Masked Rider EVOL 黒の宙 作:湧者ぽこヒコ
葛城忍「うーん」
惣一「どしたよ」
葛城忍「いやな。最近アプリにハマってな」
惣一「お、おう」
葛城忍「ガチャ、とかあるんだよ」
惣一「お、おう」
葛城忍「……もうな。貯金がな……」
惣一「金なら貸さねえぞ」
葛城忍「……バイト探そうかな」
人は呆気なく死ぬものだ。
昨日笑いあった仲間も、簡単に失われる。
人の命など、吹けば簡単に消えてしまう。
だからこそ尊く、愛おしいものなんだと思う。
そんな至高のモノを死で脅かす存在。
わたしは、絶対に許さない。
「やっぱりおかしいわ。この事件も」
綺麗な髪を揺らしながら紗羽嬢が謳う。
……だと思った。
わたしの同僚であり部下の、たーさんが殺された。
その遺体の損傷は常軌を逸していたらしい。
まるで、人外の者に喰い殺されたかのような。
葬儀には、研究所のみんなで参列した。
もちろん。げんさんとナリさんも。
遺体は損傷などの理由で、現れなかった。
わたしは泣かなかった。
悲しみももちろんあったが、それよりも怒りに満ちていた。
わたしに一番仲良くしてくれたたーさん。
たーさんの家族が呆然と立ち尽くしていた。
まだ小さな娘さんがいた。
小さな小さなその女の子は、お父さんが死んだことを理解出来ていないみたいだった。
わたしがあなたの仇をとる。安心してね。
「内藤さんの遺体の検死結果。やっぱり偽装されてたわ」
紗羽嬢が持ってきた書類に目を移す。
ふー。やっぱり、か。
「ちょっとした所から入手してね。……遺体の写真、見れる?」
わたしは、大丈夫。
真実を解き明かすって決めたんだ。
「美空は見なくていーから。ほら、お部屋で待ってて」
「うん……」
美空には見せられない。
トラウマになっちゃうしね。
「うっ……」
「戦兎ちゃん大丈夫……?」
覚悟を決めてたけど……これはくるな。
胴体が切断されてる。しかも心臓部分には抉られたかのような跡。
四肢も全て引きちぎられたかのような……
「……人間がやったとは思えないね」
そう。これは人の所業じゃない。
2つの意味の、悪魔。
「本物の検死結果も入手出来たわ……人為的には不可能、だそうよ」
やっぱり。やっぱり連中か。
わたしたちの前に立ち塞がる怨敵、ファウスト。
「でもね……1つだけ不可解な点があるのよ」
紗羽嬢の表情が曇る。
不可解な所なんてあったかな……?
「特別な所だけど、でもちゃんと遺体安置所に置かれてるし……それに、こうやって情報も得れたの。簡単に」
なるほどね、紗羽嬢の言いたいことが理解出来た。
簡単にか、ははは。
「月乃さんの証拠を完璧に消せる組織が、なぜこうも簡単に証拠を掴ませたか、って事だね紗羽嬢」
……何かを企んでる?
それか、別の組織……北斗政府。
いや、一所員を殺した所でメリットがあるとは考えられない。
ましてやたーさんが北斗政府の何かを知ってるとも思えないし……
「そうよ、その通り。……そしてもうひとつ。ある重大な情報を得たわ」
「……内藤さんは亡くなる直前に、氷室 幻徳に会っているのよ」
げんさんが……
……やっぱりあの人は……
『……ローグ。貴様、俺の言った事がわからなかったのか?』
静寂の中、2匹の罪が集う。
それはどうしようもない、悪。
『……なんの事だ?』
蛇と蝙蝠。
それは闇を運ぶモノ。
『……もういい。……手はず通り進めろ」
闇夜に浮かぶ、死。
『……あぁ。準備は出来ている』
「げんさんは……氷室 幻徳は……何者なのかな」
……氷室 幻徳がたーさんを殺したとして、その遺体は人には不可能な殺され方をしてる。
つまり……やつは……
「……恐らくだけど、やつがスマッシュあるいは……スタークかローグのどちらかじゃないかしら」
目を伏せる紗羽嬢。色々ありがとね。
スマッシュは、恐らくほぼない。
スマッシュには自我を持つことはほぼ不可能だし。
香澄さんが一瞬意識を取り戻したけど、あれは本当に一時的なもの。
月乃さんが遺したデータにも自我を持つスマッシュは1体も現れなかった。
被験者の中で唯一成功した月乃さんは、姿形に変わりが見られなかったと記載してあったし、スマッシュはない。
となると……スタークかローグ。
どちらにしても最悪の敵だ。
「ありがと……色々わかったよ」
あとはどうするかだね。まず直接氷室 幻徳に会うかそれとも――
「大変!!戦兎大変だよ!!!」
自室に戻ってた美空が勢いよくわたしを呼ぶ。
なんだろ、氷室 幻徳が捕まったのかな。
「ほら!!これ!!!」
美空が渡してきた携帯型のテレビには、絶望の始まりを予感させる映像が流されていた。
「――こちら首相官邸前です!!現在、ファウストと名乗るテロリストが首相官邸に立て篭り――」
ファウストが首相官邸に!?
