Masked Rider EVOL 黒の宙 作:湧者ぽこヒコ
紗羽「佳奈ちゃん♡何か欲しいものある?」
紗羽 (やだもう♡可愛すぎるわ!何この子♡)
佳奈「……だいじょうぶ」
紗羽「お菓子とか!おもちゃとか!なんでもいいのよ?」
紗羽 (そしてほっぺをぷにぷにと……♡)
佳奈「……だいじょうぶ」
紗羽「あら……そっか……」
戦兎「佳奈ちゃーん!おやつ一緒に食べよー!」
佳奈「うん!たべるー!」
紗羽「あ、そしたら私もジュースあるわよー♡」
佳奈「だいじょうぶ」
紗羽「この差は何!?」
戦兎「美味し♡」
佳奈「うまし!」
自然が豊かな北の地。
東や西の国に比べ、寒さに痛みが伴う。
東や西と違い、貧しいが皆それぞれ小さくも豊かな幸せに包まれる地。
到底争い事とは無縁に思える、北の地――
――はぁ。だりーなー。
北都に来てもうかなり経つ。
……あいつらと一緒に過ごした日々が、もう遥か昔のように感じる。
バカみたいな事して笑ってたな。
戦兎の研究に付き合わされて危うく死にかけたり。
美空の寝顔に落書きしたら、鋸持った魔王に追いかけ回されたり。
マスターに騙されて新作の《nascitaで何シタ?》を飲んだら三途の川渡りかけたり。
戦兎に組手でぼっこぼこにされたり。
美空から文字教えて貰いつつ定規で叩かれたり。
マスターに騙されて新作の《nascitaで話シタ?》を飲んだら天使が手招きしてたり。
……あれ?いい思い出なくね?
おかしいぞ。爆発したり殴られたり追いかけ回されたり意識失ったりした記憶ばっかだぞ。
おい!あいつら完全に俺の事おもちゃ扱いしてんじゃねえか!!よく家族とか言えんなおい!!
大体なんだ。マスターとの思い出、コーヒーばっかじゃねえか!
……でもまあ何回か香澄に会えた気がする。
「まだ早いわよー!」って思いっ切り尻を蹴飛ばされた気がしたなぁ……
「……ははは。あはははははっ!腹痛てぇ」
急に笑いが込み上げる。
毎日、笑ってたな。楽しかった。
いつもおちゃらけてるマスター。
心配性で本当は優しい美空。
素直じゃねえけど、さいっこうな、戦兎。
心の底から楽しかった。あいつらに救われた。
あの監獄に居た頃じゃ考えられなかった。
あいつらと出会えなかったらよ。香澄が死んじまった俺は、多分後を追ってた。
あんなに楽しかったのは、香澄と一緒だった時以来だな……
……また……一緒に……
「何シケたツラしてんだ?伝染っからやめろ」
……あ゛ー。またこいつかよ。
ったく。すぐに突っかかってきやがる。
「っせえよ。お前に関係ねえだろうが」
こいつは《猿渡 一海》。
確か……北風 第1師団 団長だっけか。
顔合わす度になんか言ってくる、いけ好かねえ野郎だ。
……ま、気は紛れっけど。
「何か文句あんのかエビフライ頭?」
……前言撤回。
全く気紛れねーわ。うん。
「なんだよやんのかじゃがいも野郎」
じゃがいもが。じゃがいも産まれのじゃがいも野郎が。
じゃがいもはじゃがいもらしくシチューにでもなりやがれってんだ!
……美味そうだな。
「あ?その頭にタルタルぶちまけんぞコラ」
無表情のまま睨みつけてくる猿渡。
なんだこいつ本当にむかつくな。
……タルタル?
あぁ!タルタルソースの事か!!
