「もう報告書は読まれたと思いますが──」
「──結果、皇軍はフェン王国攻略に失敗しました。本来なら日本に宣戦布告し殲滅戦を行うところですが、不気味なのがムーです」
皇帝は興味を惹かれたのか、わずかに身を乗り出した。
「些事と思い陛下にはご報告していなかったのですが、ムーはこの戦いに観戦武官を日本に派遣したのです」
「なんだと……」
見るからに皇帝の機嫌が悪くなる。
ちなみにルミエス王女の放送はまだない。日本政府は人質の命を重視して、パーパルディア皇国との全面戦争には踏み切れないでいるようだ。
皇国人が六兆人死のうが知ったことか、なんて思ったが、平和主義は思ったより俺の身に染みついているらしい。全面戦争を回避したいという欲が出てきた。それに俺は歴史を
「ご報告を怠った責めは、私が負います……」
「それは後でよい。それより申せ、なぜムーを警戒するのかを。観戦武官の件だけではあるまい」
さて、ここからは俺が考えたでっち上げだ。果たして通用するか?
「文明圏外国が列強に勝つなどあり得ません。列強に勝てるとしたら、それは列強ではないでしょうか?」
「……ムーが裏で糸を引いているというのか?」
「これはまだ憶測でしかありません。しかしムーが日本が勝つと予測していたのは間違いありません」
皇帝が目で続けろと促す。さすがに眼力が怖い。
「ムーは自国の兵器を供与するなどして、日本を援助していたのではないでしょうか?」
「なるほど、自国の兵器が他の列強にどれだけ通用するかテストしたというわけか。地政学的に見れば、皇国とムーの間には第一文明圏という緩衝地帯が存在する。こちらから手は出せない……
よしよし、食いついてくれた。これでムーの大使を呼び出して、大使から日本の実情を伝えてもらえれば……
「だが憶測なのだろう。ムーに対して行動を起こすのは、まだ早い」
そうは上手くいかないか。
「私の判断で、ニシノミヤコの日本人と陸戦部隊の生き残りを捕虜交換することにいたしました。生き残りから聞き取り調査をすれば、ムーの兵器が使われていたか分かるはずです」
「……フェン王国を諦めろと申すか?」
「も、申し訳ございません!」
しまった、地雷を踏んだか?
「……いや、それでよい。すみやかに調査し、報告せよ」
「承知しました」
どちらも引くに引けない殲滅戦だけは回避できたか。