テンプレ能力は扱い辛い。   作:パパんバン

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徹夜で仕上げました。可愛がってください


曰く、ひんぬーもまた美点である。

 

 

「……眠ぃ」

 

 くぁ、と小さく欠伸を咬み殺す。

 本日は学園生活三日目――三日坊主という言葉がある様に、多くの人々が何か意気込んだはいいものの持たなくなる時間ある。

 かく言う俺も、高校で遅刻すまい、なんて考えていたわけだが、すでにその目論見は達成不可となりつつあった。……まだ三日経ってねぇじゃねぇか。俺のバカ。

 いつも煩い家族は居らず、そして中学までいた口煩い委員長系の生徒もいない。……そう、俺の安眠を邪魔するクセ者はいないのだ、誰も……。

 

 騒々しいクラスの雰囲気にも耳が慣れ始め、小気味いいBGMと変わり始めた。

 瞼が重くなって、意識がまた深いところへと落ち始める。

 こりゃ多分授業でもねるなー。それがわかっていても、俺の意識は浮上してくることはなく。

 明日から真面目にしよう。そうしよう。残念、睡魔には勝てなかった。

 そうやって思い返し(あきらめて)、俺は夢の世界へと旅立――

 

「――オハヨ、シェロ!」

「……! …………なんだエリカか」

「なんだとはなによ。……ってちょっと、すぐ寝ようとしないの!」

「ぐっない……」

「おやすみじゃないわよ!」

 

 ――てませんでした。

 快活な声と肩への軽い衝撃。頭が揺れて思わず面を上げた。とりわけ明るいその声は、鬱屈としたものを全て吹き飛ばせそうだ。

 目に写った見慣れた赤い髪をみて――俺は死んだ目になった。反射的に机に突っ伏せば、おーい、と揶揄うような口調と共に頭をペチペチと叩かれる。くそったれ、寝れねぇじゃねぇか。

 

「……なにさ」

「よろしい。おはよーシェロ。相変わらず眠そうな顔してるわね」

「うっせ。眠いもんは眠いんだよ」

 

 悪態をつきながらエリカを見て、俺は大きく息を漏らした。そのままゴキリ、と首を鳴らして、目の前に立つエリカを眠気眼の半眼で睨み付ける。眠気眼の半眼とか凄い表情ですねとか突っ込んではいけない。

 

「……んで、どうかしたのか?」

「まぁ、別に大したことじゃないわよ」

 

 エリカはんー、と下唇に人差し指を押し付けながら、

 

「それともなに? 何か話題がないと話しかけちゃダメなの?」

「あった方が好ましいな」

「うわひっどい」

 

 やかましい。そんな軽口の応酬をしていると、左隣の方からエリカの快活な声とは正反対な静けさを含んだ声がかけられた。

 

「あ、あの。お、おはようございます!」

 

 声をかけられるとは予期していなかったが、声をかけてくれる相手は予想通りの人物だった。昨今では珍しい眼鏡少女――先日は中々の熱血具合を見せてくれた柴田美月だった。

 

「おう、おはよう柴田。……ん、なに。お前ら一緒に来たの?」

「……ま、途中からだけどね」

「そうかい、ったく。朝っぱら元気いーよな」

 

 俺には無理だわ、と続けて顔を伏せる。……眠い。寝るか。寝よう。

 意識が微睡みに落ちていく。やはり朝の二度寝は至高――

 

「なに寝ようとしてんのよ」

「ぬぐぅ」

 

 襟元を引っ張られて意識の強制的に覚醒させられる。まさに暴虐不尽。我田引水。文句の1つでも言ってやろうと振り向くと、目がギンギンに光っていた。すみませんなんでもないです。

 

「えっと。その、二人って実は幼馴染だったりするんですか?」

「おん?」

「いえ、なんだか妙に仲が良かったので……」

「仲良いってオイ、そんな風に見えるとか大丈夫かお前。……いや、こいつと腐れ縁って事実だけども」

 

 エリカも「そーね」と後ろ背に親指で俺を指しながら、

 

「そこの刀剣バカとは誠に遺憾ながら幼馴染ってやつよ」

「おい待て。今俺のこと馬鹿っつたろ。馬鹿っていた奴が馬鹿なんだからなバーカバーカ」

「いつの時代の小学生よあんたは」

 

 そうなんですか、と美月は頷くと。

 

「じゃあ二人は付き合ってるんですか?」

「ぶう――っ!?」

「あぁ?」

 

 エリカが隣で思いっきり咳き込んでいたが、それに首を傾げつつも美月の顔を見る。一体なにをどう間違えたらそんな方程式になるのだろうか。そも与式から間違えてるんじゃなかろうか。アレか、問題文読めない系か。

 

「だ、誰がこんなのと――!」

「当たり前だろうが。つか、どうして俺がこいつと付き合うってことになんだよ。んなのありえるわきゃねぇだろ」

「…………」

 

 横からの視線が痛い。……え、何故に?

