そして次の日の早朝、俺とライアンは城の前で落ち合った。ライアンは俺を物凄く不思議そ〜な眼差しで見つめている。うん、分かるよ。旅人にあるまじき軽装だもん。
「んじゃ、行こっか。」
「…………。」
ライアンは俺の格好が不安なのか、まるでブリキ人形のようなぎこちない動きで頷いた。それでも取り敢えず、男2人のむっさ〜い旅が始まった。
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バトランド城下町を出た俺たちは取り敢えず大河沿いを西に進んで対岸へと渡るトンネルを目指す。正直言って俺はイムルに行くのも、トンネルを通るのも初めてだ。ライアンの様子を見る限りではライアンも同様に初めてなようでちょっと不安である。
戦闘は基本的にライアンに丸投げする。ライアンは訓練では強かったようだが、三方を山、残りの一方を大河に囲まれたこのバトランドは外敵に攻められることも少ないために実戦経験が乏しい。しかも聞くところによるとライアンは近衛兵としての勤務が長く、城から出ること自体が少なかったそうだ。
それを自分も承知しているからこそ、魔物に出くわすと進んで戦おうとする。そして俺は楽ができる。うん、完璧!
そんな感じで突き進んでいたが、昼下がりになってトンネルが見えてきた頃、手強めな魔物達に囲まれた。おおみみず2匹とエアラット3匹である。
おおみみずは読んで字の如く全長2メートルで口には牙がついているどデカいミミズである。なんかぬらぬらしてるし、正直言って初見の時は引いた。対してエアラットは、まあ、耳を羽代わりにパタパタ飛んでる青いウサギだ。ただ、尻尾が長くて鞭のような材質でできている上に、先っぽには針が付いている。そして何より厄介なのはウサギらしくボッチが苦手なようですーぐ仲間を呼びたがる。マジで黙って孤独死してろ。
ライアンも流石に不味いと思っているのか、額には汗が滲んでいる。俺もバトランドを出て初めて腰に挿した木刀を引き抜いた。
「おいおいライアン、お前なかなかの疫病神だな。こんなにVIPな奴らに大勢囲まれるなんてなかなかレアな経験だぜ?」
"そんな冗談を言っている場合ではないだろう!?"とでも言いたげな視線をこっちに投げてきた。せっかく緊張ほぐしてやろうと思ったのに。
おっと、ライアンのマジな目見てたらこっちまで緊張してきちまった。俺だって他のネット小説のようなチートキャラなんかじゃあ全然ない。間違っても女のくせにサイコロステーキ量産したり、ハーレム作った挙句にラスボス戦で死んだフリしたり、原作知識を総動員して先回りして処理したりはできない………ってあれ?何言ってんだ俺。そんなネット小説知らねーぞ?
「ライアンはあのローショ○プレイなうなミミズども頼むわ。俺はこっちのボッチ寂しいウサちゃん相手にする。」
今度はライアンも素直に頷く。俺たちは魔物達に飛びかかった。
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一時間後、俺たちは満身創痍な状態で木陰で休憩していた。エアラットの寂しがり屋どもが仲間呼びまくって大変だったが、その度に「ぶるるるるあ!!」ってどこぞのセ○よろしく叫び回って木刀振り回して呼び声をかき消してやった。なお、ライアンはそんな俺を見てちょっと引いてた。間違っても戦闘狂じゃねーかんな!?それこそ○ルじゃねーんだから。
5分も休んで少し上がった息が落ち着いてきたところでライアンと自分にホイミをかけた。そして放ったらかしにしてた金貨も回収する。ライアンはまだ息が上がりっぱなしだったので、取り敢えず俺が持ってきたリュックの中から水筒取り出してライアンに渡した。
「ん?か〜たじけなぁい。」
「うぉっ!?喋った!!てか若○ボイス!?」
おいおい、もちろん初めて喋ったことにも驚いたが、まさか声も喋り方も○本規夫とは!道理でさっきからセ○のことしか頭をよぎらないわけだ。(←こじつけ)
「なぁ〜に言ってるかは知らんがぁ、物心ついた時にはこの口調でなぁ〜、人にはよく笑われたもんだぁ。」
しかもナチュラルボーンだよ。そのあまりにもの再現度に盛大に噴き出しそうになりながら確認を取る。
「じゃあ無口な理由って…………。」
「んあぁ、人に笑われるのが怖くてだなぁ。」
おい、ロ○エンタールにしろ松平片栗○にしろセ○にしろ○ーリックにしろ、こんな弱気な若本さんは初めて見たぜ。てかその声なんだったら俺が「ぶるるるるあ!!」言った時に引いてんじゃねーよ!!モロてめーのキャラじゃねーか!!