「なんだてめぇ美味そうじゃねえか」
エビフライ食いてーな。
でもソースで食うの美味いんだよな。
しかしタルタルも美味そう……うーん。
いや。やっぱ美空のグラタン食いたい。
はぁ……美空のグラタン……はぁ。
「……なんか忙しいやつだな、お前」
やたら冷ややかな目で見てくるじゃがいも。
うっせーよ。こっちは色々フクザツなんだっつうの。
……マスター、戦兎、美空……
「……うるせ」
……俺は北都の連中と馴れ合う気はねえよ。
俺の何かは向こうに置いたまんまだ。
「……てめえの心に嘘ついてもしょうがねえぞ」
……何なんだよこいつは。
その突き刺すような目で、まるで俺の全部を知ってるかのような事言いやがって。
……わかってんだよ、そんな事……
でも、こうするしかねーんだ……
「言われなくても……わかってんだよ」
そう。これでいい。
俺は誓ったんだ。強くなるって。
あいつと約束したからな……
【……ずっと、あの桜の樹から……ずっとずっと龍我を見守ってるから……約束の場所で……】
【強くなろう、万丈。わたしも強くなる。一緒に……もっともっと強くなろう】
一緒に、は無理だったけどな。
俺は強くなるぜ。戦兎。
そして……
「……辛い時はな、心火を燃やすんだよ」
シンカ?なんだシンカって。
訳のわかんねー事を言ってた猿渡は、遠い昔を思い出すかのような。なんだかそんな感じの悲しい目をしていた。
「――入りなさい」
万丈と一海が所属する秘密軍事組織 北風。
その軍を有する北の国、北都。
そしてその北都の頂点に立つ女帝……
「……どうなの?上手くいったのかしら」
女帝……北都の首相 多治見 喜子。
この女もまた、パンドラボックスの力に取り憑かれた1人の狂人。
相対するのは、善か悪か。
「首尾は上々です……後は多治見首相の判断で」
女帝の問いに答える男。
見た所普通の、どこにでもいる男、である。
「そう……まぁ、まだ早いわね。……スタークとは?連絡は取れているのかしら」
会話の1つに現れる蛇。狂気の道化。
「……あまり勝手に動くなよ、とだけ申されておりました……」
質問に対し的確な答えのみ吐き出す男。
その言葉に感情は見当たらない。
「……本当に気味の悪い怪物ね。まぁいいわ。引き続き頼んだわよ。
《猿渡 一樹》」
「……畏まりました」
猿渡 一樹と呼ばれた男の瞳は、静かに死んでいる。
同じ猿渡の性を持つ一海とは、異なる瞳だった。
「――佳奈ちゃん、そのおじさんどんなお顔してた?」
まさか。まさかまさかまさか。
佳奈ちゃんがその男の事を覚えてるなんて……
佳奈ちゃんを誘拐した犯人、恐らくまず間違いなくスターク。
全ての元凶、鮮血の蛇。
でもなぜ……?
奴は多分だけど、人の記憶を操作出来る力を持っているはず。
月乃さんにまつわる記憶、鍋島さんの記憶……
自分やファウストに関する不都合なありとあらゆる記憶を操作してきているのに……なぜ佳奈ちゃんの記憶を消していないの?
記憶を消し忘れた、そんな致命的なミスをするようなやつには思えない。
ここまで用意周到にやる連中だし……
まさか犯人はスタークじゃない、別の誰か?
……謎だ。
「うん!……えっとね。えっとね。……」
……あれ?佳奈ちゃん?
「……んーとねー……」
……あれれ?どうしたのー……
もしかして忘れちゃったのかな。
まあ怖い思いしたんだし、当然か――
「なんていえばいいかわかんないからかく!おかお!」
よっしゃきたあぁぁ!!!!!
――うーん。誰かなこの人。
日本人……だと思う。多分。
佳奈ちゃんが書いてくれた似顔絵は……なんて言うかこう……独特?個性的?……才能を感じる!絵だった!!
……だめだ。わかんないわこれ。
「どう?せんとおねーちゃん!うまくできた?」
「うん!凄くじょーず!佳奈ちゃんありがとね」
ここでこの子の自尊心をへし折ってはならない。
褒めて伸ばす!わたしと一緒!
