い……」

 

 演技・冗談の類だとわかっていても、腕を取られているキリト君はお顔が青くなっております。

 

「あっはっは、ごめんごめん、ついちょっとやってみたくなってさ……将来こうならないとも限らないし」

 

 何も聞こえなかった。

 最後にリズベットさんは何も付け足して言ったりしなかった。

 

 そして彼女のコレを皮切りに、せっかくだからと各自悪乗りを始めていくこととなり……

 

 

 

「約束ですよね、キリトさん……いいえ、ご主人様。私と一緒に、この子も飼ってください……」

 

 強烈な犯罪臭がする設定でシリカちゃんが弱弱しく、すがるようにキリト君にせまったり。しかもなぜか、ソファじゃなく床に座って懇願する徹底ぶり。

 

 ファンタジー世界の獣人と言うか、身分の低い奴隷階級的なアレならなくもない設定、なのかもしれないが……いや、やっぱダメだろこれ。

 

 

 

「見て、ほら……私とお兄ちゃんの子供だよ。えへへ……私、頑張って育てるからね……」

 

 こっちはこっちでもっとやばい設定である。『スグ』ちゃんの、リアルに激似のアバターで、ジャージ姿で、尖った耳もわざと髪型で隠すようにしてそんなこと言うから余計に……

 

 いや、彼女実際には妹じゃなくて従妹らしいけどさ、それでも……ねえ?

 

「お兄ちゃんが悪いんだよ……SAOに行ったきり、私のこと放っておくから。私、寝てるお兄ちゃんを……お兄ちゃんと……こんな……」

 

 待て、さらにヤバい設定をつけたそうとするな。薄い本じゃあるまいし……さすがにアウトだ。

 

 ……あと君……SAOでキリト君が眠ってる間、ホントにそういうことしてない……よね?

 

 どうしよう……怖くて聞けん。いっそこんな疑問、思いつかなきゃよかった……。

 

 

 

「えへへ……ごめんね、お姉ちゃん。ボク、お姉ちゃんと同じ人が、どうしても好きになっちゃって……盗っちゃった♪」

 

 おーっと、こっちはこっちでヤバい設定。よくもまあ思いつくな。

 

 ユウキちゃん、ターゲットをキリト君からアスナさんに変えて来たよ。現実にこんなことになったら、血で血を洗う戦い不可避だぞ。

 

 え、何、この状態でデュエルやってみたい? ……絵面が色モノすぎだろ。

 というか、こんな時でもそうなのか君は……根っからの戦闘狂だな……。

 

 あと、これから先も生きていけるようになったから……リアルで本当に子供を作って、次の世代に命をつなぐのがちょっと楽しみになった、と、普通にいい感じの感想も言ってたな。

 

 それについては、未来への希望がより持てたようで何よりだ、と言わせてもらおうかな。

 

 ……相手がキリト君じゃない場合に限るけれどもね? いや、大丈夫だとは思うけど。

 

 

 

「……気にしないで。あなたを恨んでなんかいないから。これは、私が弱かったのが悪いの……全ては戦争の中で起こったこと。あなたは、勝者として当然の権利を行使しただけ……。そして、この子に罪はない……だから、つらく当たるようなことはしないから」

 

 シノンさんは、えっとこれは……女兵士か何かが、戦争で負けて捕虜になって、そこでアレコレされて子供ができてしまった、的なシチュエーションだろうか。

 

 流石、普段GGOにいるだけある。発想がヘビーだ……キリト君も別の意味でリアクションに困ってる。

 犯罪臭よりも悲壮感とか、世の無情さを感じる設定だな。

 

 ……まあ、VRの世界でそんな、男女のやり取りだのシビアな戦争だの、そんなこと起こりようもないんだけどね。

 

 GGOでだってそんなヘビーな設定とかないし。僕の知る限り、現在ある『ザ・シード』で作られたゲームの中に、そんなことが起こりそうな……そうだな、男女の危うい部分があるやり取りとか、妙にリアルな中世的な世界観とか階級制度とか、戦闘ないし戦争がテーマとして起こりそうな世界設定とか、そんな設定が混在してる異世界みたいな世界はどこにもないからね。うん、ないね。

 

 

 

 そして最後に残ったサチさんは……大きくなったお腹を、いつくしむように触りながら、優しい声音で……

 

「大丈夫……私、こうなることを承知であなたを受け入れたんだから……。安心して、私もう、あなたの前から消える……あなたとも、奥さんとも、もう会わないように……現れない、ようにする、から……この子は私が、責任持って、1人で、育てるから……っ! だから……私、堕ろしたくない……産みたいの、お願い……!」

 

 ……一番重いわ! キリト君どんだけ外道だよこの設定!?

