Masked Rider EVOL 黒の宙   作:湧者ぽこヒコ

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???「――やつの素性は掴めたのか?」

???「はい。人間関係もおおよその所、把握致しております」

???「……そうか。やっと、か……」

???「はい……周りから接触していきます」

???「……くれぐれも、失敗はするなよ。わかってるな?」

???「はい……全ては仰せのままに……」




phase,9 小悪魔なアイツ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

暗く暗く、深遠たる世界。

存在するは、あの日の契りを交わした者のみ。

 

 

 

そこはかとなく、終わりはなく。

ただただ虚ろに煌めく。

 

 

 

 

 

 

その眼には、何が映る――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――そうか。やはりバレていたか。想像よりも早かったな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コーヒーがよく似合う中年。

暗黒を啜る様はまるで絵画のよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぁ、すまない。もう少し隠し通せると思ったのだが……奴らめ。意外とやるものでね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

白衣を着た男性。顔には深い皺が刻まれている。

おそらく長年の、苦悩の現れ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いいさ。遅かれ早かれわかることだ……しかし、どう動くかな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

明るく呟いてはいるが、その眼差しは厳しい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おそらく……周囲に正体をばらす真似はしないはずだ。そんな愚かな真似はせんはず。しかし……接触はしてくるだろう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何かのデータを解析している外道の博士。

きっとそれは正しいものではない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……所で。あいつが完成させたぞ、ボトルを」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

気だるそうに天井を仰ぐ。

その眼には狂気とも呼べそうな焔が映る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうか……思っていたよりもだいぶ早いな。流石だ。……そのまま使えそうか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

先程までの怒りのような雰囲気が一変、優しく奏でるような場が満たす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……いや、駄目だ。やはり本物じゃないと駄目だな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうか……しょうがない。それはわかりきっていたことだ。気にするな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まるで幼い頃からの友のように……会話を紡ぎ合う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……すまない。本来なら俺がやるべきはずなのに……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おそらく心からの言葉なのだろう。

その鋭く光る目に、淀みが無い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「気にするなと言っている。これは、私のせめてもの贖罪なのだからな。……所で、そちら側の計画は順調か?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

漆黒の輝きを放つ瞳が、“彼”を射抜く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「色々勝手にやってくれたが……大まかには問題無い。暴走し始める前に動くさ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

手持ち無沙汰に銃、というには異質なものを弄る。

まるでその銃は、悪の輝きを放つかのよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……そうか。ならばこちらもなるべく急ごう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よろしく頼む……こまめに連絡はするよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

朧気なその眼には一体何が映る?

愛か、狂気か……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぁ。よろしく頼むぞ……エボルト」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――万丈がここnascitaに来てもうかなり経ち、だいぶあいつも慣れていった。

 

決して良い事では無いがスマッシュの出現もここ最近はかなり増えており、ボトルの数も順調に増えていっている。

 

 

 

 

 

 

 

「あ"ー。疲れたし。眠いし。バイト代欲しいしー!!……起こすなよ、刻むよ?……おやすみ」

 

 

 

「ふぉー!きたきたきたあ!!……タコかなこれ?」

 

 

 

 

 

 

 

美空にはちょっと負担かけちゃってるけどね。

 

これで今わたしが持っているボトルは、元々持っていたラビットフルボトルとタンクフルボトルをいれて丁度計20本。

 

 

 

 

ゴリラフルボトル、ダイヤモンドフルボトル。

 

タカフルボトル、ガトリングフルボトル。

 

忍者フルボトル、コミックフルボトル。

 

パンダフルボトル、ロケットフルボトル。

 

ハリネズミフルボトル、消防車フルボトル。

 

ライオンフルボトル、掃除機フルボトル。

 

ドラゴンフルボトル、ロックフルボトル。

 

海賊フルボトル、電車フルボトル。

 

 

 

そして今完全したオクトパスフルボトルに、ライトフルボトル。

ま、ドラゴンフルボトルは万丈のだけど。

 

 

 

 

 

 

 

だいぶ集まったなぁ……

 

つまりそれだけスマッシュの出現が頻繁になってるってこと。

急にどうしてだろう。

 

 

 

 

 

 

 

「おいクロ!ほれ。とってこーい!」

 

 

 

【〜♪٩(ˊᗜˋ*)و】

 

 

 

 

 

 

 

万丈はわたしが発明したクローズドラゴン……通称クロちゃんともだいぶ絆を深めてるみたい。

 

 

 

あとは強い想いの力と心を通わせる、かな?

