Masked Rider EVOL 黒の宙   作:湧者ぽこヒコ

32 / 60




紗羽「ふふ……あれ?」

紗羽「……なんだ。覚めちゃったの」

紗羽「久々にすっごい楽しかったな」

紗羽「こんなの……いつぐらいぶりかしら」

紗羽「……ふふ♪」

紗羽「あまり思い出せないことも多いけど……」

紗羽「……眼福だったわあ♡」


紗羽「さて!……頑張るかな」




紗羽「……あら?鞄にいれといたはずなのに」

紗羽「私の必需品が……無い」

紗羽「……また買えばいいか♡」





――これは。聖夜祭後の懲りないお話。







スターク『あんなもんは没収に決まってんだろ』




phase,28 悪魔の軍人

 

 

 

 

 

 

 

 

 

寒い風が身体を虐めてくる季節。

わたしは、大切な人と喧嘩をしてしまった。

 

 

 

心から大切な人。

あの人のためなら……自分が傷付くのなんて構わない。

 

 

 

 

 

 

 

そんな、大切な人。

 

 

 

 

 

 

 

だからこそあの時の言葉にとても、わたしはやられてしまった。

あの子が言いかけた言葉。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

本当の家族じゃ、ない。

 

 

 

 

 

 

 

勢いで言ってしまっただけなのかもしれない。

あんな喧嘩、今までしたこと無かったし。

 

 

 

姉妹喧嘩、ってやつなのかな。あはは……

 

 

 

 

 

 

 

でも、わたしは敏感に反応してしまった。

現に今もわたしの脳に、あの子の言葉がずっと反響している。

 

 

 

 

 

 

 

 

桐生 戦兎が見当たらない。

 

 

 

 

 

 

 

……居場所が、無い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

わたしの存在が拒絶されたみたいな……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「せんとおねーちゃん!ごはんだってー!」

 

 

 

 

 

 

 

……わたしの凍りついて、ひび割れた心を溶かすような笑顔の佳奈ちゃん。

 

 

 

無邪気で、未来が明るくて、守らなければならない尊いモノ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうだ。わたしに居場所が無くても……

守らなきゃ。うじうじしててもしょうがない。

 

 

 

 

 

 

 

例え誰からも必要とされなくても……

 

 

 

 

 

 

 

「……うん!今行くね」

 

 

 

 

 

 

 

小さく可愛い天使を心配させないように、いつも通りに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

nascitaを飛び出しもう3日が経った。

そんなわたしは今、鍋島家に居候している。

 

 

 

あの子と喧嘩してしまい家を飛び出し、特に意味も無く宙を見ていたら、たまたま鍋島さんの奥さんと出くわした。

 

 

 

 

 

 

 

わたしの何かを察したのか、特に何も言っていないのに彼女は「家に来て下さい、あの子も喜びます」と。

 

 

 

「いつまでも居てくれていいんですよ、貴女は私たちの大切な人です」と。

 

 

 

 

 

 

 

そう言ってわたしを拾ってくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……恥ずかしいけど、そのまま厄介になってる。

 

まるでわたしは捨て犬みたいだな、と苦笑してしまう自分があまり好きじゃない。

 

 

 

 

 

 

 

いや。捨て兎か。

というか元々わたしは野兎だしね……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ごめんなさい奥さん。ずっとお邪魔してて……今日、帰ります。本当にありがとうございます」

 

 

 

 

 

 

 

健康的で美味しそうな、出来たての朝食を用意してくれた奥さんに感謝と謝罪を。

 

 

 

わたしは他人だ。

これ以上迷惑はかけられない。

 

 

 

 

 

 

 

別に帰る場所が無くても、わたしは野兎。

野生の兎。孤独な兎。

 

 

 

 

 

 

 

「……ずっとここに居てもらっていいんですよ……仲直りするまで」

 

 

 

 

 

 

 

