俺は目を覚ました。
「朝田さんが居眠りなんて、珍しいですね」
隣の同僚から声をかけられる。
俺は周囲を見回す。外務省の省舎だ。そしてここは俺の席だ。
「どうしたんです? 悪い夢でも見たんですか?」
「……まあ、そんなところだ」
まさか……
俺は机の上に封筒があるのに気づく。まだ封を切っていない。俺は封を切って中身を取り出す。
それは健康診断の結果だった。結果はもちろん『要精密検査』。
だが何故、封を切っていなかった?
俺は仕事用のPCのカレンダーで今日の日付を確認する。俺が過労死する二ヵ月前だ。
これはどういうことだ?
俺は席を立って自販機のコーナーに行く。自販機で紅茶を買う。以前の俺はコーヒー党だった。だが転移してからは紅茶党に転向せざるを得なかった。コーヒーは今でも出回っているが、国家公務員の薄給では手が出ない。
熱い紅茶を飲みながら、頭を整理する。
あの転生の記憶がすべて夢だというのが、一番ありそうな話だ。だがそれだと説明がつかないことがある。俺は寝ている間に、過去へタイムスリップしたことになる。
夢オチ説なら転生は説明(というより回避)できる。だがタイムスリップという、更に厄介な問題を抱えてしまう。
いっそのこと、前世(前々世というべきか?)の過労死の記憶も夢だったのか? ……いや、俺は封を切る前の健康診断の結果を知っていた。……今度は予知夢か。夢と現実が偶然一致した可能性もあるが、そう決めつけるのは早計だろう。
では転生を認めたとしたら、どうなるだろうか? タイムスリップを回避できるのか? ……できる!
俺/私は皇帝の執務室で気を失ったとき、死んだのだ。そしてもう一度、転生した。今度は……朝田に!
できすぎた話だとは思う。だが一応は説明がつく。
転生とタイムスリップ、どちらが正しいのか? 確認する手段は……あった!
俺は自席に戻る。仕事用のPCを使って、省内のイントラネットにアクセスする。フェイクニュースが飛び交うインターネットを使う理由はない。
検索で『フェン沖海戦』を調べる。見事にヒットした。その内容は俺の記憶通りだ。
次に『ニシノミヤコの悲劇』を検索する。今度はヒットしない。その代わり幾つかの候補が表示された。俺はその中から『ニシノミヤコ事変』を選んで閲覧する。
『ニシノミヤコに侵攻したパーパルディア皇国軍は、ニシノミヤコに滞在していた日本人二〇三名を人質として、日本に植民地化を迫った。だが人質は「フェン王国の戦い」で、捕虜交換により解放された』
「……クックックックッ」
俺はこみあげてくる笑いを堪えようとしたが、完全にはできなかった。周囲の同僚の視線を集める。でも仕方ないだろう。だって、俺の外交官人生最大の黒歴史が消せたんだ!
俺は引き続きパーパルディア皇国の歴史を調べた──そして悲鳴を上げてしまった!!