 

「こいつの胸部装甲じゃ話になんねぇ。胸板(まないた)標準装備とか――転生してからもっかいやり直してこい」

「どいて美月ソイツ殺せない」

「お、落ち着いてエリカちゃん。それに、シェロさんもなに言ってるんですか!? ほら、謝って下さい!」

「えー、あー、うん。取り敢えずまぁ、その、なんだ」

 

 ふしゃーと、猫ばりに毛を逆立てさせるエリカに、俺は満面の笑みでサムズアップしながら――

 

 

「――がんばれ」

 

 

 

 

 

 

 

「死ぬ、だから死ぬ! あっフォームが変わっ――チョークスリーパー!? チョークスリーパーなんで!?」

「うるさいわね静かにかかってなさいよ!」

「それは理不尽じゃないですかねぇ!?」

「え、エリカちゃん!?」

「やめろエリカ! 痛い! 痛い痛い肋骨に当たって痛い! ゴリゴリ肋骨痛い! ――へあっ!?」

「……へぇ。中々良い度胸じゃない。覚悟はいいのね?」

「あ、あのエリカさん? なんで更に力が強くなっていらっしゃるのでせう――?」

「胸に手ェ当ててしっかり考えなさい!」

「いやだからその当てる胸がないってそれ一番言われ――――きゃぽ」

 

「――シェロさぁん!?」

 

 

 

 

 ▽▽▽

 

 

 

 

 ――昼休み、実習場。

 

 授業の為にと実習用のCADが完備されたその場所に、俺は立っていた。

 

 大きく息を吸い込んで、身体に巡るサイオンを知覚する。全身に張り巡る神経(サーキット)を引き延ばし、拡張するイメージ。CADのタッチパネルに右手を乗せると、ひんやりとした金属特有の冷感が掌を刺した。

 

「――――」

 

 ふぅ、と空気を吸って酸素を脳に行き渡らせる。スッキリと頭の中が冴え渡っていく。

 

 起動式、開放。

 変数、入力完了。

 想子、充填完了。

 魔法式――展開。

 

 ぶわさっと袖を棚引かせながら術式の標的である鉄の塊を意識の矛先を向ける。

 

 魔法陣が展開され、瞬く間に赤銅の粒子を撒き散る。"静止摩擦力を上回る力積が加えられた"という事象が上書きされ、緩慢な加速度と共に鉄塊が加速度運動を開始した。

 

 本日の課題である。名前はまだない。嘘だ。移動系基礎単一魔法その一である。

 そのままサイオンを流し込みながらCADを操作する。金属が擦れるようなノイズが頭の中を巡り始めた。

 重ねて二連の魔法陣が浮き上がって鉄塊へと干渉。一度目は加速度を軽減する魔法。二度目はマイナス方向への加速を加える魔法である。

 かくして再度自分の前へと戻ってくる。画面にスコアが表示された。

 

「…………」

 

 ……遅い。すっごく遅い。こんなんでよく受かったと思ってしまうほどに遅い。その分は筆記でとったから問題なかったのだが、だとしてもこれに関しては合格者でも底辺を争うレベルではなかろうか。

 

 俺がここにいるのは実技の『補習』のためである。

 補修といっても俺を含めたE組三人衆は目標数値である800msecを講義時間中にきることが出来ず、達也にコーチングを頼んでいたのだ、が……。

 

「……いやほら。まだ次があるって! 出来りゃあいいんだからよ、頑張ろうぜシェロ!」

 

 レオの心遣いが沁みる。ちょっと泣きそうだった。

 妙に指導がうまいアドバイザーのお陰もあって、エリカたち早々にノルマを達成したのだ。

 ……そう、エリカとレオは。

 