優しい微笑みを浮かべる綺麗なこの人には、全てお見通しらしい。

 

 

 

一応連絡してくれてたのかな。

それとも、あの子が……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……元気にしてるかな。

 

 

 

 

 

 

 

あの子の事を想う。

今何してるかな、ちゃんとご飯食べてるかな、怖い思いしてないかな、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もしかしたらこういう所がうざかったのかもしれない。

きっと構い過ぎたからもう嫌になっちゃったんだろうか。

 

 

 

わたしは本当の家族じゃないから。

それなのに干渉してくるから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自分が嫌になる。

なんでそんな事もわからなかったんだろう、と。

 

 

 

 

 

 

 

……だから居場所が無くなるんだな。

 

 

 

そう、わたしの脳は告げている気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……氷室に言えば、住む所などどうにでもなる。

 

なんたってわたしは東都の平和を守る、兎たちの総隊長なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……大丈夫です、もう。ありがとうござい――」

 

 

 

 

 

 

 

お世話になった人への感謝とちょっとした決意を伝えようとした時、手首から離れようとしないブレスレットがけたたましい音を奏でた。

 

 

 

戦争の始まりを告げる鐘の音。

わたしを違う場所へと連れていく足音のような。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もしかしたらわたしの新しい居場所はそこなのかもしれないな、と思うと悲しくもなり、なぜか少し笑えてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――総司令官の氷室だ。今すぐ首相官邸に来い」

 

 

 

 

 

 

 

血痕のような小さな赤いスイッチを押すと、憎き敵の声がする。

 

 

 

……もう止まれない。止まってる暇はない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

わたしの新しい居場所は、そこだ。

 

 

 

 

 

 

 

「……わかった。今行く――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――え!?……わかったわ。すぐに……ええ。それじゃ」

 

 

 

 

 

 

 

鬼気迫る電話を終え、急いであの子の元へと向かう。

 

 

 

 

 

 

 

……ごめんね、でも時間が無い。

 

早く、早く泰山さんを目覚めさせないと。

 

 

 

 

 

 

 

それに、なんで戦兎ちゃんが……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……とにかく、急がなければ。

 

うだうだ考えてる場合じゃない。

 

 

 

 

 

 

 

戦兎ちゃんや、美空ちゃんや、万丈君が護る大切なモノたちが消え去ってしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この国が、滅んでしまう――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――お姉ちゃん。何やってるのかな。

 

 

 

 

 

 

 

初めての姉妹喧嘩の後、ずっとずっと帰って来ない私の大切な宝を想う。

 

 

 

居なくなってわかる、大切な人。

改めて想う。かけがえのない存在なのだと。

 

 

 

 

 

 

 

お姉ちゃんが居なくなってからというもの、何も手が付けられない。

やる気が起きない。お腹も空かない。

 

 

 

1人で食べるご飯なんて美味しくもなんともない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……全部、私のせいだ。

 

心が引き裂かれそうになる。

 

 

 

心が……静かに悲鳴をあげる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの時、お姉ちゃんに言ってしまった言葉を思い出す。

 

心にも無い言葉。

1度も感じた事が無いのに、放ってしまった言葉。

 

 

 

感情的になって、吐いてしまった言葉。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私は、やっと得られた自分の力が本当に嬉しかった。

これでやっとお姉ちゃんや万丈と共に戦える、そんな気がしたから。

 

 

 

お姉ちゃんに自慢したかった。

お姉ちゃんに褒めて欲しかった。

 

お姉ちゃんに、一緒に頑張ろうと言って欲しかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それを、拒否された気がした。

 

 

 

お前は要らない。お前の力など必要無い。

お前などただ、隠れて逃げて怯えていればいい、と。

 

 

 

 

 

 

 

そんな風に言われた気がしたんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……お姉ちゃんがそんな事想うはずないのに。

 

 

 

 

 

 

 

きっと落ち着いて私の気持ちを伝えれば、こんな事にはならなかった。

 

