ソードアート・オンライン 青纏の剣医   作:破戒僧

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平成最後の更新になります。多分。
皆様、この拙作『青纏の剣医』をご愛読どうもありがとうございました。
引き続き、令和の時代もまたよろしくお願いいたします。

そして、そんな平成最後に、なんか今までとはちょっと違った感じでの書き方に挑戦してみたり……
文章量も、気づいたら今までで一番長くなりました……お目汚しでないといいのですが。

前回の『魔王キリト』の続き(?)という位置づけです。どうぞ。


番外編5 『絶剣』ユウキは勇者である

 

 前回までのあらすじ!

 

 魔王・キリトによって支配された世界。野には魔物がはびこり、人々を苦しめていた。

 

 そんな世界を救うべく、勇者・ユウキは仲間たちと共に、魔王を倒すための旅に出た!

 

 はじまりの町から始まった彼女の冒険は、山あり谷あり、空の上あり地底の底あり、笑いあり涙ありその他諸々色々大変な旅路だった。

 伝説の剣を見つけたり、仲間との哀しい別れがあったりとかとにかく色々あったってことにしてハイ現在に至ります。

 

 山を越え、谷を越え、あと火山とか氷山とか諸々超えたその先に、ついに勇者・ユウキは、魔王・キリトが待つ魔王城にたどり着いたのでした! さあ、今まさにこの世界の明日を決める、最後にして最大の戦いが始まろうとしていた!

 

「……おい、誰だよこの台本、ってかナレーション考えたの? なんか適当じゃないか?」

 

「そんなこと言ったって、長々とやってもいない大冒険とか設定語っても仕方ないじゃん。このくらいでちょうどいいんだって。あと考えたのはアルゴさん」

 

「あいつか……大丈夫なんだろうな、不安だぞ色々と。おいユナ? 何か変なこと書いてあったら別に無理して読まなくてもいいからな? 適宜飛ばすなりアドリブ入れるなりしてくれよ?」

 

 はいはい、わかってるよー。もう物語始まってるから、キリトもリーファちゃんも静かにしててね? ナレーション途中で途切れちゃったら雰囲気壊れるからさ。

 

 と、いうわけで改めましてこんにちは! 今回、ALO運営の意向で試験的にやってみることになりました『魔王キリト』攻略イベント……の、βテスト!

 

 イベントの名前の通り、待ち受けるラスボスは我らが『黒の剣士』ことキリト! 今回は悪役でどんな活躍を見せてくれるのか! っていうかキリトが魔王やるって、あらためてなんか逆に配役ミスっていうか、勝てるイベントに仕上がる気しないんだけど大丈夫かな……。

 

 しかし心配ご無用! 魔王もヤバいけど、今回は勇者は勇者でヤバいのが来てます!

 

 正義の勇者役でこのイベントに挑むのは、ALOにその名を知らぬものなしの『絶剣』ユウキ! なるほどこの子なら、仮にガチでやってもキリトに勝っちゃってもおかしくないくらいの逸材です!

 『楽しそうだから』の一言で、二つ返事でイベント参加を受諾したそうです。まあ、いつも通りってことだね。

 

 そしてナレーションは私、ユナが担当してお送りします! 皆、張り切ってがんばろー!

 

「「「お―――っ!!」」」

 

「……不安だ……」

 

 はいはいキリト空気読も、ね?

 

 

 ☆☆☆

 

 

改めて

Side.ユナ(ナレーション)

 

「よーっし、じゃ、行こっか皆! ユナさん、今日はよろしくねー!」

 

 はいはい、よろしくねー、ユウキちゃん。あと、『スリーピング・ナイツ』の皆さんも。いいβテストにしようねー、楽しくやろう、うん。

 

 でもあんまり私に狙って話しかけるのとかはやめようね? 私今あくまでナレーションだから。天の声的なアレだからね、今回。

 

 おっほん、じゃ、あらためて。

 

 

 

 勇者・ユウキは山あり谷ありの大冒険を乗り越えて、ようやくここ、魔王城にたどり着いた。

 

 ここにたどり着く直前、魔王からの刺客の襲撃で、今までユウキ達を導き、時には助け、そしていつも見守ってくれていた仲間の1人だった、賢者・アルゴを喪うという悲劇に見舞われながらも、その悲しみを乗り越えてユウキは立ち上がった!

 きっとアルゴも天国で彼女の勝利を願ってくれていることでしょう。

 

「え、ちょっと待って!? 何、アルゴ死んだの!? つか、賢者って何アイツちゃっかりそんな有能そうなおいしい設定つけて……」

 

「こらキリト君、ナレーションに突っ込んじゃダメだってば!」

 

 ……おっほん、何か雑音が聞こえたけど気のせいです。

 

 亡きアルゴのためにも、勇者・ユウキはいざ、仲間たちと共に魔王城に挑むのだった!

 

「よっし、行くよ皆!」

 

「「「おう!」」」

 

 ――ピンポーン!

