ソードアート・オンライン 青纏の剣医   作:破戒僧

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番外編4 イベント協力要請『魔王キリト』

 

 

 「『魔王』のやり方?」

 

 場所は、毎度おなじみキリト君達のログハウス。

 

 そこに集められた僕たちは……いつになく真剣そうな、しかし、気のせいかどことなく浮ついてそうな感じに見えるキリト君から、1つの相談事を持ちかけられていた。

 

 曰く……『魔王』と聞いてどういうものが思い浮かぶか、そのイメージを聞きたいと。

 

「えっと……いきなりどうしたのキリト?」

 

「あー、ごめん。いきなりコレじゃわけわかんないよな。順を追って説明するよ」

 

 リビングのソファに座って、あるいはその周りに立って、集まっている面々が視線をキリト君に集中させる中、おっほん、と咳払いを一つして、キリト君は話し始めた。

 

「実は昨日、ALOのGMから、システムのメッセージで相談を持ち掛けられてさ……」

 

 

 

 詳しく聞いてみると……どうやらキリト君は、GM側から、イベントのスタッフとして、それも、メインキャストである『魔王』の枠で参加してほしい、という打診があったんだそうだ。

 

 そのイベント自体についてはあまり詳しくは聞けなかったようだけど、どうやらオーソドックスな感じで、色んな小さいイベントをこなして敵を倒したり、アイテムを集めたりといったことを繰り返して、最後に、ALO全体の何か所かに、何体か用意されている『魔王』を倒すことでクリアになる、というもののようだ。

 

 それだけなら、敵性Mob用AIでも何でも使えば済むし、プレイヤーに協力を持ちかけるなんてことはないんだろうけど……何かイベントの仕組み的、あるいは趣旨的な都合だろうな。それで、キリト君が協力者として声をかけられたと。

 

 この申し出を受けた場合、キリト君は『魔王』として、イベントの最後に、挑戦者であるプレイヤー達の前に立ちはだかる立場になるようだ。

 なるほど、それで僕らに『魔王ってどういうものだろう?』って持ちかけてきたわけだ。

 

 ……まあ、あらためてそういう立場で演技することを考えると、結構緊張するだろうし、自分の変な思い込みで不自然だったり、ギクシャクした演技を見せてしまうことにもなりかねない。そういう可能性をなくしておくために、キリト君は僕らに頼み込んだってわけだ。

 

「とまあ、そういうわけなんだよ。悪いんだけど皆、協力してくれないか?」

 

「なるほどね……うん、いいんじゃない? 面白そうだし」

 

 と、アスナさんが皆の意見を代表して言う。

 困ってる人は、見たところひとりもいないし、みんな快く応じて頷いている。

 

 仲間の頼みだし……それに、その申し出自体面白そうだと思えたからかもね。

 

「キリトってば忙しいわねぇ。SAOを終わらせた英雄になったかと思ったら、今度は魔王になろうっての? ちょっと欲張りすぎじゃない?」

 

「お兄ちゃんが魔王か……あはははは、ゲームバランス考えないと、無理ゲーになっちゃいそー」

 

「実際、ちょっと見てみたくはあるわね。魔王ロールのキリトか……」

 

 リズベットさん、リーファちゃん、シノンさんと、各々好きなように想像を膨らませているようだ。他のみんなも似たような感じだな。

 

「ははは……ありがとう。誉め言葉だと受け取っておくよ。じゃあ早速だけど……皆、『魔王』って聞いて、何を思い浮かべる?」

 

 ふむ……魔王、ね。

 

 

 ☆☆☆

 

 

Side.キリト

 

 俺の問いかけに、しばし皆は考え込むようにする。

 真剣に考えてくれているのが傍目からでもわかったから、

 

 最初にその沈黙を破ったのは、意外にもアスナだった。

 

「イベントのラスボスとして出てくるくらいだし、やっぱり強いんだろうけど、そのへんは普通にそうなるわよね……後はほら、最後の最後とか、その直前まで正体不明だったりするんじゃない?」

 

 ああ、確かに……うん。ゲームにもよるけど、そういう設定の奴って多いな。

 

 最初から『魔王○○○を倒せ!』って目的が定まってるようなゲームもあれば、その魔王とか、ラスボスの正体を探りながら冒険していく、謎解き的な要素があったりもするもんな。

 

 そもそもGMだって、プレイヤーがイベントにスタッフとして参加するとなれば、その素性はギリギリまで隠しておくだろうし、その可能性はむしろ高いか。

 

「後は、魔王って言いつつ、そんな風に見えなかったりするパターンも多いんじゃね? 丁寧な口調だったり、正々堂々としてたりよぉ」

 

