Masked Rider EVOL 黒の宙   作:湧者ぽこヒコ

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香澄『ほんとにもう!龍我ったら何考えてるのかしら!』

香澄『あんな事言っちゃって……信じらんない!」

香澄『天罰を与えるしかないわね!えいっ!』



香澄『……あら。お腹痛くなったのかしら』

香澄『うーん……なんか微妙な力ねこれ……』

香澄『あらあらまあまあ。もう始まるの?』


香澄『それでは本編!どうぞ♡』




phase,21 憎しみの黒

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昔は様々な部品を創り、世の歯車として大事な1つを司って居たであろう場所。

 

既にその役目を果たし終えた工場。

今はもう誰かが何を創るわけでもない。

 

 

 

 

 

 

 

そんな廃れた工場に、わたしは来ている。

あの鮮血の蛇に呼び出されたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

恐らく……罠だとは思う。

やつの事だ。きっと何かあるに違いない。

 

 

 

 

 

 

 

万丈の事を連れ去っていった張本人。

わたしたちと万丈が袂を分かつ事になった害悪。

 

 

 

何もかも、あいつが壊していく。

 

 

 

あいつさえ居なければ万丈と決別する事なんてなかった。

あいつが居なければ……

 

 

 

 

 

 

 

さあ早く来い、鮮血の蛇。

その忌々しい存在を、わたしは許さない――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――戦兎!おかえり!大丈夫だった!?」

 

 

 

 

 

 

 

あの後、紗羽嬢の胸で思いっきり泣いてやった。

そしたらだいぶ身体が、心が落ち着いた。

 

 

 

ありがと。紗羽嬢。

小っ恥ずかしいから言わないけど。

 

 

 

 

 

 

 

おかげで、美空を心配させなくて済んだよ。

 

 

 

 

 

 

 

「ただいまあ!うん、作戦大成功だったよ!……後は鍋島さんを助けるだけ」

 

 

 

 

 

 

 

美空は、大丈夫という言葉が好きだ。

この言葉を聞くとこの子は、とても安心したような顔になる。

 

 

 

 

 

 

 

そんな美空の顔を見るとわたしはとても安心する。

この子には辛い思いをさせたくない。

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃ、私はこの辺で帰るわね。鍋島さんの事、わかったらすぐに連絡するから」

 

 

 

「……無理はしないでね。おやすみ!戦兎ちゃん、美空ちゃん」

 

 

 

 

 

 

 

そういうと紗羽嬢は足早に帰っていった。

 

 

 

 

 

 

 

……ありがと。紗羽嬢が居なきゃきつかったよ。

 

 

 

鍋島さんの件、よろしくね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて!東都や北都、難波重工とか色々気になる事はあるけど……

まずは鍋島さんの件をなんとかしなきゃな。

 

 

 

 

 

 

 

佳奈ちゃんと約束したからね!

 

 

 

 

 

 

 

……やー。それにしても可愛かったなあの子。

 

 

 

何故か全く紗羽嬢には懐いてなかったけど。

やたらと絡んでたのに……残念。紗羽嬢。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おやすみ!気をつけて帰ってねー!……所でさ、なんで2人共メイド服着てたの?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……え?

 

 

 

 

 

 

 

ぴぎゃああああああ!!!!

このくだり何回目ぇぇ!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――はー。なるほどね。それでメイド服……」

 

 

 

 

 

 

 

冷たい目を投げかける美空さんにわけのわからない経緯を事細かに説明したのだが、その目は相変わらず冷たいまま。

 

 

 

やめて!わたしの趣味じゃないから!!

全部紗羽嬢だから!

 

 

 

お姉ちゃんこれ着て楽しんでるわけじゃないから!!