 

「ごめんくださーい!」

 

「いや、何で魔王城の入り口にインターホンついてんだよ。つか押すなよ馬鹿正直に」

 

「はーい、今出まーす」

 

「出んのかよ」

 

 はいキリト突っ込まないいちいち。

 

 しかし本当に変ですね、なぜか魔王城の入り口にはインターホンがありました。そしてそれを押したら、ご丁寧に返事まで帰ってくるとは……一体どうなっているのか。

 

「あ、これ一応ストーリーというかネタの一部ではあるのな」

 

 ギィィィ……と重厚な音を立てて、城の入り口が開きます。

 中から出て来たのは……

 

「はーっはっはっはっは! よくここまで来たな勇者ユウキとその仲間たちよ! だが、この魔王軍四天王の1人、炎のクラインが現れたからには、お前達の命はもはやここまでだ!」

 

 現れたのは、燃える炎のように真っ赤な鎧兜に身を包んだ野武士面の剣士!

 魔王軍最強の4人『四天王』の1人、炎のクラインその人だった!

 

「って、おい! ユナちゃん! そこで何で野武士面とか言うの!? いらねーだろその補足!? 今俺の見せ場っていうか、かっこよく登場したところだったのに!?」

 

 えー、そんなこと言ったって台本にそう書いてあるし。

 

「アルゴの奴……まあ、クラインと言えば野武士面、野武士面といえばクラインっていうくらいだから、取り入れたくなるのもわからなくはないけどよ」

 

「キリの字ィ!? お前まで! てめーら、そんなに俺をいじめて楽しいか! そんなに俺の野武士面かおかしいかぁ! 俺だってこんなっ、こんな、好きでこんなツラになったんじゃ……キリの字が言い始めたおかげで、SAOからずっとお前……!」

 

 あーごめん、ちょっとからかいすぎたかも。クラインさん泣きそう。

 

 えーと、気を取り直して『炎のクライン』が現れた! 勇者ユウキとその仲間たちは、まず魔王城の入り口で最初のバトルに挑みます!

 

「よっしゃあかかってきやがれ勇者共! この俺様が叩き切ってやるぜ!」

 

「ねー、何か八つ当たり入ってない? 若干涙目だしさあ」

 

「触れねーでやれよ、ユウキ……色々あるんだよクラインもきっと」

 

「おめーらのせいだろうがァ―――!!」

 

 

 

 

 

 激闘の末に四天王の1人、炎のクラインを倒した勇者・ユウキ。

 最後の方、目に涙をたたえて刀を振るっていた炎のクライン……彼にもきっと魔王軍の1人として譲れない者があって、それを抱えて戦っていたのでしょう。

 

「いや、もっと単純かつ直接的な精神的ダメージによるものだと思うんだが」

 

 はいキリト黙る。

 

 仲間たちと共に、魔王城の中を、うじゃうじゃ出てくる魔物たちを倒しながら進んでいく。

 

 そして次なる敵は、城の奥へと続く階段の前でその姿を現した!

 

 丸太のように太い腕で、巨大な斧を軽々振り回し、凶悪な面構えで見る者を恐れおののかせる巨漢! 魔王軍四天王の1人『岩のエギル』!…………

 

 

 …………は、ゴメン、なんか今日急用ができたとかで欠席だって。

 

 

「「「え―――っ!?」」」

 

 んー、何かお店っていうか仕事の関係でちょっと外せない用事が入っちゃったみたいだね。

 まあ、リアルをおろそかにするわけにはいかないから仕方ないか。ここはわかってあげようよ、皆。

 

「うー、それはわかるけど……」

 

「じゃあ、ここでやるはずだった第二のイベント戦はお休みで、素通りなんですか?」

 

 あ、それは大丈夫。ピンチヒッターで代役頼んであるから。

 じゃ、お願いしまーす。

 

「代役って誰……ん?」

 

 その時、階段の上から何者かが飛び降りてきて、ユウキ達の前に降り立った。

 

 ここは通さないとばかりに立ちはだかったその男は……

 

 甲冑を思わせるような重装甲に身を包み、

 全てを断ち切る大きく重い両手剣を持ち、

 全てを焼きつくす紅蓮の炎を身にまとい、

 そして顔には……盤若の面をつけている!

 

 

 

「首、置いてけぇ―――っ!!」

 

 

 

「「「出たああぁぁああ―――!!?」」」

 

 と、いうわけでピンチヒッター……もとい、魔王軍四天王の1人『炎のクラディール』先生です!

 さあ、なんかもう戦う前から一部メンバーが戦意喪失しそうなくらいビビってますが大丈夫でしょうか!? ちなみに勇者であるユウキちゃんはむしろやる気満々のようですが。

 

「いや何でよりによってこいつ選んだんだよ!? もうちょっと他に候補いなかったのか!?」

 

 だって相談したら出てくれるっていうから。

 

「にしたってお前……しかもよりによって『あの時』を思い出すような装備つけさせて……」

 

 そこはホラ、クラディール先生で悪役って言ったらアレしかないと思ったし。

 第3回BoB、すごい反響だったんでしょ? VRゲーマーなら5人に1人は、買うかレンタルするかして見たことあるくらいの、ゲームの枠を超えた超ベストバウトだって評判だよ?

