Masked Rider EVOL 黒の宙   作:湧者ぽこヒコ

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月乃「……何ですか、これ?」

男A「美味しいんですよこのケーキ」

月乃「要りません」



月乃「……何です?」

男B「このチョコ人気なんですよ」

月乃「要りません」



月乃「……要りません」

男C (まだ何も言ってないのに……お団子一緒に食べたかった……)



内藤「あ!月乃先生!饅頭食います?」

月乃「……お茶を淹れてきますね」


男A・B・C「「「なぜだ!?」」」




内藤「安物なんでお口に合わないかもですけど」

月乃「大変美味しいです」




――これは、とある無愛想な人のお話。




phase,20 龍の地

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ガ、ガム、食べる?」

 

 

 

 

 

 

 

現在、紗羽嬢の運転で船着場へと向かっている。

 

 

 

……車内は無言だ。空気が重い。

 

 

 

 

 

 

 

「……あ、おう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なんか、気まずいな――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――あ?……戦兎?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

懐かしい声がした。

最近聞いてなかった、懐かしい声。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「万……丈……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

冷たい軍服を着た、バカが居た。

ずっと心配してた、弟が居た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「久しぶりだな。戦兎」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

言葉が出てこない。

 

生きてた。元気だった。

わたしの事見て、あの日みたいに笑ってた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ……うん。元気」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

久々の再会で何を言っていいかわからない。

会ったらぶん殴って首根っこ掴んで家に連れ戻そうと思ってたのに。

 

 

 

 

 

 

 

元気な弟を見て、安心した気持ちでいっぱいになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……涙が静かに落ちる。

 

 

 

ずっと不安だった。実はもう死んでるんじゃないか。

実はもうわたしの知ってる万丈じゃなくなってるんじゃないか。

 

 

 

 

 

 

 

わたしの知ってる、バカな弟の万丈だ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……随分逞しくなったろ、俺?」

 

 

 

 

 

 

 

……確かに。

 

 

 

わたしが知ってた頃の万丈よりもずっと大きい。

胸も、腕も、足も。全身が凄い逞しくなった。

 

 

 

 

 

 

 

「ビビるよーな鍛え方してんだぜ、俺」

 

 

 

 

 

 

 

身体は逞しくなったけど、笑顔は何も変わってない。

最後に残したあの笑顔と一緒。

 

わたしの知ってる万丈だ。

 

 

 

 

 

 

 

「……ばーか。相変わらず脳筋バカだな」

 

 

 

 

 

 

 

口から零れるのはやっぱりいつもの。

4人で笑いあってた、あの日のいつも。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「つーかさ……その格好、何?」

 

 

 

 

 

 

 

ん……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……うぎゃあああああ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――ほー。なるほどねえ」

 

 

 

 

 

 

 

他の兵士たちから少し離れた所で万丈に事の経緯を話す。

 

 

 

 

 

 

 

……さいっあくだ。最悪のタイミングで再会しちまった。

 

 

 

感動もへったくれもないな。

メイド服着て感動もくそもあるかってんだ。

 

 

 

 

 

 

 

「それにしても戦兎がメイド服とはなー!普段の戦兎からじゃ想像できねーな、あははは!」

 

 

 

 

 

 

 

黙れええええ!!!

てめっ、奈落の底とベストマッチ――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――へへっ。もう効かねえぞ」

 

 

 

 

 

 

 

「……え?」

 

 

 

 

 

 

 

わたしの知ってる万丈なら反応出来ずに宙を待ってたはずなのに。

渾身のアッパーカットだったのに。

 

 

 

……片手で受け止められたんですけど。

 

 

 

 

 

 

 

「……少しはやるよーになったみたいだなばんじょー」

 

 

 

 

 

 

 

なんかむかつく。腹立つ。

ニタニタしやがって。はっ倒すぞ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……でも。やっともう。

 

 

 

もうさ、帰ってくるんだよね。

わたしと美空と。それにマスターが待ってるあの家に。

 

 

 

今から逃げちゃえば、大丈夫だし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねえ!万丈!もうさ、ここに居る――」

 

 

 

「あの家族を東都に帰すんだろ?協力すっからよ。時間ねえぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

万丈の顔が、少し冷たかった。

いつも熱いくらいなやつなのに、ひんやりしてた。

 

 

 

わたしはそんな万丈の顔が、とても切なく感じてしまう。

なぜかもう、手が届かない気がした――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――つーわけだ。こいつら俺の知り合いだからよ。問題ねえから。まあちょっと見送ってくっから、後頼むな」

 

 

 

 

 

 

 

 

わたしの想いを遮った万丈は、恐らく自分の部下と思しき兵に事情を説明してくれた。

 

 

 

まあこれで無事に救出出来そうだけど……

 

 

 

 