「あからさまに化け物的な見た目じゃなく、普通の人間っぽい見た目だったり、ってのもあるな」

 

 と、こちらはクラインとエギル。なるほど、そういうのもあるな、確かに。

 でもまあ、そのあたりはゲームやイベントの趣旨とか、キャラクターにも左右されるかもな。

 

「序盤は味方として仲間になっておいて、実は敵だった……なんてパターンもありますよね。土壇場で正体現したりして。なんなら、プレイヤーやNPCの尊敬を集めるキャラだったりとか」

 

「主人公と因縁っていうか、共通点みたいなのがあったりもしない? ほら、主人公と同じ武器を使ってたり、光と闇で一対の剣を持ってたり、似たようなスキルを持ってたりさ」

 

 うん、そうだなナツメにストレア。そういうのも盛り上がるよな。

 

 でもさ、気のせいだろうか。

 なんかさっきから、アスナに始まって、皆が言ってくれる『魔王』のイメージ、どっかで聞き覚えがあるっていうか、既視感あるんだけど。

 つか、そういう奴と前に戦ったことあるような気がすんだけど。

 

 その時までずっと正体不明で、見た目普通の人間で、丁寧な口調と態度で、終盤までは普通に心強い味方で尊敬も集めてて、同じように剣を使って、似たような強いスキル持ってて……

 

「あと、実はゲームのGMがラスボスだった、なんていうパターンもありますよね!」

 

「うん、ごめん皆、一生懸命考えてくれるのは嬉しいんだけど、一旦ちょっとヒースクリフから離れて考えないか?」

 

 あいつだろ、明らかに、今のイメージ全部。

 

 確かにそりゃ、俺達SAO勢にとって『魔王』って言ったらあいつだけどさ。真っ先に思い浮かぶけどさ。アレって相当特殊なケースだと思うんだよ。

 応用なかなか効かないと……いや、要素要素に分解すればいけなくはないけどさ。

 

 一旦流れを意図的に断ち切ったところで……次に発言したのは、リズである。

 

「さっきアスナも言ってたけど、魔王なんだから超強いわよね。それこそホラ、レイドで挑戦するのが前提になるパターンも多いわけだし、専用の武器とかスキルとか持ってたりすると思う」

 

「あー、それは確かに。キリト君にその手のチート級スキルか……手が付けられない魔王になりそうね」

 

 なるほどな……魔王とかボス系キャラには、普通にはないスキルがつきものと言えばそうだ。

 

 俺がSAOで使っていた『二刀流』も強い部類のスキルだったけど、あれよりももっと強い、というか特殊すぎてもうプレイヤーに使わせることができないようなのも、『魔王』を務めるとなれば、一時的にでも持たせてもらえる可能性があるわけか。

 

 ふむ……それはそれで楽しみかもな。使いこなすのに練習する時間とかは欲しいけど。

 

「キリトさんといえば二刀流ですよね。それがパワーアップするとなると……三刀流?」

 

「ここは思い切って四本とかどう? 四刀流」

 

 いや、シリカにシノン、腕増やされるのは流石に……操作感滅茶苦茶になると思うぞ、それ。

 練習期間、1週間や2週間じゃ足りないだろ、使いこなそうと思ったら。かえって弱くなる気がする。

 

 ……その分、独特なスキルとか使えそうな気はするけどさ。

 

「あと、魔王だし、すごく打たれ強かったりするよね、多分。ほら、RPGとかでも、HPがすごく多いだけでなく、状態異常系の魔法とか無効化したりするし、即死攻撃とかも効かないし」

 

「属性攻撃とかダメージカットしてきたり、特定の弱点にしか攻撃が通らなかったり……そもそも、生半可な攻撃じゃ怯みもせずに突っ込んできたりしますよね」

 

 なるほど、防御性能とか耐性面でそういう優れてる部分があるケースも多いよな。ナイス、サチにヨルコさん。

 

「範囲攻撃とか持ってそうじゃない? 射程距離がえぐいぐらい長くて、回避するのほぼ不可能な、対策積んで耐えるしかないような攻撃とか使ってきそう」

 

「倒したと思ったら第二形態になって復活したりとか。その後『私はあとさらに2段階の変身を残している』とか言うのよ、きっと」

 

「倒したと思ったら巨大化するパターンもありじゃない? あ、でもそうなるとこっちはロボ用意しなきゃいけないかも……いや、普通にレイドボスのパターンでいいのか」

 

「何連戦もするのが前提ってこと? ゲームバランスの調整大変そうね」

 

 そんな感じで、徐々に皆調子が乗ってきて、色々なアイデアが出始める。

 ……実用性のあるものが全部ではないとはいえ、こうして色んなアイデアを出してくれるのは嬉しい。こういうのは数を出すことが重要だしな。どんな些細なアイデアから、画期的な『魔王』像が生まれるかわからないし。