「えへへ。よかった!どういたしまして!」
きらきらと輝く星々が現れそうな佳奈ちゃんスマイル。
良かった。わたしはこの顔が見れただけで満足だ……
「――結局、わからなかったわね。犯人さん」
あの後、佳奈ちゃんとのお絵かき大会でひとしきり盛り上がり、美空からの寂しそうなお電話で帰宅することにしたわたしたち。
もちろん紗羽嬢の運転です。
出来れば安全運転でお願いします。
「んー。まあしょうがないよ。佳奈ちゃんと鍋島さんが無事だったのが一番だし」
本当に無事で良かった。
明日は筋肉痛だなこりゃ……
「そういえば。佳奈ちゃんからお手紙貰ってなかった?」
「……あ」
すっかり忘れてた。
佳奈ちゃんから渡された手紙。
優しいおじさん、から渡すよう頼まれていた手紙。
……あの似顔絵のおっさんか。
さて。まず日本語かどうかだな――
【憐れな兎ちゃんへ
無事に助け出せたようだな。
何事も無かったみたいで安心だ。俺が言うのはおかしいか。
今回は大丈夫だったみたいだが、次回はどうかな?
深入りするならば、特にお前の周りでこういう事が起きると常に予測しろ。予感しろ。
お前が入ってきた世界は恐ろしい魔の窟だ。
ゆめゆめ忘れるな。Ciao♪
p.s.これはプレゼントだ、受け取れ。
ブラッドスターク】
封筒の中には、手紙の他に遊園地のチケットが4枚入っていた。
……やっぱりスタークか。
わたしたちなんていつでも殺せるぞ。忘れるなよ、って事かね。
詮索するなって言いたいのか。あの蛇。
……しかしなんだろう。凄い変。
なんか脅迫してる、って言うよりも気をつけろよ、みたいな。
……どちらにしろ、あいつは敵だ。
てか遊園地のチケットって。なんだこれ。
罠なのか。これは何かの罠なのか?
しかも4枚て。
わたしと誰と誰と誰を罠に嵌めようとしてんだこいつ。
謎だ……謎過ぎるスターク……
「……何が書いてあったの?」
こちらを凝視する紗羽嬢。
いや、いいんで。前見て運転して貰っていいですかね。
「いつでもお前らなんか消せるぞ、みたいな感じ」
次々と過ぎ去っていく景色を、意味無く見つめながら呟いた。
……多分間違ってない。
あいつは、どうしようもない悪だ。
それはわたしが身をもって知ってる。
……悪だから。許しはしない。
「ふーん……ん?遊園地のチケットじゃない!そんなの入ってたの?」
……まあ驚くよね普通。
敵から遊園地のチケットって貰わないよね普通。
「4枚あるのね……そしたら、万丈君帰って来たら皆で行きましょ!戦兎ちゃんと、美空ちゃんと、万丈君と、私の4人で!」
「……本気で言ってる?」
どう考えても罠ですよ紗羽嬢。
そしてお願いだから前見て。
「えー!いいじゃない!行きましょ?ね!」
……まあ。美空も行きたがってたしいいか、な?
何があってもわたしが居れば護れるし。
「そだね。わたしも居るし!なんとかなる!」
万丈が、帰ってきたら。
あいつを実家に連れ戻してから。
……えへへ。
「どしたの戦兎ちゃん?にやけちゃって?」
「んーん!別に何もないよ!」
みんなで行く遊園地、楽しみだなあ♪
まだ一回もないもんね。そーゆーの。
マスターも……一緒に行けたらいいな。
もうそろそろ給料出るし、マスターの分くらいはわたしが出すよ。
だから……早く帰ってきて……
会いたいよ、マスター。
……To be continued
受付「合計58,000ドルクでーす!」
惣一「……遊園地ってこんなにするのかよ」
惣一「笑えねーなおい」
惣一「ひー、ふー、みー……」
惣一「お。丁度あったわ」
受付「ありがとうございましたー!」
惣一「よし!バイト増やそ!」
――これは。懐が寂しい男のお話。