 

 

私のせいだ。全部。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……早く謝りたい。

 

 

 

 

 

 

 

未だ帰らぬ姉に想いを馳せる。

 

 

 

ごめんなさい、と。愛してるよ、と。

貴女は本当の家族以上だよ、と。

 

 

 

 

 

 

 

貴女の居場所はここだよ。と――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――美空ちゃん!!……戦兎ちゃんは!?」

 

 

 

 

 

 

 

姉の事ばかり考えていた私の元に来てくれたのは、違う女性。

この前の紗羽さんとは別人。いつも通りだ。

 

 

 

 

 

 

 

「あ……紗羽さん。お姉ちゃんなら、居ないんだ……私のせいで。居なくなっちゃった」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

また涙が零れる。

お姉ちゃんが居なくなってから何度零したのだろう。

 

 

 

数え切れない悔やみ。

後悔しても遅いって、こういう事なんだね。

 

 

 

 

 

 

 

「……どうしたの、美空ちゃん?」

 

 

 

 

 

 

 

優しく問いかけてくれる紗羽さんの言葉が辛い。

 

 

 

 

 

 

 

全部私のせい。私がお姉ちゃんを壊しちゃったから。

大切なお姉ちゃんを……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お姉ちゃんにね、もう誰かにその力は使うなって言われたの……私、要らないって言われた気がしたんだ」

 

 

 

「だから……思っても無いのに口にしちゃった。絶対に言っちゃいけない言葉を」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1つ1つ絞り出すように紡ぎ吐く。

口に出すと余計に実感する。

 

 

 

 

 

 

 

私は本当に馬鹿だ。

 

 

 

 

 

 

 

「……それは、私のせい。美空ちゃんのせいでも戦兎ちゃんのせいでもない……本当にごめんなさい、美空ちゃん」

 

 

 

 

 

 

 

プライドが高そうな紗羽さんが、ゆっくりと深く深く頭を下げてくる。

 

 

 

貴女のせいじゃない。

貴女は私に教えてくれただけ。

 

 

 

紗羽さんは何も悪くない。

 

 

 

 

 

 

……悪いのは、私。

 

 

 

 

 

 

 

「戦兎ちゃんにも私がしっかりと説明して謝るわ……美空ちゃん。でもね、緊急事態なの。聞いて」

 

 

 

 

 

 

 

紗羽さんの表情が強ばる。

私の今の顔は、きっと人には見せられない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……なんだろ。

 

慌ててるみたいだけど、何かあったのかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「美空ちゃん。今から泰山さんの所に行って、今度こそ泰山さんを美空ちゃんの力で起こしてほしいの」

 

 

 

 

 

 

 

……力、か。

 

お姉ちゃんと喧嘩するきっかけになった力。

この力の事を知った時、飛び跳ねるほど嬉しかった。

 

 

 

 

 

 

 

でも、今は逆。

お姉ちゃんと離れ離れになってしまうこんな力なら、私は要らなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こんな悲しみに溢れる力なら、私は要らない。

 

 

 

 

 

 

 

……もう使いたくもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ごめん紗羽さん。もうこの力は使いたくない」

 

 

 

 

 

 

 

また使ったら、お姉ちゃんと離れちゃう気がする。

それならもう、二度と使いたくない。

 

 

 

 

 

 

 

……私は迷わずに、家族を選ぶ。

 

 

 

 

 

 

 

「美空ちゃん。気持ちはわかる……でもね?もう、戦争が始まってしまう。もう本当に時間が無いの」

 

 

 

 

 

 

 

紗羽さんの言葉に、心が拒否反応を起こしたような。

 

 

 

 

 

 

 

今の私には戦争というモノがどこか、絵空事のように感じる。

本当はそんな事起こらないんじゃないか、考え過ぎなんじゃないか、って。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……そんな事よりもお姉ちゃんの方が大事だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「氷室は自身をトップとして新しい軍を設立したわ。名を野兎……そこがどうやら、もう間もなく北都へ侵攻するらしいの」