 

 そんな感じで、『どう見ても交通の便とか不便そうな立地の城に住んでいる』とか『倒したと思ったら大魔王が出てくる』とかの意見が出て来たあたりで、ふと、今まであまりしゃべらず、静かに考えていた1人であるエリカさんが、思いついたように言った。

 

「……『魔王』の強さや能力、それに関係する設定はこのあたりでいいんじゃないかしら? それよりも、キリト君は魔王としての『ロールプレイ』に関わる参考とかアドバイスが欲しいのよね? だったら、そっちに絞って考えて見てもいいと思うんだけど」

 

「ああ、それは確かにな。ゲームシステムやイベントそのものに絡むことは、最終的にはGMの領域なわけだし……それなら、キリト君が『魔王』を演じるにあたって、どういう風に話すか。どういうロールを形作って意識するべきか、というのも重要だろう」

 

 と、デュークも続ける。

 なるほど……言われてみればそうだ。

 

 単純な戦力としてだけじゃなく、柔軟な対応が可能なプレイヤーとしてロールプレイを依頼されてるんだから、そのあたりきちんと意識ないとダメだよな。

 

 けどそうなると、『魔王』ってどんな感じになるのか、その人格とかやり取りの方向でのイメージが必要になるな……さっきまでとは、また違ったジャンルだ。

 

「ふむ……魔王の設定、性格、ないしは常套句、みたいなものか。……やはり『仲間になれば世界の半分をやろう』的なところが無難だろうか?」

 

 と、歴史というか年季を感じさせることをクラディールが言えば、

 

「魔王は魔王でつらい過去を背負ってたりとかいうパターンも多いな。かつて人間に裏切られたとか、争いを続ける人類や世界そのものに絶望しているとか」

 

「人間の……お姫様とかと禁断の愛、なんて過去もパターンと言えばそうね。その愛する人を戦いの中で失ったことで、修羅の道を歩む決意をした、とか」

 

 そういう悲しい歴史的なものの例として、グリムロック・グリセルダさん夫妻が案を述べる。

 

「世界がこれ以上醜くなる前に、今の美しい世界のまま全てを終わらせて、チリ一つ残らない美しい終末を……」

 

「歪んでしまった世界や、起こってしまった悲劇をなかったことにするために、新世界を想像して全てを救うために一度世界を滅ぼす必要がある、とかかしら? 実は地球外生命体で、世界そのものを滅ぼしたり取り込んだりする目的がある、とかもありそうね」

 

「愛する者をよみがえらせるために、多くの命を、下手をすれば世界そのものを犠牲にしてしまうような危険な儀式を行おうとしている、とか……いや、いつの間にかバックグラウンド想像合戦になっているな、失礼」

 

 と、タイミングよく集まれたジエンド、パンドラさん、それにワイズマンも案を出してくれるが……何故だろう。妙にこの3人がこういう話をすると、冗談とか仮定の話に聞こえなくて、ちょっと怖いと思えてしまうのは。

 

「後は……親衛隊とか、四天王とかいそうじゃない? 順序良く登場して、順番に倒されていく感じ」

 

「ああ、確かに……必ず1人ずつ出てきてくれたり、倒した時に『ふふふ、奴は四天王の中では最弱……』とか言ったりするアレか」

 

 と、今度はユナとノーチラス。

 ああ、なるほど……魔王本人だけでなく、その周囲も、ストーリー形作る上でキーになることも多いわけか。

 

 思い返してみれば、今まで何人か、禁断の愛とか裏切られたとかいうアイデア出してくれたけど、それだって周囲との関係性っていう設定がなければ形作られないものだしな。

 

 すると『あっ!』と思いついたような仕草をして、アスナが、

 

「魔王との意外な関係とか目的とか言えばアレでしょ! ほら、主人公がさ……」

 

 

『お前は、僕の父を殺した! 父の仇だ!』

 

『違う! お前の父は……私だ!』

 

『嘘だあああぁあ――――!!』

 

 

 あーうん、わかる。すっげーわかる。

 王道っていうか、有名な展開だよな、そういうの。

 

 まさかの展開としてもそうだし……最近のRPGって、主人公が主人公で闇を背負ってるパターンも多いもんな。半分人間じゃないせいで、周囲から迫害されて育ったとか。

 

 そしてそんな中……できれば最後まで黙っていて欲しかったというか、何も言わず終わってくれても構わなかったトラブルメーカーがとうとう口を開いた。

 

「んー、やっぱそういう感じで、魔王の人間関係とか肉親をネタにするなら、まず魔王の周りの女性関係とかに目を向けるべきだと思うんだよナ、オレっちは」

 