どういう事?氷室首相は……東都政府はファウストと繋がってたんじゃ……
「戦兎ちゃん大変……首相官邸にはパンドラボックスがある!!恐らく連中の狙いはそれよ!!!」
パンドラボックス……!
ファウストと東都政府は繋がりが無かったって事!?
……考えてる暇はない。行かなきゃ!!!
あぁ。さいっあくだよ。
あの野郎。まさか殺しをしやがるとは……
完全に想定外。くそ。
なんで。なんで俺が言った通りに動かねえんだよ……
「止まれ貴様!!ここは首相官邸だぞ!!わかっているのか!?」
先程から生身で立ち向かってくる兵士達。
足は震えているが、勇敢な心意気だ。
ふう!よし。今は目の前の事だけ考えろ、俺――
『俺ァファウストってとこから来たんだよ。ちょっと道開けてくれよ、な?』
『あ゛ぁーしんど。バイト代欲しいわ』
ほぼ全ての兵士達を非致死性の毒で眠らせ、一息つく。
……ほんとまじで。あいつら知らねえみたいだけどさ。毒精製すんのもめちゃくちゃ体力使うんだっての。
まぁ早いし効率的だし……何より、な。
『まァ後12時間もすりゃあ起きるからよ。それまで夢の中にいな。Ciao♪』
ぐーすか眠る兵士共を一瞥し、外へと向かう。
さぁて。マスコミ各社はおいでかな?
『よォ下らねぇ人間諸君。元気にしてるかよ?』
予想通り。マスコミ関係者が蠢いている。
何度繰り返そうが、慣れない。
「テ、テロリストです!!謎の赤い鎧を纏ったテロリストが我々の前に現れました!!!」
よく見るニュースの女性が、震えながらに俺の事を都民に伝える。
テロリスト?そうだな。
そんな可愛いモンじゃねえから安心しとけ。
もっとずっと極悪だ。
『テロリスト?笑わせんなよ。俺らは世界の終わりを導くモンだ。名をファウスト。忘れんなァ人間風情?これからお前ら全てを闇に陥れる組織の名だ。さァ。死に踊れよ、人間!?』
怯え震える集団にとりあえず挨拶代わりの銃撃を弾く。
もちろん当ててない。当てるわけねぇだろ。死ぬぞ。
「ファウストと名乗るテロリストが発砲してきました!!我々も避難致します!!!」
さっきまで1つの大きな集団だった連中が、数多くの個となり散らばってゆく。
……よしよし。とりあえずは良好だな。
「……スタァァクゥ!!!!」
来たか自己中娘。おせーよ全く。
早く来いよな。ったくよお。
そんな風に呟く俺の心には、虚しい嵐が吹く。
『あぁ?……なんだ。仲間1匹護れなかった兎ちゃんか』
何度やっても慣れない。多分、慣れる事はない。
道化を創るのは本当に辛い。
「……黙れ。お前の言葉にはうんざりだ」
その言葉が、俺の全身にのしかかる。
わかっていても、何度経験しても、全身が引き裂かれそうになる。
『うんざりか。そうか。ハハハ!そりゃあ悲しいねぇ?泣いちゃうぜ!?』
何度繰り返しても涙で溢れてしまう。
マスクで隠れてるけどさ。
ずっと泣いてるんだよ。戦兎。
いつも、ずっとな。
「……お前に1つ聞きたいことがある」
戦兎が俺の目を見つめる。
俺じゃなくて、仮面の目に。
「お前の正体は、なんだ」
ごめんな。
お前が信用してくれてる男だ。
『……知りてえのか?』
いっそ全部話して楽になりたい。
この涙の味は、もうたくさんだ。
「答えろ!!お前には答える義務がある!!!」
そうだよな。その通りだ。
俺にはお前らに言わなきゃいけない義務がある。
全てを裏切る俺の、義務。
絶望の権化である俺の義務だ。
……だめだ。踏み留まれ。
まだ早い。まだ早すぎる。
その時はまだ来ていない。
まだ、地獄の始まりじゃない。
『悪ぃけど。まだ教えらんねぇんだわ』
涙で前が見えない。
大好きな娘の顔が、見えない。
「……氷室 幻徳。違うのか?」
……惜しい。そいつは違う。
言ったろ?表裏一体、そのものの本質を見ろ、って。
目に見えるそれが真実とは限らないんだよ戦兎。
目に見えてるものなんて、殆どが偽物だ。
