私/俺の前に
意外というか、予想通りというべきか。転生した俺/私は、転生前の俺と会っている(正確には篠原もいる)。
参ったな、自分自身と交渉するとは。こんな滑稽な話があるか。
いや、二〇三人の日本人の命が懸かっているのだ。滑稽でも重大だ。
「な……! 何ですか!? これは!!」
俺は交渉相手の視線から、初めて自分自身を見た。いやはや、こんなマヌケだとは思わなかった。
「我々は民主国家で、そして平和主義国家です。属国にされるいわれもありませんし、攻め込まれるというのでしたら防衛するしかありません。どうかお考え直しください」
「皇国の国力を知らぬ、愚かな抗議だな。お前たちの……」
私/俺が勝手にしゃべる。拙いぞ、このままだと処刑が始まる。なんとか体のコントロールを横取りしないと。どうすればいいんだ?
「お言葉ですが、成熟した先進国であれば当然のことかと思います」
「何が先進国だ。所詮は文明圏外の国家であろうが。それが……」
念じてみる……駄目だ。念じ方が足りないのか? やり方が間違っているのか?
「お前たちは皇国の国力を認識できていない。もしくは……」
(ステータス!)
俺は心の中で呪文を唱えてみる。何か見えるかと思ったが、何の変化もない。
──パチン
私/俺が指を鳴らす。拙い、拙すぎる!
「に……日本人を!!」
「そうだ。お前たちの返答次第で、こやつらを見逃してやってもよいぞ?」
「卑怯です。彼らはフェン王国に観光に来ていただけだ! 何の罪もない人々の首に縄を……人道に反する行為だ!! 即時解放を要求する!!」
馬鹿! 熱くなるな、
「要求する? 蛮族が皇国に要求するだと!? 立場をわきまえぬ愚か者め!!」
私/俺は通信用魔法具を取り出し、ただ一言命令する。
「処刑するな!」
一同は呆気にとられる。不覚にも俺自身も。どうやら瀬戸際でコントロールを横取りできたらしい。
そこまでは良かったが、俺は次の台詞を考えていなかった。
交渉とは他人と行うものだ。俺と
だがこの状況は普通ではない。
いっそのこと、俺が皇帝に転生していたら、話は簡単だった。だが現実は外交担当者に過ぎない。皇帝の意に背いた合意をしても、それはひっくり返されるだろう。皇帝に日本人を処刑しない方が得だと納得させなければならない。
なんてこった! 俺は日本の外交官なのに、今はパーパルディア皇国の国益を考えて発言しなければいけないのか!
「日本人は処刑せずに、人質にしろ」
俺がとっさに出した結論はそれだった。最善ではないかもしれないが、最悪ではないはずだ。人質として交渉のカードに使うという論理なら、なんとか皇帝も受け入れられるかもしれない。
「……日本人の安全は保証されるのですね?」
「それはお前たちの心がけ次第だ」
これで良かったのか?
「私たちは全権大使ではない。あなたの発言を本国に伝えて、指示を仰がなければならない。その時間は頂きたい」
「蛮族は蛮族らしく、せいぜいあがくがよい」
こんな台詞を口にするのは心が痛い。だが俺はレミールを演じなければいけない。
こうして最初の会談は終わった。