「? アルゴさん、それどういうことですか」

 

 ただ単に疑問に思っただけであろう、シリカの純粋な瞳での問いかけに、アルゴは毎度おなじみ危険な光を宿した目で、にしし、と笑って、

 

「魔王ってサ、そういう方面も悪逆非道っていうか、ド派手なイメージあると思うんだよナ。支配してる国から生贄とか貢物としてお姫様攫ったり、戦いを挑んできた女騎士を捕らえて『くっ、殺せ!』って言わせてからの……」

 

「ストップだアルゴ、それ以上は年齢制限がかかる」

 

 この場には小さい子もいるんだ。まだ中学生のシリカとか、実は4歳くらいにしかなってないユイやストレアとか。教育上よろしくないことは言うな。

 

「チェー、硬いナァ、キー坊。魔王だってやることやらないと、さっきアーちゃんが言ってたみたいに勇者の子供つくることだってできな……」

 

 やめろって言ってんのに! ほら、青少年の風紀を気にするクラディール先生の目がだんだん厳しくなってきてんだろ!

 

「はいはい。まあそれがアウトでも……魔王とか偉い悪い奴って、玉座に座って美女を侍らせてたりするだロ? そういうのはどうだ?」

 

「美女侍らせ、って……」

 

「実際にやってみるのが早いか。おーい、ちょっと手伝ってくレ」

 

 言うが早いか、アルゴは俺の両隣に座っているアスナとユイを一旦立たせて両側を開けて、俺がソファに一人で座ってる形にする。

 さらにこのソファを玉座に見立てて、背もたれに体を預けてゆったり座らせたかと思うと、その状態で……

 

 まず、右隣にリズを座らせて、俺の肩に腕を添えてしなだれかかるようにさせた。

 

 次に、反対側にサチを座らせ、これもしなだれかかるように。加えて、俺が手を腰に回して抱き寄せているような姿勢にさせた。

 

 さらに、ソファの後ろにストレアを回し、後ろから俺の首のあたりに腕を回して抱き着いている形にする。

 

 トドメにアルゴ自身は俺の足元に……ソファの下の床に座って、俺のちょうど膝とかももの上のあたりに頭を乗せてしなだれかかり、そして俺の空いてる方の手を頭に乗せて、なでて愛でているような形に……

 

 はい、この状態で皆そろって正面にカメラ目線。

 

「完成。権力で女を侍らせている外道の図」

 

「人聞きの悪いことを言うな! おいちょっと待てナツメお前何SS撮ってんだよやめろマジで! お前そんなことするキャラじゃないだろ!」

 

「いやあ、留守中に面白そうなことがあったらSSに撮って残しておいてくれ、ってユウキちゃんに頼まれてまして」

 

 何を頼んでんだユウキは! そして律儀に実行しないでくれよナツメも!

 

 ユウキ……なんか検査とかあってちょっと今日はログインできなさそうだって言ってたから、アルゴと並ぶトラブルメーカー(しかも無自覚)がいないってことで、こういう話する場でも好都合だからちょっと安心してたのに、こんな手を打ってくるとは!

 

 とりあえず、ナツメに『それ後で送ってくレ』って交渉持ちかけてるアルゴはシメるとして……

 

「そんなに過敏にならなくても。確かにちょっと見た目的にアレな感じですけど、これ、性格の悪さとかあざとさが強調されてるだけで、大体いつものキリト君の状況じゃないですか」

 

「んー、ああ、そう言われてみればそうだナ。オレっちとしたことが、創意工夫が足りないか」

 

 おい、いい加減に泣くぞ。

 

 ……あと、何でか周りにいる何人かもうなずいたり『ああー』とか言ってるけど、誰か否定してくれ。本気で涙出てきそうだ。

 この世界では悲しみを隠せないんだよ。不便だよな。

 

 

 

 

 その後も、まあ色々とアイデアは出してくれたものの……結局話は纏まらないまま終わってしまい、後日それについても含めて、GMの代表の人に話をしたんだが……どうにかGMの方で、調整とかその辺はやってくれることになったので、ほっと一安心した。

 

 

 

 

 しかしその後聞かされた、イベント実装前のリハーサルとかβテストとして、また別なプレイヤーを相手に、用意したシステムとかストーリーを仮に実装して実際にやってみるって聞かされて、

 

 しかもそれの相手が、偶然その話し合いの時に居なかったユウキ達『スリーピング・ナイツ』の面々だ、って聞かされて……また驚かされることになったんだが。

 

 

 




番外編なのに続きます。次はユウキ達主役……の予定。

来週か再来週あたりには書きたいな、書けたらいいな、と思ってます。

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