人理修復は、優秀なAチームのメンバーに任せておけばよいのだろう? 作:ねっく。
・2部5章が未プレイになっている都合上、ネット等で情報を集めてから更新はしたものの、公式設定と『おじさん』の設定が矛盾するところが出てくる可能性があるだろう。
・例によって主人公は、残念だろう。
先ほどまで2人して気の抜けたやりとりをしていたわけだが、その間黒い影は攻撃を仕掛けようとも、この場を離脱しようともしなかった。
いや、恐らくだが、できなかったのだろう。
改めて、おじさんを自称する彼をよく見ると、ふざけた振舞とは裏腹に目線はしっかり僕の方ではなく黒い影を捉えている様子。
下手に動けなかったのだろう。
更に言うなら立ち姿も……立ち姿は力が抜けてリラックスしているどころか、今にも崩れそうな勢いだ。正直、隙だらけに見える。
(あの黒い影、何故あそこまでおじさんとやらが異様に隙だらけに見えるのに一向に攻撃を仕掛ける様子がないんだ?まさか、いや、まさかだが。無いとは思うが!……もしや味方同士なのか?)
そのあまりに落ち着いた様子にはさすがの僕でも、困惑せざるを得なかった。
ただでさえ、僕がやられかけて声をかけるまで現れなかった奴を信じるなんて、常識的に考えて不可能。
しかも、特異点とされてるとはいえほぼ現代に近い時代で、現代らしからぬ量の神秘を纏った攻撃を受けて混乱もしていたのだ。
だから、
「Tuulen kanssa!」
彼を置いて、逃げてしまってもそれは仕方のないことだ。
「ちょ、ちょっと待って。
そこはオジサンと契約する流れじゃないの!?」
まさか、自分のことを呼ぶだけ呼んでおいて、逃げ出すとは思っていなかったのだろう。
焦ってる様子だがもう遅い。
この魔術を唱えて加速している僕には、それこそ同じ魔術師か、人外クラスの脚力を持っていなければ、追いつくことすら叶わない。
自身の属性に根差した簡易な魔術であるために2節で十分な効果を発揮する上に、他の属性とは比べ物にならない使いやすさと性能を兼ね揃えている。まさに僕のような人間に相応しい、ノウブルと呼ばれる程希少な属性。
いくらこの特異点で魔術師相手に平然と契約を持ちかけてくる程怪しいおじさんとはいえども、簡単に追いつくことはできまい。取り敢えず、最初の目標地点だった武家屋敷は一旦諦めて、他所に行くとしよう。足が怪我をしている以上、加速も長くは使い続けられないし、治療も必要。身を隠さなくては。
そんなことを思い、距離を開くために最後の加速しようと魔術を唱える直前だった。
「オジサン、待ってって言ったんだけど……聞こえてなかったのかねぇ?」
加速して駿馬が草原を駆けるような速さで突っ走っていたはずの僕が、その声を聴いた途端、まるで体を見えない糸で縫い合わせられてしまったかのように動きを止めてしまったのだ。
犯人は恐らく、おじさんを自称する彼。
金縛りにでもあったのか、冗談のように動けない。
息すらできているのか分からなくなるほどに、感覚が、ない。
いや、只者ではないと思ってはいたのだよ?いたのだけれども、これは想定外だ。完全に嘗めていた。今の僕は、彼の殺気による極度の緊張からか、魔術的に神経に干渉されているからなのか全く分からないが、まさに俎上の魚。
おまけに、どういった思惑なのか判りかねるが、持ちかけた「契約」に誠実ではないであろう者に悪感情を抱いたであろうことは明白だ。
どうするどうするどうする。
目の前まで歩いてきて、こちらの顔を覗き込む彼は顔こそ笑っているが目が、完全に被検体を見る錬金術師そのものだ。
このままでは、魔術を使えるならこちらは彼の傀儡になるかもしれないし、運が悪いと死んでしまうかもしれない。
恐らく近くには、先ほどの黒い靄のかかった影もいる。時間は敵だ。こういう時にもたもたしていては、不利になる。幸いにも口は動いた。
「ま、まさか、僕を止められるとは。さ、流石だね。
い、いやぁ、正直ね、僕が契約するに足る存在なのか、試していたんだよ。
僕を引き込もうとする奴は、た、たっくさんいるから、ね?