 

 

 

 

 

 

 

「その服装のまま……ここまで帰ってきたんだね……」

 

 

 

 

 

 

 

可哀想なものを見る目で見ないで。やめて。

 

わたしのメンタルは既に粉々だから。

今日色々あってもう耐えらんないから。

 

 

 

通りで色んな人がジロジロ見てきたわけだよ……

 

 

 

 

 

 

 

「……がんば」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やめてええええ!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『――良かったなあ、幻徳?全てお前のモノになったぞ』

 

 

 

 

 

 

 

東都の最高責任者の証である椅子に座る俺の前に、気だるげに壁に寄りかかる蛇の怪物。

 

 

 

 

 

 

 

「何の用だ、スターク。ここには来るなと伝えてあっただろう」

 

 

 

 

 

 

 

俺の長年の協力者。

仲間と呼ぶにはあまりに狂った男。

 

 

 

まあ仲間だと思った事は一度もないがな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……そもそもこいつは男なのだろうか。

 

これだけ長い付き合いにも関わらず、こいつの正体を俺は何も知らない。

 

 

 

ただ俺の前に現れ、力をくれてやる……とだけ言い放った男。

その見返りに様々な事をやらされたがな。

 

 

 

 

 

 

 

異常なまでの、国家規模の。

 

 

 

 

 

 

 

『つれねェな幻徳?……いや、ローグと呼んだ方がしっくりくるか』

 

 

 

「おい!?誰かに聞かれたらどうする!?」

 

 

 

 

 

 

 

つい声を荒らげてしまう。

 

 

 

こういう所だ。

この男は、本当に何を考えているのかが全くわからない。

 

 

 

 

 

 

 

裏切りを生業にしているような……誰の味方でもいないような。

 

 

 

油断ならない。こいつは危なすぎる。

 

 

 

 

 

 

 

『ハッハッハァ!そうかそうか。悪かったな』

 

 

 

『まァいいだろ?俺のおかげでその椅子に座れてんだからよ』

 

 

 

 

 

 

 

狂ったように笑う蛇。

その姿はまるで全てが壊れてくのを楽しむ道化そのものだな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やはりこいつが、親父を……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……ちっ。まあいい。殺されたわけじゃない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それよりもこいつに聞きたいことがある。

あの小娘に言われた不可解な事だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「桐生 戦兎が……俺に、内藤という男をなぜ殺したなどとほざいてきた。どういう事だ?……あれは通り魔の犯行だと聞いていたぞ」

 

 

 

 

 

 

 

確かに俺はたまたま内藤さんと会い、何件か酒を飲みはしたが……

その後に別れて帰っていった。

 

 

 

その後に通り魔に襲われた、のではないのか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そういえばこいつもわけのわからない事を言っていた。

……ということはこいつも関係していないのか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……お前がやったんじゃないのか、幻徳』

 

 

 

 

 

 

 

先程の道化が嘘のように。

戦慄を権化にしたような蛇が、低く、恐ろしさを感じる声で迫る。

 

 

 

 

 

 

 

こいつはたまに、こういう時がある。

本来協力者である俺までが恐怖し、そのまま殺されるのではないかと錯覚してしまう。

 

 

 

 

 

 

 

……敵には回したくないやつだ。

 

何を考えているのか、それとも何も考えていないのか。

 

 

 

 

 

 

 

恐らく後者だろう。

こいつは、全てが破綻している。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何度も言わせるな。まずメリットがない。たかだか一所員殺しても何の得にも……』

 

 

 

 

 

 

 

『それに我が東都の1人だ。意味無く俺が殺すわけないだろう」

 

 

 

 

 

 

 

内藤さんは、何かを知っていたわけでもない。

それにあの人は中々に面白い人だしな。

 

 

 

 

 

 

 

久しぶりに愉しい酒が飲めた。

だからこそ、あんな事件が起こったのが残念でならなかったのだが……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……そうか。まァわかった……汚ねえ爺や婆に踊らされねェようにな、Ciao♪』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう言うとスタークは煙と共に姿を消した。

まるで全てを支配するゲームメーカーのように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……たまにふと思う事がある。

 

なぜだか全て、あの蛇の掌の上で転がされてるのではないかと。

 

 

 

 

 

 

 

あらゆる全てが、あいつのシナリオ通りなのではないかと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし、内藤さんの件は本当に知らなかったようだな……

我が東都で何が起きてる……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……まぁいい。

 

そろそろ連中に挨拶しなくてはならないしな。

 

 

 

 

 

 

 

終わりの、挨拶を。

 

 

 

 

 

 

 

その前にあいつの力を手にいれなければ――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――おっ?おっおっお!?きたあああ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

てぇんさぁい物理学者のこのわたし!そうこのわたしが!!

