『フェン王国の戦い』があるはずの日、第1外務局長の執務室で
エルトが皇軍の定時連絡の報告書を読みながら発言する。
「間もなく皇国皇軍陸戦隊がアマノキを落とす頃ですね。竜母艦隊と連絡がつかないという内容が気になりますが……」
「どうせ魔導通信機の故障だろう。アルタラス王国から連戦だからな。フェン王国を落としたら休ませてやれ」
「ありがとうございます」
アルデが
エルトがふと思い出したように報告書を置いて、
「レミール様、本当に現地の日本人観光客は処刑してもよろしいのですか?」
「よい。今度はもっと多くの日本人を確保できるだろう。事前情報では三千人程度と言ってたか? 蛮族はしっかりと教育しなければわからんようだからな。……ニシノミヤコでは甘すぎた。アルデよ、まとめて殺してよい」
「承知しました」
「で、あとのことだが──」
──コンコン。
扉がノックされ、エルトが入室を促す。
「どうぞ」
「しっ、失礼します!」
この前の男(ハンスという名前らしい)が汗まみれで入室してきた。
彼の顔色が悪いせいか、エルトとアルデが顔をしかめる。
「どうしました?」
「本会合に関係ある内容でしたので、会議中に失礼とは思いましたが、文書をお持ちしました」
ハンスは報告書の概要を、口頭で説明する。
「ムーがフェン王国の戦いに関し、日本側へ観戦武官を派遣した件について、ムー大使に事実確認と意図を調査した結果の報告書になります」
どうやら皇帝は、この件は知らないらしい。
「結論から申し上げますと、ムーはフェン王国の戦いでは日本が勝つと判断しています」
「なっ──」
「何ぃっ!?」
おーお、なんか急に空気が重くなったな。ムーの予測ってそんなに当たるのか? まあ当たっているんだが。
「まさか……」
沈黙を破ったのはアルデだった。
「もしかすると──これは仮説ですが、日本は元々皇国と全面戦争をするつもりだったのでは?」
はぁ?
「最初から……軍祭以前からか?」
アルデは
「艦船数千隻、そして十万を越える陸戦力がすでに準備済みだったのでは。フェン王国の軍祭の日に、観察軍が来ることも想定済みだったのでしょう。軍では、日本に砲艦があると分析しています。つまり技術水準は文明圏国家並みで、圏外国家としては突出して高いと思われます」
おいおい、陰謀論かよ! 斜め上にもほどがあるだろう。だいたい自衛隊にはそんな数の戦力はないぞ。
「しかし……ムーは何か情報を掴んでいたのか……」
──コンコンッ!
アルデの呟きに誰かが反応する前に、今度は強めのノックの音が響く。
「緊急の要件につき失礼します!!!」
ハンスと同様に、汗にまみれた若い男が入室してきた。
「フェン王国に派遣していた皇軍は、戦列艦隊、竜母艦隊が全滅! 陸戦部隊は三分の二が喪失! 揚陸艦隊と残った陸戦部隊一千名は降伏! ニシノミヤコ守備隊は、日本とフェン王国連合軍に包囲されて孤立しています!」
「な……何ですって!?」
「ば……馬鹿な!! 何かの間違いではないのか!?」
──パリンッ!!
食器の割れる音がする。
音の主は、立ち上がった
「蛮族ごときに……局地戦とはいえ、この皇国が敗れただとぉ!? アルデェ!!
それはお前もおなじだろう。
「も……申し訳ございません!!」
「戦で相手の戦力を分析し損ねるとは、何たる失態かッ!! 貴様、それでも指揮官か!!!」
お前が言うか、お前が?
「軍を再編制して万全を期します。もう皇国が負けることはございません!! すぐに準備に取り掛かります!!」
アルデはそれだけを言って、逃げるように退室しようとした。
さて、ここで横取りだ。かなり練習して確実にできるようになった。
「待て!!」
可哀そうに、アルデがビクッとして立ち止まった。
「日本軍に使者を出せ」
「使者……ですか?」
「そうだ、捕虜交換だ。ニシノミヤコに捕えている日本人と、降伏した陸戦部隊の生き残りと揚陸艦隊を交換するのだ。そしてすべての生き残りを、揚陸艦隊で本国に帰還させろ」
アルデとエルトが目をパチクリさせている。どうやら普段の
「帰国した生き残りから聞き取り調査をするのだ。なぜ負けたのか分からなければ、勝てるはずがなかろう!」
「はっ! 直ちにそういたします!!」
アルデは今度こそ退室した。
「私はこのことを陛下に報告する」
ここで俺はコントロールを手放した。