 

「その中の何割かがクラディールの怪演でトラウマ級に怖い思いしたってことは知らなかったか? つか、クラディールもなんで毎度毎度ノリノリなんだよコレ……」

 

 いーじゃん細かいことはさ、ぶっちゃけモンスターよりモンスターらしいんだからちょうどいいって。あとアレなら新たに細かいキャラ設定とかする必要ないから楽でいいんだって。ただ怖さを追求しつつ暴れるだけでいいから。

 

「それもどうなんだよ……あともう1つ細かいこと言うけど、『炎』ってクラインと被ってるぞ?」

 

 そこはホラ、仕方ないじゃん。クラディール先生もサラマンダーだから。

 

 

 

 

 

 どうにか四天王の2人目、『炎のクラディール』を倒したユウキ達!

 

 そのあまりに凶悪かつ凶暴な暴れっぷりに、一時期シウネーさんがちょっとの物音でびくっと震えて周囲を見回して確認するくらいにトラウマになっちゃいましたが、概ね問題なくイベントは進んでいます!

 

「あるだろ問題。後で謝っとけよマジで。ホントごめんなシウネーさん」

 

 さて、魔王城も半ばまで進んだユウキ達。

 しかしその眼前に、突如としてなんと! 城の最深部で勇者達を待ち受けているはずの魔王・キリトが姿を現したのです!

 

「「「えぇっ!?」」」

 

 …………

 

 ………………

 

 ……………………って、

 

「あ」

 

 ちょっとキリト何でまだここにいるの! 出番だよ何してんの!

 

「あー、ごめん忘れてた。そっか俺か、次」

 

 ツッコミしてる暇あったらちゃんとスタンバっといてよもー! あー、しばらくお待ちください。

 

 

(1分後)

 

 

「ふははははっ! よくぞここまできたな、勇者ユウキとその仲間たちよ、褒めてやろう!」

 

「おっそーい」

 

「遅刻ー」

 

「雰囲気台無しー」

 

「女の敵ー」

 

「うっ、ご、ごめん……てか最後の何だよ」

 

 はい、ちょっとラスボスとしてあるまじき大ポカがありましたけど気を取り直していきましょう。

 

 ユウキ達の目の前に姿を現した魔王・キリト! その恐るべき剣が今、ユウキ達に襲い掛かる!

 

 

 ――キュボッ ドゴォオオォオン!!

 

 

「「「うわああぁぁあああ!?」」」

 

「ちょっ……はああぁぁあ!? え、おい何だコレ!?」

 

 何ということでしょう! そのあまりにも強すぎる魔王・キリトの剣の一撃により、ユウキ達はたったの一撃で全滅させられてしまいました!

 

「おい待てちょっとホントに待って!? 聞いてないんだけどコレ、俺一番驚いてるぞ!? せいぜい強攻撃くらいのつもりで剣振るったら、今まで見たことない感じのエフェクトが出てユウキ達が全員吹っ飛んだんだけど!? 何、俺こんなに強いの!?」

 

 あー、キリトちょっと静かにしてってばもー。

 

 大丈夫、コレミスとかじゃなくて仕様だから。

 コレほら、いわゆる負けバトルだから。絶対に勝てない戦い的なアレ。だからインパクト最重視でとんでもないダメージとかエフェクト出るようになってるの、OK?

 

「いや、俺も台本読んだからそれは知ってるけど、限度あるだろ……」

 

 さて、それはさておきどうなる勇者ユウキ達! 魔王キリトの一撃であえなくHPは全部吹っ飛んでしまいました、コレがSAOなら死んでいましたがALOなので問題ありませんよかったね。

 

 仲間が誰一人立ち上がれずに倒れ伏す中、剣を杖代わりにしてどうにか立ち上がるユウキ。

 

 そのボロボロの体を、上から下まで舐めるように見る魔王キリト!

 

「おいやめろ不名誉なねつ造付け加えるのは! そんな目で見てねーよ!」

 

 はいはいわかったから、次キリトのセリフだよ、どうぞ。

 

「あー、おう。えっと……ふはははっ、最早剣を振るう力も残っていないか、勇者ユウキよ。くくくっ、よく見ればかわいらしい顔をしているではないか、どうだ、このまま私のものにならないか?」

 

 そう言ってユウキの顎をクイ、と持ち上げて舌なめずりをする魔王キリト!

 ユウキ危うし! こんな小さな子になんてことを言うのでしょうこの女の敵は! はたして先程否定していた『そんな目で見てない』というのは本当だったのでしょうか!?

 

「やめろその悪意あるナレーション! 仕方ないだろ台本にこう書いてあったんだから! ていうかさっきのはお前が……いや、台本書いたのはアルゴだったから……あいつまさかこうなるのも計算の上か!? あーもうアイツ毎度毎度!」

 

 仕方ないじゃん、こっちも台本にそう書いてあるんだもん。

 アドリブなんて5割しか入れてないよ。

 

「半分アドリブじゃねーか! あーもう、ユウキ、ナレーションはほっといて、話進めようぜ。次お前のセリフだよな?」

 

「うん、わかった。…………くっ、殺せ!」

 

「ここでそのセリフはっ……ん、んんっ! 強がるのはよせ……勇者といってもまだ子供だな。今仲間になれば世界の半分をやってもいいぞ? 大人しく我が軍門に降れ」

 

「断る! お前の仲間になるくらいなら死んだ方がマシだ! お前は……僕の父の仇だ!」

 

「違う! お前の父は…………私だ!」

 

「噓だああぁぁああ――――っ!」

 

 今明かされる衝撃の事実! 魔王キリト、その正体は勇者ユウキの父親だった!?