それを身をもって教えてやれんのはまだ先かな。
『誰だそいつ?残念ながら不正解だ』
泣いているのを悟られないように喋るのも大変だ。
まぁ、ボイスチェンジャーの力が大きいけどさ。
「じゃあ……ローグか……」
その辺は自分で確かめなきゃな。
自分で真実を掴めよ、戦兎。
『……いいのか?首相室にローグが居る。早くしねえと首相は殺されパンドラボックスは奪われちまうぞ?』
行け、戦兎。
自分で自分の道を切り開け。
……俺はお前の傍にいられないんだから。
自分の足で、進んで行け。
「ちっ!……スターク!お前は絶対にわたしが倒す。覚えとけよ」
あぁ。言われなくても、な。
その日が来るのを楽しみに待ってるよ。
その時は、笑顔でかかってこい。
……そりゃ変か。あははは。
待ってるぞ。戦兎。
スタークが氷室 幻徳じゃなかったのなら……ローグか。
あくまで嘘をついてなければ、だけど。
あの蛇は信用出来ないけど……まあそんな場合じゃない。
首相室に急がないと!
『簡単に倒されねえように強くなれよ?兎ちゃん。……ほれ、こいつはプレゼントだ』
狂い哭く狂気の蛇がUSBメモリを投げ渡してきた。
なんだ……これ?
「おい!これは――」
『黙って受け取っとけ。……真実の1つだよ』
真実の1つ……?
なんだ、意味がわからないぞ。
『……ほら、時間がねえぞ?俺は忙しくてな。この辺で帰るとするよ。Ciao♪』
真意の見えない蛇は、そう言ってまた消えてしまった。
……あいつは何なのか全くわからない。
わからないけど……敵だ。
「――行かなきゃ!!」
――首相官邸に入ると、中に居たはずの兵士たちは皆同じように眠りについていた。
……神経系に作用する催眠ガスか何かかな。
とりあえず、急がないと!
寝ている兵士達を置き去りにし、首相室に視線を映す。
道中敵が居なかった……なんか変な感じがする。
首相室のドアを開けると、そこには東都の最高責任者である氷室 泰山そして、対峙する蝙蝠の化身が居た。
「見つけたぞローグ……それともこう呼ぶべき?氷室 幻徳」
あらん限りの憎しみを瞳に込めて暗黒の蝙蝠に刺す。
さあ、どうする蝙蝠やろーが。
「なっ、なに!?貴様!幻徳なのか!?」
一番偉そうな椅子に座ってる老齢の男が蝙蝠に対峙する。
……氷室 泰山は……本当に知らないの……?
『……ごちゃごちゃとうるさい連中だ……目的の物は手に入れた。もうここには用はない』
あれが……パンドラボックス。
なるほどね。まさに暗黒物質みたいな感じ。
……返して貰う前に聞きたいことがあんのよ。
「なんでたーさんを……何故内藤さんを殺したの!?」
鮮明に思い出す。
悲しみに暮れてるあの人達を。
「あの人は家族がいた!まだ小さな娘さんがいた!あんたは!!あの家族から大切な人を奪ったんだぞ!!!」
小さな娘さんを抱きしめながら泣いていた奥さん。
わたしは絶対に忘れない。
「なぜお前らはそんな簡単に人の命を毟りとるんだ!言え!なぜ殺した!!」
『……なんの話だ?何を言っている、お前……』
……しらを切り通すつもりなら。
せめてあの世で懺悔させてやる。
「……泰山さん!避難して!!!」
この人の本質はまだわかんないけど。とりあえずは身の安全を優先しないと。
怒号のような声で呼ばれた氷室 泰山は一瞬戸惑いをみせたが、彼女の指示に従い部屋を後にした。
【海賊! 電車!】
【ベストマッチ!】
【Are you Ready?】
「変身!!」
【定刻の反逆者!】
【海賊レッシャー!! yeah!!!】
その姿は、まるで海原を支配する王。
反逆者の名に相応しい出で立ち。
「おいでませ!【カイゾクハッシャー】!」
そう呟いた戦兎の手に、錨を現した弓が顕現する。
財宝を奪う、まさに海賊の姿。
『……懲りない女だ』
呟いたと同時に戦兎の前に立ち塞がり、トランスチームガンと呼ばれる拳銃型の武器を構える蝙蝠。
