ソードアート・オンライン 青纏の剣医   作:破戒僧

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ほぼネタなんですが、少々クロス要素取り入れすぎた気もします……苦手な人いたらすいません。

シリアス過ぎるのもあれだからちょっと遊び入れたら、いつのまにかこんなことに…

メインの話は前半部分と最後だけ読めば足りなくもないんですが……


番外編2 西神家の一族 

「んー……」

 

 場所は、西神家の本邸。そのリビング。

 テーブルの上にいくつもの書類を広げ、ナツメこと西神千里は、兄・デュークこと西神龍馬と共に、眉間にしわを寄せて唸っていた。

 

 そこに通りがかった長男……がっしりした体格に掘りの深い顔が特徴の壮年の男性、ワイズマンこと西神奏一郎が、後ろからのぞき込んで何をしているのかを見ていた。

 

 その書類の中身を流し見して……ああ、と、弟たちが悩んでいる理由に思い至る。

 

「紺野木綿季くんの引き取り先の候補か? その書類は」

 

「あ、兄さんお疲れ様です。……ええ、ちょっと悩んでましてね」

 

「さすがに軽く考えて決めるわけにはいかん事柄だからな。まあ、最終的には倉橋医師と本人が悩んで決めることではあるんだが……ある程度こちらで絞っておいてもばちは当たるまい」

 

「確かに。我々にとっても、いささか他人とは言えない相手だしな。医者が患者の内情に必要以上に深入りするのは、好ましいことではないとはいえ……」

 

「他に深入りしてくれる人がいないんじゃ、そこに手を差し伸べるのも私たちの役目じゃないの?」

 

 と、その後ろからさらに、ワイズマンの隣をすり抜けるようにして現れた母・パンドラこと西神忍は、ソファの空いている所にぽすっと腰かけて、自分も書類に目を通し始める。

 

「おや母さん、論文書けたんですか?」

 

「昨日の夜のうちに書き終わってたわよ? 今日はもうもともと最終チェックだけだったの。さて……ユウキちゃんだっけ。えっと……こないだもいた、あの……妊娠してお腹大っきくなった状態でデュエルしたい、って言ってた娘よね」

 

「母さん、それだと説明が絶妙に足りなくて誤解って言うか大変な聞こえ方しますんで、家の中とはいえもうちょっと正確にお願いできません?」

 

「心配はいらんぞ千里。母さんがこういう、プライベートで色々と足りないと言うか天然な性格だというのは、我々家族はもちろん、使用人全員の共通認識だ。今更このくらいで騒がれんさ」

 

「それもどうなんですかね……」

 

 ため息をつくナツメに構わず、パンドラはパラパラと書類を流し見るようにして、手早く山を分けていく。

 片方を自分を含め、4人全員から見てよく見えるところに。もう片方を遠くに。

 

 それらの書類に記されているのは、どれも西神家でコネクションのある、ある種の児童養護施設の資料である。先程パンドラやワイズマンが言っていた通り、ユウキこと紺野木綿季の引き取り先を決めるための選定の最中なのだ。

 

 そもそも、ユウキの家族は既に、彼女を残して全員が他界している。

 両親は2年前、姉は1年前にこの世を去った、と……あの騒動の時にナツメ達は聞いていた。

 

 その他の親族がいないわけではないが……それは救いにも何にもならない。

 ユウキ曰く、『いない方がマシ』な連中しかいないらしいからだ。

 

 病床の彼女の所に現れ、仮想空間にダイブまでしてきて言ったことが『遺言書を書け』。

 

 ユウキの両親が所有していた遺産や、家や土地について、先が長くない彼女に相続の権利があることから、自分達にその権利を譲るように要求してきたとのことだが、その時ユウキが『ボク現実では遺言書どころかペン1本持てないんですけど』と返したら、何も言えずに帰ったらしい。

 

 当然ながらその話を聞いて、アスナ達はひどい、と憤りをあらわにしたが……それはさておいて。

 

 そんな親戚たちであるが、ユウキがこうして仲間たちの協力の元、寿命も含めて生きる希望を取り戻して以降も、当然ながらその態度を改めるなんてことはなく。

 

 今度は、病院側からの『ユウキの引き取り先を探している』という申し出に対し、揃いも揃って彼女の引き取りを渋ったのである。

 

 彼らからすれば、ユウキはただ血のつながっているだけの他人であり、自分達の生活の枠内に入れて暮らさせてやるような義理も情もない、という感じだったのだ。

 例によって、財産の相続権を譲ったら面倒を見ないこともない、などと言って来たものもいたが。

 

 当然、そんな申し出にユウキがうんというはずもない。そもそも、そんなことを言ってくる時点で信用などあってないようなものであり、約束通りきちんと面倒を見てもらえるはずがない、というのは、仲間たち全員の共通の見解だった。