 まさか魔王が、ツッコミに夢中で出番に遅刻するような魔王が、まだ14歳の女の子に顎クイするような魔王が、勇者の父親だったなどと誰が予想したでしょう!

 

 というかこの魔王、仮にも自分の娘に向かって『私のものになれ』とか言ってたことになります、大丈夫なんでしょうか頭の中は?

 

「やめろォォオオォッ! 一応俺の見せ場でシリアスなシーンだぞここ!! アルゴ貴様ぁ!」

 

 こうして勇者ユウキは魔王に敗れ、仲間たち共々捕らわれてしまったのでした。

 果たして彼女達の運命やいかに!

 

※なお、このゲームは全年齢対象ですのでご安心ください。

 

「今の注意書き何だよ!? 何を心配してんだよおい!?」

 

 

 ☆☆☆

 

 

 勇者ユウキが目を覚ましたのは、地下牢の中でした。

 装備はそのままのようですが、剣は取り上げられてしまっています。

 

 どうにかしてここから出ないといけない……そう、必死に考えて周囲を調べるユウキ。

 

 するとユウキは、自分が入っている牢屋から見える別な牢屋に、2人のケットシーと、1人のレプラコーン、合計3人の女性が入っていることに気づきました。

 

 その2人の女性は、シノンとシリカ、そしてリズベットと名乗りました。

 

 ユウキは何か情報を持っていないかと、彼女達2人に話を聞いてみることにしました。

 3人はユウキに、自分達の哀しく、つらい過去について話してくれました。

 そして、驚愕の真実が明らかになります。

 

 3人はもともと、その昔、魔王キリトと共に旅をしていた仲間だったのです!

 しかも、魔王キリトは、元々はユウキと同じ『勇者』と呼ばれていた存在だったのです!

 

 

 

 それは、もう何百年も前の話。

 かつて、『魔王キリト』が、まだ『勇者キリト』だった頃の話。

 

 この地を、今とは別な『魔王』が支配し、苦しめていた頃、勇者キリトは5人の仲間――シリカ、リズベット、シノン、リーファ、そしてアスナと共に、魔王を倒すための旅を続けていました。

 そして見事魔王を倒し、世界に平和を取り戻したのです。

 

 しかし、勇者キリトの強すぎる力を恐ろしく思った人々は、キリトを『ビーター』と呼び、彼が倒した魔王か何かであるかのように忌み嫌い、遠ざけるようになります。

 

「? びーたー?」

 

「あー、ユナ、そのネタSAO生還者しかわかんないぞ多分」

 

 あ、そっか。アドリブ失敗。ごめんねユウキちゃん。あ、シノンちゃんもか。

 

「ていうか、一応今真面目な話というか重要な場面なんだからアドリブ入れるなよ……」

 

 ごめんごめん。

 

 そして人々は、せっかく平和になったはずの世界で、今度は人間同士で争うようになったのです。

 魔王も魔物もいなくなった世界を今度は自分のものにしようと、国と国が戦争までもはじめ、醜い争いを繰り広げるようになりました。

 

 その上、戦争で敵の国の軍に味方されたら困るという理由で、強すぎる力をもったキリト達は、各国の軍に狙われるようになりました。

 

 そしてとうとう悲劇が起こります。

 その戦いの中で、キリトのかつての仲間であり、恋人だったアスナが殺されてしまったのです。

 

 そのことで怒り狂ったキリトは、『こんなことなら魔王なんて倒さない方がよかった。世界なんて救うんじゃなかった』と、その世界の全てに絶望してしまいました。

 そして世界に復讐することを誓ったのです。かつて自分が倒した『魔王』となることで……。

 

(割とバックストーリーはしっかりしてるんだな。ありがちな展開ではあるけど)

 

(みたいね。アルゴさんさすが。ていうか、私死んじゃうんだ……なんか聞いてて複雑)

 

 魔王キリトは戦争に参加した全ての国を滅ぼしました。

 そして、かつて倒した魔王がいた城に自分が住み、アスナがかけた聖なる封印を解除しました。こうして再び世界には魔物が溢れ、世界は闇に覆われたのです。

 

 3人の仲間は、キリトの復讐を止めようとしましたが、城の地下に閉じ込められてしまいました。

 

 残る1人の仲間であり、キリトの妹でもあるリーファは、今もキリトと共に歩んでいます。

 

 それが、『魔王キリト』が誕生した真実なのです。

 

 そして、今から14年前のことです。

 魔王キリトは人間に姿を変えて、人間の国を歩いていました。

 自分と戦えるような『勇者』などいない世界では、反逆者は全てリーファや他の四天王が始末してしまうため、暇を持て余していたのです。

 

 そんな日々を過ごしていたがゆえの気まぐれか、はたまた別の理由か……魔王キリトは、そこで出会った少女・サチとの間に子供を作りました。

 そして生まれたその子どもこそが、ほかならぬ後の勇者・ユウk……

 

「ちょっと待ってキリト君!? どういうことそれ!? え、何サチちゃんと、え!? 何この話!?」

 

「き、ききききききキリトさん!? サチさんと、え!?」

 

「ちょっとキリトォ!? どういうことよ、あんたサチといつの間にそんな!?」

 

