俺/私は目を覚ました。
俺の名前は朝田、日本国の外交官だ。某国との交渉のため、連日徹夜で準備をしていた。
日本が異世界に転移して以来、ずっとすっぽかしていた健康診断を先日受けた。そうしたら要精密検査という結果が出たが、忙しくて受けていない。ついさっきまで交渉の準備をしていたはずだが……ここは宿泊先のホテルではない。
ここはどこだ?
いや、なんとなく見覚えがある。この部屋にではない。この部屋の、そう様式には。どこの国だったか?
記憶を手繰ろうとすると、ものすごい頭痛に襲われた。なんだろう、この違和感は? まるで自分の頭の中に、異物があるようだ。
不意に健康診断の結果を思い出した。不安に襲われる。自分に何が起こっているのか? 部屋を見回すと大きな鏡がある。姿見のようだ。なんとかベッドから立ち上がって、鏡の前に立つ。
「……なんだ、これは!?」
俺の前に立っていたのは俺ではない。だが全く知らない人間ではない。よく知っている、どちらかといえば忘れてしまいたい人間だ。
「これが俺?」
頭が混乱する。一体どうなったんだ? ふと『転生』という言葉が浮かぶ。俺は過労死して、別人に転生したのか? 普通ならナンセンスで片付けられるが、そうはいかない。現に俺は別人になっているし、日本だって転移した。転移がありうるのなら、転生がどうして否定できる?
「……しかし、なぜ、コイツなんだ!?」
俺は神に会っていない。だから神がいるのかどうかは知らない。もし神がいるのなら呪ってやりたい。
誰かがドアをノックする。俺は固まってしまう。再びノック、そしてドアのむこうから声が聞こえる。
『レミール様、第1外務局に行くお時間です』
「わかっている。すぐ行く」
私/俺は勝手に答えた。そして姿見の前で服装を整える。
どういうことだ? 俺の意思とは無関係に体が勝手に行動している。
私/俺は私室らしいところを出る。間違いない、パーパルディア皇国の建物だ。やはり今の俺はレミールになっているのか?
俺の頭に『多重人格』という言葉が浮かぶ。俺自身は体験してないが、この状況はそれらしい。俺という人格が、レミールという人間にいる。そしてレミール本人の人格もいる。今、体を操っているのは、レミールの人格らしい。
私/俺は建物の中を移動する。思い出した。レミールが外交を担当している間は、皇宮の一部を外務局のオフィスに使用していたはずだ。そこに向かっているのだろう。
予想通り、執務室らしい部屋に入った。他と比べると豪華な席に座ると、さっそく職員が書面を持ってきた。
「これが本日、日本に突きつける要求です」
「うむ」
俺は私の目を通して、その内容を読んだ。
〇 日本国の王には皇国から派遣された皇国人を置くこと。
〇 日本国内の法を皇国が監査し、皇国が必要に応じ、改正できるものとする。
〇 日本国軍は皇国の求めに応じ、軍事力の必要数を指定箇所に投入しなければならない。
〇 日本国は……
そうか、わかったぞ! 今は
俺という人格は日本人だ。体は皇国人かもしれないが、自分は日本人のつもりだ。エゴに聞こえるかもしれないが、皇国人が六〇万人死のうが六兆人死のうが俺の知ったことか。だが二〇三人の日本人は救いたい。