Masked Rider EVOL 黒の宙 作:湧者ぽこヒコ
香澄『ふみゅ……ん……あら』
香澄『……寝ちゃってたんだ』
香澄『楽しかったな、ふふふ』
香澄『……また、逢いたいな』
香澄『それにしてもあんな事出来るなんて』
香澄『いよいよ私、本格的にホラーね』
香澄『また……やってみようかな』
香澄『いや……それはだめだよね』
香澄『龍我には、私を忘れてほしい』
香澄『そして、幸せになってほしい』
香澄『……私は、見守れればそれでいいもん』
香澄『さてと!お散歩しながら観察しよっと!』
――これは。聖夜祭後のちょっと切ないお話。
争いの始まりを告げる、猛々しい焔。
様々な想いを火種に、その焔は成長を遂げる。
それは、全ての始まりに過ぎない。
絶望が齎す終焉の、始まり――
「――いよいよ始まりそうだな」
魂の無い白衣の男。人類の敵。
絶望の隣に立つ者。
「あぁ……そうだな。やっと、始まる」
徐々にその輪郭を現す男。
絶望、終焉、全ての悪を率いるモノ。
全人類の憎悪を、身に纏おうとするモノ。
「……力は徐々に取り戻せているのか?……というよりも、力を手に入れつつあるのか、と聞いた方が正解か」
静かな笑を浮かべる者。
それは人類に仇なす事を象徴する笑。
「……少しずつな。でもまだまだ遠く及ばねぇとは思う……ま、禁忌の箱を手にする前には何とかなりそうだ」
ボロボロの我が身を蔑むように睨むモノ。
絶望と終焉を齎す力の代価。
命を削る力。身を削り得る力。
「回復も以前より格段に早い……いよいよ人外だな、エボルト」
「……いや、名も無き君よ」
人外のモノを、慈しむかのように見る者。
それはきっと、人知を超える外道。
「……なあ、葛城のおっさんよ。聞こえるんだよ、声が」
人の道を外れし者に、絶望のように囁くモノ。
「多分あいつなんだろうな……早く、早く終わらせろ、ってさ」
「……この世界を絶望に満たせ。終焉を齎し全てを拒絶しろ、ってよ」
人知を遥かに超える力が宿るモノの瞳には、虚無が居る。
このモノの立つ場には、既に何も残されていないのやもしれない。
「……俺は未だに悩むよ。苦悩する。逃げ出したくもなる。全て放棄したくもなる……でも、覚悟は決めてる」
人外のモノの視る先には、何が待っているのだろうか。
「きっと俺は後悔する。全てを裏切る事を」
人外のモノが視る未来には、何が満ちているのだろうか。
「きっと俺は後悔する。全てを壊す事を」
人外のモノが視る世界には、何が潜んでいるのだろうか。
「俺は……でもやると決めた。この世界を絶望に陥れると」
「だから……もう迷わない」
人外のモノのその覚悟を宿す言葉は、絶望に包まれていた。
――見覚えのある空間。
豪華さは無いが、優雅さに溢れる部屋。
その部屋に静かに眠る人。
……氷室、泰山。
誰も救われない争いの歯車を回そうとする、氷室 幻徳の父にして私の住むこの東の都の、本当の長。
「……美空ちゃん、お願いね。全ては貴女にかかってる」
その空間に踏み入った私と彼女。
東と北の皆を護るために。
東と北の平和を護るために。
愛する家族を、護るために。
「大丈夫……もし私が意識を失ったら、その後はよろしくね、紗羽さん」
私の力で護れるきっかけを創るから。
後は彼女に、全てを託す。
この国の平和を――
――決意を固めた私と紗羽さんは、その後すぐに泰山さんが眠る東都総合医療センターへと急いだ。
紗羽さんが言っていた戦争を始めるためなのか、警護の数は以前よりも格段に少ない。
紗羽さんが根回ししたのかはわからないけど、以前と同じようにあっさりと泰山さんの休む病室へと辿り着けた。
泰山さんは、ずっと意識を失っている。
まるで、東都が争いを始める事を拒否し、顔を背けているかのよう。
……でも、私が起こす。たたき起こす。
平和を脅かす人たちを止めてもらうために。
あなたが全ての希望なの、泰山さん。
彼の胸に、私の手を置く。
彼の心に、私の想いが届くように。
さぁ、私の力……
どうかお願い、みんなを救って……!