「しかも何!? 気まぐれってキリトあんたそんな理由でサチと!?」

 

「おおおお兄ちゃん!? ちょっといつの間にそんなやんちゃなことしてたの!?」

 

「ちょっと待て―――! いやお前ら落ち着け! これタダの設定! 設定だから! アルゴが考えた単なる空想の話だから、ゲームの中の! いやそれにしたって俺もびっくりしたけどさ! てかこんな話台本に乗ってねーんだけど!? おい、まさかこれもアドリブかユナ!?」

 

 え!? い、いやいやいや、ちゃんと書いてあるよ私の台本には? さっき読んだまんまの内容で。

 

「あ、あいつ、無駄に手の込んだことを……ユナの台本だけ別に作りやがったのか……」

 

 あ、あははは……こうなるって予想してたのかもね、アルゴさん……さすがだわ……。

 

「感心してる場合じゃないよっ! いや、そう言われればそもそも不思議に思うべきだったんだよね……私が何百年も前に死んでる設定なのに、ユウキがキリト君の娘であるなら、誰が母親なんだろうって……うー、なんかやだよ! 設定だけとはいえ、キリト君が私以外とこういうの……」

 

「あぅ、私もいやです……やっぱりパパはママと一緒がいいのです……」

 

「アスナもユイちゃんもホントキリト大好きよねえ……エイプリルフールの時に、『キリトとアスナが離婚する』っていうドッキリが案として挙がった時に、『嘘でもそんなのやだ!』って言って断固拒絶しただけのことはあるわ」

 

「けど、今更変えられないですよね……この後の演出の準備とかもありますし」

 

「そうね。それに、アスナはこの後結構おいしい見せ場あるじゃない。それで納得しておけば?」

 

「うー、でもぉ……」

 

 まーまー、アスナさん、今回はサチさんに譲るってことで、ね?

 

 そもそもサチさんも、今日都合悪くて欠席なんだし、実質名前貸しただけなんだからさ。

 

「うー…………わかった、我慢する……」

 

「よしよし、偉い偉い」

 

 ……さて、そんな感じで勇者・ユウキは生まれたのでした。

 

 話を終えた後、3人の仲間はそれぞれユウキにアドバイスをします。

 

「もしあなたがどうしても彼と戦うと言うのなら、これを持っていって。おそらく……彼を倒せるのは、この剣だけだから」

 

 リズベットはそう言って、どこからか取り出した1本の剣をユウキに渡しました。

 白く輝くその剣の名は、『ランベントライト』といいました。

 

「その剣は、かつてキリトの恋人……アスナが使っていた剣よ。魔王との戦いで壊れたそれを、直すためにリズが預かっていたの……その前に、アスナは死んでしまったけど」

 

「魔王として覚醒したキリトさんには、普通の方法じゃ傷はつけられません。けど、このランベントライトなら……きっとアスナさんも、今のキリトさんを見たら、止めたいと思うはずだから……力を貸してくれるはず……」

 

 

 

 ユウキは3人にお礼を言って、ランベントライトで牢屋の鉄格子を切り裂いて脱出。

 その後、自分の武器も取り戻し、仲間たちも助け出して再び城の中を進み始めます。

 

 そして、彼女達の前に次なる敵が姿を見せました。

 

 その男は背が高く、つばの広い帽子をかぶり、外套タイプの黒装束に身を包んでいます。黒い丸レンズのメガネをかけたその姿は、香港マフィアか何かのようにも見える、怪しい風貌と言えるでしょう。

 

「おやおや、こんな所まで入ってきてしまうとは。しかし、この『土のグリムロック』が出て来たからには、貴方たちの快進撃もここまでですよ」

 

 魔王軍四天王の1人……『土のグリムロック』。

 その実力もさることながら、様々な策略を用いて敵を追い詰める頭脳派です。

 

 さあ、ただ強いだけではない、一筋縄では行かない相手。勇者ユウキはどう戦うのか……

 

「えっと……グリセルダさんの旦那さんだよね? 珍しいね、こういうイベントに出てくるの」

 

「ん? ああ、確かにそうだね……私は戦闘が得意ではないからね。もっぱらグリセルダ達の後方支援担当で、領地で武器やアイテムを作っているか、戦闘に出ても魔法を使っているかだから」

 

「そっかー。でも大丈夫なの? ボク達……自分で言うのもなんだけど、けっこう強いよ?」

 

「問題ないとも。自分が戦えないのは理解しているからね、だから……」

 

 ……えーっと、なんか普通に話してたけど、気を取り直して。

 

 土のグリムロックが指をパチンと鳴らすと、何もない空間から、巨大な土の人形が何体も姿を現しました。それらは、グリムロックが作った戦闘用のゴーレムたちです。

 そう、グリムロックの戦闘は、このゴーレムの軍団を操って行われるのです!

