テンプレ能力は扱い辛い。   作:パパんバン

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話がすすまねぇ……
あけましておめでとうございます


据え膳食うなら皿まで食うべし(強制)

 

 

 

 

 

 

 シェロ・グラヴィスが新入生歓待のデモンストレーションでの諍い――剣道部と剣術部の小競り合いを仲裁したとの情報は、森崎と別れてから一時間もしないうちに達也の耳へと伝わってきた。

 

 剣術部の桐原武明が殺傷性ランクBの『高周波ブレード』を不正使用したとのことだが、シェロ含め双方共に傷を負うことはなかったという。詳しい状況は不明であるとはいえ、気には止めていた、ということを考慮すれば想定内ではあった。

 ただ、予想外の出来事といえば。

 

「……以上が事の顛末です」

 

 風紀委員としての責務を果たし、業務終了の旨を知らせついでに深雪を連れ出しに来たら、不満タラタラな顔でシェロが生徒会室に居座っていたことが、想定外といえば想定外ではあった。

 

 

 

「……あの、生徒会長、俺もう帰っていいッスか?」

「シェロくんってばー、そんな他人行儀な呼び方じゃなくていいのに。ここまで長いこと話した仲なのに、照れちゃってるのかな? かな?」

「アンタが、アンタがそれを言うのか……ッ!」

 

 尤もである。

 不可抗力とはいえ風紀委員の仕事を手伝ったにも関わらず、諍いを止めに入った筈のシェロまでも捕縛され、更には事情を把握し切れていなかった風紀委員によって一時間以上の拘束、果てのメインディッシュは事情聴取という名目の一時間にも及んだ圧迫面接(たのしいおはなし)

 その上デザートには置き去りにしたエリカからのお仕置き(確定)付きのフルコースなのだった。人はコレを押し売りと呼びます。

 

 だがこの場における主権は七草真由美にある。絶対王政、もしくは権力一点集中型だ。請求権は与えられていない。いつからここは一六世紀になったのか。

 

「……」

 

 イイ笑顔を浮かべ、さも飼い犬でも苛めるかのような様相の真由美に達也は思わずドン引きした。

 

 そしてドアのスライドした音に首が軟体なのかと疑うほど、ギュルリとこちらを向いたシェロにもドン引きした。普通にホラーだった。

 

 かくして。

 シェロは願った。最早シェロ・グラヴィス一人の能力ではどうにもならない。早急にこの迷惑噴霧器から離脱するべく、シェロは友の名を叫ぶのだ。奴ならばきっと……!! そんな瑣末な祈りを込めて。

 

「――達也ぁ!!」

 

 そんな心のそこからの救援要請が通じたのか――実際にはシェロの声が聞こえたのだろうが――達也はこちらを見やる。

 

 達也は思う。シェロの助けを求める声は最もである。確かに達也の持つ論理性と巧みな話術があればシェロを助けることなど造作もないだろう。

 だが流石に()()はない。まごう事なき達也の本音だった。

 

 今までになく真剣な目をして、達也は言った。

 

「深雪はいますか?」

 

 ――あの野郎後でぶっ殺す。

 

 友情は崩壊した。シェロは激怒した。かの邪智暴虐の元友人を決して許してはならぬ。現実的には明日の体育で集中狙いしてやることにした。無論躊躇などない。

 因みに深雪には迷惑をかけてはならない。多分殺されるからだ。

 

「あら。少し惜しかったわね。深雪さんならすれ違いで購買の方へ行きましたよ。もうすぐ帰ってくるんじゃないかしら?」

「了解しました、では失礼します」

「いや待てや達也」

「……なんだ?」

 

 そんな面倒臭いって顔すんなよ。と、シェロは言った。アイコンタクト――ここから連れ出せ、と。達也はそれを理解した後視線を前に戻す。

 

「断る」

「ふぁっきゅー」

 

 シェロの口元がヒクつく。これ以上俺にどうしろと。言外にそんな思いが溢れ出ていた。

 だが慈悲など無い。深雪に危害を加えかねない男の安否など知ったことではないのだ。面倒ごとを嫌ったとも言うのだが。

 達也は恨めしそうな目つきを向けてくるシェロを意識の外に追い出し、深雪が戻ってくる前に終了報告を済ませるべく風紀委員室へと踵を返そうと――

 

「……ん、なんだ? まだいたのかグラヴィス。丁度いい、これで話を聞きに行く手間も省けるな」

 

 スライド式の扉が音もなく開く。立っていたのはショートカットがチャーミングな女子生徒。

 件の事件の元凶の元締めにして、数少ない真由美に陳言できる学園筆頭生徒――渡辺摩利。

 

「ウッソだろオマエ」

 

 前門の虎、後門の狼。

 割と打つ手のない状態に陥ったシェロの虚ろな瞳に、達也は同情を禁じ得ないのだった。

 

 

 

 

 ▽▽▽

 

 

 

 

 

 そんなこんなで翌日である。

 

「……いや、マジで死ぬかと思った……」

「なんで達也にあんな狙われてたんだオマエ?」

「知らねぇよ。八つ当たりとかなんじゃねぇの?」

「……あっ」

「レオ貴様今なにを察した」

 

 白状しろこの野郎。……まぁ、仕掛けようとした本人がなにを言っているのか、という話ではあるのだが。

 詰め寄る俺を宥めつつ、帰路に着こうとするレオ。

 話は第六限に捻じ込まれていた体育、その講義中である。先日の誓い通りの展開に持ち込もうとしたのだが……結果は推して知るべしである。

 