 

 

 

 

 

 

 

いやー。それにしても。

 

 

 

 

 

 

 

「どおしよこれえぇぇ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう。わたし桐生 戦兎は。

全くもってこのボトルたちのベストマッチを探すのに身が入らなかったのである……うぅ。

 

 

 

いや、全部が全部じゃないんだけど……

ボトルいじってるとなぜだかマスターの事を思い出しちゃうんだよねえ……はあ。

 

 

 

 

 

 

 

とりあえず今出来てるのは。

 

 

 

元々あるラビット×タンク=ラビットタンク

ゴリラ×ダイヤモンド=ゴリラモンド

タカ×ガトリング=ホークガトリング

 

 

 

 

 

 

 

だけっていう……やばいでしょこれ。

はぁ……どうすっかなあ……

 

 

 

 

 

 

 

「なんだぁ戦兎?まだそのベストマッチっての出来ねーの?」

 

 

 

 

 

 

 

ニタニタ笑いながらこっち見る万丈が本当に腹立つ。

 

気持ち悪いなこっち見んなバカ。

お前にわたしの苦悩がわかってたまるかこのやろう。

 

 

 

 

 

 

 

「ふんふん。戦兎があの2色の戦士みてーなのに変身するやつに刺しゃあわかんの?」

 

 

 

「……そ。まあわたしが解き明かせないんだから万丈には無理だって」

 

 

 

 

 

 

 

そうそう。ちょー大変なんだから。

ばんじょーくんには100年経ってもむりむり――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【忍者! コミック! ベストマッチ!】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……ん?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんだよ。簡単じゃねーか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【パンダ! ロケット! ベストマッチ!】

 

 

 

 

 

 

 

……ちょ、え?

 

 

 

 

 

 

 

「んー。次はこれとこれかね」

 

 

 

 

 

 

 

【ハリネズミ! 消防車! ベストマッチ!】

 

 

 

 

 

 

 

「ちょ!?えぇ!?なんでわかんの??なんで!?」

 

 

 

変な冷や汗が湧き出るわたし。なぜだ!?

 

なんで……こいつバカだったはずじゃ……?

はっ!もしかしてバカを装ってただけ!?

 

 

 

本当はわたしと同じ天才的な頭脳を!?

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ?こんなの勘だよ勘。俺の第六感の力だよ」

 

 

 

 

 

 

 

なんだ。やっぱりただのバカか。

 

いやでも……まさかね。

ただの偶然よ偶然――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【ライオン! 掃除機! ベストマッチ!】

 

【ドラゴン! ロック! ベストマッチ!】

 

【海賊! 電車! ベストマッチ!】

 

【オクトパス! ライト! ベストマッチ!】

 

 

 

 

 

 

 

「ええぇぇええ!?」

 

 

 

 

 

 

 

いやいやいやいや!!うそぉ!?

この数をノーミスでベストマッチするって!?

 

 

 

 

 

 

 

「なんだよ。ちょー簡単じゃん。もしかしてこんなのもわかんなかったんですかあ?傲慢なお・ひ・め・さ・ま?」

 

 

 

 

 

 

 

あ、こいつあったまきた。ぷっちーんきた。

 

 

 

 

 

 

 

「……たかだかこれくらいで調子乗りやがって。簀巻きにして沈めてくれるわー!!!」

 

 

 

 

 

 

 

脳天にボルテックフィニッシュ決めてやるわい!!

そのまま天国とベストマッチしてこい!!!

 

 

 

 

 

 

 

「ちょ!?やめろシャレにならないから!やめろ戦兎ー!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【海賊! 電車!】

 

 

 

【ベストマッチ!】

 

 

 

【Are you Ready?】

 

 

 

「しゃー!!変身!!!」

 

 

 

【定刻の反逆者!!】

 

 

 

【海賊レッシャー!! yeah!!!】

 

 

 

 

 

 

 

「勝利の法則は決まってんだから大人しくしやがれー!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おいおい。いつもいつも賑やかだなあ」

 

 

 

 

 

 

 

冷蔵庫が入り口の秘密の通路から、見慣れた人。

わたしの心を掻き乱す、いつもへらへらしてるやつ。

 

 

 

あの夜以来の再会。なんだか凄く忙しいみたい。

会ったら会ったで何話していいかわかんないんだけど……

 

 

 

 

 

 

 

「おぉう……おかえりマスター」

 

 

 

 

 

 

 

だめだあ。意識しちゃう。脳と心がぐるぐる回る。

身体が熱くなる。どうしよ。目が見れないんだけど……

 

 

 

 

 

 

 

「おかえりマスター!!ひー!助かったぜえ」

 

 

 

 

 

 

 

万丈がマスターの後ろに隠れるのが羨ましく感じる。

いいな、わたしもマスターにそんな風にくっつきたいのに……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……何考えてんだわたしは!?