 

 

 

なんか、変。

わたしの知ってる万丈じゃない。

 

 

こんなまるで偉い人みたいなの……

 

 

 

 

 

 

 

「団長のお知り合いでしたか!無礼をお許しください。……はっ!お任せ下さい!!」

 

 

 

 

 

 

 

北都の兵士が万丈に畏まる。

まるで、凄い偉い人を前にしてるみたいに。

 

 

 

 

 

 

 

……団長って、なんだよ。万丈。

 

 

 

わたしの知ってる万丈はそんなのじゃないよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ね、ねえ万丈。団長ってな――」

 

 

 

 

 

 

 

「ほら行くぞ!!あんまり時間かけるとばれっから。さっさとな。戦兎」

 

 

 

 

 

 

 

大きな声でわたしの言葉をかき消した後、小さく囁く万丈の顔はやっぱりなんか冷たい気がした。

 

 

 

わたしの言葉を聞きたくないような。

心を繋げようとする事を拒否するような。

 

 

 

 

 

 

 

わたしを、拒否しているみたいな――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――紗羽嬢が運転する車の中。空気が重い。

 

 

 

助手席には万丈が座ってる。

 

 

 

 

 

 

本当なら夢見たはずの光景なのに……

 

 

 

 

 

 

 

「ば、万丈さ、さっき北都の兵士に――」

 

 

 

「このガムうめえな!!ほら、戦兎も貰って食ってみ。すんげー美味い」

 

 

 

 

 

 

やっぱり、万丈がおかしい。

わたしが何を言うのかわかってるみたいな。

 

 

それを、拒絶するような。

 

 

 

 

 

 

 

「……ほ、ほら、戦兎ちゃん、ガム」

 

 

 

 

 

 

 

紗羽嬢も何かを察知したようだ。

 

 

 

……ん。美味し。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねーねー。おにーちゃんと、うさぎのメイドのおねーちゃんはけんかしてるの?」

 

 

 

 

 

 

 

……さいっあくだ。

こんなちっちゃい子にわかるくらい雰囲気悪かったのかな。

 

 

 

 

 

 

 

「あははは!おじょーちゃん。ケンカなんてしてねーよ。大丈夫。久しぶりに会ったからさ、何話していいかわかんねえんだ」

 

 

 

 

 

 

 

げらげらと笑う万丈は、いつもの万丈だ。

子供に話しかける時の優しい声の万丈も、いつもの。

 

 

 

 

 

 

 

「……うん。そうだよ。久しぶりでね?話したいこといーっぱいあってね。何話していいかわかんなかっただけなんだあ」

 

 

 

 

 

 

 

横目で見えた万丈の顔は一瞬だけど、やっぱり冷たい気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へー!おもしろいね!……おにーちゃんと、うさぎのメイドのおねーちゃんは、おつきあいしてるの?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ぶふぁっ!!!!

あ、やべ。万丈にコーラぶちまけちゃった。

 

 

 

 

 

 

 

「ちょ、おま、汚ったねーなおい!?べとべとじゃねえか!」

 

 

 

 

 

 

 

あ、いつもの万丈だ。

いつもの、茶化した後の万丈。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ははは。あはははは!!!」

 

 

 

 

 

 

 

なんか、急に面白くなっちゃった。

 

 

 

 

 

 

 

「あはははは!ひゃー!!お腹痛い!」

 

 

 

 

 

 

 

そうこれだ。

このいつもの空間、これがわたしたち。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ったくよー……はは……ははははは!!!」

 

 

 

 

 

 

 

そうだよ。万丈。

やっぱりさ、バカ笑いしてるのが一番似合ってるよ。

 

 

 

 

 

 

 

「……?なにかあったの?うさぎのメイドのおねーちゃんとおにーちゃん?」

 

 

 

 

 

 

 

……ありがとうね、あなたのおかげだよ。

 

 

 

小さな天使に救われちゃったな。

 

 

 

 

 

 

 

「ううん!……お姉ちゃんとお兄ちゃんはね、お付き合いするとかじゃないの。家族なんだ」

 

 

 

「……わたしがお姉ちゃんで、あの見た目が怖い人が、弟なんだよ」

 

 

 

 

 

 

 

お付き合いは笑った。

どう見ても恋人には見えないでしょうに。

 

 

 

 

 

 

 

「おい怖くねーだろーよ……なあ?おじょーちゃん?」

 

 

 

 

 

 

 

口を尖らせながら小さい子供と同じように接する万丈は、どこぞの団長なんかには見えない。

 

 

 

本当の、本物の万丈はわたしが知ってる万丈だ。

 

 

 

 

 

 

 

「んーとね……おかおはちょっとこわい!でもおしゃべりするとたのしいよ!」

 

 

 

 

 

 

 

……クリティカルヒットですねばんじょーパイセン。

 

 

 

へっ!ざまあみやがれ!!