 

 

 

 

 

 

 

遂に完成させたのだよ。

 

お昼休憩の時にいつも飲んでるレモンスカッシュからアイデアを閃き……しゅわしゅわ美味し♡……はっ!しゅわしゅわ?……しゅわしゅわ!!……みたいな感じで遂に、遂に遂に!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「スパークリングだよおおお!!!」

 

 

 

「どしたんだし?遂に頭がスパークリングになった?」

 

 

 

 

 

 

 

おっ……おぉう。マイシスター。

 

相変わらず息をするかのように毒を吐くわたしの妹ちゃん。美空たん。

 

 

 

ここの所体調をしょっちゅう崩してたのだが、だいぶ落ち着いたらしい。

 

 

 

元々身体は強い子だったから心配だったよ。

 

 

 

 

 

 

 

まあまだ出会って一年も経ってないけどねー!

 

 

 

 

 

 

 

……そういやなんか最近、変な夢見るとか言ってなかったっけ。

 

 

 

 

 

 

 

「ふっふっふ。聞いて驚け美空よ!この、てぇんさぁい!物理学者の桐生 戦兎様が創りあげた!まさにしゅわしゅわの――」

 

 

 

「あっ、居た居た!戦兎ちゃんに美空ちゃん!ほら、パティスリー鴻上のケーキ買ってきたから一緒に食べよ♡」

 

 

 

 

 

 

 

……お、おぉぉぉぉう。

 

タイミングを見計らったかのように現れた紗羽嬢。こいつ狙ったろ。完全にスタンバってたろ。

 

 

 

え、何?この2人タッグ組んでわたしの事いじめてんの?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほおおお!ケーキ!ケーキ!!」

 

 

 

 

 

 

 

まあパティスリー鴻上のケーキなら許してあげるがな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ。そういや鍋島さんの事、何かわかった?」

 

 

 

 

 

 

 

紗羽嬢が買ってきてくれたパティスリー鴻上の冬限定新作モンブランをぱくつきながら大事な情報交換をする。

 

 

 

佳奈ちゃんのためにも早く連れて帰りたいし。

それに……ファウストの事も。

 

 

 

 

 

 

 

マスコミまで集めてファウスト掃討作戦、とか銘打った茶番劇をやってたけど、絶対壊滅してないとわたしは確信してる。

 

 

 

まず、鍋島家族。

彼らが監禁されていた北都のマンションにはガーディアンや北都軍の兵士が居た。

 

 

 

通常あんな厳重警戒なのは不自然過ぎる。

普通だったら居たとしても数人のはずなのに、数十人の兵士やガーディアンがまるであのマンションを監視しているかのように警備してたし。

 

 

 

 

 

 

 

万丈も居たけど……

あいつはファウストとは関係ない、よね……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……あと、難波重工のガーディアン。

 

やつら、難波重工はファウストとの繋がりが深くありそうな感じするしね……絶対的な証拠はないけど。

 

 

 

 

 

 

 

それに、氷室 幻徳。やつは信用ならない。

 

ナリさんを射殺して、はい終わりって感じだったけど……

あれも全部仕組んでたみたいにわたしには見えた。

 

 

 

 

 

 

 

……そういやナリさんの遺体はまだ発見されてないらしい。

 

 

 

早く見つけて、弔ってあげたいな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それがね……ぜーんぜん。私もあちこち駆け回ってるんだけどさ。全く手がかりが掴めないのよ……目撃情報すらないんだから」

 

 

 

 

 

 

 

