テンプレ能力は扱い辛い。   作:パパんバン

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やっちまったシリーズ


開幕の余熱

 

 

 

 

 

 4月3日

 

 どうしてこうなった。

 本日は国立魔法大学付属第一高校、通称第一高校の入学式だったわけだが――ストレスで胃がマッハで頭が痛い。俺は何を言ってるんだ。

 というか、これは一体どういうことなのだろうか。

 色々と秘密を抱えているとはいえ、俺は基本的に極々一般的でどこにでもいるノーマルな魔法師だ。容姿も普通で成績も普通――まぁ二科生なのだけれども。一科生になれるほどの魔法力はなかった、ふっ、笑えよベジータ。……なんてふざけてはいるが、一科だろうが二科だろうが、そんなのはぶっちゃけどうでもいいのだ。俺には関係ない話だし。

 我が高校生活も、最初は中々の滑り出しだった。偶然にも俺の入学したこの高校で、何年かぶりに幼馴染に遭遇したのは実に喜ばしいし、更に言えばこれからも仲良くできそうな友達だって出来た。

 だが違う。違うのだ。そんなことよりも重要なことがある。そう、それは――。

 

 ――――どうして悪魔(ステキ)なお兄様がここにいるんですかねぇ!?

 

 

 4月4日

 

 高校生活1日目。

 平穏無事な生活を送るという当初の目的は既に瓦解しそうである。

 幼馴染に連れていかれた工作室――は良かったのだが、昼休みにはゴタゴタに巻き込まれ、放課後の練習見学では嫌な視線を集めまくるハメになった。

 ヤベェから、すっごい視線集めてるから。

 放課後には諍いに巻き込まれるし、ショートカットのお姉さんには「……ほう」となんか変な目で見られるわ幼馴染の威嚇は凄まじいわ。

 青春謳歌するのは全く構わないのだが――俺を巻き込むのはよして頂きたたい。

 

 

 4月5日

 

 (記述が抜けている)

 

 

 4月6日

 

 一つ言いたい、クッソ疲れた。ヘトヘトだよコンチキショー。

 今日は部活を一緒に見て回って(回されて)いた幼馴染と共にゴタゴタに巻き込まれ、そしてそれを仲裁するハメになった。どうしてこうなった。

 風紀委員仕事しろよマジで。なんで一般ピーポーな俺がこんなことしたんだよ。だから助けて下さいお願いします。もう働きたくないんです。幸運E-舐めんなよ。

 

 

 4月7日

 

 本日は晴天なり。

 全講義を終えた放課後、中庭をだらだら歩いていたら壬生先輩というポニテの女性に絡まれた。連れたいかれたカフェで小一時間熱弁され続けたのだが、まぁそれはいいのだ。

 何やらデート的な何かに誘われていたようで、明日の放課後の予定が決まった。一体何をするのだろうか。

 ……ポニテは素晴らしいと思いました、まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 (ココロ)が割れるように痛い。激痛に苛まれた頭の中で、俺は唯思案する。

 一体、何を間違えたのか。

 そんなことは簡単だ。実に単純明快でくだらない答えだ。

 きっと、産まれた時から間違えていた。たったそれだけのことなのだろう。

 

 嗚呼、本当に――頭ガイタイ。

 

 

 

 

 

 

 ▽▽▽

 

 

 

「――いい加減にして下さい! 深雪さんはお兄さんと一緒に帰ると言っているんです。他人が口を挟むことじゃない以上、諦めたらどうですか!?」

 

 時は放課後。場所は第一高校校門前。

 男女数人のグループに向けて発せられた眼鏡の少女の叱責に、俺は静かに視線を向ける。本当に悲しいことに、俺のトラブル体質は高校生になっても改善の予行はないらしい。

 声を荒げて目の前の男女に刃向かう彼女――柴田美月もまた、中々に熱い心をお持ちのようだ。一見控えめな彼女の見た目からは想像できないほどに激昂しているのだからその熱血さは一塩だろう。

 

