今回は、前の話でちらっと出て来た、フラグが折れた方々の詳しいお話です。
第8話、どうぞ。
【2023年6月15日】
一時期僕を悩ませていた、カウンセリング事業の繁忙期――イコール、精神が不安定になるプレイヤーが大量発生していたあの時期――も過ぎ、アインクラッドには現在、平穏な時間が戻ってきていた。
なので、既に第1層に構えた『ナツメ心療内科医院』も引き払ってある。
……が、何を考えたか僕は今、第35層主街区にあるプレイヤーホームにて、『ナツメ医院』という看板を掲げ、以前第1層でやっていたのと同じような『ドクター』としての活動を継続していた。
その理由を言ってしまえば、あれはあれで、僕自身ある程度やりがいを感じていた、っていうのもあるし……実際、『繁忙期』は超えたとはいえ、まだまだ精神的にケアを必要とする人はいる、というのをわかっていたからだ。
アルゴさんがどうやってか調べたらしい情報によると、僕がやっていた『カウンセリング』がもしなかったら、自分は今も生きていたかどうかわからない、という人の数は、100や200じゃないんだそうで……。
もちろん、ホントにその人たちが、僕のカウンセリングがなければ死んでいたのか……なんてことはわからないし、全員そうだったとは考えにくいとはいえ、その数字は、それだけ追い込まれていた人が多かったことを如実に表していた。
それを考えると、これからもそういう、ケアを必要とする人は出てくるんだろう。
もしかしたら、何かの拍子ないし理由で、また『繁忙期』を思い出させるような、プレイヤー達がカウンセリングに殺到してくる忙しい時期が来るかもしれない。
例えば、攻略組が何らかの理由で大打撃を受け、攻略スピードが著しく落ちたり、見通しが暗くなるようなことがあれば……連鎖的に下層の人たちも不安になるだろうし。
……第25層の攻略の時に、アインクラッド解放『軍』が無茶やって半壊したみたいに。
そんな時に、追い詰められ限界を迎える前に受け止めてやる受け皿は、確かに必要だ。
そういう結論に至ったわけだが……そう思ったのは僕だけではなかった。
僕がかつて『カウンセリング』を施した人たちの中で、『かつての自分と同じように苦しんでいる人の力になりたい』と考えるプレイヤーが何人かいて――これもアルゴさんが見つけて来た。あの人どんな伝手持ってんだホントに……――僕に協力を申し出てくれたのだ。
結果、その人たちと協力して『カウンセリング』の仕事を継続していくこととなり……移転に際して、運営体制なんかも一新した上で、ここ『ナツメ医院』がオープンすることとなったのだ。
第35層の主街区『ミーシェ』は、白壁に赤い屋根の家が立ち並ぶ、穏やかな農村、といった感じの街並みで、この雰囲気はカウンセリングとか、心のケアにも都合がいいんじゃないか、っていう理由で、ここに医院を置くことに決まった。
何せ、僕のプレイヤーホームも兼ねてるもんで、落ち着いて暮らせる方がいいし。
ここで、3日に1度、午前10時から午後5時までの間、『カウンセリング』を実施する窓口を置く、というのが、今のうちの運営体制だ。
毎日じゃなく、このくらいのペースでも大丈夫なくらいに、アインクラッド全体のプレイヤーのメンタルは、今は落ち着いている。
その他の時間は、レベル上げするなり、ゆったりのんびり過ごすなりできるので、僕らのスケジュール的にも助かっている。
いくらやりがいがあっても、1層でやってたアレはオーバーワークだったしな。おかげで、前線の人たちとだいぶレベルに差がついた。
無論、今からでもレベル上げは頑張るけど……恐らく、僕はもう『攻略組』に名を連ねることはないだろう。まあ、元からそんな感じだったし、気にすることでもないか。
100層攻略は、『攻略組』の人たちに任せて――キリト君もそういや、最前線で頑張ってるんだっけな――僕は大人しく、中層で支援ライフでも送ってようかね。
道連れというか、同僚というか……そんな感じの仲間?も一緒にいることだし。