はあ。あの夜からおかしいんだよなあ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……はあ。認めたくないんだけど。

 

 

 

やっぱりわたしはマスターの事が大好きなんだよねー……

 

 

 

 

 

 

 

親としてじゃなくって、石動 惣一って男が好き。

 

 

 

まさかねー。わたしの初恋がマスターとは……

半年くらい前に生まれたばっかりの、桐生 戦兎としての初恋。

 

その相手は、わたしに名前をくれた人、か。

 

 

 

 

 

 

 

「何してんだよお前らは」

 

 

 

 

 

 

 

マスターがケラケラと笑う。

わたしの大好きなマスターの笑顔、笑い声。

 

 

 

……うん。いいんだ。決めた。

 

 

 

 

 

 

 

例えこの感情がマスターを1人の男の人として好きなんだとしても、わたしはマスターの隣にいれればそれでいい。

 

 

 

マスターがわたしの事を女として見てくれなくても、家族として一番近くにいれれば、わたしはいい。

 

 

 

一番近いとこで、マスターの隣に立てればそれでいい。

贅沢言ったらマスターがどこかへ消えちゃう気がするし……

 

 

 

 

 

 

 

娘としてでもいいから。

わたしを愛してくれるならそれでいい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……はぁーあ。こんなにいい女なのになあ。本当にもったいないと思うね、わたしは」

 

 

 

 

 

 

 

言葉に出すことで整理をつける。

わたしは天才。こんなの平気。よし。大丈夫。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんだあ戦兎?どした?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

えへへ。そうそう。

やっと元に戻ってきたかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なーんでもないよ!ただもったいないことしたやつが居ただけ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう。これでいい。

いつも通りの、娘のわたし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほーん……よくわからんがまあ、そりゃあもったいなかったんだな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうだよ。後悔しても遅いぞ!ばーか!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「つか聞いてくれよマスター!俺がさ、今あるボトルのベストマッチを完成させてやったのによ!戦兎がいきなりキレだしてさー!!」

 

 

 

 

 

 

 

万丈が子供みたいにマスターに泣きつく。

でっかい弟だなー。まったくもー。

 

 

 

 

 

 

 

「え?まじかよ!すげーな万丈!!お前はいつかやる男だと思ってたんだよなあ!」

 

 

 

 

 

 

 

頭がしがしされて照れてんな?あいつ。

 

本来ならその頭がしがしは、わたしと美空にのみ許された行為なのだが。

ま、大目にみてやろう。

 

 

 

 

 

 

 

「わたしだってやろうと思えばできたもんねー!だからほらマスター!わたしも!わたしもがしがししていいんだぞ!」

 

 

 

「なんだなんだ?今日はやけに素直というか子供っぽいというか……」

 

 

 

 

 

 

 

マスターが困惑しながらわたしの頭を撫でる。

ふふふ。今回の所はこれでよしとしようかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……うるさいし。眠いし。眠れないし」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

えげつない殺気を感じ、振り返るとそこには凶器を持った魔王がいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「き・ざ・む・ぞ……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「すみませんでしたぁぁぁぁ!!!」」」

 

 

 

 

 

 

 

3人揃って正座をしながら美空さまのありがたーいお説教を聞き終え、みんなで雑談している時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おお!ここが正義のヒーローの秘密基地ってわけね!」

 

 

 

 

 

 

 

この声は……もしかして。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【ふふふ。そんなに驚かないでよ。私はあなたのファンなのよ?】

 

 

 

 

 

 

 

【……知らない奴でわたしの名前を知ってるのは大体いけ好かないやつでね。あんた何者?】

 

 

 

 

 

 

 

【あら、色々と大変なのね。私はしがないジャーナリストよ。あなたの、というより仮面ライダービルドの特集を組みたくて】

 

 

 

 

 

 

 

【……なぜこの場所を?】

 

 

 

 

 

 

 

【ふふふ。行ったでしょ?あなたのファンだって。追っかけしてたのよ】

 

 

 

 

 

 

 

【大丈夫。あなたの個人情報を載せたり、誰かに公言するつもりはないわ!】

 

 

 

 

 

 

 

【仮面ライダービルドに密着取材させてほしいのよ!実は私、会社でもギリギリの立場でね――】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの時の記者、紗羽さん。

話してた感じ悪い人では無いっぽいけど……

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっとお父さん!入って来る時に冷蔵庫のドア閉めなかったでしょ!?」

 

 

 

 

 

 

 