「それにしてもぃ、この声を聞いて笑わなかっのはお主がは〜じめてだぁ。」
ごめんなさい、心の中では盛大に笑ってます。ほんとすんません。今もだいぶ表情筋ピクついてると思うけど、ライアンが下見てるからギリ耐えてる。
「ちょっと失礼。」
ライアンに一声かけてライアンから少し距離を取った。そしてライアンからは見えないように、聞こえないように、盛大に噴き出してしばらく腹抱えて大爆笑した。無理、マジで耐えらんねー。しかもこいつとしばらく旅続けんだろ?さらにライアン俺に気ぃ許しちゃったからこれからは多分もうちょい頻繁に喋りかけられるようになるんだぞ?こいつは思ったより過酷な旅になりそうだ。
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この男と巡り会えたのは運命かもしれない。洞窟が間近に迫った時に現れたおおみみず2匹とエアラット3匹を見て、私は緊張に呑まれてしまった。しかし、ユリアンはいつもの様に自然体で、さらに気を紛らわせようと冗談を言ってくれた。
そしてこの戦いで初めて、ユリアンは腰の木刀を抜いた。その戦いぶりは決して派手ではないが、しっかりと相手の動きを読み切った上で効果的な一撃を叩き込む、外連味のないものだった。エアラットが仲間を呼ぼうとする度に意味不明な叫び声を上げていたが、それが呼び声を相殺して追加のエアラットが現れることはなかった。
それでもこれほどの敵を一度に相手取ることはユリアン自身も初めてだったのか、戦い終えた時にはあちこちに傷を作っていた。そして消耗も激しかったのだろう、散らばっているゴールドを無視して木陰に座り込んだ。ユリアンは素早く息を整えると、私と自身にホイミを掛けた上で、ちょうど喉が渇いていた私に水筒を投げ渡した。その優しさに、常日頃は喋らないように心掛けていたが、感謝の言葉が口に出てしまう。
笑われはしないかと冷や冷やしたが、彼は特に気にはしていないようだった。彼は少し席を外したが、すぐに戻ってきた。
「まあ、何かあったらすぐ言ってくれ。んじゃあ、トンネルに潜りますか。」
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木陰での小休止を終えた俺たちはついにトンネル攻略に乗り出した。とは言っても、魔物の強さは外と変わらないし、入り組んでいるとは言ってもそんなに複雑な構造でもないので、隅々まで探検してもわずか一時間ほどで反対側の出口に辿り着いた。途中で「これからイムルの村に行くところなのだ」と言いながらおんなじ所グルグル回ってる、明らかに道に迷った極度な方向音痴の兵士を見つけたが、俺は性格が悪いので出口の方向は教えてやらなかった。ライアンにはジト目で見られたけど気にしない。
そしてまあこういうファンタジー世界にはあるあるなんだろうけど、道中に宝箱なんて落ちてたりするのよ。俺が開けるのに躊躇してたらライアンが横から何のためらいもなくガバって開けやがった。
「おいおいおい、そんなの勝手に開けて大丈夫なのか?後で持ち主に訴えられたりしない?」
「なぁ〜にを寝ぼけたことを言っておるのだ?宝箱が落ちてたら中を検めるのが常識ではぁないかぁ〜。」
うん、その声で言われると「グラサン掛けてるやつは大体殺し屋だぁ」ってセリフ思い出して嘘っぽくて不安になるから本当にやめてほしい。ちなみにトンネル内には宝箱は2個あって、中身はそれぞれホイミと同じ効果を持つ薬草と40ゴールドだった。思ったよりショボかった。そりゃ取っても怒られねーわな。
まあそんなこんなで洞窟を出て、北東に進むこと2時間強くらい、ちょうど夕暮れ時に俺たちは取り敢えずの目的地であるイムルの村に到着した。