落ち込んでる様子にも見える紗羽嬢は大きく溜息を吐いた。

紗羽嬢が調べても見つからないって事は相当隠蔽されてるんだろな。

 

 

 

 

 

 

 

……どこいった鍋島さん。

 

あんたの家族はもう助けたのに……後はあんただけなのに。

 

 

 

 

 

 

 

佳奈ちゃん……ごめんね、絶対見つけ出すから……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……でもさ。紗羽さんって情報得るのは凄いし。どうやってるの?」

 

 

 

 

 

 

 

純粋過ぎて残酷な疑問をぶつけちゃう美空さん。

得るのは、って。それだけかい。

 

ほら、紗羽嬢半べそかいてんぞ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……でも確かに。紗羽嬢の情報取得能力は目を見張るモノがある。

 

それこそわたしが調べられない所まで。

 

 

 

わたしもハッキン……げふんげふん、ネットで調べたりする能力はかなりあるし、結構自信あるんだけど紗羽嬢の情報を得る力には及ばない。

 

 

 

情報のクオリティが高いし、何より早い。

ビビるぐらいのスピードで持ってくるもんなあ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「正直ね、美空ちゃん……ふふふ。それは知らない方がいいわよ♡」

 

 

 

 

 

 

 

なんだろ。背筋がぞくっとした。

これ以上聞かない方がいいとわたしの脳が伝達してる気がする。

 

 

 

うん、やめとこ。深入りすると戻れなくなる気がする。

純粋な戦兎さんじゃなくなる気がする。こわっ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……それでも知りたい?美空ちゃん?」

 

 

 

 

 

 

 

不敵な笑でわたしの妹を見るのをやめなさい。

なんだ。こいつなんなんだ。

 

 

 

 

 

 

 

「うん、気になるし、教え――」

 

 

 

「やめなさい美空!戻れなくなっちゃうから!多分!」

 

 

 

 

 

 

 

あぶねえ。美空の綺麗なとこが汚される気がした。

なんかわかんないけどこいつあぶねえ。

 

 

 

……紗羽嬢は悪い人じゃないけど。そこは多分ダメだ。悪い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふふふ♡……戦兎ちゃん、携帯鳴ってるわよ」

 

 

 

 

 

 

 

オソロシイ紗羽嬢が、わたしの携帯電話兼バイクの発明品に目線を移す。

 

 

 

 

 

 

 

少々うるさいこの子は基本的にいつもマナーモードにしてる。

 

着信あるのは大体マスターか紗羽嬢か美空だけだし。っていうかね。着信音がうるさ過ぎる。頭に響くんだこれ。

 

 

 

 

 

 

 

「……?非通知だ。誰だろ」

 

 

 

 

 

 

 

珍しい表示を見て思案する。

 

わたしの電話番号を知ってるのはマスター、美空、万丈、紗羽嬢、たーさん、それに職場の東都先端物質学研究所。

 

 

 

確かこのくらいのはず……少なっ。悲しくなってきた。

 

 

 

ということは万丈……?

いや、あいつバカだし絶対覚えてないな。

 

 

 

たーさんもないと思う。

家族の人がわざわざ非通知でかけてくるとは思えないし。

 

 

 

 

 

 

……東都先端物質学研究所か。

 

恐らくファウスト関連かもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

「……はいこちら天才。どちらさん?」

 

 

 

 

 

 

 

さあ誰だ。どこのどいつだ。

わざわざ名乗ってやったぞ。かかってこい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……ハッハッハァ!相変わらず面白ェな、お前は。【憐れな兎】ちゃん?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

狂気に満ちた声。懐かしくも感じる闇。

聞くだけでわかる忌々しい蛇。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんで番号知ってんだ。ストーカーか?スターク」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

心に黒い炎が灯る。

万丈を変えてしまった諸悪の根源。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

わたしの、最大にして最悪の敵。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……俺はお前が大好きだからなァ?声が聞きたくてよ。どうだ、元気にしてたか?兎ちゃん?』

 

 

 

 

 

 

 