しかしそれを分かりきっているかのように躱した戦兎は、流水の如く錨の弓で斬りつける。
躱し、斬りつけ、躱し、斬る。
その一連の動作はまるで人魚の舞。
『小娘如きが舐めるなァ!!!』
傲慢な怒りの叫びをあげる黒き蝙蝠。
その手には《スチームブレード》と呼ばれる剣型の武器が握られていた。
「わたしの台詞だクソ蝙蝠ぃぃ!!!」
弓を握り締め、蝙蝠に突進する海賊。
先程まで押していた海の反逆者は新たな武器を得た蝙蝠に翻弄される。
斬りつけられたかと思えばトランスチームガンでの追撃を喰らい、銃撃を躱したかと思えば斬撃を喰らう。
その攻防により、首相室は半壊していた。
『……ちっ。場所を帰るぞ小娘!!』
苦々しく吐き捨てたと同時に背中から巨大な禍々しい翼を現し、パンドラボックスを大切そうに抱え、銃撃で空いた巨大な穴から飛び立った。
「逃がすかあぁぁ!!!!」
『……お前はさっき。殺したのがどうとか言ってたな。どういう意味だ?』
首相官邸近くの大きな広場に着陸した蝙蝠が、銃の雨を降らせる鷹に姿を変えた戦兎に問いかける。
「そのまんまの意味だよ!まだシラをきるのか!?」
あの人は凄く優しい人だった。
笑い方が豪快な、お酒が好きな、ただのいい人。
あんな殺され方されていいはずの人じゃなかった。
『……それでスタークか。ちっ。連中か……?」
苛立ちを隠せない蝙蝠が、気持ち悪い銃をわたしに向ける。
スタークといい、こいつといい。さっきから訳の分からない事言いやがって……
『……悪いが、ここで終わりだ』
そう呟いた蝙蝠は銃口をわたしから天に変え、消え去った。
黒い未知の箱と一緒に。
「……くそ。やっちゃった……」
……あの銃には姿を眩ませるような能力があった。
あいつを倒すことしか考えられなかったわたしの、負けだ。
パンドラボックスを、未知の力で溢れた危険な箱を、最も渡しては行けない悪魔の集団にみすみす取られちゃったよ……
マスターに、怒られちゃうな。
……今出来る事。まずは泰山さんを保護しないと――
「はぁ、はぁ、はぁ……」
なんだったんだ今のは。蝙蝠のような怪物に、妙齢の女の子。
あの子は確かに、あの怪物の事を幻徳と言っていた……
幻徳が……あの怪物……?
そんな、そんなはずはない。
確かにあいつはスカイウォールの惨劇の後から少しおかしくはなっていたが……そんな間違いを犯すような奴では……
『よォ。どこ行くんだい?氷室首相閣下ァ?』
背後から寒気を感じ、振り返るとおぞましい蛇が居た。
な、なんだこいつは……?
あの蝙蝠の怪物の仲間か……?
幻徳……幻徳は無事なのか――
――その後、泰山さんは発見された。
命に別状は無かったが、現在も意識不明のまま。
わたしが取り逃したせいでパンドラボックスも奪われてしまった。
……外道の集団、ファウストに。
……そして、意識の戻らない泰山さんに代わり首相補佐官であり息子の、氷室 幻徳が首相代理として職務を受け継いでいる。
あの、氷室 幻徳が。
恐らくローグであろうやつが。
ファウストが、国を乗っ取った。
……いっぱい話したい事があるのに。
いっぱい聞きたいことがあるのに。
マスターは、帰ってこない。
色んな事が紐解かれた日から、帰ってこない。
マスター……どこにいるの……?
わたし、やっぱり何も出来ない女だよ。
連中に、ファウストに国を奪われちゃったよ。
そうこうしているうちに、紗羽嬢がある情報を掴んだ。
ファウストのアジトが発見されたと。
そして、軍は一斉攻撃をしかけるらしい。
その、【ファウスト掃討作戦】の指揮官は、
東都首相代理、氷室 幻徳だった。
……To be continued
美空「ふっふふーん」
美空「お。出来た。グラタン。美味しそうだし♡」
美空「おーい!お父さん!戦兎!万丈!ごはんー!」
美空「ほら、早く早く――」
美空「……むにゃむにゃ」
惣一「……随分楽しい夢でも見てんのかな?」