 

「おほん、では改めて……これらのゴーレムはあなた達の強さに合わせて用意したものです。私の計算によればあなた達の勝率は0%、勝ち目は全くありませんよ?」

 

「あ、なるほど、この後の展開大体わかった」

 

 

(数分後)

 

 

「こ、こんなはずは、こんなことはデータになかったぞ!? わ、私の計算が狂うはずがない、何かの間違いだぎゃああ―――っ!」

 

 概ね予想通りの展開を経て、『土のグリムロック』は倒されたのでした。

 

「あー、やっぱりデータとか計算が狂わないとかいうタイプの敵だったか。お約束だよね」

 

 

 

 

 

 さらに進むユウキ達の前に、次なる敵が現れます。

 

 そこは、魔王城の屋上に作られた庭園。

 花々が咲き乱れる、魔王城とは思えないほど平和で穏やかなその場所に、1人の少女が待ち構えていました。

 

「ここから先へは行かせないわ……魔王様は……お兄ちゃんは、私が守るんだから!」

 

 四天王の紅一点にして、四天王最強の剣士『風のリーファ』が立ちはだかります。

 

「やっぱり最後はリーファか……さっきの話にもでてきてたもんね、魔王になってからもキリトの仲間だって。そっかー、四天王かー」

 

「あははは……なんか、お兄ちゃんとセットで悪役やることになっちゃってね。しかも、なんか妙に重い過去背負った設定でさ。まあ、これもお仕事だと思って真面目にやらせてもらうよ……って言っても、相手がユウキちゃんじゃちょっとこっちも自信ないどころじゃないけど……」

 

「えー、でもリーファだってボス特権で色々ステータス上がったり、スキル使えるようになってたりしてるんでしょ? さっきのグリムロックさんのゴーレム軍団みたいに」

 

「そりゃまあそうだけどさ……まあいいや、言っててもはじまらないもんね。じゃ、お手柔らかにね、ユウキちゃん!」

 

「こちらこそ! 行くよ!」

 

 

 

 

 

「つ、疲れた……ていうか、リーファめっちゃ強かったんだけど……何あの超高速移動……」

 

 10秒間だけ超高速で移動して攻撃してくるという『風のリーファ』の能力に苦戦しつつも、勇者ユウキと仲間たちは何とか勝利しました。

 

「ごめん、お兄ちゃん……先に、アスナさんのところに行ってるね……」

 

 そう言い残して、風のリーファは消えていきました。

 

「それとお兄ちゃん、わざわざよその国なんかに行かなくても、子供が欲しいなら私に言ってくれればよかったのに……私達ホントは兄妹じゃなくて従兄妹なんだから何も問題は……」

 

「アドリブで変な遺言を足すな!」

 

 はいはい、キリト次出番だからツッコミはそのへんにしてスタンバイしてねー。遅刻二回目はダメだよー。

 

 

 

 

 

 そしてとうとうユウキ達は、魔王城の最深部で待ち受ける魔王・キリトのもとにたどり着きます。

 

「どうやって牢屋から出たのかは知らないが、バカな奴らだ……そのまま逃げればよかったものを、わざわざ殺されに出てくるとはな。そんなに死にたければ、望み通りにしてやろう」

 

「ボクは負けない! あの3人が託してくれた……この剣でお前を倒す! たとえ、お前がかつての勇者でも……たとえお前が、僕の父親でも!」

 

「っ!? その剣は、アスナの……なるほど、リズベット達が手引きしたのか……いいだろう、やれるものならやってみろ!」

 

 そして、魔王キリトとの激闘が始まりました。

 

 魔王キリトは凄まじい力で、魔剣『ユナイティウォークス』を振るって攻撃してきます。しかし、ユウキが3人に託された剣『ランベントライト』が彼女達を守り、魔王キリトと互角に戦うことができていました。

 

「おー、さっきなんか一撃でドカーン! だったのに普通に戦えてる。なんか不思議っていうか不自然っていうか……」

 

「いや、そりゃずっとあんな風なのばっかりだったらゲームとして成立しないだろうし、仕方ないだろシステム上……っていうか俺もうHPなくなるんだけど。ユウキやっぱ強いなー」

 

「え~、キリトだって強いよ。ボクら6人相手にしてこんだけ戦えるって……っていうか、さっきのリーファほどじゃないけど、なんか明らかに早く動いてるよね? それも魔王のスキル?」

 

「うん、何だっけな、たしか『オーバーアシスト』とかって……あ、やべ、HPゼロ」

 

 そして見事勇者ユウキは、魔王キリトを倒すことに成功した……かに思われました。

 

 しかし、倒したと思った次の瞬間……

 

 

 ―――ゴゴゴゴゴ……

 

 

「え? 何、何!? って……え、き、キリト!? な、何か体が変わって……あ、もしかして!」

 

「ははははは……まさか、今までのが俺の全力だとでも思ってたのか? いいだろう……お前たちに真の絶望を教えてやろう!」

 

 なんということでしょう……魔王キリトの体がみるみるその形を変えていきます!

 

 そう、第二形態です!

 

 巨大化に加え、何本もの角が生え、足は2本から4本に変わり……その両手に、光でできた巨大な剣を持ち、今までの人間のようだった姿とは似ても似つかない異形の姿になったのです!

 

 ……ていうか全くキリトの面影なくなっちゃったんだけど。これ第二形態にしてもぶっ飛びすぎじゃない? 誰が考えたの?

