Masked Rider EVOL 黒の宙 作:湧者ぽこヒコ
店員「……しゃーせぇ」
幻徳「思うのだが、内海」
内海「なんですか所長?」
幻徳「俺の出番少なすぎないか?」
内海「……いえ、これからかと」
幻徳「いいよなお前は!この前もちょこっと出てたもんな!俺は1回!1回だよ!?」
内海「作者曰く、所長はかなり好きなキャラ、だと……」
幻徳「じゃあなぜ出さんのだ」
内海「……会議ですので。それでは」
氷室幻「ちょ、内海?内海!?待ってー!!」
惣一「なんだ今の?」
「――あざーしたぁ」
俺が愛用しているこのコンビニの店員はやたらと軽い。
毎度毎度銘柄を聞き直すこの店員を俺は結構気に入ってるもので、ついついこの店員のレジに行ってしまう。
……番号振り分けてる意味ないよな。うん。
今は居ない熱血漢に想いを馳せ、俺はこの店員の事を愛を込めて初代万丈、と名付けているのは……どうでもいいか。
ついでに2人へのおみやげも、と思いプリンも買う。
美空も戦兎も大好きなプッツンするプリンだ。
きっと、喜ぶだろう。
さっきは俺とした事が、動揺してしまったからな。
怪しまれたんじゃないだろうか。
まだ早い。明かすにはまだ蕾すらまともに生まれてないようなものだ。
大輪の花を咲かす芽吹きが出るまでは、もう少しあの子たちと幸せなひとときを……
「……それくらい我儘言っても、罰は当たらないよな」
そんな事を考えながら帰路に着く。
どうしてだろう。凄く、凄く懐かしい気がする。
あの時戦兎が俺に伝えてくれた言葉。感情。
まるで前世で契りを交わした最愛の女性に再会出来たかのような感覚に陥る。
……戦兎にそんな感情を抱くなんて、な。
あいつは俺の大切な娘だ。大切な家族。
そして、きっと俺の事をこの世で一番憎むであろう女性。
「疲れてんだな、俺」
様々な想いを断ち切るように呟く。
……よし。だいぶ落ち着いた。
今はまだ俺の事を好きでいてくれて、必要としてくれる娘たちの元へ帰ろう。
お父さん、頑張るからな――
「――たっだいまー」
もはや冷蔵庫と呼んでもいいのかどうかという代物を開けると、近代的な秘密基地が広がる。
美空や戦兎そして万丈との秘密の場所。
ここは正義が広がる空間だ。
「まぁすたっ!おっかえりぃ!」
本当に兎みたいだな、戦兎は。
犬になったり兎になったり忙しいやつだ。
「お父さんおかえりだしー。遅かったね?」
おう。ちょっと自分の今後について考えてただけだ。
人生とは哲学のようなものだなみたいな感じで。違うか。
「随分と万丈みたいな店員が居てな。おもしれーからさ。からかってきたんだ」
うん。嘘ではない気がする。
「わたし多分知ってるそれ!初代万丈って名付けてるやつだ」
まさかの同じかよ。
お前も同じ事思ってたんか。
「可愛いよな、あいつ……ほれ、プッツンプリン買ってきたぞ」
プッツンプリンのMEGAサイズを現すと、年頃の女子たちが勢いよく飛びついてきた。
まるで死肉に群がるハイエナみてーだ。
……例えが酷過ぎるかな、と笑ってしまう。
「ほおおおお!プッツンしたい気分だったんだよちょうど!」
甘いものに目がない戦兎がぴょこぴょこ飛び跳ねる。
お前、プッツンしたい気分て。キレやすい若者か。
「コレ買ったからパティスリー鴻上のケーキは無し、はダメだからね!」
大事そうにプリンを持つ美空。
大丈夫だよ。盗りゃしねーよ。
……ちっ。しかしケーキみたいにそんな甘くなかったか。
「「いただきまーす!」」
「どーもー!みんな居るかしら?」
2人がぺろっとプリンを食べ終わってすぐ、新しい協力者が来た。
はあ。俺こいつ苦手なんだよなぁ……
「むむむ。おのれ紗羽ぁ……」
戦兎の背後に何かどす黒いオーラが見える。
なんだ、この女と揉めたのか?
「な、なに戦兎ちゃん?なんか怖いわよ……?」
初めて意思疎通したな。
なんか俺も怖い気がする。
「がるるるる……何のようだい紗羽さぁん……」
おいおい。兎がハンターになってどうする。
「どしたの戦兎ちゃん?……まあいいわ。ほら、万丈くんが今いる場所!なんとかわかったわよ――」
「――北都に?万丈が?」
幸せな空間をぶち壊したメス豚……もとい紗羽さんが持ってきた情報によると、万丈は現在北都に居るらしい。
北都にもファウストの拠点が?
……まあでもあったとしてもおかしくはないか。
「それがね……私も少し驚いているんだけど、どうやらファウストではなく、北都政府が万丈くんを迎えてるみたいなのよ」
政府が……?
繋がらないな、どういうこと?