 

 

 

 

 

 

 

「ははは……顔は怖いか」

 

 

 

「……所でなんで、うさぎのおねーちゃんなんだ?」

 

 

 

 

 

 

 

モロにダメージ入ってる万丈君。

残念だったな。それが現実ですよ。

 

 

 

わたしが兎なのはそりゃーもうあれだよ。

兎みたいに可愛いからに決まってんでしょ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うーんとね、うさぎさんみたいなかんじするから!ふんいき!……うさぎみたいなうごき?」

 

 

 

 

 

 

 

……まさかのわたし小動物扱いされてたのか。

 

 

 

さっき貰ったお菓子はあれか、餌付けしてた感じか。

 

 

 

 

 

 

 

「すみません!もう佳奈!謝りなさい!!」

 

 

 

 

 

 

 

……ふふふ。でも、嬉しいな。

 

 

 

なんか、名前を褒めてもらえた気がしたから。

 

わたしの大好きな名前の兎。戦う兎。

まさにわたしにぴったりの名前。

 

 

 

 

 

 

 

「いいんです嬉しいです!ありがとね、お姉ちゃん嬉しい」

 

 

 

 

 

 

 

そう言うと、ちっちゃな天使は零れる笑顔をくれる。

暖かくて、争いとは無縁の感情。

 

 

 

それはとても、尊いモノ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……またお菓子をくれたのは恐らく、餌付けだけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――ちょ、ちょっと!?あんたそいつ北都軍の人間じゃないの!?」

 

 

 

 

 

 

 

船着場に着くと巻さんが万丈を見て慌て出した。

あー、そっか。こいつが着てるの軍服か。

 

 

 

 

 

 

 

「お?あんだ、密航船ってことか。大丈夫だよ、そういうの俺気にしてねえし。安心しろよ」

 

 

 

 

 

 

 

……戻るんだよね。

わたしたちの家に。

 

 

 

 

 

 

 

「あんたあいつ北都軍の、しかも団長の軍服着てるけどどーいった知り合いなのよ?」

 

 

 

 

 

 

 

やっぱり、ほんとにそうなんだね。

団長だなんて偉くなっちゃって。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ただの家族っすよ、家族。あいつ弟」

 

 

 

 

 

 

 

そう。ただの家族。

わたしたちとあいつは家族。

 

 

 

 

 

 

 

「……何者なのあんた?凄い家族ね」

 

 

 

 

 

 

 

ただのお姉ちゃんだってば。

わたしたちはただの家族。

 

 

 

 

 

 

 

何があろうと、家族だもん――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――荷物も全て積み終え、後は出航するだけ。

 

 

 

後は、人が乗るだけ。

 

 

 

 

 

 

 

「……ほら万丈何してんの。早く行くぞバカ」

 

 

 

 

 

 

 

何やってんだ早くしろばか。

時間ないっつったのお前だぞ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……したら、俺は帰るよ」

 

 

 

 

 

 

 

はあ?とうとう本格的にやられたのかこら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「帰るって……わたしたちの帰る家はこっちだよ、こっち」

 

 

 

 

 

 

 

「……わりぃな、戦兎。時間ねーからさ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……何が悪いんだよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうだよ、時間無いよ……nascitaに帰ろ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

美空も待ってるからさ。早くしてよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺は、北都の人間だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……美空がグラタン作ってくれるから、早くしてよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……最近マスターもあんま帰って来なくてさ。美空も寂しがってるんだ。美空も、万丈に早く帰ってきて欲しいって」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

美空は妹なんでしょ……末っ子でしょ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……俺は、もう東都の人間じゃない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俯いてた顔から涙が落ちる。

 

 

 

……あんたからそんな言葉聞きたくない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「美空さ、最近体調よく崩すんだ。わたしも、仕事あるし、万丈が帰ってこないから大変なんだぞお?わかってんのかあほ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

お願いだから着いてきて。

お願いだから一緒に帰ろ……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……俺こそは北都最強の軍、北風 第3師団 団長、万丈 龍我だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やめてよ、まるでわたしたちの反対側みたいなさ。

強くなったんならもういいじゃん。帰ってきなよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……そう言えばさ!もうすぐお給料入るし、みんなで美味しいご飯食べ行こうよ!せっかくだから奮発してさ、ね?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「東都の仮面ライダービルド……桐生 戦兎」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やめて、お願いだからやめて。

それ以上は無理だよ。受け止められない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……美空、がさ遊園地行きたいって、言ってたからさ?一緒に、連れてって、あげよ?あの子、表出たら危ないから、わたしたちが、ついてあげて、さ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

涙で溢れる。嫌な味がする。これ、嫌い。

上手く喋れないよ……

 