 

 

 

 

 

 

 

紗羽さんの顔には冷や汗が滴り続けている。

いつも涼しい顔をして何事にも対応する紗羽さんなのに。珍しい。

 

 

 

 

 

 

 

あの病室での出来事の紗羽さんと似ている気がする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてね。驚かないで聞いてね?……その軍のナンバー2は、戦兎ちゃんなの……」

 

 

 

 

 

 

 

「そして、仮面ライダービルドを兵器として投入する事が決定してる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

紗羽さんの言葉を聞いた瞬間、時が止まった気がした。

一瞬全てが凍りついたような。

 

 

 

……お姉ちゃんが、軍?ナンバー2?

 

 

 

 

 

 

 

お姉ちゃんが、戦争に?

 

 

 

 

 

 

 

お姉ちゃんが……仮面ライダービルドが、兵器?

 

 

 

 

 

 

 

「……いやいや紗羽さん!冗談でも笑えないし!お姉ちゃんに限ってそんな事あるわけ――」

 

 

 

「東都政府の知り合いから得た情報よ。間違いないわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……戦兎ちゃんがここに居ないのなら、もう招集されているはず」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……嘘だ。嘘だよ。

 

お姉ちゃんが戦争の道具になるはずない。

 

 

 

あの力を殺戮の戦士にするわけない。

あの力は正義の力。笑顔と希望を護れる力。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私の感情が波をたてる。

大きな大きな波が、唸りをあげて襲うように。

 

 

 

 

 

 

 

「多分、氷室 幻徳に言われたんだと思うわ……戦兎ちゃんが戦わなきゃ、東都のみんなが死ぬ、って」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私の頭の中に光が灯る。

小さいけど、よく視える光。

 

 

 

 

 

 

 

きっとお姉ちゃんは、色々な事を考えて決断したんだ。

東都の皆の笑顔を護るため。大事な皆を犠牲にしないため。

 

 

 

 

 

 

 

あの姉はそういう人だ。

だから、自分に嘘をついてでも決めたんだね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ずっと後ろ向きだった私の道が開けていく気がする。

前に進めと誰かに言われている気がする。

 

 

 

 

 

 

 

止まるな、お前が救えと。

迷うな、お前が連れ戻せと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

お前の愛する姉を、救い出せと。

 

 

 

 

 

 

 

「美空ちゃん。決断して……東都を護れるのは。戦兎ちゃんを護れるのは……貴女しか居ないわ」

 

 

 

 

 

 

 

心に火が点る。

前とは違う、優しくて暖かい火。

 

 

 

 

 

 

 

全てを癒す、豊穣の火のような。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……お姉ちゃん。だめだよ。

 

貴女のその力は、戦争なんかに使う力じゃない。

 

 

 

貴女は優しいから。責任感が強過ぎるから。

全部1人で抱え込んじゃうから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今思うと、喧嘩したあの日のお姉ちゃん、どこか元気が無かった。

 

 

 

もしかしてあの時にはもう、決断してたのかな。

 

 

 

 

 

 

 

私や万丈には関係無いとか言うなとか。

もっと頼れとか、そんな事言う癖にさ。

 

 

 

貴女は全然頼ってくれないじゃん。

私が傍に居るのに。

 

 

 

 

 

 

 

「美空ちゃん……もし何かあったら私が責任を――」

 

 

 

 

 

 

 

「紗羽さん!……行こう。泰山さんの所へ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あのバカな姉を護らなきゃ。

そして首根っこ掴んで引きずり回して実家に連れ戻さなきゃ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

お姉ちゃん、それは間違ってる。

私が引っぱたいて散々お説教してあげるから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「美空ちゃん……ありがとう。そしたら早く行きましょ!!」

 

 

 

 

 

 