 

「つか、キリトよぉ……このモンスター、SAOに居なかったか?」

 

「うん、私も見覚えある。えっと……『ディエティースルーラー』だっけ? 名前。72層だか73層のどこかのエリアで、ネームド扱いで出て来たよね?」

 

「あー、やっぱり覚えてたか。うん、このモンスター、SAOの元になったモンスターデータのバックアップを使って構築したんだってさ。名前もそれであってる。ちょうど剣使うタイプの奴だし、見た目のインパクトも十分だからって」

 

「ちょっと……コレ、きつ……喋りながら戦えるなんて余裕だね、キリト……それも『オーバーアシスト』って奴? ずるくないさすがに?」

 

 そう、さっきから魔王キリトは普通に話していますが、話してる間も、勇者ユウキ達との戦いは続いていたのです。

 

 2本の腕と4本の足を自在に操り、縦横無尽に走り回り、剣を振り回し、さらに体のとげや尻尾、頭に生えた角まで使いこなして、見事にユウキたち6人の攻撃をさばき切っているのです! 恐るべし第二形態……恐るべし魔王キリト!

 

 ……っていうかほんとにキリト強すぎじゃない? なんでそんな、いつもと違う体なのに、なんならいつも以上に使いこなして6人相手に戦えてるの?

 

「いや……実はさっきから俺、操縦してない」

 

「「「え?」」」

 

「いや、流石に俺も、あんな足の数とか視点の高さとか、何もかも全然違うようなアバターをいきなり使いこなすのなんて無理だって。……アレ今操作してんの、ナツメ」

 

「え!? ナツメ先生!?」

 

「あー、はい。どうも皆さん、先程からお邪魔してますよ」

 

「うお!? マジで先生の声だ……ってことは、ホントに先生がその第二形態操縦してんのか!?」

 

 ていうか、いつの間に……

 

「キリト君が変身した後に、アバターへのアクセスが僕に移るようになってたんです。変身完了後は、ずっと僕がお相手を……おっと、すいません、やっぱりしゃべりながらは難しいですね」

 

「そう言って戦えてるじゃん……やっぱナツメ先生とんでもないね」

 

「まあ、普段から平然と、戦いながら魔法のスペルとか超早口で詠唱するもんな」

 

「それにしたって、そんな体の形も何もかも違うアバターを器用に動かせるって、すごいどころじゃないような……器用にも限度ってあるでしょ……。練習とかしたんですか?」

 

「したに決まってるでしょう、アスナさん……さすがにこんなケンタウロスみたいなアバターで、しかも二刀流とか、スキルも全然違うものを……初見で動かすのは僕も無理ですよ」

 

「しても無理じゃないかしら……随意飛行とはまた違う感覚でしょうし……」

 

「レイドボスの10倍きっつい……あー、でも、あとちょっと!」

 

 おっと、そうこうしている間に魔王キリト(第二形態)のHPも残りわずかです! こんだけ大暴れする巨大な敵を相手によくこれだけ戦える……いや、ホントに。すごいねスリーピング・ナイツ。新生アインクラッドの階層ボス1パーティで討伐しただけはあるよ。

 

 そして今! ついに伝家の宝刀、ユウキの『マザーズ・ロザリオ』が炸裂! ついに魔王キリトのHPを消し飛ばし、魔王を打ち取った……かと思いきや!

 

「え、まだなの!? てか、またなの!?」

 

「そう、またなの」

 

「俺はこの他に、あと2つの変身を残している」

 

 再び光り出す魔王キリト(第二形態)の体! 4本あった足が今度は無数に増えていき、下半身がどんどんと後ろの方に伸びていきます。さらに剣が手と一体化して、大きく湾曲して鎌みたいな形に……え、これってもしかして。

 

「ちょっ、コレ……『スカルリーパー』!?」

 

「おいおい、キリトよぉ……またえらいもん持ち出したな……」

 

「いや、俺が選んだわけじゃないって。というか、俺も正直コレはどうかと思ったんだけどさ……ALOの運営の人はただ単に、インパクトが会って強そうな見た目の奴を選んだだけみたいだし」

 

「それにしたってコレはなあ……」

 

「え、何? これもやっぱりSAOのボスとか? 何か、アスナもクラインも見覚えあるっぽいね」

 

 ああ、そっか、知らないんだねユウキは。

 いや、私も実際に見たことはないけどさ……話には聞いてるんだよね、このボス。

 

「見覚えあるどころじゃないのよ……ちょっと、あまりいい思い出がない敵ね。今蒸し返しても、無駄だって言うか、意味がないことなのはわかってるけど……」

 

「まあでも、コレを選んで一番大変というか、苦労してるのは……」

 

 

「よし、次はスカルリーパー、スカルリーパー……足は自動で動くからいいとして……這って動くようなイメージ……剣じゃなくて鎌……」

 

 

「あんなとんでもないのをまた動かす役になってるナツメだよな」

 

 ああ、それは確かに……ますます人間から遠いデザインだもんね。

 

 

 

 

 

 はい、色々省略して、戦いもいよいよ佳境です!

 

 魔王キリト(第三形態)との戦い。今まで以上の死闘となったこの戦いですが、勇者ユウキ達は不屈の闘志でこれに立ち向かい……っていうか流石にちょっと時間かかりすぎじゃない? やっぱ変身形態多すぎって言うか、あんまり時間だけかかりすぎても評判よくないと思うよ?

