「レミールが皇帝!!!」
俺は思わず立ち上がって叫んでしまった。周囲にざわめきが起きる。俺はバツの悪い思いをしながら、椅子に座る。
どういうことだ!? レミールが死んだから、俺は
俺はパーパルディア皇国の歴史を詳しく調べる。
1640年2月3日 『フェン王国の戦い』の後、パーパルディア皇国はカイオスを全権特使として日本に派遣。
2月10日 カイオスは日本側の要求を全面的に受け入れて、パーパルディア─フェン・日本連合は停戦。
4月28日 パーパルディア皇国軍の艦隊がアマノキ沖に出現、『アマノキ沖海戦』が発生。
『アマノキ沖海戦』でパーパルディア皇国軍は艦艇の9割を喪失。日本側の損害はゼロ。
5月22日 日本は報復としてアルタラス島を攻撃(『アルタラス島の戦い』)。
『アルタラス島の戦い』は1日で終了。属領統治軍は全滅。日本側の損害はゼロ。
ルミエス王女を首班とした新アルタラス王国が再独立。
6月11日 駐パーパルディアのムー大使、ムーゲの仲介で停戦交渉が始まる。特使はエルト。
6月21日 パーパルディア皇国と日本は停戦で合意。この合意によりルディアスは退位、レミールが女帝として即位する。
そうだ。ルディアスは「黙らせろ」と言った。「殺せ」とは言っていなかった。
さらに調べてみたところ、レミールは皇帝の執務室でガツンとやられたとき、仮死状態になったらしい。その後の救命措置で一命をとりとめたようだ。だがスパイ容疑をかけられたレミールは、あの地下牢に幽閉されてしまった。
二度目の停戦合意で、日本はルディアスの退位を条件に盛り込んだ。一度約束を破ったのだから、当然だろう。
新皇帝に即位したのが、レミールだった。パーパルディア側から見れば、レミールは日本びいきだし、日本側も「ルディアスよりはマシ」と判断した。
その後、パーパルディア皇国と日本の間に戦争は起きていない。
だが今のパーパルディア皇国は行き詰っているようだ。周辺国がこぞって日本と同盟や友好条約を結んだため、これまでの拡張政策が続けられなくなった。属領からの搾取で成り立っていた経済は停滞し、財政を大幅に縮減せざるを得なくなった。
だがレミールは未だに恐怖支配の呪縛から逃れられないらしい。軍事予算は削ったものの、軍縮はしなかった。その結果兵士の待遇は悪くなり、士気が落ちた。それが属領からの搾取や組織の腐敗に拍車をかけた。
アルタラス王国の再独立を見て、反旗を翻す属領も現れ始めた。あちこちで内戦が起き、クーズ、マルタ、アルークの実効支配を失っている。なおも内戦の火は広がっており、日本戦で数が減り、士気と練度の落ちたパーパルディア軍にこれを止める力はない。
どうやらレミールは、ラスト・エンペラーになりそうだ。
俺は確かに歴史を
俺はポケットから私物のスマホを取り出す。規則違反だが、この程度は大目に見てもらおう。何しろ人命が懸かっているんだ。
スマホで病院を検索して、近所の病院で人間ドックの予約をする。これで良し、スマホをしまう。
次に仕事用のPCに向かう。休暇申請のページを開き、フォームに入力、終わったので上司に送信する。
「朝田くん」
おっと、さっそく課長に呼ばれた。
「何でしょう?」
「休暇申請だが……」
「健康診断で『要精密検査』と言われたんです」
俺は健康診断の結果を課長に見せる。
「今君に抜けられると痛いんだが……そういう理由じゃ仕方ないか」
課長は『承認』ボタンをクリックした。
「君は疲れているようだ。今日は定時で帰りたまえ」
俺の奇行は課長も見ていたらしい。構うものか、こうなったら溜まった有給休暇を全部消化してやる。
うっかり過労死して、今度はシエリアにでも転生したら大変だからな。
朝田さんは精密検査の結果、脳動脈瘤が発見されましたが、内視鏡手術で事なきを得ました。