Masked Rider EVOL 黒の宙 作:湧者ぽこヒコ
戦兎「ますたあ……ふにゃ……ん?」
戦兎「あー……終わっちったか」
戦兎「楽しかったなあ、パーティの夢」
戦兎「……夢でも、会えたし」
戦兎「ん?何だこれ?」
【メリークリスマス、戦兎。 石動 惣一】
戦兎「……もお!帰って来てたなら起こしてよ!」
戦兎「……♪」
美空「あれー?戦兎、ピアスなんかしてたっけ?」
戦兎「……せっかくだからさ」
美空「せっかく?でも可愛いね!」
戦兎「えへへ♡似合うでしょ♪」
――これは。聖夜祭後の贈り物のお話。
「うん。やってみる」
質素だが広く、優雅な音楽が聞こえそうな病室。
今その空間に居るのは私と紗羽さん。
そして……泰山さん。
私たちの、東都と北都の平和がかかってる人。
お願い……どうか成功して……!
「美空ちゃん、無理だけは――」
「――これは、どういう事だ?」
静寂に包まれていた空間に響く声。
低く、嫌悪感に溢れる音。
私の事を心配する紗羽さんの音を塗り潰したモノの正体は、醜い何かを現したような存在に見えた。
「っ!……帰りましょう、美空ちゃん」
紗羽さんの魅力的な顔が歪む。
何かに動揺……というよりも畏怖しているかのような。
いつも余裕を漂わす紗羽さんが、緊張と恐怖で埋め尽くされている気がする。
「大丈夫?どしたの……?」
紗羽さんの様子がどこかおかしい。
この気味が悪い男が来てから、だよね。
……もしかしてこの男に何かあるのだろうか。
紗羽さんの知る人物で、例えば泰山さんを起こすと困る人物、とか。
「えぇ大丈夫。さ、行きましょ……」
絶対に大丈夫じゃない。
見るからに震えているし、何かに怯えてる。
どうしたのかな……
「……儂はただ、この男を見舞いに来ただけだ。すまないな、場を壊してしまって……気を付けて帰りなさい」
深い奥底のような皺の男。
気を付けて、という割にそんな風には感じられないんだけど……なんだろ、気持ち悪いな。
それに一瞬だけ紗羽さんに冷たい視線を刺してから、ずっと目を合わせないし……何か、怖い。
……早く帰った方がいい気がする。
「……帰ろ。お見舞いも済んだし」
私はこの男に嫌悪している気持ちを抑えつつ、いつもの格好良いオトナのオンナとは別人の紗羽さんを連れ、我が家への帰路についた――
「――どうしたの?紗羽さん、変だよ?」
未だに動揺してるように見える紗羽さんに、彼女の好きなローズヒップティーを渡す。
私が淹れるこの紅茶は、彼女曰く落ち着く味らしい。
帰ってる道中、一言も会話が無かった。
……それに帰ってきた今も。
まだ戦兎も帰ってきてないみたいだし。
戦兎なら紗羽さんを元気に出来る気がするんだけど……
「……ごめんね美空ちゃん。もう、ホントに大丈夫だから!」
紅茶を啜りながらいつものように微笑む紗羽さんの表情は、どこか空元気のように思える。
……うーん。
私の思い過ごしじゃないと思うんだけどな……
「さ!そろそろ帰ろっと!……またね、美空ちゃん」
紅茶の残りを飲み干し帰っていく紗羽さんの表情は、悲しみに満ちていた気がした。
何か、秘密を抱え込んでいるような――
「――滝川です。先程の事で、お電話致しました」
先程病室で鉢合わせてしまったあの方に、自ら電話をかける。
震えが止まらない。
全て順調に行っていたはず。なのに、なぜ……
「……何をしていた?まさか、殺すつもりだったか」
恐ろしさを顕現したかのような声。
私の全てが恐怖に襲われるような音。
このお方の声を聞くと、心の底から嫌になる。
……逃げ出したくなる。
「……はい。その方がよろしいかと考えてしまいました。申し訳ございません、閣下」
企みが露見していない事に少し、安堵する。
良かった、バレてはいないよう。
でも、油断ならない。
このお方は難波 重三郎。私たちの王。
私はこの王に、絶対逆らえないのだから。
でも……今回は大丈夫だと思ったのに……
「……勝手に行動するな。儂の命令にのみ従え」
「……まぁ儂の事を考え行動したのだろう。今回は、不問にしてやる」
どこまでも自身が全てだと考えるこのお方。
……私にとっては間違いない。
「はい。誠にありがとうございます閣下……全ては貴方様のために」
私はこの言葉を何度繰り返したのだろう。
数える事など不可能に近い。
そんな事を考えると切なく笑う、そんな自分がいる気がした。
……動揺している私を出さないように。
冷静に、冷徹に謝る。
このお方に見限られないように。
「……わかっているな?裏切るなよ」