わたしはお前が大嫌いだ。

お前の全てを壊してやりたくなるほど大嫌いだ。

 

 

 

お前の存在を全て抹消したいほどに。

 

 

 

 

 

 

 

「……ああ。お前を葬りたくて元気一杯だよ、腐れ外道」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いつもは嫌いなわたしが顔を出す。

真っ黒なわたし。わたしの闇。

 

 

 

 

 

 

 

マスターに一番知られたくない、わたし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……そうか……ちなみにお前の妹ちゃんは元気にしてんのかよォ?美空、だったか?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スターク……美空のことまで知ってるんだな。

 

 

 

お前は、わたしの全てを奪うつもりなんだろ?

 

 

 

万丈だけでなく美空まで奪われてたまるか……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

殺す。こいつのありとあらゆる全細胞を死滅させてやる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……どこで調べたか知らないがな、その汚れた皮膚の薄皮一枚ですら美空に触れてみろ。その時はお前を地獄の果てまで追い詰めて殺すぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

わたしの視界が暗くなる気がした。

 

 

 

わたしの脳が告げる、闇を纏えと。

わたしの心臓が告げる、死を纏えと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

わたしの全細胞が告げる、漆黒に染まれと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……怖ェな、おい……もし良ければその美空によ、変わってくんねェか?ん?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

わたしの全てが黒く染まった気がした。

いつか見た、星の無い黒の宙のように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……殺す」

 

 

 

 

 

 

 

『ああ。そうか……クククク。ハッハッハァ!!まァいいぜ。興味はねェしな』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……お前にプレゼントがある。頑張ってるお前にご褒美だ。有難く受け取っとけよ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やつの声を聞くだけで、どうしようもなく殺意がとめどなく湧き出す。

 

 

 

 

 

 

 

やつの、あの外道の蛇の全てが憎い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……なんだ。お前の首でもくれんのか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの蛇の事以外考えられない。

あの蛇を消す事以外、考えられない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『急ぐなよ、兎ちゃん。まだだ。その時はまだ早い……遊びの時はな!クククク』

 

 

 

『欲しけりゃ1時間後にお前らの隠れ家の近くにある、廃工場に来い。わかんだろ?じゃあな……Ciao♪』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

勝手に話す蛇は、わたしの意見も聞かずに会話を辞めた。

 

 

 

憎い、憎い憎い憎い、憎い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

わたしの愛する人に似てるあの蛇が、憎い――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――久しぶりのあいつは元気そうだ。

 

 

 

携帯に目をやる。

久しぶりの電話で、久しぶりに聞けた声で舞い上がってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

でも、あいつから聞けたのは憎しみの言霊。

全身全霊の殺意を言葉に乗せ、俺に吐いていた。

 

 

 

 

 

 

 

……でもそれでもいい。声が聞けた。

 

いつもの戦兎だった。

変わりなさそう、ではないかもしれないが電話に出れるほどには元気だった。

 

 

 

 

 

 

 

良かった。大丈夫そうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あいつらの声を聞いてしまうと、石動 惣一として話してしまうと、心が揺らいでしまいそうになる。

 

 

 

あいつらといつもの会話をしてしまうと、全て投げ捨ててあいつらの元に逃げてしまいそうになる。

 

 

 

 

 

 

 

覚悟したはずの俺の全てが、あいつらの声や表情や仕草や、その全てで脆く崩壊してしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それだけは絶対に許されない。

 

 

 

葛城のおっさんと誓った日。

この世界の絶望になると決めた日。

人類の最悪にして最大の敵となると決めた日。

 

 

 

 

 

 

 

全ての憎しみを受ける、裏切りの男となると決めた日。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その全ての覚悟が、あいつらに会うと壊れてしまう。

戦兎の声を、あんな会話だけでも壊れそうになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この心が無くなるまで、石動 惣一としてあいつらには会えない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ごめんな、美空。寂しいよな。本当にごめん。

ごめんな、万丈。苦しいよな。本当にごめん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ごめんな、戦兎。俺も会いたいよ。