「私も綿密な詳細はまだ掴めてないんだけど、どうも北都政府の庇護下にいるらしいのよね……」
「なぜ戦兎ちゃんたちが言ってたスターク、ってやつと北都政府が繋がっているのかはわからないのだけれど」
北都政府とスタークが繋がっている、つまりは政府とファウストが……?
いや、しかしそしたら普通ファウストの庇護下にあるはずじゃ。
それともファウスト側と北都政府に何らかの癒着があるっていうことなのかな……
「で、ここらが問題よ。……東都、北都、西都。日本を三分するこの三都は現在冷戦状態のようなもの、っていうのは知ってる?」
「うん、都市伝説みたいな感じでは聞いたことある」
ちょこちょこテレビでも話題にあがるしね。
自衛のためと嘯き軍事増強している、とかなんとか。
「最近西都がね?更に海外の軍事企業から様々な兵器を密輸しているらしくて。報道はされていないけど、各都かなりの緊張状態になっているのよ」
はあ。本当に権力者ってのは頭が悪い。
戦争は確かに官軍の財政を豊かにするけども……
そんなアホな理由で多くの血が流れるのは間違ってる。
人の命はそんなに軽くない。残るのは痛みだけ。
なぜこんな単純明快な事も理解出来ないのかね。
「東都はまぁ……氷室首相が平和的な考えをお持ちだからそこまでではないのだけど、問題は北都」
「この件に相当な危機感を持ったのか、北都の多治見首相は都の財政の殆どを更なる軍事増強に充てているらしいのよ」
……北都は確か、三都の中で一番財政が逼迫している。
元々分断される前の北都領土は農畜産が主だった。
それをスカイウォールの惨劇の影響で壊滅的なダメージを受けたんだよね。
……北都都民は、他の二都に比べ信じられないような貧しい生活をしてると聞いたことがある。
人より自分たちの権力かよ。むかつく。
「で、新しく設立された秘密裏の軍事組織……ここに万丈くんが配属されているみたいなの。しかも……長として」
万丈が……軍に?
人の命を奪うような連中と一緒に……?
しかも指揮官って……そんなはずあるわけ――
「――私もね。正直驚いてるわ。万丈くんが戦争のための組織に居る、って事が。それと……この軍事組織はただの組織じゃない。
仮面ライダーを兵器とする、軍なの」
「は……?」
思考よりも先に声が産まれてしまう。
……仮面ライダーの力が、戦争の兵器?
マスターから託されたこの力が、人の命を消し去る兵器?
この人は……何を言って――
「――見て。何とか掴んだ情報。北都の秘密軍事組織《北風》……そして、第3師団 団長、万丈 龍我」
紗羽さんの渡してきた書類には、冷たい軍服を着た万丈の写真が載っていた。
「そして、対国家殲滅部隊 第3師団。コードネームは《CROSS-Z》。その核となる兵器は……
……仮面ライダークローズ」
クロー……ズ……?
それって……
「この仮面ライダークローズ、あまり情報が無いんだけどね。わかっているのは、戦兎ちゃんと同じ……ビルドドライバーにドラゴンフルボトルをセットしたクローズドラゴンと呼ばれるアイテムを装填する事により変身する、って事が現在わかっていることよ」
クロ……ちゃん……?
あれは……わたしが万丈の想いのために、万丈の力のために創りだした希望の力……
そんな……戦争のための力じゃないよ、万丈……
その力はあんたの道を照らし指し示す、光の力なのに……
その力は……護れる力だよ?万丈……?
「嘘。そんなの嘘だよ、万丈がそんな事絶対無い!!」
美空の声が、冷たく静かな空間に響く。
そ、そうだよ。あいつはバカだけど、そんな間違いを犯すような本物のバカじゃない。
だって、そんな、香澄さんが許すはずないじゃん。
あいつと香澄さんの約束は、そんなのじゃ……
「……信じられないのもわかる。でもね、戦兎ちゃん。美空ちゃん……これが、この全てが、現実なの」
【大丈夫。戦兎。俺、大丈夫だからよ】
【……さらばだ戦兎。これが、現実だ】
「……現実って何?そんな、そんなのわたしは認めない。そんな万丈をわたしは認めないよ」
「そんな、そんなわけわかんない現実わたしは要らない!!!」
誰かがわたしに囁く。これが現実と。
「戦兎ちゃん……気持ちはわかるけど――」
「いやだ!いや!!そんなのわたしは絶対に認めないから!!あんたは嘘つきだ!そうやって万丈の事を悪く言ってるんだ!!!そうやってわたしたち家族を苦しめるんだ!!」
誰かがわたしに囁く。現実を認めろと。
「戦兎ちゃん……」
「あんたはいつだってそうだ!わたしの事を苦しめる!!わたしの事が嫌いなんだ!」
「だからそうやって騙して傷付けるんだ!わたしたち家族が憎いんだ!!!」
【……じゃあな!戦兎!