 

 サチさん……いつだったかの祝勝会の時に、アスナさん相手に『2号さんでもいい』発言ぶちかましてた、とも聞くから、余計に……

 

 というかこの子、時々見てるこっちがぎょっとするようなことやらかすよね……耳年増?

 ……心臓に悪い。

 

 

 

 そんな感じで、毎度おなじみ混沌とした空気のまま、こうして『妊娠体験ソフト』のテストに伴う、キリト君と愉快なヒロイン達の騒々しい時間は終わったのだった…………

 

 

 

 

 

 …………かに思われたのだが。

 

 

 

 

 

「はーい皆、それじゃ、そろそろ『妊娠体験ソフト』のテスト、始めますよー?」

 

「「「……え?」」」

 

 そんな母さんの声に、その場にいたほぼ全員が、頭の上に疑問符を浮かべて聞き返した。

 皆、一様に『え、もう終わったんじゃないの?』と顔に書いてある。こうしてアバターの設定を変えて、動き回ってみるだけじゃないのかと。

 

 驚いてないのは、恐らく事前にコレについて聞いてたんであろう、アスナさんと……こんなことだろうと思っていた僕だけか。皆、よく話聞かないでノリだけで首突っ込んだな?

 

 しかし我が母親ながらマイペースと言うべきか、それとも故意入ってるから黒いと言うべきか……若干戸惑っているヒロインズにそれ以上何も言わず、母さんは左手を振ってコンソールを出す。

 

 そして、何かのコマンドを押した……その、次の瞬間。

 

 

「「「……っ……うぷっ……!?」」」

 

 

 突如、『妊娠(略)』をインストールした面々が、えづくように口元を抑える。

 

 恐らく、急に吐き気が襲ってきたためとかだろう。アスナさん以外は、一体何が起こったのかわからず、困惑しているようだ。傍から見ているキリトくんも含めて。

 

「お、おい皆、どうしたんだ!? 気分でも悪いのか」

 

「わ、わかんない、けど……何か、突然気持ち悪くなって……吐き気、が……」

 

「うえっ、うぅっ……き、キリトさん、ちょっと、見ないで……くださっ、ぅ……」

 

「だ、大丈夫キリト君。これもテストの一環だから……っていうか、予想以上にきついけど……」

 

 と、手近にいたからか、はたまたお嫁さんだからか、キリト君に背中をさすられ、ユイちゃんに心配そうな目で見られているアスナさん。

 そして、同じように心配そうに彼女達全員を見ていたエリカさんが、ふと気づいたような仕草をして、

 

「……これ、ひょっとして……『つわり』ですか?」

 

「「「え゛!?」」」

 

 母さんを除けば、この中で唯一の『経験者』であるエリカさんが、見事にそれを言い当てた。

 

「あら、流石ですねエリカさん。ええ、ちょっとプログラム的にアバターの平衡覚……三半規管に介入するようなデータ処理を行って、疑似的に『気持ち悪く』なってもらったんです。お察しの通り、妊娠初期の『つわり』の再現ですね」

 

「な、なんでそんなことを……」

 

「何でも何も、コレは『妊娠体験ソフト』ですよ? 体系の変化や重心の変化、動きづらさの体験なんて、なんならリアルでも専用のアタッチメントを着ければ体験できる程度じゃないですか。だったら当然……脳に直接信号を送るVRでしかできないことをしないと、もったいないでしょ?」

 

 ……つまりあれだ。このソフトは、体型の変化だけではなく、妊娠初期に起きる様々な症状と言うか、体の不調を、信号として疑似体験できるもの、というわけだ。

 ……ちょっと想像して羅列するだけでも、結構きっついのがいくつも思い浮かぶんだけど。

 

 一口に『つわり』といっても、一番ポピュラーな、吐き気が襲ってくる『吐きづわり』や、食欲がめっちゃ増進して常に何か食べてないと気持ち悪い『食べづわり』なんてものに始まり、逆に何も食べたくなく、水すら飲むと吐いてしまうようなものや、熱っぽくなるもの、貧血みたいにふらふらして上手くうごけなくなるものなど、色々あるぞ。