一人一人と話してたら、ほら、そ、そう!キリがないだろう?
でも君には、試す、だなんて~、不要、だったようだね!
ま、全く、僕としたことが、無粋なことをしてしまった。か、勘が鈍ったかな?
さてさて、それはさておき!だ。
君の言っていたあの契約、とやらについて、聞かせてもらおうじゃないきゃ!
……か、噛んだ」
いや、幸いじゃなくてこの場合は不幸だった。
何がまずいって、全く自分の立場が分かってない小者の発言になっていることだ。これではまるで…………まるで、自分がすごく馬鹿で間抜けな小悪党みたいじゃないか!それも油断を誘うためにわざと演じて作ってるキャラクターなんかにはとても見えない。真正のやつだ。
じょ、冗談じゃない。まず、もしそう認識されたとしたら、酷く自分のプライドが傷つけられるし、屈辱感と自己嫌悪が半端ではなくなってしまう。そして、あまりに愚かすぎると、見限られて交渉のテーブルにすら乗せてもらえない可能性もある。
とはいえ、もう口から言葉がこぼれてしまった以上、どうしようもあるまい。あとはひたすら、聖堂協会の言う神とやらに祈る他ない。
(イエス様、キリスト様、主様、とにかく神様、お助けぇ!)
僕の言葉を聞いた後、オジサンは、出来の悪い人形のように感情が伺いにくい表情となり、なにかを考えていたが、すぐに元の顔に戻ると話し始めた。
「いやぁ、正直オジサンさぁ、他に探そうと思えば契約相手、探せるのよ。
さっきオジサンを試したことにしたみたいだけど、普通に捨て駒にしようとしたでしょ?
そのせいで、信用できなくてねぇ。いやぁ、困ったなぁ。
アレさえ書いてくれたら、安心して契約の話もできるんだけどなぁ」
こ、こいつ……。
僕に向かって、馬鹿で間抜けな小悪党の扱いをするとは、生意気じゃないか。
この、なんというか、見下したような態度だとか、こっちを弄ぶようなチラつかせ方。
なんだかもの凄く屈辱的だ。
っと、今重要なのはそこではない。彼は、
書けば、契約の話をするといったが、だからといって少なくともすぐに殺されることはないだろうというのは楽観だろう。
聞く前から、寒気がしてくる。どちらにせよ、こちらとしては選択肢などないに等しいわけだが。
とはいえども、こちらとしては、先ほど大失敗したとはいえ、そう簡単に不利な状態で話を聞くのは面白くない。そもそも、追い詰められたところを敵との間にわざわざ入ってやってなお、話も聞かずに逃げようとした僕で妥協する気を見せてくることが引っかかる。
普通は、自分で言うのもなんだがそこまで強くなさそう(魔力量的に)でしかも小物(に見えているであろう)相手にそこまで時間を割かない筈。
恐らくだが、他に探そうと思えば、契約相手を探せるというのは嘘ではないが、契約相手の候補がいる、という言い方ではなく、探せるという言い方をするということは、現状僕以外の相手候補がいないということではないだろうか。
しかも、この燃え盛る街だ。なんの契約かは分からないが、それができる相手も限られてくるだろう。もしかしたら、特異点ということだから、この災害のような現象によって、契約相手になり得る者たちが大量に死亡している可能性もあるのではないかとも考えられる。
つまり、次の相手が見つからないかもしれないという危機感を煽ることで、
「とりあえず、その
先ほどは、冷静じゃあなかったが、今は違う。
行動の指標は決まった。あとは、その通りに動くだけだ。
「おっ、乗ってくれるかい?
いやぁ~手間が省けて助かるねぇ。
オジサン、嬉しいよ。」
「そうかい。それは何よりだ。
で?条件は?正直、此方も時間が潤沢にあるわけではない。
手早く済ませられるなら、そうして欲しい。」
少し、この期に及んでも、ふざけた態度を変えないのは気に食わないが、目は笑っていないままだ。恐らく、内心では真剣に話すべきことを整理しているに違いない。
「……一、互いの背中を刺すような行為全般の禁止。
二、積極的にこの魔術的行事に発生した問題の解決へと乗り出すこと。」
ここまで脅したりしてきた割には、内容が大したことなかった。
「ちょっ、ちょっと、待った!待ってくれたまえよ。
勿体ぶった言い方をしておいて、それだけなのか?」
「いやぁ、用心深く厳しい条件を設けたところで、
君が同意してくれないなら意味がないだろ?