 

 しかし、未成年……それも、年齢的にはまだ中学生であるユウキは、随所で保護者というものをどうしても必要とする。後見人とか色々言い方・立場はあるが、日本の法律ではそうなっているのだし、いくら金があったところで、女子中学生が1人で……それも、ごく最近まで病床にあった少女が、誰にも頼らずに生きていけるほど、社会は甘くない。

 

 事実、遺産相続も何も関係なく、『善意の保護者・後見人』という立場で、病気から持ち直したユウキの持つ財産を目聡く狙っている親戚はいまだ健在だ。弁護士の類を使って、合法的にいくらかでも自分達のものにしようとさえしていた者もいた。

 

 それらを前にして、ユウキは……もっと言えば、彼女の仲間たちですら、現実の社会での立場を持っていない以上、無力でしかないのだ。キリトがちょうど、『ALO事件』の時に、須郷に対して自虐気味に口にしたように。

 

 ……が、それがわかっていてなお、キリトやアスナといった、ユウキの身を案じる仲間たちは、それらを脅威として見ることはなかった。

 正確に言えば、脅威足りえないと確信していたがために、慌てることは何もなかった。

 

 わかっていたからだ。あの時と同様、自分達は無力かもしれないが……無力ではない者達が何もしないわけがないということを。

 

 

『大丈夫。アスナやキリト君達は、ユウキちゃんが不安がらないように、一緒にいてあげなさい』

 

『ここから先は、我々大人の仕事です』

 

 

 VRの中ではあったが、当時、そう言ってあまりにも頼りがいのある背中を見せつけた2人……ナツメとエリカの手により、その半月後には、ほとんど全ての問題は解決した。

 

 エリカが大学教授の『結城京子』としての人脈と知識をフル活用し、教育委員会をはじめとした公的機関を動かして、ユウキがこれから生きていく上で必要であろうあらゆる公的サポートの手続きを進め、それによる保護で他者からの不当な干渉をシャットアウト。

 

 使い方次第で弱者の敵にも味方にもなるのが法律であり、国の制度である。

 こと教育や幼年保護にかかるそれらに精通していると言っていいエリカの手腕は、手続きを担当した役所の職員が、自分は何も悪くないのに逆に緊張してしまうほどの辣腕だった。

 

 さらにナツメ、というよりも西神家のパイプにより弁護士を手配し、別角度からも法律上で手を回して、びた一文たりとも親戚にユウキが保有する資産が回ってしまうことのないようにした。

 

 そればかりか、扶養義務違反やら財産の不当な接収やらを指摘して、逆に損害賠償までむしり取ってしまった。その親族は、さらにその他の親族から見放され、その他、色々と不幸が重なって、いつしか姿を見せなくなってしまったということだった。

 

 恐らく彼らは今後、ユウキとは関わりたくもなくなっただろう。主にトラウマで。二度と姿を現すことはあるまい。

 

 なお、その際の弁護士への依頼は、『ホロウ細胞』及び『HF療法』に関わりのある機関が、患者を保護するための一策として行っており、依頼先は刑事・民事を問わず裁判という裁判で無敗を誇る、七三分けの髪型が特徴的なさる有名な弁護士だったらしい。

 

 過去には死刑囚を無罪にしたことすらあったという凄腕である。相手に反論の隙を(二重の意味で)与えないほどのマシンガントークが特徴的だったな、とナツメは記憶していた。

 

 あと、部下だという朝ドラヒロインのように真っ直ぐな女弁護士と、何やら只者ではない気配を漂わせた老年の事務員も。何度か打ち合わせの席を設けたが、実に濃い面子だった。

 

 そうして、ユウキの安全は確保されたが、今度問題となったのは彼女の生活である。

 

 幸いと言っていいのか、彼女には両親が残してくれた遺産と家と土地、そして件の親戚からむしり取った賠償金がかなりあるため、生活するだけなら問題ないが、先程話に上がったように、彼女が今後生活していくうえで『保護者』の存在は欠かせない。

 

 だが、何度も言うように、その役割で親戚は頼れない。ユウキとしても頼りたくない。

 

 そして、こればかりはナツメやエリカといった、あくまで『他人』である面々が力になれることではない。少なくとも、直接的には。

 

 であれば、そういった場合に『保護者』の役割を担う機関ないし施設などを頼る、という方法があるのだが……ここで話は、ナツメ達が冒頭で読んでいた資料に戻る。

 

 あれらがすなわち、そういった身寄りのない未成年などの世話をしてくれる機関・組織のうち、西神家が多少なりともつながりを持っているところのリストなのだ。

 