本当に、本当にごめん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

お前らを裏切る最低な父親で、本当にごめん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……狂った蛇として今からお前に会いに行くよ。戦兎――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――約束の時。あの外道の蛇が指定したこの場。

 

 

 

早く来い。その腐った面を拝んでやる……!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『よォ【憐れな兎】?待たせちまったな』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いつもと何も変わらない、腐った蛇。

わたしの知ってる悪。極悪。最悪。

 

 

 

桐生 戦兎のわたしが知ってる、少ない数の1人。

 

 

 

 

 

 

 

「……要件は?雑談しに来たわけじゃないだろ」

 

 

 

 

 

 

 

プレゼント……とか言ってた。

クリスマスプレゼントにはまだ早いけど、その首を貰えるなら喜んで頂くよ。

 

 

 

 

 

 

 

『……雑談は好きなんだぜ?残念だ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『まァいい。まず1つ目……万丈 龍我の事だ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……これ以上まだ何か万丈にする気なのか。

 

 

 

 

 

 

 

わたしたちの弟を奪うだけじゃ飽きたらずに、こいつは!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『万丈にはな……北都に忠誠を誓ったある理由がある。家族を救いたければそいつを探せ。ヒントは“桜の樹”と“大切なモノ”だ』

 

 

 

 

 

 

 

……まただ。

 

こいつは、こうやってわたしたちにアドバイスのようなものを授けてくる時がある。

 

 

 

メリットが全くない、寧ろデメリットしかないのに……なぜ?

 

 

 

 

 

 

 

……信用は出来ない、出来ないけど。

 

 

 

こいつのこういう時は嘘がなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「……なぜそんな事を教える。お前は敵だろう。メリットがないだろ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何かあるのか……?

裏に潜む悪。巨悪。

 

 

 

 

 

 

 

北都と仲違いしたのか……それともなんだ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『一方的なゲームじゃつまんねェからな。ちょっとしたゲームメイクだよ。バランスをとってんだ……早くしろ。時間は無いぞ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゲーム、か。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……ふざけるな外道。人の命を弄ぶゲームがあってたまるか。

 

 

 

わたしがそんなもの終わらせてやる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『2つ目に……こいつァ俺も想定外だったよ。ゲームを荒らしてくれやがった。北都にはな、ある特異なスマッシュが居る』

 

 

 

 

 

 

 

自身をゲームメーカーとする蛇が少し苛立ったように見えた。

玩具を隠された幼子のような、そんな気がした。

 

 

 

 

 

 

 

それにしても……特異なスマッシュ?

なんだろう。ビルドやクローズに近い、もしくはスタークやローグに近いって事?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『まず、だ。北都が自己的に改良した、本来存在しないはずのスマッシュ……自我を持つスマッシュだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こんな時なのに、脳裏に香澄さんが過る。

あの時。自ら万丈の持つ刃に貫かれに行った、万丈の最愛の人。

 

 

 

 

 

 

 

あの一瞬の出来事。

 

 

 

 

 

 

 

自我、か。そんな奴が存在出来るなんて……

あの月乃さんが到達出来なかった地。

 

 

 

もしかして……月乃さんは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『そしてこいつが想定外だ……やつら、姿形を変えるスマッシュを有している。もちろん自我を持つ、な』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

脳裏にある1つの事が過る。

閃き、というには些か弱い。

 

 

 

あの一件以来、ずっと疑問があった。

 

 

 

 

 

 

 

たーさんを、殺した犯人。

わたしは、氷室 幻徳が犯人だと思っていたけど……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そのスマッシュは……人にも、なれるわけ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ああ。完璧に擬態する事が可能だ。見分けはつかねェ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……だかな、ある事で本人かスマッシュかがわかる』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

額に汗が滲む。心臓が高鳴る。

憎き蛇の言葉に期待してしまうわたしが居る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『こいつァトップシークレットだ。北都政府でも知ってる奴は数人なんだぜ。有難く思えよ?どうやら実験の副作用らしくてな』