私にとって最大の恐怖であるお方は、私にとって最大の言葉を吐いて会話を終わらせた。
「――もう、嫌だよ。戦兎ちゃん……正義のヒーロー、助けにきてよ……」
祈りに似た言葉を紡ぎながら俯くと。
私の目からは絶望の雫が落ちていた。
私の居場所は、どこにもない――
「――ただいま……あ、美空帰ってたの?お帰り」
家に帰ると、美空は既に帰ってきてた。
……良かった。何事も無かったみたい。
「あ……戦兎!おかえり!」
天使のような美空。可愛いわたしの妹。
この子の未来は。この子の笑顔は。
この子の希望は、わたしが守る。
「ふいー!疲れちったよ。お腹減ったわあ」
美空、紗羽嬢、佳奈ちゃん。
巻さん親子、鍋島さん夫妻。
たーさんの家族、東都のみんな。
そして、マスター。
あの人たちの笑顔と希望はわたしが守る。
例え、わたしが穢れても。
例え……弟と戦いになったとしても。
「そうだね!ご飯つくる!……あのね、戦兎」
美空の表情が暗い。
どうしたんだろ?何かあったのかな。
もしや……コスプレの餌食になったか。
まだそんな風に冗談らしいことを考えられるわたしは大丈夫だ、と思う。
まだまだ。これからだもん。
「どしたん?紗羽嬢に変な事されたか」
いつも通りのわたしを創る。
いつも通りの、美空が知ってるわたし。
「あのね……紗羽さんがなんか変だったの」
紗羽嬢が?変だった?
うーん。私が思うにあの人はいつも変だと思うけども。
でもそれがあの人のいい所でもあるとわたしは思う。
でも美空のこの雰囲気だと……
本当に何かあったのかな?
「私ね。紗羽さんと一緒に東都総合医療センターに行ったの」
ご飯の用意をしながら、ぽろぽろと言葉を創る美空に疑問が湧く。
東都総合医療センター?
何でまたそんな所に?
……もしかしてあの時意識を失ったのが何かあったのかな。
頭痛いとか、体調が優れないみたいな。
それで紗羽嬢が病院に連れてってくれたのかね?
「泰山さん……氷室 泰山さん、居るでしょ?元首相の。あの人に会いに行ったんだけどね」
氷室、泰山……?
何で美空があの人の元へ?
接点なんて特に無いでしょうに――
わたしの脳がある1つの事を囁く。
少しずつ輪郭を現しながら。
――そう言えば。紗羽嬢、あの時……
【……そうなのね。ちなみに、どうすればなるの?それ】
【……そう。そっか】
やたらと美空の力の事を知りたがってた。
あの癒しの光の、発動の条件を。
何で紗羽嬢が泰山さんを……?
それよりも――
「それでね、泰山さんの病室でさ――」
「ちょっと待って美空!!!」
美空の言葉を遮断した、私の声が場に響く。
美空は戸惑ってるけど、そんな場合じゃない。
「なんで。なんで泰山さんの病室にわざわざ行ったの?」
声には少し怒気がこもっているかもしれない。
もちろん美空に対してではなく、だけど。
ごめんね、美空。
美空が悪い訳じゃない。美空に対してじゃない。
わたしの脳裏にある予測が着く。
そうであってほしくない。彼女はそんな人じゃない。
脳が活発に働き出す。
わたしは彼女に言ったはずだ。
「え?……ほら、私のボトルを浄化する力あるでしょ。あれは人にも使えるんだ、って」
「戦兎が紗羽さんに言ってた……んでしょ?」
脳が結果を弾き出す。間違い無かった、と。
「だからね。その力で泰山さんの意識を戻そうと思って!」
「……結局色々あって出来なかったからさ。出来るかわからないけど」
どこか輝いているようにも見える美空。
……違うの。違うんだ。その力は危ない。
わたしはその事を彼女に言ったはずなのに。
意識を失うような力。
美空の身体に害を及ぼす力だって伝えたのに……
「それでさ。その色々っていうのが――」
「美空。もうその力を人に使っちゃだめ」
冷たく言い過ぎてしまったかもしれない。
……今日は色々あったし。
「え……?大丈夫だよ?別にどこも悪くないし……」
やっぱりちょっと冷たく言い過ぎたと思う。
はぁ……美空を落ち込ませちゃった。
でも、その力はだめ。
美空に何かあったら、わたしは……
「……その力を使って美空は倒れた。身体に害が無いなんて言えないでしょ」
「もし美空に何かあったら……美空の身体の方が大切だから」
だめだ。優しく諭そうとしても冷たい感じになってしまう。
でも、逆に伝わりやすいかな?
本気で危ないモノだとわかってくれれば、ね。
「……大丈夫だよ。私の身体だし。私が一番よく知ってる。だから大丈夫。心配しないで?戦兎」
美空の言葉にどこか決意のようなものを感じる。
どうしたんだろ。
こんなに食い下がるなんて……
もしかして紗羽嬢に何か吹き込まれた……?