 それをさらに現在、パンドラが、ユウキの事情その他を考慮した上で、素早く『ふさわしい』『ふさわしくない』に分けている。

 

 ものの1、2分で仕分けの終わったそれを、あらためて3兄弟と母親が見て選んでいく。

 ユウキの……仲間の今後を託すに足る、ぴったりの施設はどこだろうか、と。

 

「けっこう残りましたね……主流なのは、どこかの企業が、慈善事業サイドで行っているもの。次点で、NPOやら何やらの慈善団体のそれか……設備が充実してるのは前者ですね、どうしても」

 

「それは仕方がないだろう。資金の潤沢さというものがそもそも違うからな。事業としてやってるから、金払いもいいから人もきちんと集まるし、質も有能なのが揃ってる。施設によっては、出た後のアフターフォローまでやってるから、OB・OGの評判も上々という話だ」

 

「職業訓練までコースとして用意しているところもあるようだな。それに、昨今の流行をきちんと反映して、VR関係の設備・回線も充実しているのが揃ってるようだ。VRMMOはユウキ君のライフワークということだから、この中から選ぶのがいいだろう」

 

 そう指摘したワイズマンも、例の手術やその前の説明会の際、ユウキについての資料で読んで、彼女がゲームを好きなのは知っているし、VRの中で会っている。彼女が入る施設には絶対に必要だろうと考え、それ関連の設備がない、あるいは不十分ないくつかを除外する。

 

「で、結局どこがいいかしら? ユウキちゃんなら……設備がそれなりに充実してて、VRゲームもできて、あとは……やっぱ医療面でのケア体制も充実してるところがいいわよね」

 

「それと、あの性格だ。規則でガチガチのところは向いていないだろう……ある程度ユルいところだな。……これまで普通の生活ができなかったんだから、そのあたりも存分に、やりたいようにやって楽しめるところがいいだろう」

 

 パンドラとデュークも同じようにして紙を手に取っていき、残ったのもののなかから、ユウキと倉橋医師に紹介する候補を探す。

 

 いずれも、世間、というより世界的に名を知られた企業が経営している専門施設であり、西神家が何らかの形でその中枢部ないし上層部にパイプラインを持っているものばかりだ。交渉や事前打ち合わせ、手続きなどの際に、非公式にだが便宜を図ってくれるだろう。

 

「これなんかどうです? 『スマートブレイン社』……孤児院等の経営にはかなり古株で、実績も随分とあるようです。社長が代替わりして以降もちょくちょく施設とかに顔を出してて、グループぐるみでアットホームで雰囲気もいいとか。あ、バーベキューの写真とかある。楽しそう」

 

「お母さんはこっちが気になるかな。『ユグドラシルコーポレーション』って確か、龍馬のお友達が重役で務めてるのよね? えっと……景虎(カゲトラ)君?」

 

貴虎(タカトラ)だ。確かにここなら、企業母体が製薬会社だから、医療方面の設備も優秀なのが揃ってるし、関係機関との提携もある。その他の設備の充実性も申し分ない。ただまあ、貴虎は公私の区別をきっちりする奴だから、私の紹介でもそこまで個人的に便宜を引き出せるかと言うとな……いや、彼自身は信頼できる男だし、子供も大事にする奴だから、普通に利用する分には私も賛成だが……ふむ。こっちの『難波重工』提供の施設というのは?」

 

「そこはやめておけ、龍馬。確かに設備は充実しているしケアも上等だが、どうも教育方針に偏りがあるきらいがあるという話だ。昭和の時代からのワンマン経営者が仕切ってるとままあることなんだが……あそこの狸おやじは中々の食わせ物だからな」

 

「なんか実感こもってますね、奏一郎兄さん……ん? 『幻夢コーポレーション』って……あのゲーム会社か。VRってよりARの分野に優先してたしか進出してて、重村教授ともつながりがあったな……いやでも、養護施設としては新規参入だし、ノウハウがな……流石にゲームつながりだけで選ぶわけにはいかないよな」

 

 ナツメ達がそうしてあーだこーだと迷っていると、

 

「……ここがいいでしょう」

 

 パンドラの後ろからすっと伸びて来た手が、1枚の資料を取り上げて、ナツメ達によく見えるように差し出して見せた。

 

 当然ながら、資料よりもその手の先に、全員の視線が集中する。

 

 そこに立っていたのは、短めの黒髪に丸レンズのメガネ、暗い色のセーターに、黒のジャケットとズボンという、全体的に暗色系の服装に身を包んだ男性。

 

 何の前触れもなくいきなり登場した彼だが、無論、不審者というわけではなく、ナツメ達にとっては顔見知り……というか、家族である。

 