鼻息荒く美空が詰め寄る。

あ。また顔が般若みたいになった。

 

 

 

 

 

 

 

「ちょ、待て待て!俺がそんな古典的なヘマするかよ!?」

 

 

 

 

 

 

 

額から噴火のように汗を噴き出すマスター。

そうだよね。怒った美空怖いもんね。わかるわかる。

 

 

 

 

 

 

 

「冷蔵庫なら空いてたわよ?だから入ってこれたんだもの」

 

 

 

 

 

 

 

完全にマスターの責任ですね。

どーすんのバレちゃったじゃん……

 

 

 

 

 

 

 

「もー!やっぱお父さんじゃん!!」

 

 

 

「ははは……面目ない……」

 

 

 

 

 

 

 

マスターはほんっとにこーゆーとこ抜けてんだよねー。

そういやこの前も冷蔵庫開けっ放しになってたな。

 

あの犯人も絶対マスターでしょ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……とりあえず、あんた誰だよ?」

 

 

 

 

 

 

 

紗羽さんの事を鋭く睨む万丈の顔。怖いよ。

悪い人では無いんだよなあ。多分だけど……

 

 

 

 

 

 

 

「改めまして。私の名前は滝川 紗羽。フリーでジャーナリストをやってる者よ」

 

 

 

「……そこにいる戦兎ちゃん。あなたとは面識があるわよね?」

 

 

 

 

 

 

 

紗羽さんは悪戯っぽくわたしに視線を送ってきた。

なんだか妙に色気がある人だ。

 

 

 

 

 

 

 

「……うん。この前に一度、店に来てた」

 

 

 

 

 

 

 

心臓が止まりかけたあの時ね。

忘れたくてもよく覚えてるよ。

 

 

 

 

 

 

 

「ん?じゃあ戦兎の知り合いなのか?」

 

 

 

 

 

 

 

気付いたらマスターは紗羽さんの隣に居た。

……おいちょっと待て。鼻の下伸びてんぞ。

 

 

 

おい!てめーもしかして……!

 

 

 

 

 

 

 

「あら?あなたは?見た所戦兎ちゃんのボーイフレンド、って訳じゃなさそうだけど」

 

 

 

 

 

 

 

悪かったわね色気振り撒いてるメス犬がぁぁ!!

 

ついさっき自分の中で色々と決めてたんだから傷口に塩塗りこまないで頂けますかねぇ!?

 

 

 

 

 

 

 

「あー。ごほん。俺はここにいる連中の親ですよ。名前は石動 惣一。貴女みたいな美しい女性が、こんな所にどういった件で来たんですか?」

 

 

 

 

 

 

 

……おい。あからさまににやけるな!!

 

マスター!?嘘だよね?

こんな女なんかよりわたしの方が100倍魅力的だと思うんですけど!?

 

 

 

 

 

 

 

「あら。随分お世辞が上手ですこと、Mr.石動?貴方みたいな紳士にそんな事を言われては嘘でも舞い上がってしまいますわ」

 

 

 

 

 

 

 

おい。なんだ。なんなんだ。

なんで紗羽さんも少し顔赤らめてんの?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やめてよ。わたしたち家族の前で……

他の女の人にそんな顔するのやめてよ。美空も居るんだよ?

 

 

 

 

 

 

 

やだ……わたしの前で他の女の人にそんな顔しないでよ……

 

 

 

 

 

 

 

……嘘だよね、マスター?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だって前に、わたしに言ってたよね……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【ねーますたぁ。マスターってさ、彼女作んないの?……まだ遅く無いでしょ】

 

 

 

 

 

 

 

【んー?……そうだなあ。考えた事なかったなぁ、そんなの】

 

 

 

 

 

 

 

【良い人がいれば、って感じ?……ほら、わたしみたいなのもいるからさ、忙しくてなかなか出会いも無いのかな、って】

 

 

 

 

 

 

 

【はっはっは!そんなんじゃねーよ。俺には戦兎がいる。美空がいる。それで充分なんだよ。彼女や嫁さんなんて欲しいとも思わんさ】

 

 

 

 

 

 

 

【……そっかあ。まあ安心してよ!わたしはずっと傍についてるし!ちゃんとマスターの老後のお世話もしてあげるからさ!】

 

 

 

 

 

 

 

【ははは……ありがとな。でもさっさと良い人見つけて嫁に行ってくれた方が俺は安心するんだぞ?】

 

 

 

 

 

 

 

 

【はん!寂しいくせに!わたしは意外とモテるんだよ!?戦兎さんがどっかの誰かにぱっくんちょされてもいーわけ!?ねえねえねえ!?】

 

 

 

 

 

 

 

【なんだよぱっくんちょって。ははは――】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの時の言葉は嘘だったの?