 

 『アレをまた経験するのが嫌だからもう子供はいらない』なんて言うお母さんもいるそうだ。

 

 そして、再度左手でコンソールを呼び出す母さん。

 

 さっき、同じ動作をした直後、この身を襲う強烈な気持ち悪さがもたらされたばかりの彼女達は……覚悟を決めている様子のアスナさん以外、一様に『ちょっ……』と止めようとする。

 

 無理もない。単純に気持ち悪いのが嫌なのもあるだろうけど……恐らく、アレで感じる吐き気は限りなくリアルなはずだ。VRのエンジンの性能による再現とかそれ以前に……うちの母が関わっている時点で、仮にも専門分野で、妥協した中途半端なものを作るはずがないのは確実だから。

 

 そんなのを、思い人であるキリト君がいる前では特に味わいたくはないだろう。下手したら、彼の前でヒロインがゲ○インになってしまうなんて悲劇が起こらないとも限らない。

 

 が、無情にも実行される。

 

「大丈夫大丈夫、私も実際試してみて……まあ、ものによっては死ぬほど苦しいけど、ちゃんとしなないし精神的にも許容範囲レベルの負荷に抑えるようになってるから。女の子は皆、お母さんになるまでに通る道なんだから、今のうちにいい経験だと思ってチャレンジしてみましょうねー♪」

 

 黒い笑みを浮かべた母さんは……見た目からではわからないだろうが、本性としては結構黒い。

 それも、ただ黒いんじゃなくて、『無自覚に』黒いというか、容赦ないのが厄介なのだ。

 

 身内に対しては激甘でめっちゃ大事にするが、必要な時にはとことん厳しくし、ライオンが子供を崖から突き落とすような(あれって迷信らしいね)過酷な試練を課すことも辞さない、ON-OFFのしっかりした(極端な)大人なのだ。実際に体験してきた僕が言うんだから間違いない。

 

 人が苦しむのを見て喜ぶサディスト、ってわけじゃないが……苦しみに突き落とした人が、それを乗り越えて強くなり、一皮むけた状態になるのを見て嬉しさを覚える、らしい。……結局Sな気がしてきたけど、まあいいだろう。

 

 今も母さん自身としては、純粋に彼女たちのためになると思って地獄を見せているわけだ。

 

 例えそれで彼女たちにゲ○インの烙印が押されることになろうとも、『本当にお母さんになる時にどの道通る道なのよ』とか言ってむしろさらなる試練を与えるまで目に浮かぶようである。

 

 コンソール操作1つで阿鼻叫喚の渦に落とされるヒロインズを見ながら、僕はなんとなく合掌した。

 

 

 

 なお、およそ1時間半後に解放された彼女達は、それ以降、僕の母さん……『パンドラ』のアバターが視界に入るたびにびくっと怯えたように反応することになるのだが……まあ、一種の洗礼だと思って諦めてもらいたい。

 

 

 

――追記――

 

「なあナツメ、ちょっと頼みがあるんだが……」

 

「はい? 何です?」

 

「その……今日アスナ達が使ってたソフトさ、これからも継続して、設定変更とかであの姿になれるようにとかってしてもらえたりできないか? その、つわり系の機能はなくていい、見てくれだけああいう感じになるだけでいいから。パンドラさんに頼んでもらえないか?」

 

「……いや、君、それを何に使う気ですか」

 

 

 

 

――追記2――

 

 いつの間にかユウキちゃんが、あの、皆が妊娠した体型になっていた所をSSに撮って保存していて、『フォトアルバム』に保管していた。

 

 そればかりか、上手いこと全員が映っている(キリト君含む)写真を『集合写真』と称し、コピーして拡大して、画質を保った限界まで引き延ばし、一枚の絵画のようにしていた。

 

 そしてそれを……ログハウスに、クラインさんや『黒猫団』といった皆が集まるタイミングを見計らってオブジェクト化し、でかでかと掲示した。

 それにより皆の目にその超衝撃映像が触れ、一時阿鼻叫喚の地獄絵図が巻き起こった。

 

 どうしてこういう活用法を思いつくんだこの子は……全く、人生楽しんでるなあ(褒めてない)。

 

 

 

 




色々思いつき次第、書き上がり次第、投稿していく予定です。

何話かまとまったストーリーになるようなものは、まだだいぶ先かもですが……どうぞその時はよろしくです。

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