僕が今現在、最もよく会う、というか付き合いのあるプレイヤーは……ざっと6人。
まず1人は……つい2ヶ月ほど前に相談を受けて色々とアドバイスをした、サチさんだ。
あの後彼女は、結局、『月夜の黒猫団』のメンバーに、キリト君と一緒に事情を話して理解してもらい、戦闘メンバーを外れ、後方から『黒猫団』や、その他の攻略組のプレイヤー達の支援をするような立場につくことを決めた。
そして、その際に就職先として選んだのが……ここ『ナツメ医院』だった。
ここで、看護師として僕の医者仕事の手伝いをしてもらっている。……主に雑用だけど。
どうしてそんなことになっているのかと言えば、話は簡単で……彼女もまた、さっき言った『誰かの力になってあげたい』という志の持ち主だった。
それと、『月夜の黒猫団』の現状その他が上手いこと噛みあった結果である。
『黒猫団』は、前線メンバーは4人になってしまったものの、安全第一でレベルを上げながら、少しずつ前に進んでいくやり方を選んだ。
その間、サチさんは『ポーション作成』という、生産系のスキルを育てていくことになったんだが……生産スキルのレベルを上げる方法とは、そのままズバリ『経験』を積むことである。
素材を使い、調合し、成功と失敗を繰り返して少しずつ上達していく、というものだ。そして、より高価な素材を使って、より高度なレシピの調合を行うほど、成長は早い。
サチさんのその『ポーション作成』のレベル上げに必要な素材は、『黒猫団』の人たちがレベル上げがてら収集・調達するという計画らしいのだが、はっきり言って効率は悪いだろう。
最初はよくても、レベルが上がりにくくなってからは……少数ギルドの素材調達能力では、サチさんへの素材提供は、結構な重荷になってしまう。その時に、またサチさんが落ち込みかねない。
『黒猫団』自身の資金調達とかの問題もあるだろうしな。
不要な素材は売却して金に換えるのが、ギルド運営のために本来賢いやり方なんだし。
なので、ちょうどその頃『人手が欲しいな』と思っていた僕は、彼女を雇うことにしたのだ。
サチさんは普段、11層にある『黒猫団』のプレイヤーホームに寝泊まりし、昼の間……『黒猫団』のメンバーが狩りやレベル上げに出ている間は、うちの病院に出勤して、そこで事務仕事や物品の整理なんかをやってもらう。事務仕事のバイトみたいなもんだ。
後は、3日に1度のカウンセリングの予約に来た人を応対して、予約簿に記載したり、その際に使う問診票を事前に渡して書いてもらったりといった、窓口業務もお願いしている。
また、その合間を縫って、持参した素材で調合の練習を行っている感じだ。
お小遣い稼ぎのために、店舗を間借りして作ったポーションを販売することも許可している。
彼女は、戦闘にこそ怖がりであるものの、人当たりはいいし、仕事ぶりは真面目で丁寧だ。僕も助かっているし、病院に来た人達からの人気も高い。
最初こそ緊張気味ではあったけど、今ではすっかりうちの看板娘となっている。
サチさん自身も、戦闘よりも今みたいな形で攻略に貢献したり、人と関わったり、人の役に立つ生活が好きなようなので、楽しんでやっている。ストレスもためることなく、また順調にスキルの熟練度も上がってきているようだし。
それと彼女の場合、キリト君がよくここを訪れるというのも、楽しく暮らせている理由の1つになっている気がするが。
彼、休憩所兼ポーション系アイテムの補給場所として、よくここを利用するので。
どうやらキリト君は気づいていないようだが……明らかにホの字だよねアレ。恋する乙女の目だよ。多分彼以外全員気づいてると思う。
はっきりとは言っていないにしても、キリト君とポーションのトレードをする時に、いつもすごく幸せそうと言うか、好き好きオーラ全開なサチさんなわけだけど、当のキリト君が全然気づいていない。ポーションしか見ていない。
……いやまあ、サチさん自身が気にしていないというか、今の関係に満足して納得してるようだから、僕は別にいいんだけどもね。少なくとも、今は。