わたし、凄い嬉しかったのに……

 

 

 

だから娘のままでもいいって思えたのに。なんで?

なんで紗羽さんにそんな顔するの……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やだ、いやだ。いやだよマスター……

わたしにそんな顔してくれた事なんて一度もないのに……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっとお父さん!?何鼻の下伸ばしてんの!!」

 

 

 

「いだだっ!!蹴るな蹴るな美空!痛いっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あ……美空……

美空は平気なの……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「綺麗な人だからって鼻の下伸ばしてんじゃないし!ほんっとに変態なんだから!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そっか、美空にとってはマスターは本当のお父さんだもんね。

わたしみたいな想いにはならないよね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こんな醜い感情になる自分自身が嫌になる……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……私の名前は石動 美空。この家の胃袋を掴んでる主だし。」

 

 

 

 

 

 

 

紗羽さんに対峙する美空は。

凛とした佇まいで、とても頼もしく見える。

 

 

 

 

 

 

 

……美空は強い子だなあ。お姉ちゃん、尊敬しちゃうよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺は万丈 龍我だ。……こいつらに変な事しようってんならタダじゃおかねぇぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

万丈も鋭い眼差しを崩さない。

 

 

 

 

 

 

 

頼れる弟だね万丈。それに比べてわたしは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「美空ちゃんに……万丈くんね。よろしく」

 

 

 

「でも安心して?本当に私はあなた達に何かしようって訳じゃないの。……ね?戦兎ちゃん」

 

 

 

 

 

 

 

紗羽さんに呼ばれた瞬間、全身に悪寒が走る。

この人はきっと悪い人じゃない。

 

 

 

わかってる。わかってるけど……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マスターをあんな風にするこの人の事が、わたしは嫌いだ。

きっとそれはわたしの醜い感情のせい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうしたの戦兎?体調悪いの?」

 

 

 

 

 

 

 

美空が心配して駆け寄ってきてくれる。

凄いな、表情に出したつもりないのに……

 

 

 

ごめんね、ダメなお姉ちゃんで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ううん、大丈夫。多分、徹夜の疲労が溜まってるだけ」

 

 

 

「……それに、紗羽さんは多分悪い人じゃないと思う。1回会って話しただけだけど、信用していいと思うよ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

心の中ではこの人をめちゃくちゃに罵りたくなる。

信用しちゃだめだ、この女は悪いやつだ。

 

マスターに何かするつもりなんだ、って。

 

 

 

 

 

 

 

でも、嫌われたくないから。

わたしの醜い姿を家族のみんなに見られたくないから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何よりマスターに、穢れたわたしを見てほしくない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……まあ戦兎が言うなら信用できるし」

 

 

 

「……そうだな、あいつが言うなら問題ねえか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やめて……わたしはそんなお姉ちゃんじゃない。そんな女じゃない。

信じちゃだめ、その女は悪いやつなの!

 

 

 

 

 

 

 

わたしたちの、わたしのマスターに色目を使う最低な女……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何考えてんだろ、わたし。

 

 

 

 

 

 

 

さいっあくだな――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――所で紗羽さんは何をしにここへ?」

 

 

 

 

 

 

 

何やら怪しい人にわたしのセンサーが反応してたんだけど。

でも戦兎が信用出来る、って言うなら大丈夫っぽいけど……

 

 

 

 

 

 

 

「取材よ!しゅ・ざ・い♡ もちろん個人情報を漏えいする事は絶対に無いわ!」

 

 

 

「わたしはね、ファンなの!仮面ライダービルドの!だから、密着取材をさせてほしいって戦兎ちゃんにお願いしたのよ!」

 

 

 

 

 

 

 

目をキラキラ輝かせて興奮している紗羽さんに、ちょっと恐怖を感じる私。なんか怖いなこの人。

 

 

 

 

 

 

 

まあでも本当にファンみたいだし……

うーん……それならいいのかな……

 

 

 

 

 

 

 

「だから……私のここの仲間入りさせてほしいのよ!いいでしょ?」

 

 

 

 

 

 

 

紗羽さんが小悪魔っぽく、悪戯に満ちた雰囲気で宣言する。

この人がこういう事しても様になるなあ……

 

 

 

 

 

 

 

……いや、そんな事言ってる場合じゃないし!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい、あんた。ここは俺らの大切な場所なんだよ。遊び場じゃねえんだ」

 

 

 

 

 

 

 

万丈よく言ったし!!