その瞬間、その場の全てが光に包まれた。
優しく、暖かな光。全てを包み込むような光。
絶望を希望に変える、そんな癒しの力のような光。
きっと大丈夫。
後は紗羽さんが上手くやってくれる。
東都も北都も大丈夫、平和に包まれる。
戦争など起こりはしない。
そんな企みなんて、叶ったりなどしない。
戦兎は、お姉ちゃんは。
戦争の道具なんかには、絶対にさせない……
大切な人たちに想いを馳せながら、まるで青い宙を自由に舞うように。私の意識は優しく飛び立っていった――
「――う……ん、なんだここは……ん?君は……?」
……ありがとう美空ちゃん。
後は、私の出番。
絶対に戦兎ちゃんを戦争になど行かせない。
彼女はそんなもののために力を奮ってはいけない。
貴女は正義のヒーローなのだから。
笑顔と平和を護れる、ヒーローなのだから。
……きっと、私の事も――
「――お初にお目にかかります、泰山氏。私は滝川と申します。実は今、国家を揺るがす大変な事態になっておりまして――」
「――以上。時間となるまで各自、休憩とする」
総司令官である氷室から言い渡された事を、各隊長に伝えその刻を待つ。
もう間もなく、戦争が始まる。
野兎の総隊長として。
仮面ライダービルドとして。
戦争の兵器としてわたしは、戦う。
万丈が忠誠を誓わざるを得なくなった、北の国と。
万丈の事を想う。
彼は一体今、何をしているのかと。
何を想い進んでいるのかと。
結局わたしは、あいつを未だに連れ戻せない。
連れ戻すどころか、争いをしかけようとしている。
ねえ、マスター……
わたしの選んだ守り方、間違ってないよね……
わたしの脳が伝達する。
彼の、マスターの面影を。
ふと閃きとは少し違う、興味に近い光が浮かぶ。
何をしてるんだろう、マスターは。
争いの始まりが刻一刻と迫るこの時に。
大丈夫なのだろうか。
戦火に巻き込まれないだろうか。
……そもそも、何のバイトをやってるんだろう。
最終的にマスターのバイト先へとシフトチェンジしたわたしの脳が、なんだかとても面白くて、くしゃっ、と笑ってしまう。
謎が多いマスター。
謎に満ち溢れてるマスター。
そんな所も魅力の1つなのかもしれないな。
そしてもう1人の。わたしの大切な人の事を想う。
凍てついた冷たいわたしの心の中の、暖かな存在の1つ。
美空は、大丈夫だろうか。
争いに巻き込まれないだろうか。
やっぱり心配してしまう。
うざったいのかもしれないけど、わたしの大切な美空。
嫌がられても、家族だと思われなくても。
赤の他人で、わたしの居場所じゃないとしても。
わたしはやっぱりあの子が大好きだ。
あの子を心から愛してる。
本当の家族じゃないと言われても。
思われても。そうだとしても。
わたしにとっては大切な妹なんだ。
家族、なんだよ?美空……
「……大丈夫。わたしが皆を守るから」
口に出すことで己を強くする。
全てを守るために。大事なモノを守るために。
もう会えないと。
家族じゃないとしても。
わたしは、お姉ちゃんは頑張るよ――
「――どういう事か、よくわからないのだが……」
目覚めると、私は病室に居た。
そしてそこにはよく知らない、恐らく初対面であろう女性2人。
1人はまだ子供だと思うが……なぜ意識を失っているのだろうか。
というか、私はなぜ病室に……
確かあの時、黒い蝙蝠のような化物に襲われ、1人の女性が恐らく助けに来てくれて……
そう言えばその後に誰かに襲われたような……
……それよりも、だ。
目の前に居るこの女性は、よくわからない事を口にしている。
一体何がどうなっているんだ――
「困惑するのも理解出来ます……しかし、全てが事実なのです」
「貴方の息子……現在の東都首相代理、氷室 幻徳氏は北都と戦争を起こそうとしています」
幻徳が……戦争を?