「……ホントにアンタ魔法実技ニガテだったのね」

「うるせぇ。みんな違ってみんないいって言うだろ。だから魔法力が弱ぇのも特徴なんだ」

「金子さんも怒り狂いそうなトンデモ理論ね」

「そうだな。でもその理論でいけばひんぬーも特徴――なんでもないです。ハイ」

 

 目つきが凄まじいことになりかけたエリカから即座に目を離して、俺はCADを操作する。

 エリカの言うように、俺に普通の魔法というのは使えない――というよりニガテである。とてもニガテである。

 

 いや、ニガテではないのだが、その効力は抜群に低いのである。なんやかんやで演算領域が圧迫されているから――なんて自分では考えているが、詳しいことはまだわかっていない。ヒトはそれを苦手といいます。

 小さな舌打ちと共に、俺は再びCADへとサイオンを流した。

 術式は『移動』の基礎単一系魔法――これ1200msecで使えなかったら学校来なくていいよというレベルの術式である。先のタイムは1200msecアジャストだった。もうこれ無理なんじゃないかな。

 

 かくして。

 

 

 

「まぁ当然のように無理だったな。予想通りだ」

「舐めてるのか?」

「すみませんでした」

 

 どこか吹っ切れた表情でそう言うシェロに、達也は呆れながらティーカップを啜った。

 

 放課後を迎えた面々は、誰からともなくカフェに集まっていた。初日と同じ店である。昔ながらの製法で今も淹れていると言うのだから、中々に"凝った"店であることに違いなかった。達也も先ほどオーナーに注文した珈琲を飲みながら、そんなことを考える。

 

「ったく。アンタがあそこまで実技が苦手とはね」

「うっせぇ。つかそな勝ち誇った顔やめい、ムカつく」

「ハッ。辞めせたかったら私に魔法実技の点数勝ってから言うことね」

「こ、この野郎……!」

 

 鼻高になりながらジト目をするエリカに、シェロはぐぬぬぬと唸っていた。それを見てエリカの鼻が更に高くなる。これはウザい。

 

「……ちっ。

 そういや達也、昨日は俺聞きそびれたんだけどさ。起動式読み取れるってマジなのか?」

 

 唐突な話振り。露骨な話題転換に辟易としつつも、達也はカップの蓋を唇から離し、

 

「事実だ。とはいっても、ただ読み取れるだけなんだがな」

「いや、なにいってんのお前。単一系の起動式でもアルファベット換算で約3万ワーズだろ? 遅く見積もって500msecだとしても、意味の薄い文字列を一秒間に六万個読み取るんだ。……あれ? これヤバくね?」

 

 さらっと流していた衝撃の事実に一同は思わず達也を見やる。注目の的である達也といえば、澄まし顔で珈琲を口に運びながら、

 

「実技は苦手だが、分析は得意なんだ。それに、CADのプログミングやチューニングは趣味程度に齧っているからな、それによるところが大きい」

「マジかよ」

「ああ、マジだ。というかそれはいつの死語だ」

 

 知らん。シェロは笑いながら珈琲を喉に通す。その様子に――正確にはその右手を見て、達也はシェロに質問を投げかけた。

 

「そう言えば、シェロ。お前は何か武術を修めているのか? 魔法がそこまで不得意なら、昨日のあれも何かの技じゃないのか?」

「あん?」

 

 そういえば、と周りの視線が集まったのを察したのか、シェロは溜息を吐いてかちゃりとティーカップをソーサーに置く。

 

「まぁ、一応何個か武術は修めちゃいるが……」

「…………」

 

 武術を修めている、というのがシェロの口から漏れ、達也の視線が僅かに厳しくなる。シェロは大仰にも肩を竦めながら、

 

「それ抜きにしても、俺も一時期千葉の道場通ってたんだから武術を修めてんのは当たり前だろ? それとあの技はただの縮地だ」

「……なるほど」

 

 ――やはり、話す気は無いか。

 シェロの言葉に達也はそう判断する。今後の段取りを簡易に組み立てつつ、この男への――シェロ・グラヴィスへの警戒度を引き上げる。

 いつの間に縮地なんて使えるようになってるのよ! というエリカの声に少し怯えるシェロを見ながら、達也はティーカップに口をつけた。

 

「――――」

 

 彼に、こんな疑惑をかけねばならない自分の宿業に――何よりも、それになんの感慨も抱かない自分自身に嫌気が指す。

 珈琲は――どうにも、苦い味がした。

 

 

 

 

 

 

 

 




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