 

……そう。ここは遊び場じゃない。

私と戦兎と万丈と……大好きなお父さんとの大切な場所。

 

 

 

 

 

 

 

「せっかく密着取材するんだから、私も仲間に入れてもらわないと!……その代わり、タダとは言わないわ」

 

 

 

 

 

 

 

紗羽さんが優雅に微笑む先には戦兎。

見つめられてる戦兎にはなぜか元気が無いし。

 

 

 

 

 

 

 

どうしたんだろ、戦兎……

なんかいつもの戦兎らしくない。

 

 

 

いつもなら「しゃー!」とか「天才のわたしに交渉とはいい度胸してんな!」とか言いそうなのに……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「取引……というやつかな?Ms.滝川?」

 

 

 

 

 

 

 

鼻の下を伸ばしまくってたお父さん。やっと喋ったし。

もう!私たちの父親なんだからしっかりしてよね!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そう思ってくれて構わないわ、Mr.石動。でもそんな悪意に満ちたものじゃない。私はあなた方の味方のつもり。……万丈くんに関する事よ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

万丈のこと……?

 

 

 

 

 

 

 

「どういう事だ?あんた、俺の事何か知ってんのか!?」

 

 

 

 

 

 

 

万丈の事を何で紗羽さんが?

紗羽さんって何者なんだろう……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「怖いわよ万丈くん。落ち着いて。ちゃんと話すわ」

 

 

 

 

 

 

 

紗羽さんが万丈をあしらう姿はまさにオトナのオンナ、って感じ。

 

 

 

戦兎とは大違いだし……戦兎があんなんなったら嫌だけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「貴方を、と言うよりも貴方の彼女さんを騙した男。その男の事は知ってる?」

 

 

 

 

 

 

 

緊張が蔓延する空間に、紗羽さんの聞きやすい凛とした声が響く。

 

 

 

 

 

 

 

「あぁ。鍋島、ってやつだろ。……香澄から聞いた」

 

 

 

 

 

 

 

唇を噛み締めながら答える万丈は、どこか悔しそうに見える。

 

 

 

 

 

 

 

「その鍋島、って男は貴方が居た刑務所の看守よ。そして、貴方の事を後ろから襲い、人体実験の場へと連れていった張本人。……ほら、これが写真よ」

 

 

 

 

 

 

 

万丈からしてみたら凄い情報だけど……

なんで紗羽さんはこんな事まで知ってるの……?

 

 

 

 

 

 

 

「こいつ……居た。あの監獄に居た!!……こいつが……香澄の事を騙して……俺の事を!!」

 

 

 

 

 

 

 

この写真の男、見た目は完全に悪い事する方だし。

というか。今の怒りまくってる万丈も同じくらい凶悪な顔だし……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちなみに、万丈くんは自分が居た刑務所の場所を覚えてる?」

 

 

 

 

 

 

 

そう言えば万丈が言ってたし。

逃げるので精一杯で場所が思い出せない、って……

 

 

 

 

 

 

 

「……いや、あん時は無我夢中だったし思い出せねーんだよ」

 

 

 

 

 

 

 

見るからにイラついている万丈。

良い奴だけど、キレやすいんだよね。

 

 

 

 

 

 

 

「そう……なら朗報ね。私はその場所を知っている」

 

 

 

「更にもっと言うと、バレずに中に潜入出来る秘密の抜け穴の存在も、もちろん知っているわよ?」

 

 

 

「おい、ほんとか!本当に知ってんのか!?」

 

 

 

 

 

 

 

……よかったね、万丈。

香澄さんに託された無実を証明する、っていうの一歩近付けたし!

 

 

 

 

 

 

 

それに戦兎の記憶の手がかりにも繋がるし。

 

 

 

 

 

 

 

「もちろん!……その代わり。私も仲間に入れてくれる?」

 

 

 

 

 

 

 

うーん……

まあ悪い人じゃ無さそうだし……

 

 

 

 

 

 

 

「私は情報を得るのが得意なの。情報は何よりも大切でしょ?……私はあなたがたの相当な力になれると思うわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……なぁ戦兎。戦兎はどう思う?」

 

 

 

 

 

 

 

戦兎に優しく語りかけるお父さんの表情は優しく見える。

 

 

 

……っていうかお父さん居たんだ。

会話にほとんど入って来ないから存在忘れてたし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……良いんじゃない」

 

 

 

 

 

消え入りそうな声で呟く戦兎は、やっぱりいつもと違う。

 

 

 

本当にどしたんだろ戦兎……

何かあったのかな。

 

 

 

なんか、紗羽さんが来てから変な感じがする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……戦兎がいいならいいんじゃないか?」

 

 

 