……いや、やっぱりよくない気がしてきた。
聞いた話じゃ、あの頃怖がるサチさんを慰めるために、一緒のベッドで添い寝までしてたって聞くし……それでもその想いに気づいていないってちょっと問題あるんじゃなかろか、男として。
そんな感じでサチさんと、ついでみたいな形で今話したキリト君が、よく会う相手の2人目。
3人目は、クラディールさんという人。
長い茶髪と、やせ型……に見えるけどそこそこがっしりしている体格、あとちょっと目つきと顔色が悪い感じなのが特徴的な、壮年の男性である。
数か月前に僕の『カウンセリング』を利用した客の1人で、その頃からの付き合いだ。
あの頃は……今よりもっと目つきも顔色も悪かったな。
というか、目つき以上に何かヤバい雰囲気が漂っていた気もする……人殺しでもしそうな(失礼)。
曰く、彼は最初のうちこそ真面目にレベルを上げ、攻略を進めていたらしいんだけども……いつまで経っても明るい展望の見えない現状に嫌気がさし、もう何もかも投げ出したくなっていたそうだ。こんな、頑張っても報われない生活をいつまで続ければいいのか、頑張る意味があるのかと。
いっそ開き直って、何もかも捨てて好き放題生きた方が有意義なんじゃないか、と。
彼も、リアルでは年相応に立場のある人であるらしい。
ここに捕らわれている期間の分、リアルの世界に置き去りにされてしまうことを苦しく思っていて……それが、自棄を起こしかけている理由の1つにもなっているようだった。
この人を診察した時、なんか時間がないと言うか、ほっとくとヤバそうな気配がしたので……ちょっと荒療治に出させてもらったんだっけな。
心理療法としては、あまり褒められた方法じゃないのは承知の上で。
その日はもう客足がまばらだったので、午前中で『医院』を閉めて……同じく第1層にある、知り合いのサーシャさんという女性が、孤児院みたいなことをやっている教会に連れていった。
そこでは、SAOに閉じ込められてしまった子供たち――レーティング無視してログインして遊ぼうとした結果の悲劇である――の世話をしているのだが、その頃は子供たち以外にも、ちょっと問題のある大人たちが出没してた時期だったんだよな……。
人間、自分がどん底だと思ってる時、どうやってその鬱憤を晴らそうとするか。
その1つの手段が、より弱い立場の人間に八つ当たりすることだ。
……教育現場でいじめがなくならない、大きな理由の1つである。
第1層にはその頃、攻略に携われるほど強くもなく、ゲームのセンスもなく、かといって別の形でそれに貢献したり、関わらずとも生きがいを見つけたり……といったことができない、率直に言ってチンピラかゴロツキにしか見えないような連中がたむろしていた。
そしてそいつら、最悪なことに……隙を見て教会にいる子供をいじめたり、いびりにかかるんだよ。今言った理由で。
そうならないように『アインクラッド解放隊』が目を光らせてはいるものの、やっぱり限界はあってね……なまじ子供って行動力があるもんだから、抜け出したりした時に……。
その時も丁度、フレンド登録してるサーシャさんから『子供がまたいなくなって!』というメッセージが届いたので、不謹慎とは思いつつ、ひょっとしたら利用できるかもと思って、そのままクラディールさんを連れ出し、その現場に連れていった。
そこで繰り広げられていたのは、予想通りに、自暴自棄になった醜い大人が、弱者である何の罪もない子供を虐げて鬱憤を晴らすの図。
それを、一足先にたどり着いていたサーシャさんが懸命にかばっていたんだが……そのサーシャさんごしに、ゴロツキ共が調子に乗ってあーだこーだ好き放題。
やれその子供の目つきが気に入らないだ、やれ慰謝料を払えだ、やれ黙って殴られろだ……
さすがにコレもう見てらんないなってことで……僕もそこそこ腕に自信はあるので、強制的に鎮圧しようかな、と思った瞬間、僕が出るより先にクラディールさんがブチ切れた。
そのまま、両手剣を目にも留まらぬ速さで閃かせ、チンピラ全員ぶっ飛ばしていた。