 

紗羽さんの眼は決意に満ち溢れてる気がする。

私も同じ眼をしていると思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

お姉ちゃん、待っててね。

お説教したら。ちゃんと謝るから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして一緒に、ご飯を食べよう――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――無駄と思えるほど広く、無機質な空間。

 

 

 

冷たい感情が漂うような場所。

屈強な軍人が集うこの場所。

 

 

 

 

 

 

 

……わたしの新しい居場所。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これより!新東都軍 野兎の始動を宣言する!!この軍の最高責任者であり総司令官は私、氷室 幻徳だ!!」

 

 

 

 

 

 

 

数え切れない程の兵士が集う。

皆、頂点に立つこの男の声に心を震わせているようだ。

 

 

 

まるで、洗脳されているみたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……わたしもそうなのかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そして戦場にて、野兎を束ねる者を紹介する……貴殿らの道を切り拓くこの軍の総隊長!桐生 戦兎!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

無数の、どれだけいるのか想像もつかない衆の前に立つわたしと氷室……総司令官。

 

 

 

そんな中わたしの名が皆に伝わった時、この軍勢は歓喜のような大きすぎる雄叫びをあげている。

 

 

 

 

 

 

 

脳が震える。恐ろしいような。

しかしどこか、胸高鳴るようなわたしが居る。

 

 

 

 

 

 

 

……戦を前にした兵士とはこういう気持ちになるのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな風に感じたら、なぜか笑ってしまった。

それはきっと、悲しみの笑。

 

 

 

 

 

 

 

「兵士たちの士気に関わる……お前も何か言え」

 

 

 

 

 

 

 

総司令官が、兵士たちの喜びのような咆哮でかき消されるくらいに小さな、わたしにしか聞こえない音で囁く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……滑稽だ。本当に滑稽。

 

戦争に使ってはいけない力だと宣っておきながら、わたしはこの舞台に立っている。

 

 

 

戦争という名の、どうしようもない破滅を齎す者の場所に。

しかも、齎す者の上に立ち。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

心が曇っていく。

誰かが嘲りながら、わたしの姿が見えなくなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ほら、やはりお前は無力だ、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……でも、もう決めた事。

 

守るために。わたしは嘘をつく。

 

 

 

 

 

 

 

わたしはもう、nascitaの桐生 戦兎じゃないから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「わたしこそは!野兎の天才総隊長、桐生 戦兎だ!!ここに集う皆よ!わたしに続け!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

野兎の者達が、先程とは比べ物にならないほどの咆哮をあげる。

まるで、何かを滅ぼす叫びのよう。

 

 

 

 

 

 

 

わたしは、何も感じない。

ただ、守らなきゃと声がする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここがお前の居場所なんだ、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「野兎の使命は、北都への侵攻及び主要都市部の殲滅!!」

 

 

 

 

 

 

 

「桐生総隊長が対国家殲滅兵器である、仮面ライダービルドを使用し前線に立つ!!総隊長に恥ずかしい姿を見せないよう心がけよ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

総司令官の怒号のような声を受け、絶叫が空間を満たす。

わたしが、わたしじゃなくなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いや、きっともう。これが本当のわたし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その瞬間、わたしは悪魔に魂を売った気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「実行は8時間後、フタマルマルマル!!我らが怨敵、北都を殲滅せよ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……To be continued

 

 

 

 








惣一「いやー。よかったよかった」

惣一「……あいつら、楽しそうだったな」


惣一「戦兎と美空には一応ちゃんとプレゼントしたけど」

惣一「……喜んでくれたかね」

惣一「女の子ってわかんねーしなぁ」

惣一「……喜んでくれりゃいいけど」

惣一「万丈には……後で、な」





惣一「したら頑張りますか!終焉を!」







――これは。聖夜祭後のサンタさんのお話。
絶望の化身は、何を考えているのか。

それは。そう遠くない未来のお話――


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。