 

 

 

 

演技っぽくリアクションするお父さんも、変な感じ。

 

 

 

 

 

 

 

「まぁ、いいけど。悪い人には見えないし。」

 

 

 

「ありがとう!やったー!!……そうしたら早速教えるわ」

 

 

 

 

 

 

 

「まず、軍の守衛兵に見つからずに秘密の抜け穴に行くルートを教えるわね?地図はあるかしら――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――まじかよ!こんな所にその抜け穴ってのがあったのか」

 

 

 

 

 

 

 

万丈は喜びの感情を抑えきれないのか、言葉にもその感情が委ねられてる気がする。

 

 

 

 

 

 

 

わたしは……何してんだろ。

万丈は前に進もうとしてるのに、わたしは……

 

 

 

なんか、抜け殻みたいだな――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――というのが全てよ。わかったかしら?」

 

 

 

 

 

 

 

皆に視線を送る紗羽さんに嫌な気持ちになる。

そんなわたし自身も嫌だ。

 

 

 

……何も考えたくない。

 

 

 

 

 

 

 

「んー。全くわかんねえ!もっかい!!」

 

 

 

 

 

 

 

あはは。相変わらず万丈はバカだなあ。

なんか、そんなあんたに救われる気がするよ……

 

 

 

 

 

 

 

「あららー……もう10回近く教えてると思うんだけどなー……」

 

 

 

 

 

 

 

はんっ、紗羽さんが万丈に教えようと思ったってむだむだ!

なんせこいつは想像を絶するバカだからねっ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しょうがないなぁ……全くもー。

わたしが居ないとダメダメなんだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ふぅー。万丈ほれ。教えてやる」

 

 

 

 

 

 

 

まだ黒くて、醜くて、汚らしいもう1人のわたしは消えないけど。

わたしはお姉ちゃんなんだから、しっかりしないと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……大好きなマスターの、娘なんだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おう?なんだ、戦兎。お前ケーキの食い過ぎで腹壊してたんじゃねーの?」

 

 

 

「あほっ!乙女に向かってなんてこと言うんじゃ脳筋ばか!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

強がらなきゃ。心配させないように。

 

 

 

 

 

 

 

「あら……そうしたら私も今日はそろそろ帰りましょうかね」

 

 

 

 

 

 

 

やっと帰るのか!

けっ!しっし!!はよ帰れ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……Ms.滝川。貴女とは少々お話したい事があるのですが、よろしいですかな?……貴女の様な美女を誘うのはとても勇気がいるのですが」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……嘘じゃん。なんでよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……あ、あれか!冗談なんだよね!?

紗羽さんもそんなエロカッパ相手にしなくていいから、早く帰りなよ――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あら、Mr.石動?まさか貴方の様な紳士から誘って頂けるとは。本当に、お世辞無く心から嬉しいわ」

 

 

 

「……今日も明日も私は一日空いているし。私でよろしければ喜んでお供致しますわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……は?

 

 

 

 

 

 

 

ねえ、やめてよ……

せっかく立ち直ろうとしてるのに。

 

 

 

頑張ってるのにさ……

なんでわたしの大事な人をそんな簡単に連れてくの?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ねえ。返してよ……

わたしたちの、わたしのマスターなんだよ?

 

 

 

そんないやらしい眼でマスターを見ないで。

そんないやらしい女じゃなくて、わたしを見てよマスター……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「つーわけだ!俺は美人なおねーさんとちょっとデートしてくるからさ。お留守番よろしくな!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やだ。やだよ。約束したじゃんマスター。

 

わたしたちがいればそれでいいって。

わたしがいればそれでいいって。

 

 

嘘……ついたの……?

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……何がデートだしお父さん!遊ばれてるだけでしょ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

美空……だめ、止めて美空……

マスターが、マスターが行っちゃう……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「マスターもまだまだいけてっしな!楽しんできてなマスター!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だめだよ!!引き止めてよ!!

マスターはわたしたちといた方が楽しいんだよ?

 

 

 

だから、万丈……止めてよ……

ほら、早くマスターを掴まえてよ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はっはっは!それでは参りましょうか?Ms.滝川?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……行かないで

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えぇ。エスコートお願いします、Mr.石動?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

わたしのマスターを横取りしないで……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んじゃよろしくな!美空!万丈!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

待って……待って!わたしも連れてって!!