「……」

 

 俺からすれば酷くくだらない事である。そんなことなど実にどうでもいいし、放って置いてもいいのだが――そうは問屋が卸さない。具体的に言えば真横の幼馴染の目つきが酷いことになっていた。ヤベェ。

 

「ど、どうしましょうお兄様」

「さて……どうしたものか」

 

 横隣の幼馴染を宥めながら後ろに意識を向ければ、妙にほんわかした空気が漂っていた。テメェ早く何とかしろや。

 兎にも角にも、左胸の紋章に誇りを持ち良くも悪くも驕っている一科生からすれば、二科生である俺たちに司波深雪という高嶺の花を奪われるのは我慢ならないのか、それとも柴田さんに噛み付かれてイラついているのか。

 

「僕たちは司波さんに話があるだけだ!」

「そうよ! 司波さんには悪いけど、少し時間を貰うだけなんだから!」

 

 何にせよ、彼等の激昂というのが比較的陳腐な代物であることに違いなかった。

 行き過ぎた驕りは転落を招き、俺たちのような人間の暮らす世界では一つのミスですら多大な影響を及ぼしてしまう。それに、このクラス分けというのも高々入学時点でのテストによる格付けだ。現在の制度でまともな裁定ができない以上、悲しいことにあまり当てにならない。

 ……というか、悪いと思ったんだったらすぐに諦めてくれよ。そして俺をすぐに開放してプリーズ。

 

 そんなこと考えていると、自分勝手としか思えない理論を振り回す一科生らに友人と幼馴染――西条レオンハルトと千葉エリカが喧嘩腰で言い返した。

 

「ハッ! そんなことを自活中にやれよ、んの為の時間がとられたんだろうが」

「それに、相談だっていうのなら先にアポとっていけば? 本人の――深雪の許可もなしに相談を一方的に押し付けるとか、常識なんてあっもんじゃないわよ。アンタたち、高校生になってもそんな簡単なルールも守れないの?」

 

 馬鹿なの? と続けるエリカの煽りに煽るその言葉使いが妙に頭にくる。その赤い頭髪が増長させているのかもしれないが――まだ馴れている俺ならばともかく、まだ初対面で無駄にプライドに高い連中ならばその効果は覿面だろう。そして実際その通りだった。

 

「うるさい! ウィード如きが僕たちブルームの邪魔をするな!」

 

 ――あ、これあかんやつや。

 一応ここも公共の場であり、そして差別用語が感じられている校舎の校門前――注目を集めるのもそう難しくない。そしてそれが入学早々であれば尚更だ。

 そんな、余りの驕りを含んだ言葉に対し、すぐに飛び出たは美月の――一科生と二科生の実力の差に対する反論。

 

「ならその実力の差ってのを見せてやる!」

 

 怒りを抑えきれなくなったのか。

 そんなことを口に出し、先頭に立つ男の右手がCADのホルスターへと伸び――

 銃口が、向けられた。

 

 

 

 

 

「そこまでにしとけ。アンタも少し落ち着いたらどうだ?」

「――ッ!!」

 

 その男は、一瞬にして銃を握った一科生の背中へと回り込んでいた。一科生の――森崎の右腕を捻り上げ、特化型CADを取り上げた状態で。達也の瞳に何の跡を残すこともなく――即ち魔法式を展開することなく、素の身体能力だけで、である。少なくとも、達也にはそう見えた。

 森崎は捻り上げられた右腕が痛むのか、口元を歪めながら首を捻る。自分の肩を締める何者かの顔を見ようとして――その顔が驚愕に染まった。

 その右肩に、花形の紋章はない。

 

「――ッ、ウィード風情が僕の肩を掴むんじゃあない!」

「……ったく、お前も中々餓鬼だな。まるで駄々をこねる子供じゃねぇか」

「うるさい!! 黙ってろ!」

 

 男が森崎の右肩から手を離し、そのまま開放する。くそっ、とそう吐き捨てる森崎から視線を横にスライドさせて、赤髪の少女――エリカへと目を向ける。

 