 それにしたって時が経つのが早い。

 特になにもなく、学校に着き、自分の席に座ろうとして先に来ていたエリカと話し、ふと気がつけば六限目となっていたのだ。その所為でというか、一切計画を立てられずフルボッコにされてしまったのだ。いや、本当に摩訶不思議である。恐らく時間泥棒にでもあったのだろう。

 右脇腹から鳩尾辺りにかけてが妙に痛い……なんでや……。

 

 ぶらぶらとしていたら中庭まで来ていた。山岳部か武道関連の部活を志望しているレオも今日のデモンストレーションにはお目当てのものがないらしく、俺に至っては言うまでもないが、特に見物する部活もなく暇なのである。

 

「んで、この後どうす」

「――貴方がシェロ・グラヴィス?」

「はい?」

 

 中庭も半ばといってあたり、そう声をかけられた。素っ頓狂な声を出しつつ音源を見れば島馬の尻尾(ポニーテール)

 見れば、特に見覚えのない女子生徒である。僅かに鋭い目つきではあるが、十二分に美人である。

 

「昨日はありがとう。お陰で助かったわ」

 

 初対面にしてお礼である。隣のレオに視線を移せば、知らないと首を振る。となれば勘違いだろうか。開幕挨拶とかやだ恥ずかしい。

 

「お礼と言ってはなんなんだけど――」

「どちら様ですか?」

「えっ」

「えっ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 結論から言おう。ただのナンパだった。

 開幕御礼参りを咬ました件の女子生徒であるのだが、どうやら昨日の一件の当事者だったらしい。全く記憶にないというか、楽しいお話で塗り潰されていると言うか。まぁ是非もないよネ!

 

「……改めて、昨日はどうもありがとう」

「いえ別に。コーヒー奢って貰えたんで気にしなくていいですよ」

 

 丸テープの対面に座った女子生徒――壬生先輩が佇まいを直してそう言った。

 何のことはない。ただの幼馴染の尻拭いをしただけだ。よくあることである。首を突っ込むのは本意でないとはいえ、エリカが特攻するより三倍はマシだ。

 

「出来ればもうしたくないですけどね」

「それはそうね――ところで、なんだけど」

 

 注文したカフェオレを口に含み、壬生先輩が静かに笑った。続けて何か話そうとするのを尻目に、俺も昨日のお礼ということで奢ってもらった珈琲を喉に流し――苦ぇ。しまった、調子に乗ってブラック注文するんじゃなかった。

 

「今の第一高校の教育体制は知ってるわよね? 一科生と二科生の間にある学術的差別、そして魔法が上手く使えないからと言うだけで無条件に差別される。それで、魔法力が低いからってあたしの剣まで侮られるのは耐えられないの。無視されるのに我慢できない……!」

 

 ダメだ苦い。角砂糖どこ?

 

「魔法だけで、あたしの全てを否定させはしない!」

「……うん」

「第一高校の一科生・二科生の差別撤廃運動を目的とした団体があるんだけど、近いうちに生徒会と部活連に対し、対等な立場における交渉を要求する予定があって、一年生にも参加して欲しくて、……だから、できることならシェロくんにも参加して欲しいの」

 

 おお? なんか熱く語られてた。珈琲の苦味に気を取られてて聞いてなかったとか言える雰囲気じゃねぇな。

 

「――その髪を見るに、貴方も受けて来たでしょう?」

「……まぁ、そうですが」

 

 意外ッ! それはヘアカラーッ!!

 黒染しろとかそういう注意喚起の話か? まぁ、そんかこと腐る程言われてるな。たしかに。

 

「明日、予定空いてる?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――エガリテにブランシュねぇ。その程度のことなら勿論調べられるけど」

 

 美月の救出劇――剣道部司甲が差別撤廃を目的とした団体への強引な勧誘を発端としたソレ。

 そして"風紀委員としての"仕事中に発見したトルコカラーのリストバンド、反魔法団体の組員の証である。

 達也が目星つけた、この一連の源流に最も近い男――司甲について、達也は師匠・九重八雲に相談していた。普段通りヘラリとした笑顔を浮かべるこの男ではあるが、暗部に片足を突っ込みかけた男の情報を調べ上げるなど、『朝飯前』でしかないらしい。

 達也へと揶揄いを入れつつ、八雲はすでに調査済みだったのであろう、司甲の情報を語り始める。個人情報保護法もへったくれもないその情報量に舌を巻きつつ、達也は軽く現状を整理する。

 

 それを一瞥した八雲は、深雪にちょっかいを出そうとして、達也が剣呑な雰囲気を纏って手を引っ込めた。触らぬ神に祟りなしである。

 八雲は言う。「司甲の兄がブランシュ日本支部のリーダーである」――そんな割と衝撃的な事実を、至極あっさりと。

 ただ、肝心の部分は不明だと言う。十分です、達也は目を細めた。

 

「……それよりも君は、彼の方が気になってるんじゃないかい?」

「シェロのことですか」

「うん。良縁奇縁、例えどんな悪縁だとしても調べるのが忍びだからね。簡単にだけど調べてるよ。

 ――シェロ・イグナイト。両親、祖父母、妹の誰にも魔法的な因子の発現はない。

 いわゆる『普通』の家庭。司甲と違うのは、どれほど遡ってもどこかで血が混じったという兆候が見られない事。

 幼少期に千葉の道場に通っていたらしいけど、その後は親の仕事で各地を放浪してたみたいだけどね」

 

 ああ、そういえば。

 八雲は、笑って。

 

 

「――彼、エガリテ入るってよ」

 

 

 

 

 

 




次回は、次回こそは強襲するとこまで……!
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