……今までありがとう】
誰かがわたしに囁く。現実は絶望だと。
「あんたの事なんてわたしたちは信じない!あんたの言葉も、行動も、あんたの全てを信じない!!あんたなんか早く――」
乾いた音が、絶望の場に落ちる。
「……痛いよマスター」
心が痛い。
わかっているのに。
わかっているのに認めたくないわたしの我儘が、どうしようもなく嫌い。
「戦兎。ちょっと来なさい――」
――ずっとわたしの中に雨が降ってる。
わたしの汚いものだけ遺して、綺麗な何かを流していく。
そんな雨が、わたしは大嫌い。
「……戦兎。現実とは、辛いものだな」
止むことを忘れたような、そんな大雨が降るわたしの中に、マスターの声が広がってく。
「この年まで生きてるとな。辛い事や悲しい事。認めたくない事がいっぱいある」
降りしきる雨が冷たい。
わたしの涙は、きっともっと冷たい。
「俺も何度も立ち止まったよ!……今でも止まっちまう時もある。しかも、めちゃくちゃな。知らなかったろ?」
マスターは、わたしにとって全てだ。わたしの、全部。
勝手にマスターは強い人なんだと思ってた。
「俺はどうしようもなく弱い人間だ。でも……なんで頑張れると思う?」
なんでだろ。マスターは、マスターだから?
そんな意味不明な事しか過らないわたしは、マスターの何を知ってたんだろう。
「……戦兎が居るからだよ。戦兎が俺の傍に居る。美空が俺の傍に居る。それに……バカ息子の万丈も。家族が、俺の支えなんだ」
わたしの大雨に、少し光が見えた気がする。
あぁ、なんで気付かないんだろう。わたしは。
「それが辛く険しい現実だとしてもな。1人じゃないんだよ。俺には戦兎が居る。美空がいる。バカ息子が居る」
不思議だ。永遠とも思えた大雨が、止んでいく。
大好きなマスターの、羽毛のように柔らかい声で満ちていく。
「そして。戦兎。お前は1人じゃない。寂しがり屋で甘えん坊の、末っ子の美空が居る。真っ直ぐで、すぐに周りが見えなくなるバカな弟が居る。……そしてな。
お前の事を心から愛している、俺が傍にいるよ」
暖かい涙が、わたしの曲がりくねった道を切り開いてくれる。
ゆっくり、ちょっとずつ歩いてる。
右隣には美空。左隣には万丈。
そしてちょっと前にマスターがクシャッと笑いながら、わたしたちを優しく見守ってる。
ああ。そうだ。わたしは1人じゃない。
どんなに辛くても、どんなに悲しくても。どんなに苦しくても。
わたしには愛すべき家族がいるよ。
ふと見れば大切な存在たちがいるよ。
わたしのちょっと前には、最愛のあなたがいるよ。
「……はは。なにそれ。愛の告白みたい」
わたしが取り戻されていく。
大好きな、わたし。
「はは。俺なんかに言われてねーで早くいい男捕まえろっての」
ふふふ。居るよ?わたしの目の前に。
きっと捕まえてみせる、わたしの最愛の人。
絶望した時、いつもわたしを救ってくれる、さいっこうの人。
ありがとうマスター。
わたし、ちゃんと前に進むから。
「本当にしょうがないんだから、あのバカな弟。しっかりと道を戻してあげるのがお姉ちゃんの務めだからね」
「……それと。ありがと、マスター」
それと……愛してる。
「……おう!そしたら帰るぞ!腹減ったな。なんか買って帰るか」
万丈。首根っこ掴んで引きずり回して家に連れ戻すから待ってろ。
泣き喚いてもお姉ちゃん許さないからね。
先輩ライダーなめんなよ!!
「うん!わたしプリン!……あと、前に紗羽さんコーヒーゼリーが好きだ、って言ってたから。それも」
「……なんだ。てっきり嫌いなのかと思ってたよ」
嫌い……じゃない。
前は嫉妬してただけ。さっきのは八つ当たり。
好きか、って言われたらわかんないけどさ。
多分好敵手って言葉が一番似合うのかな。
必死になって万丈の事を探してくれた紗羽さん……紗羽嬢は、きっと悪い人じゃない。
……しょーがない。紗羽嬢にも初任給でなんか買ったげるか!
「わたしは神の如き存在だからねえ!ふっふっふ。器が違うのだよ器が」
「はいはい。どうでもいいけどちゃんと謝るんだぞ?」
「どうでもいいって何さ!?……ちゃんと謝るよ」
「はいはい。したら行くか――」
ここの所ずっと降り注いでた雨がいつの間にか止んでいた。
明日は久しぶりの、雲1つない快晴だそうだ。
……To be continued
惣一「まじかよ!たっけえなこのコーヒーゼリー!!」
戦兎「いーじゃんいーじゃん。喜ぶぞ紗羽嬢」
惣一「おまっ……俺の無けなしの小遣いが……」
戦兎「あー!【CAN PEACE】の新刊だ!買って買って!」
店員「……あざーしたぁ」
惣一「……バイト増やそうかな」
戦兎「えへへ。やったあ♡」