 名を、西神清十郎。聖都大学附属病院で教授を務めており、ナツメ達3兄弟の父親で、パンドラの夫。故・西神壇九郎亡き今、この家の大黒柱たる男である。専門は循環器科だ。

 VRのアバターも持っており、時々作業などのために『VRオフィス』などにログインして利用している。アバターネームは『ジエンド』だ。

 

 常に冷静かつ物静かで、無表情で感情があまり表に出にくく、独特の雰囲気を常に纏っている。

 よく言えば寡黙な、悪く言えば不愛想な男だった。

 

 寡黙であるというだけで、根はいい人だと言うのは、ここにいる全員がわかっていたが、それはさておいて。

 

 ナツメ達はそれに続いて、ジエンドの手にしている資料に目を移し、

 

「『鴻上ファウンデーション』……ああ、あの人のとこか」

 

「そう言えば、お父さんと仲よかったわね、あそこの会長さん。未だに誕生日とか、バースデーケーキ届くし」

 

「親父に限った話ではないがな……」

 

 規模で言えば『ユグドラシル』や『難波重工』と同等かそれ以上と言っていい超巨大企業『鴻上ファウンデーション』。その会長はかなり変わった人物であり、豪快でありながら底知れない策謀を頭の中で常に組み立てている大人物、というのがナツメの印象だった。

 

 ただ、子供のころから父親つながりで何度か会ったことがあり……その時の印象はだいぶ違っていたのだが。

 

 『欲望』によって人の世が進化するという持論を持っていて、口癖は『素晴らしい!』と『ハッピーバースデー!』。会長室になぜかあるキッチンでいつもケーキを作っていて、ナツメやその家族の誕生日には毎年欠かさずお手製のケーキが届く。比喩ではなく会長の手作りのケーキが届くしかも普通に美味い。

 

 そのため、一時期ナツメは彼のことをケーキ屋の店長だと思っていたし、呼び名を『ハッピーバースデーさん』で記憶していた。

 

「鴻上会長であれば、少々独特な方ですが信頼できますし、経営している施設の設備も申し分ありません。昨今どうやらVR技術興味を持たれているようですし、何より、各方面から何か干渉があっても気にもかけないレベルの豪胆さと力強さもありますから」

 

「確かに……あの御仁なら、何かあれば国家権力が相手でも、自分の手勢に手を出させないくらいのことはしそうだな。各方面への影響力もあるし……」

 

 懸念があるとすれば、企業母体が大きすぎて、ユウキが関わっているナツメの医療分野の学説を面倒見ている各関係機関との連携・調整が大変そうなことだが、それはどこでも同じことだし、彼女の安全やら未来には代えられない。

 

 一応、その他にもいくつか候補は見繕った上で、最終的な判断をゆだねるため、ナツメ達は後日、倉橋医師とユウキに案としてそれらを提示することにしたのだった。

 

「ところで父さん、ここにいるってことは、もういいんですか、アレ?」

 

「無論です、全てつつがなく終了しました。何一つ見逃すことなく……私自身の手で。これぞ、塵ひとつ残さない美しい終末を……」

 

「あ、お風呂掃除終わったんですね。じゃお母さんお先に入りまーす」

 

「……いいのか親父、せっかく自分で掃除したのに、一番風呂をお袋に譲って」

 

「構いません。掃除の最中に思いついたことがありますので、どの道この後メモにしたためるため、しばらく自室にこもります。君たちもよければ先に入りなさい」

 

「それはどうも。……しかし父上、使用人の仕事を奪ってやるなよ、家政婦たちが困ってたぞ? 旦那様に任せるような仕事じゃないのに、ってな」

 

「仕方ないですよ、龍馬兄さん。掃除は父さんにとっては気分転換なんですから。潔癖症だから、カビとかぬめりとか水垢とか発見すると我慢できない性格ですし」

 

 

 

 後日、ナツメ達からの提案を受け、結局ユウキは『鴻上ファウンデーション』管理下の施設に入居することを決めたようだった。

 

 各種設備も充実していて、もちろんのことVR関係のそれも完備。

 さらに、各方面からの不要な干渉も完全にシャットアウトしてくれるため、VRでは元気そのものだが、現実ではまだ病人であるユウキにはありがたい環境だった。

 

 ただ、気になった点としては、入居したユウキのみならず、『スリーピング・ナイツ』の面々全員の誕生日に、なぜか病人でも安心して食べられる『低糖質・低カロリー・低脂質・アレルゲンなし』のケーキが届くようになったため、一時期皆そろって困惑していたとか何とか。

 

 

 

 




よく考えたら、ユウキのリアル面でのその後って描写要るよなー、と思った結果の産物です。
……ほぼネタに走ってしまいましたが。

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