そも、おじさんの目的はあくまでこの事態の解決なんだよねぇ」
勿論、1も2も文言がアバウト過ぎて範囲が曖昧であり、途中でこちらに不都合が生じても裏切れなかったり、特異点の問題が手に負えず逃げ出すみたいなことができなかったりするが、曖昧ということは一般的に魔術的な拘束力も大して高くはならない。
要するに、これからこうしようと思う!と宣言をするだけみたいな形に近くなるということだ。
あ、いや、
だが、今明らかに立場が下に置かれている状態にしては控えめな条件に思える。
それにどうせ彼とはこの特異点限りの付き合いだろう。
何故なら僕は意地でもカルデアに帰るからな。
こんなところでまともな生活をできるわけがない。
ということは、だ。
この条件割とアリなのでは?
「いや、ちょっと待ちたまえ!
これだと此方が一方的に条件つけられてるだけ。
到底まともな契約とは言えないぞ!
悪魔なら、もっと人間の破滅を誘いやすくするように、
巧く良条件にみえるものを提示するべきではないのかね?」
僕に動揺が残っていてまともに思考できてないとでも思ったのだろうか。まったく油断も隙もありやしない。
「……君が途中で遮ったから言えなかっただけなんだがねぇ。
まぁいいか。んじゃ、最後ね。
三、一・二に対する同意を確認したことを以て、
オジサンはサーヴァント契約の締結を行い、
この場において君をマスターと認め、
守護するために槍を振るうことを約束する
これで契約、結べるか?」
ん?今、ものすごく聞き覚えのある単語が出てきたような……。
この口ぶり、魔術を使っている様子がないのにも関わらず、常軌を逸している身体能力。まさかとは思うが、
「……もしや、君、話に聞く英霊の模倣品。
サーヴァントとやらだったりしないか?」
「え?もしかしておじさん、ホントに悪魔だと思われてたの?」
ま、まずい。サーヴァントとはいえ、英雄の霊なんて化物、僕が手綱を握れるわけないじゃないか!しかも、英雄の模造品とか思わず口走ってしまったし、模造品は模造品でも現代まで語り継がれる程の偉業を成し遂げた英雄の模造品なんだから、僕が力関係で優位に立てるとはとても思えないぞ。というか、ここ沈黙してたら本当に気づいてなかったことがバレて僕への評価が落ちて、結果的に侮られていいように使い捨てられて終わるんじゃ、な、何か言わないと
「……そ、そんなわけないだろう?
ジョークだよ、フィンランドジョークッ!!!」
自身の中から、とびきりの笑みととびきりの明るい声を引き出して誤魔化しにかかった。
「いや、ジョークと言うには引っ張り過ぎじゃないか?」
秒で看破された。
「そ、そういえば、あの紫の靄に包まれた黒い影はどうなったのだ?あの影が近くにいるのならこんな呑気に会話を繰り広げている場合じゃないと思うのだが」
今この瞬間のみ冴え渡った脳は即座に話題転換を選択。
こういう時は逃げの一手を打つべきだ。
「あぁ、あれならもう追ってこないぞ。
おじさんが邪魔されないように仕留めておいたからな。」
残念、一秒で話が終わった。
……って
「ちょっと待ちたまえ、
あの得体の知れない影がそんなにあっさり倒せるものなのか?」
「倒せるものなの。
さぁさぁ、無駄話している間にもおじさんは消滅の危機に瀕しているんだ。
早いこと承諾してくれないと、
あの影みたいなのがあと5人はいる町を君一人で彷徨うことになるんだけど、
それでいいのかい?」
ちょっと待った。あんな黒い靄を纏った影があと5人?
いや、ちょ、よく見たら彼の体が透明になって光の粒子みたいなのが、散り始めてるじゃないか!
「契約は結ぶっ!結ぶから、とっととやり方を教えてくれたまえ!
一人でこんなところをうろつくなんてたまったもんじゃないぞ!」
僕は慌てて、おじさんを自称する彼、と契約を結ぶのであった。
そして、
=契約違反時の罰則対象はテオドールのみ(ゑ!?)
テオドール君の残念さが滲み出る。
別に必ずしも裏切られるとは限らないけども!