「だーめ!美空がそんなに頑張らなくてもいーの!……紗羽嬢に何を吹き込まれたのか知らんけど、美空がやる必要無いよ」
だいぶ落ち着いたのか、いつも通りのわたしに戻れた。
良かった良かった。
あとは美空に納得してもらえば――
「……私にも、やっとやれる事なの……この力は私の力……私の護れる力……だから、大丈夫なんだって……」
美空……?
俯きながら、ぼろぼろと涙を生み出していくわたしの妹。
どうしたんだろ……何があったの……?
わたしの言葉がきつかったのかな。
普段こんな事ないし、怖がらせちゃったのかな。
美空はわたしが守る。
だから美空はそんな頑張らなくても……
「……ありがとう、美空。気持ちだけで充分嬉しいし!だから――」
「違うの!私も戦兎や万丈と同じ立場に居たい!!護られるだけの存在はもう嫌なの!!私も一緒に護りたい!!」
泣きながら絶叫する美空に呆然としてしまった。
こんな美空、初めて。
……寂しかったのかな。やっぱり。
「うん。でも美空は仲間外れじゃないよ?だって、ボトルだって美空が――」
「いいよね!お姉ちゃんは!?力があってさ!!護れる力が!私には無いの!これしか無いの!!」
「私だって傍に居たい!!戦いたい!でも出来ないから!だから、だから私はこの力を使うの!私だけの力を!!」
美空……?
でも、でもね?それはね、危ないから……
「大体お姉ちゃんは過保護だよ!!私はそんなに子供じゃない!私は私の好きにする!」
「別にそれで私の身体がどうなろうがお姉ちゃんには関係無いでしょ!?そもそも本当の家族じゃ――」
渇いた音が鳴った。
脳が動くよりも先に、手が出てしまった。
……天才なのに、ね。
「……それ以上言わないでよ。関係無い、とか……美空は、わたしの事家族だと思って無かった……?」
とめどなく溢れ出していく。
わたしの目と、心に。
切ない涙が止まらない。
美空の口から聞きたくなかった言葉。
わたしは、本当の家族じゃ、ない。
「……ごめん、お姉ちゃん。今のは――」
「――いいよ!大丈夫。本当の事だし。ごめんね、わたし美空の事心配でさ。うざかったよね。ごめん」
わたしを形創っていたモノがぽろぽろと壊れてく。
桐生 戦兎、というモノが無くなってくような。
「お姉ちゃん……違うの!私はそんな事――」
「ごめんねー、わたし案外バカだったよ。マスターも美空も優しいからさ。勘違いしちゃった。ごめんね?美空」
言葉が止められない。
本当はこんな事言いたくないのに。
やだ、やだやだやだ。
お願い。止まって……
「お姉ちゃん!!聞いてよ!!!」
「わたしほんっと!甘えてたなー。ずっと家族だと思っちゃってた。本当は違うのに。わたしの居場所じゃないのにね」
だめ、やめて。
それ以上言ったら終わっちゃう。
家族が、わたしの大事な家族が……
「もうさ!ごめんね?わたし……出てく!美空にも嫌がられちゃったし、もう何も言わないからさ?……本当に今までありがと――」
優しく渇いた音が鳴り響く。
初めて、美空にぶたれた。
心が、痛いな。
「……お姉ちゃん。本当に怒るよ」
美空は優しい子。
でもなんでだろう。止められないんだよね。
「お姉ちゃん。私はそんな事本当に――」
「ごめん。ちょっと風に当たって頭冷やしてくる」
だめだ。今は考えられない。
美空に言われた事が脳に張り付いて取れない。
ずっと、わたしの心にくっついてる。
桐生 戦兎が、無くなった気がする。
居場所が無くなった、そんな気がする。
「――お姉ちゃん!?ちょ、ちょっと待ってよ!!!」
お姉ちゃんは頭を冷やすと言い、出かけてしまった。
連れ戻そうとしたのに、バイクでどこか遠くに消えてった。
全ては、私のせい。
私があんな事言ったから。
本当はそんな事1回も思った事無いのに。
お姉ちゃんは、私の本当の家族なのに。
ずっとずっと涙が止まらない。
傍に居てほしい。
隣で笑っててほしい。
お姉ちゃんに、居てほしい。
私の大切なお姉ちゃんは、結局帰って来なかった。
……To be continued
美空「それにしても幸せな夢だったなあ♪」
美空「神様……サンタさんからのプレゼントだし!」
美空「ふふ……ん?何だしこれ」
【メリークリスマス、美空。 パパ】
美空「……帰って来てたなら起こしてし」
美空「しかもパパって……きもっ」
美空「……♪」
戦兎「みしょら!そのネックレス可愛いーじゃん!」
美空「そーお?……ふふふ」
戦兎「うん!めちゃ似合ってるよ♪」
美空「ありがと!お姉ちゃん♪」
――これは。聖夜祭後の贈り物と。
とある姉妹のお話。