ドロップアウト寸前だったとはいえ、攻略組にふさわしい強さを見せつけたわけだ。
『力もなく、罪もない子供をいじめて悦に浸るような真似をするなど……恥を知れ!』と、年の功を思わせる迫力で一喝し、ゴロツキを撃退したかと思うと……今度はクラディールさん、膝をついてその場に崩れ落ちた。剣を取り落とした手を、ぶるぶると震わせていた。
あのゴロツキ共の醜態を見て、『私もああなるところだったのか』とか、か細い声で呟いて……その直後に、助けられた子供たちとサーシャさんに囲まれて、褒められたりお礼を言われたり。
『おっちゃんすげー! つえー!』『かっこよかったー!』『子供たちを助けてくださってありがとうございます』……そう言われたクラディールさんは、今度は感極まって泣き崩れた。
その涙には、色々と複雑な感情がこもっている気がして……しばらくそっとしておいた方がよさそうだったので、声はかけないでおいた。
その翌日、医院にお礼を言いに来たクラディールさんは、憑き物が落ちたようにすっきりした顔色になっていて……目つきも、比較的マシな悪さになっていた(やっぱり失礼)。
それ以来彼は、所属するギルドである『血盟騎士団』のトッププレイヤーの1人として攻略組を引っ張りつつ、中層以下のプレイヤーもこまめに気にかけてよくしている……特に子供に優しくしてくれる気のいいおじさんとして人気だそうだ。
後になってから知ったんだが、彼、リアルでは教師らしい。年齢の通り、かなりベテランの。
なるほど、それで子供に理解があったんだな……いじめられている子供を見てブチ切れたのも、もしかしたらそのせいだったのかも。
そして、よく会うプレイヤーの4人目と5人目は、アインクラッドでは珍しい、ご夫婦のプレイヤーである。
システム内でも、リアルでも結婚しているお2人。グリムロックさんとグリセルダさんだ。
『黄金林檎』という名前のギルドに所属しているらしい2人は、一時期、デスゲームに捕らわれたことによるメンタルへの負担がきっかけで、すれ違いそうになったことがあった。
その時に、カウンセリングに訪れたのである。2人別々に、隠れて。
旦那さんであるグリムロックさんは、デスゲームという環境下に置かれたことが不安でたまらず、怯えてすくんでしまっていた。
それ自体は仕方ないだろう……いきなり、生きるか死ぬかの世界に、しかも、剣一本で戦わなければならない世界に放り出されたんだから。
けど、グリセルダさん……奥さんの方は、そんな中でも希望を見失わず、『黄金林檎』のギルドリーダーとして仲間をまとめ上げ、準前線級とはいえ、攻略に邁進していた。
グリムロックさん曰く、『充実して』『生き生きとしていた』だそうだ。現実世界よりも。
現実世界において、優しく気立てがよくて、何一つ不満のない妻だったという。しかし、この世界に来てから見て来た彼女の姿は、現実世界で、誰よりも彼女のことをよく知っていたはずの自分が、見たこともなければ、想像したこともないような……別人のようなそれだった。
グリムロックさんは、妻が不安がらず、元気でいることを当初は喜んだが……徐々に、不安が勝るようになっていった。彼女が自分の知る妻ではなくなってしまったのではないか、変わってしまったのではないか……グリムロックさんはそんな風に思って、怖くなったとか。
現実に戻っても、自分の妻でいてくれるのか、自分を愛してくれるのか……もしかしたら、自分から離れていってしまうのではないか。そんな風に考えるようになった。
明らかに、ストレスや不安感が、マイナスな思考回路を後押ししていた。
一方のグリセルダさんはというと、確かに日々の攻略ライフは充実しているものの……彼女は彼女で、ふさぎ込みがちになっているグリムロックさんのことを心配していた。
グリムロックさんは、リアルにいた時から温厚で穏やかな性格だったがゆえに、このデスゲームという環境に常に強いストレスを感じてしまい、怯えているということにも、当然気づいていた。それを、自分に弱みを見せまいと無理をして一緒に歩んでくれているということにも。