 

 

もう、何も言わないで万丈……

一緒に、東都の、わたしたちの家に――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――覚悟しろ、仮面ライダービルド。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は仮面ライダークローズ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次に会う時は、お前の敵だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

涙が弱くなり、少しずつ見えるようになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

万丈 龍我は、もうどこにもいなかった――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――本当にありがとうございます。助かりました」

 

 

 

「メイドのおねーちゃん!ありがとう!」

 

 

 

 

 

 

 

お父さん、絶対助けるから。

 

 

 

……待っててね。

 

 

 

 

 

 

 

「いえ、何もしてませんよ……お嬢ちゃん。お名前なんていうの?」

 

 

 

「わたし?わたし、かな!鍋島 佳奈っていうの!」

 

 

 

 

 

 

 

かなちゃんか。

とっても。凄い良い名前。

 

 

 

 

 

 

 

「素敵な名前だね。……わたしはね、戦兎。桐生 戦兎っていうの」

 

 

 

 

 

 

 

わたしの大好きな名前。

戦う兎、これで戦兎。

 

 

 

 

 

 

 

「せんと?せんとおねーちゃん!いいなまえだね!」

 

 

 

 

 

 

 

でしょ?めちゃくちゃ気に入ってるの。

 

 

 

……ありがとう。

 

 

 

 

 

 

 

「私の知り合いが護衛して安全な場所に連れていきますから。安心して下さい。ご主人も……絶対に」

 

 

 

 

 

 

 

紗羽嬢が手配してくれた人たちが安全な所に送ってくれるみたい。

 

 

 

 

 

 

 

良かった……どうなるのか心配だったし。

 

 

 

 

 

 

 

「本当に、本当にありがとうございます……よろしくお願いします」

 

 

 

 

 

 

 

奥さんと佳奈ちゃんは大きく頭を下げ、車に乗って行った。

 

 

 

……ちょっと待っててね。すぐ、にね。

 

 

 

 

 

 

 

車に揺られながら消えてゆく佳奈ちゃんたちを見送ってると、家族って良いモノだな、って改めて想う。

 

 

 

離れていても繋がってる心。

近くに居なくても想える心。

 

 

 

 

 

 

 

離れていても、心は――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――紗羽嬢!!救出作戦大!成功!だね!」

 

 

 

 

 

 

 

美空の前で泣いちゃだめだ。

今のうちに処理しないと。

 

 

 

 

 

 

 

「……無理しなくていいのよ、戦兎ちゃん」

 

 

 

 

 

 

 

……やめろよ紗羽嬢。

もう少しでわたしの脳が処理してくれるから。

 

 

 

 

 

 

 

「……あれもこれも我慢しなくていい。そうやってパンクしちゃう人を何人も見たわ……大丈夫よ、戦兎ちゃん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やめてってば。もう処理終わるから。

 

 

 

……もう、終わるのに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……うっ。ひっ……万丈、わたしに、敵だって言った……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

万丈の口から一番聞きたくなかった言葉。

一番、恐れていた言葉。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……自分は、北都の……ひっ……人間だって……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

決定的な、決別の言葉。

袂を分かつ、終わりの言葉。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「万丈、居なくなっちゃった……わたしの知ってる万丈、居なくなっちゃった……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一緒に強くなろうと約束した日。

共に倒そうと誓った敵。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「わたし、どうすればいいのかな……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何もかも全てがわからなくなる。

一体どこで間違えたのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「紗羽嬢ぉ……もうやだぁ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もう全てが嫌になる。

何のために戦ってるのかわからなくなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……マスター、会いたいよ。

 

 

 

 

 

 

 

マスターに色んなこと話したい。色んなこと教えてもらいたい。

マスターだったらなんて答えてくれるの?

 

 

 

 

 

 

 

ただ隣で笑ってほしいよ。

声が聞きたいよ。

 

 

 

わたし、壊れちゃうよ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

わたしが壊れてもいいの?マスター……

 

 

 

 

 

 

 

早く迎えに来てよ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

家に帰るまでずっと紗羽嬢の胸で泣き続けた。

彼女は、そっと抱き締めてくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……To be continued

 

 

 

 








月乃 (このお茶、美味しい……)




内藤「月乃先生!渋い湯呑を使ってますな」

月乃「はい。少し、凝っていまして」

内藤「最近私も凝ってるんですよ。私のは九谷焼です」

月乃「素晴らしいです。趣がありますね」





内藤「そういや今度遊園地に行くんですが、どうです?」

月乃「ええ。是非。楽しみにしてますね」

内藤「そりゃ良かった!喜びますよあいつも!」





男性一同「なぜだ……なぜあんなやつが……」





――これは。内藤さん家族と月乃さんのお出かけのお話。


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