 

「ナレーションで批評入れてくるな……って言いたいけど、実際その通りだよな。一応俺の方からもGMサイドに言ってみるよ」

 

「それがいいと思うわ。ユウキ達ですらあんなにバテバテになってるんだもん……普通のプレイヤーじゃ、最後まで集中続かないかもしれないよ? まあ、あのアバターを使いこなして戦えるナツメ先生が強いのもあるんだろうけど……」

 

「そのナツメ……もとい、中の人にも負担だろうしなあ。やっぱAI使うべきだな、ああいう人間から遠いデザインのアバターはよ」

 

 ともあれ、ストーリー進めるね。

 

 こうして、魔王キリトの最終形態である第三形態をも見事うち滅ぼしたユウキ達!

 

「あ、あれが最終形態だったんだ、流石に」

 

 かくして、闇の力で異形と化した魔王キリトは、『ランベントライト』に込められたアスナの愛によってその身を浄化され、天に昇って消えていったのでした……って、本来ならなるんだけど。

 

「? なるんだけど?」

 

 なんかこの説明書によると、隠しステージみたいなのがあるみたい。

 

 一定時間以内に、レイドあるいはパーティの脱落者数が一定数以内でクリアした場合に、本来は存在しない『魔王キリト・第四形態』と戦えるんだって。勝てば、普通にクリアするより豪華な賞品がもらえる。その条件はともかくとして、今回はβテストだから、どうするか選んで……って、あ、何かもう始まってる。

 

「え? あ、ホントだ、また光ってる」

 

「パパまた変身するんですか?」

 

「あー、うん、そうみたいだな。まあ、一応聞いてはいたから、別に大丈夫だけど……よし、じゃあナツメ、交代な」

 

「はい、変身が終わり次第、そちらにお返ししますので」

 

「え? 今度はまたキリト君がアバター動かすの?」

 

「ああ。だってその最終形態ってのはさ……」

 

 んー……じゃ、何かもう変身始まってるみたいだし、進めよっか。

 

 勇者ユウキの振るう、恋人アスナの剣『ランベントライト』により、悲しみと憎しみで闇に染まった魔王・キリトの心は浄化されました。

 

 しかし、このままではまだ世界は救われません。

 依然としてキリトは『魔王』の座に君臨しているからです。

 

 闇の力から解放されたキリトは、第二形態や第三形態に見られたような異形の姿からは解放され……しかし、いやだからこそ、その力はこれまでとは全く別なものとして、今再びこの地に降り立とうとしていました。

 

 光になって崩れ去った『第三形態』の中から現れたのは……さっきまでのような異形ではありませんでした。

 それどころか、どう考えても魔物になんて見えない、一人の人間……それも、少年でした。

 

 丈の長い黒いコートに身を包み、ズボンもブーツも黒。髪も、瞳も黒。

 そして、手に持っているのは……黒と白、2本の片手剣―――『エリュシデータ』と『ダークリパルサー』という、2本の魔剣。

 

 そこに立っていたのは、かつてこの世界を『魔王』から救った、『勇者キリト』そのものでした。

 

「わー、SAOの時のパパです!」

 

「ほんとだ、懐かしー!」

 

「へえ……あれが、SAOでのお兄ちゃん……」

 

「おー、あの頃を思い出すなあ……でも、今はもうキリトも18だから、あの時よりはやっぱり大人びて見えるんじゃねーか? このアバター、そっちに合わせてるみたいだしよ」

 

「そーね。まあ、顔がかわいいのはいつものことだけど」

 

「ちょ、ちょっとリズさん……」

 

「やめたげなさいって、あんたそれキリト気にしてるんだから……」

 

「…………ん、んんっ!」

 

 えー……気まずそうな咳払いも響いたところで!

 

 闇から解放され、しかし今なお悲しみと怒りを抱えて『魔王』の座に君臨する『勇者』。

 これを倒すには、最早純粋にその強さで、剣でもって彼を上回る以外に手段はありません。

 

 さあ、これが正真正銘の最終決戦です!

 

「そっかー……SAOの時のキリトが相手かー。不謹慎かもだけど、やっぱり面白そう! よーし、じゃ、遠慮も手加減もなしで全力で行くよキリト!」

 

「いいぜ、来いよユウキ! 自分で言うのもなんだけど……SAO最強の剣士が相手になるぜ!」

 

 今、最後の戦いが幕を開ける!

 

 そして…………

 

 

 

 

 

「うあー、負けたー!」

 

「ちょっ、キリト君……何ちょっと……魔王が勇者に勝っちゃってんの!?」

 

「ご、ごめんアスナ……つい、熱が入っちゃって……それに、せっかくのユウキとのデュエルだし、手加減するのもアレっていうか、失礼かなって思って……」

 

「それでオメー、ゲームの大原則から外れちまったら元も子もねーだろ……」

 

「ていうかお兄ちゃん、本気出したの? 二刀流で? しかも、ボス補正で能力爆上がりしてる状態で?」

 

「それ、誰も勝てる人いなくなりますよ、パパ……いくら、簡単にクリアさせるイベントじゃないとはいえ、ひいき目なしに見ても……SAOの最前線クラスでも、勝率0だと思います……」

 

「……今更ですけど、キリト君にラスボス役って無理じゃないですかね……?」

 

「「「確かに」」」

 

「………………(泣)」

 

 

 

 なお後日、結局このイベントが実装されたのかどうかは……誰も知らない。

 

 

 

 


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