戦闘にはほとんど出られなくても、鍛冶師としてギルドを裏から一生懸命支えてくれていることを嬉しく思い……同時に、そんな夫の力になれない自分自身に無力感を覚えていた。何とかして、愛する夫の力に、支えになってあげたいと思っていた。
しかし、ギルド『黄金林檎』の運営や、攻略についても考えないわけには行かない。
グリムロックさんの言う通り、グリセルダさん自身が、攻略というものにやりがいを感じているからこそ、楽しいことにうつつを抜かして、弱っている夫のことを後回しにしてしまっているように……余計にそう感じて、精神的な板挟みに似た自己嫌悪に陥っているようにも見えた。
夫婦なら、苦しんでいる夫のことを一番に考えてあげるべきではないのか。自分が強くあれるのは、心の支えになってくれる夫がいるということが、何より大きな理由なのに。
……こんなことでは、愛想を付かされてしまうのではないか。そんな葛藤。
……なんのことはない。ただ、夫婦間ですれ違いが起こっているだけだ。
それも、単に意見を正面からぶつけていなかったがためのもので、本質のところではお互いを確かに想い合っているのが、きちんと伝わってきた。
ただ、ちょっと性格というか、考え方の方向性に難がある組み合わせ、っていう印象だった。
グリムロックさんは、どこまでも問題を深刻に考えすぎる傾向にあった。デスゲームのストレスや不安感も手伝って、徐々に的外れかつオーバーな方向に思考が行ってしまいがちになっていた。被害妄想や疑心暗鬼、自暴自棄といった、クラディールさんに似た危険さの片鱗を感じた。
グリセルダさんは、彼女は彼女で色々と悩みを抱えていたし、解決すべき事柄を認識していたのだろうけど……それを表に出さない。周囲に弱みを見せず、全部我慢して、胸の中にしまってしまうため、伝えなきゃいけないことまで伝わらないままになってしまう。
『あなたがいなくても私はもう1人でやっていけるわ』と言われそうで不安な夫。
『私がいなくても君ならもう1人でやっていけるよ』と言われそうで不安な妻。
……この夫婦、性格における相性の悪さが、ここまでくると逆に絶妙だった。
この2人に対しては、ただ互いの心の内側を正直に吐露させてあげるだけで解決するな、と思ったわけだが……単に面と向かって『本音で話し合ってください』じゃ無理だと思ったし、余計にこじれる可能性もあったので……ちょっといたずらを仕掛けた。
まず、再度のカウンセリングを行う、と言って、夫婦別々に呼び出します。
そのカウンセリングの場で、上手いこと誘導して、互いが互いに伝えたい弱音やら本音を、洗いざらい全部ぶちまけてもらいます。他人にでも、口に出して言った方が楽になるから、って。
そのカミングアウトを……音声記録用アイテム『録音クリスタル』にそれぞれ記録します。
あとは、2人をそれぞれ別々の部屋で1人にし、録音を聞かせてあげれば……完了。
なお、黙って録音内容を相手に聞かせた件は、ちゃんと後で謝りました。
その結果、改めて腹を割って話し合ったグリムロック・グリセルダ夫妻は、仲のいい夫婦に戻ることができましたとさ。
むしろ、お互いに自分が知らない、パートナーの新たな一面を見ることができて嬉しかった、っていう具合に、いい感じに納得してまとまってくれたようだ。
今まで以上に仲のいい夫婦になったということで、本人達はもちろん、その仲間であるギルド『黄金林檎』のメンバーの皆さんからもお礼を言われた。
なお現在、2人はこれまで通り、グリセルダさんがリーダーとして攻略活動をリードし、グリムロックさんは後方支援としてそれを支える……という感じの日々を送っているらしいが、最近2人は、以前よりさらに各々の生活スタイルを力の入ったものにしているらしい。
グリセルダさんはそのリーダーシップをいかんなく発揮し、『黄金林檎』を人数面・戦力面共に大きく成長させていっている。中堅ギルドの中でも、頭一つ抜け出ている規模にまで成長しつつあるそうで、ゆくゆくは攻略組の最前線入りも期待されているそうだ。