わたしを置いていかないで……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「行ってきます、戦兎」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あ……あ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゆっくりと、マスターは出かけていった。

わたしの大切な人を誑かす、あの女を連れて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわああぁぁぁぁぁん!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

感情が止まらない。涙が溢れる。

寂しい、辛い、悲しい、苦しい。

 

 

 

 

 

 

 

わたしの何かが壊れそう。

 

 

 

 

 

 

 

「ちょ、ちょっと!?戦兎!?どうしたの!?」

 

 

 

「おい戦兎!?どうした!?何があったんだよ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マスターが行っちゃった。

わたしを置いて、違う女と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ひっぐ……うわああぁぁぁん!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

止まらない。止まらない。止められない。

もう、いやだ。何もかも嫌だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こんなわたしが、一番どうしようもなく嫌だ。

 

 

 

 

 

 

 

「戦兎!戦兎!!どうしたの?何かあったの?辛いの?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

みそらぁ……

お姉ちゃん、辛いよ。悲しいよ。苦しいよ。

 

 

 

 

 

 

 

どうすればいいの――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――まさか誘って頂けるなんて。光栄ですわ?Mr.石動?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

暗く暗く、静寂に包まれる空間。

そこに存在するは闇の裏。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……もういいだろ。臭い芝居はやめにしようや」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

吐き出す紫煙。それはまるで蛇。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……流石。気付いていましたか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鋭く放つ視線。

切先に映すは混沌の黒。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そこまで阿呆じゃないもんでな……で?目的はなんだ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

返した刃の波紋には、蠢く蛇。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今の所は特に何も……それより興味深いですね。貴方のような存在が、家族ごっこをしているなど」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その瞬間、周りを包む闇に戦慄が蹂躙する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「黙れ。お前らには微塵も関係の無い事だ……殺すぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

全てを殺気が包み込む。

その者に対峙する全てをひれ伏せるかのような。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すみません……それと、あのお方からの言伝です。【楽しみにしている】と……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とめどなく汗が流れる艶やかな者。

まるで、自身を遥かに上回る大蛇に睨まれているかのような。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ふん。あの狸め。……ふんぞり返って楽しんでろ、と伝えとけ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

人外のその眼には虚無が映る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……俺の正体を、晒すか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

虚無を切先に移す。

それは、光をも吸い込むかのような。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いえ、私はそんな事は……しかし、会長は【あまり時間がかかるならしょうがない。遊びに付き合ってる時間はないからな】と仰っておいででした……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なるべくなら、早く実行した方がよいかと……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真意の掴めない眼差し。その心は何を視るのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……言われなくともわかってる。勝手な行動をするならば覚えておけ、そう伝えておけ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

烏が鳴く。蟲が鳴く。兎が泣く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はっ……かしこまりました」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「戦兎たちに、勝手に危害を加えるなよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……間違いの無いよう伝えておきます」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……では着いてこい。前に話した《スクラッシュドライバー》のデータの件だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

悪が交わるその日。

歯車が動き出すその日は。

 

 

 

 

 

 

 

美しくも儚い、満月の夜だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――万丈は表に出て」

 

 

 

 

 

 

 

戦兎の様子がおかしい。こんなの初めて。

何があったの?お姉ちゃん……?

 

 

 

 

 

 

 

「は?は?……え?」

 

 

 

「いいから!!早く出て!!!」

 

 

 

 

 

 

 

つい声を荒らげてしまう。

……万丈のせいじゃないのに。

 

 

 

 

 

 

 

「ごめん万丈……お願い。お姉ちゃんと2人にさせて――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――うーん。どうしちまったんだろうな……」

 

 

 

 

 

 

 

急に泣き出した戦兎。

そして急に怒鳴ってきた美空。

 

 

 

 

 

 

 

……きっと、男の俺にはわかんねー何かなんだろうな。

 

 

 

 

 

 

 

「なあ、香澄……天国であいつらのこと見守ってやってくんねーかな……香澄と同じでさ、あいつらも俺の大切な家族なんだよ……」

 

 

 

 

 

 

 

穢れを知らないような満月に囁く。俺の最愛に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……戦兎たちは変な感じだったけど、やっと俺の真実への手がかりが掴めた。

 

 

 

香澄が託してくれた、一筋の希望。

 

 

 

 

 

 

 

あんな状態の戦兎を連れて、一緒に行くわけにはいかねーし……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こいつは俺の問題だ。

傷付いた、大切な家族を巻き込む訳にはいかねーよな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうだろ……?香澄……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……To be continued

 

 

 

 

 








秘めたる想い。混濁する兎。
決意する龍。寄り添う空。



各々の行く先は、交わるのだろうか。







「ねぇ!万丈が!!万丈がどこにも居ないの!!!」







「わたし、何やってんだろうね。お姉ちゃんなのに」










「あぁ。ここに来たのは。俺の意思だ」



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