「つーことだ。だから、エリカ。はよソレ仕舞え」

「は〜い」

 

 左手で少し玩んでいた特化型CADを放る。少し離れた位置にいた森崎が右手でそれを掴むと、肩口のホルスターに仕舞う。ああ、それと、と男は小さく呟くと。

 

「確かに十師族の大先輩らが在籍するこの第一高校に入学できて興奮するのもわかるが、そうやって盛り上がるのは程々にしとけ。そうやって()()()()()()()()()()()()()()()()()()、森崎」

「…………」

 

 その言葉は、森崎単体ではなく他の誰かに向けられているようでもあって。けれどそれを大々的に向けられた森崎は、真意を悟ったのか苦虫を噛み潰したような表情になる。それを確認した男は、てことで――と言って後ろを向くと。

 

「丸く収まったわけですし、それで勘弁してくれませんかね? 厳重注意ってことで、一つどうですか? もちろん、これで最後ってことで」

「……中々に了承しにくい提案だな、それは」

 

 帰ってきたその言葉に、その場にいた者たちが一斉にそれが発せられた方を向いた。そこにいたのは二人の女性だ。短髪の女性はわからないが、隣の女性は見たことがある。

 数字付き(ナンバーズ)。確か、この学校の生徒会長を担っていた――十師族『七草』の長女、七草真由美。

 達也がそこまで思い返した時点で、その隣の短髪の女性が一歩前に出ると名乗りを上げた。

 

「風紀委員長の渡辺摩利だ。校門で騒ぎがあると聞いて駆けつけた」

 

 風紀委員長。

 その肩書きに、その場にいた一科生たちの顔が強張る。今までのことを考え見れば、なんらかのペナルティを被っても仕方がない――そう考えいたのだろうが、対する摩利の表情は判然としない。……毒気を抜かれた、といったところか。

 それを見兼ねた真由美が、軽く身を乗り出しながら摩利と告げる。

 

「対人で魔法が発動されていないわけだし、彼の提案でいいんじゃないかしら」

「……だがな」

「説教も彼がしてくれたみたいだし、ね? ……それに、中々面白いものも見れたわけですし」

「……仕方あるまい。わかった、こちらもその提案を飲もう」

「それじゃあ、騒ぎは元々収まっていたということで――」

「だが事情は聞く。少し残れ」

「……マジですか」

 

 したり顔だった男の表情が一瞬で凍った。くっそーと嘯いて、男は一度達也を見る。

 

「別に大した事はしてませんって。彼らに少しのアドバイスと禁止用語を使用したことに少し注意しただけですよ。別に、()()()()()()()()()()()()()()()()()

「へぇ、それは本当か?」

「ええ。強いて言えば、ただ注意喚起にCAD取り上げたくらいですよ」

 

 本当になんもしてねぇ、と言わんばかりの雰囲気を撒き散らす男に、摩利がほう、と少し驚いた声を漏らした。

 大方の事情を察したのだろう、後ろにいた真由美が達也たちに確認を取る。

 

「司波さんから見ても、何か相違はありますか?」

「いえ、特には。概ねその通りです」

 

 深雪が首肯し、それに続いて後ろの美月らも縦に首を振った。

 暴力沙汰があったわけでもなく、犯罪行為はなかった――そう判断することにした真由美は、摩利との一瞬のアイコンタクトを取り、続き様に摩利が溜息と共に口を開く。

 

「――会長もそう言っているわけだし、今回はお咎めなしとする。……が」

「……?」

「お前だお前。名前を聞かせろ」

 

 摩利な名指しに指を刺される。ああ、と小さく呟いた男は――少しだけ、胸の紋章を見せつけるようにしながら。

 

 

 

「――――シェロ。シェロ・グラヴィス」

 

 

 

 それが、成り損ないの名前だよ、と。

 そう呟いて、男は――シェロは、独り笑うのだった。




やっちまったなぁ……
感想評価お待ちしてまさぁ

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