それに伴って彼女の戦闘能力はもちろん、ギルド運営におけるかじ取りや、戦闘における指揮官としての能力も鍛え上げられており、特にフィールドボス討伐の際の彼女の前線指揮は、最前線のギルドのリーダー達すらも一目置くレベルであると評判になっている。
キリト君も一度見たことがあるらしいが、あれほどの指揮官はそうそういない、と太鼓判を押していた。
一方グリムロックさんは、開き直った……と言うと言い方が悪く聞こえるかもだが、それまであった劣等感みたいなものはスパッと捨てて、前線はグリセルダさんを信頼して全て任せ、後方支援に全力を出して打ち込む姿勢に完全にシフトした。
むしろそっちで遺憾なくその能力を発揮し、グリセルダさん達が全力で攻略に打ち込めるように、全力でバックアップできる体制を作り上げた。鍛冶師としてのみならず、なんか現在は、ギルドのバックヤードの仕事全部の元締めみたいなことを務めているらしい。
軍隊風の用語でいえば、兵站部門の責任者、ってとこだろうか? 物資、財務、情報整理、他のギルドとの様々な外交・やり取りに至るまで、見事に仕切っているそうだ。
前線と後方でそれぞれギルドを支え、夫婦でギルドのツートップを張っているとして、今ではアインクラッド全体で有名な存在になっている。
もちろん夫婦ゆえの仲睦まじさも健在、いや前より顕著になったらしい。もう、すれ違いの心配はなさそうで結構である。
そして、付き合いがある最後の1人……6人目は、他ならぬアルゴさんだ。
もっとも、あの人はただ単に色々と情報をやり取りする相手ってだけで、プレイヤーとしての僕との付き合いはそれほどないが。
向こうも僕に何かしら話を持ってくるときは、『ドクター』としての僕に向けてのものだし。
……そういや、『繁忙期』とか、ほかのプレイヤーのメンタル的にやばい事件があった時の情報は、いつも彼女から持ち込まれてるな。その対策案も含めて。そこは純粋に助けられてる。
以上、今言った6人が主に僕が最近関わる機会の多い面子だな。
中でも、サチさんは従業員としてほぼ毎日顔を合わせてるし……クラディールさん、グリムロックさん、グリセルダさんは、狩りとかレベル上げに行く際に一緒に行くことも多い。グリムロックさんは、その時は毎回じゃないけど、素材その他の採取の際はいつも一緒になるな。
あと、大人4人で飲みに行くこともたまにある。
サチさんやキリト君、アルゴさんといった、20歳以下の面々はちょっとご遠慮いただいて。酒席になるもんでね。
たまにはそういう、所謂『飲みュニケーション』も、精神面での安定のためには必要ってことで。
リアルじゃ酒なんてろくに飲めなかったからな。
遅くまで論文書いてて研究室に缶詰めになって、疲れて倒れるように眠ったりの日々だったし……いつ急患や緊急のオペで呼び出されるかわからないっていうのもあったから。
その反動かどうかはわからないけど、毎回ちょっと飲みすぎちゃうんだよな。
もっとも、この世界の酒は、アルコールとしての成分はなくて、味と、そういう感じの『雰囲気』で酔っぱらう感じだから、健康に気を使わなくていいのは楽だけど。
デスゲームという殺伐とした現状を、笑って乗り切るためには、こういう息抜きの場や、気の置けない仲間たちっていうものを大事にしなきゃいけないんだな、と、そういう席では改めて思――
☆☆☆
「すいませーん、ナツメ先生ー! カウンセリングのお客様が見えられましたー!」
「あー、はいサチさん、了解、すぐ向かいます。ご予約の方でしたか?」
「いえ、飛び込みだそうで……えっと名前が……ユナさんと、ノーチラスさん、ですね。今から大丈夫ですか?」
「問題ありませんよ。じゃあ、準備してすぐ向かいますから、診察室にご案内してください」
「かしこまりました。それでは、お2人ともこちらへどうぞ?」
そうしてサチが、訪ねて来た患者を部屋に通し……今日もまたナツメは、悲劇のフラグを事前にへし折るための『カウンセリング』に赴いていく。