悪役転生にもほどがある!   作:無虚無虚

11 / 11
ラスト・エンペラー

「レミールが皇帝!!!」

 俺は思わず立ち上がって叫んでしまった。周囲にざわめきが起きる。俺はバツの悪い思いをしながら、椅子に座る。

 どういうことだ!? レミールが死んだから、俺は朝田()に転生したんじゃないのか?

 俺はパーパルディア皇国の歴史を詳しく調べる。

 

1640年2月3日 『フェン王国の戦い』の後、パーパルディア皇国はカイオスを全権特使として日本に派遣。

2月10日 カイオスは日本側の要求を全面的に受け入れて、パーパルディア─フェン・日本連合は停戦。

4月28日 パーパルディア皇国軍の艦隊がアマノキ沖に出現、『アマノキ沖海戦』が発生。

      『アマノキ沖海戦』でパーパルディア皇国軍は艦艇の9割を喪失。日本側の損害はゼロ。

5月22日 日本は報復としてアルタラス島を攻撃(『アルタラス島の戦い』)。

      『アルタラス島の戦い』は1日で終了。属領統治軍は全滅。日本側の損害はゼロ。

      ルミエス王女を首班とした新アルタラス王国が再独立。

6月11日 駐パーパルディアのムー大使、ムーゲの仲介で停戦交渉が始まる。特使はエルト。

6月21日 パーパルディア皇国と日本は停戦で合意。この合意によりルディアスは退位、レミールが女帝として即位する。

 

 そうだ。ルディアスは「黙らせろ」と言った。「殺せ」とは言っていなかった。

 さらに調べてみたところ、レミールは皇帝の執務室でガツンとやられたとき、仮死状態になったらしい。その後の救命措置で一命をとりとめたようだ。だがスパイ容疑をかけられたレミールは、あの地下牢に幽閉されてしまった。

 二度目の停戦合意で、日本はルディアスの退位を条件に盛り込んだ。一度約束を破ったのだから、当然だろう。

 新皇帝に即位したのが、レミールだった。パーパルディア側から見れば、レミールは日本びいきだし、日本側も「ルディアスよりはマシ」と判断した。

 その後、パーパルディア皇国と日本の間に戦争は起きていない。

 だが今のパーパルディア皇国は行き詰っているようだ。周辺国がこぞって日本と同盟や友好条約を結んだため、これまでの拡張政策が続けられなくなった。属領からの搾取で成り立っていた経済は停滞し、財政を大幅に縮減せざるを得なくなった。

 だがレミールは未だに恐怖支配の呪縛から逃れられないらしい。軍事予算は削ったものの、軍縮はしなかった。その結果兵士の待遇は悪くなり、士気が落ちた。それが属領からの搾取や組織の腐敗に拍車をかけた。

 アルタラス王国の再独立を見て、反旗を翻す属領も現れ始めた。あちこちで内戦が起き、クーズ、マルタ、アルークの実効支配を失っている。なおも内戦の火は広がっており、日本戦で数が減り、士気と練度の落ちたパーパルディア軍にこれを止める力はない。

 どうやらレミールは、ラスト・エンペラーになりそうだ。

 

 俺は確かに歴史を改竄(かいざん)した。それによって日本人二〇三人の命は救われた。だがまだ救わなければならない日本人が一人いる。

 俺はポケットから私物のスマホを取り出す。規則違反だが、この程度は大目に見てもらおう。何しろ人命が懸かっているんだ。

 スマホで病院を検索して、近所の病院で人間ドックの予約をする。これで良し、スマホをしまう。

 次に仕事用のPCに向かう。休暇申請のページを開き、フォームに入力、終わったので上司に送信する。

「朝田くん」

 おっと、さっそく課長に呼ばれた。

「何でしょう?」

「休暇申請だが……」

「健康診断で『要精密検査』と言われたんです」

 俺は健康診断の結果を課長に見せる。

「今君に抜けられると痛いんだが……そういう理由じゃ仕方ないか」

 課長は『承認』ボタンをクリックした。

「君は疲れているようだ。今日は定時で帰りたまえ」

 俺の奇行は課長も見ていたらしい。構うものか、こうなったら溜まった有給休暇を全部消化してやる。

 うっかり過労死して、今度はシエリアにでも転生したら大変だからな。




朝田さんは精密検査の結果、脳動脈瘤が発見されましたが、内視鏡手術で事なきを得ました。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。