 

 

 

 

 

 

 

『……タバコの煙だ。煙に含まれる成分、ニコチンを体内に摂取するとある特殊な化学反応を起こすらしい』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

煙草……

 

煙草と聞くと連想されるのはマスターだ。

いつもぷかぷか吸ってるマスター。

 

 

 

煙が目にしみるからやだ、って言ってるのに辞めないマスター。

 

 

 

まさか、煙草とはね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『これを摂取するとどうなるか……簡単だ』

 

 

 

『身体中に特殊な蕁麻疹が発生する。見たらすぐわかるぜ?何せ真っ黒な蕁麻疹だからな』

 

 

 

 

 

 

 

黒い蕁麻疹か。わかりやすい。

 

 

 

……完璧に隠密用、暗殺用のスマッシュか。

 

 

 

 

 

 

 

氷室 幻徳が白かどうかはわかんないけど、こいつがやったとしても納得が出来る。

 

スマッシュが犯人なら、あの遺体の損傷になったのも頷けるしね。

 

 

 

 

 

 

 

でも……それならなぜ氷室 幻徳に化けて……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『どうだ。真実が視えてきたか?兎ちゃんよ』

 

 

 

 

 

 

 

先程まで冷静だった蛇がまた狂い始める。

思案中なんだ、黙ってろカス!

 

 

 

 

 

 

 

……でも、確かにそうだ。色々と繋がってきたぞ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『そして3つ目……最後のプレゼントだ。受け取れよ、ほら』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう言って渡してきたものは、2つの何かの鍵だった。

どこかの、部屋の鍵。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……何?何の鍵?」

 

 

 

 

 

 

 

見たところ特殊な鍵には見えない。

ただの部屋の……鍵だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『そこ行け。場所はほれ、この地図のとこだ。今はもう誰も使ってねえアパートの部屋だ』

 

 

 

『部屋番号は202と203。お隣さんだからわかりやすいだろ?』

 

 

 

 

 

 

 

……罠だろうか。

 

 

 

しかし、2部屋あるし……なんだろ。

 

 

 

 

 

 

 

『とある人物が各部屋でお前の事を待ってるぞ。じゃあ、俺はこの辺でな』

 

 

 

 

 

 

 

……ふざけんなよこの野郎。

 

 

 

 

 

 

 

毎度毎度逃がすと思ってんのか。

今日こそは、今日こそはお前を――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『――あァ。言い忘れてたわ。10分後に毒ガスが部屋に充満しちまうからよ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

は……?毒ガス……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『両部屋とも中からは出られねえ仕組みになってある。外から解錠しなきゃ開けらんねェようにな』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

わたしの脳が目まぐるしく動く。

この蛇の言葉を理解しようとひた走る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『つぅか気絶してるしな。無理だわ。ハッハッハァ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『んじゃ、頑張れよ!【憐れな兎】』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

蛇は哭く。

全てを喰い荒らし、嗤う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『確か……佳奈ちゃんだっけか?可愛いよなァ、あの子』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

蛇の嗤い哭く声は、わたしに絶望を齎す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『急げよ。ほら?今から行きゃあ間に合うかもしれねえぜ?』

 

 

 

 

 

 

 

『……じゃあな、Ciao♪』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

わたしの脳にあの少女の顔が煌めく。

わたしの名前を褒めてくれた、佳奈ちゃんの顔。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その顔が、絶望に包まれていく気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……To be continued

 

 

 

 








惣一「今回の戦兎……怖かったね……」

美空「うん……ブラック戦兎だったし……」

紗羽「なるべく怒らせないようにしないと……」



万丈「おい戦兎!もうメイド服着ないのか?」



惣一・美空・紗羽「「「ばかぁぁ!!!」」」

黒戦兎「……ふふ」





惣一・美空・紗羽「「「万丈ォォォ!!!」」」






黒戦兎「……」

惣一「ひぃっ!?」

戦兎「……えへへ。マスター、おかえり!」

惣一「へ!?お、おう……」


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