なぜあいつが北都と……
「……馬鹿馬鹿しい。冗談だとしても悪意に満ちている。貴女がどなたなのかは存じ上げないが、帰って頂きたい」
この女性が放つ、凶器のような言葉を払拭するように、思考をやめる。
いくらあのバカ息子とは言え、そんな事をするはずがない。
ましてや戦争などと――
「こちらをご覧下さい」
嘘をついているとは思えない気迫で彼女が渡してきたのは、とある書類だった。
新設された、東都軍 野兎……?
仮面……ライダー?ビルドを……
「……対国家……殲滅用兵器とするだと!?」
対国家殲滅用兵器。
そのとてつもなく物騒な名前のそれは、明らかに戦争を喚び起こすモノ。
「こちらをご覧下さい……この軍の全権を有する最高責任者、総司令官の名前を」
そう促す彼女に誘われた先には、私の息子の名が潜んでいた。
我が愚息、氷室 幻徳……
「更にこの軍を考案し、設立に進めたのも全て……貴方の息子である、幻徳氏です」
私の頭にある1つの出来事が思い出される。
あの日の、甘く見ていたのかもしれない、あの記憶――
【――親父!?なぜわからない!?北都は財政の殆どを軍事増強に充て、西都は海外から兵器を密輸している!全ては戦争のためだ!奴らはパンドラボックスを我がものにしようとしているんだぞ!?我が東都も一刻も早く兵器の用意を――】
あいつは、軍事増強を推し進めようとしていた。
このままでは戦争が起こると。
そうなったら東都は滅びると。
……私はその言葉を無視した。
そんなバカな事が起こるはずはないと。
話し合い、三都が手を取り合えば全ては、平和的に解決すると。
そうすればこの国は1つとなって。
平和で、豊かで、幸せの日々が訪れるのだ、と……
そう信じ、息子の思想を無視していた。
まさか、幻徳が自ら戦争を起こすなどとは……
「それと、もう1つ……大変言い難いのですが、幻徳氏は人を、殺されております」
私の脳内の動きが停止する。
拒否というよりも、理解が出来ずに回路が壊れてしまったような。
幻徳が……人を……?
「……こちらの映像をご覧下さい」
私の心を崩壊させてゆく、まるで裁きを司る者かと思えてしまう彼女が見せつけてきたモノには。
息子が怪物に変わり、男性を惨殺している一部始終が映されていた。
……あの、首相室で襲ってきた黒い蝙蝠の怪物。
まさか、まさかそんな……
【――お父さん!お父さんはさ、国のみんなを幸せにするお仕事をしてるんでしょ?】
【あぁ、そうだ幻徳。皆がもっとよりよく、豊かに、平和に、幸せに暮らせるように頑張っているんだ】
【お父さん凄ーい!……僕も大きくなったら、お父さんみたいな人になる!そしてね、お父さんのお仕事のお手伝いするー!!】
【幻徳……ありがとう。嬉しいぞ。そしたらお父さんと一緒に、この国をもっともっと笑顔と希望に溢れる国にしような――】
思い出される、まだ幼き頃の息子との記憶。
まだスカイウォールというものが存在しなかった、幸せで平和に包まれていた日本。
三都などに分断されず、皆が一丸となり力を合わせ生きていた時代。
幻徳はあの、スカイウォールの惨劇からおかしくなってしまった。
あの心優しく、本当に私と一緒に進んで来てくれた息子が……
「泰山氏、ご決断を……恐らく本日中には、北都への侵攻が始まるものと思われます」
「東都と北都の……この国の平和は、貴方に託されています」
……彼女は何者だろうか。
こんな状況でそんな事を考える私は、きっと相当に現実を直視出来ていないのかもしれない。
しかし、私は――
「息子の過ちは親が正さなければな……ありがとう。誰だかは存じ上げないが、君のおかげで私は目が覚めたよ」
私は東都の長。
東都を、ここに住む全ての人を護らなければならない。
東都だけでなく、全ての人たちを護らなければならない。
笑顔と、希望と、平和と、幸せを護らなければならない。
私こそが東都の最高責任者だ。
……平和を脅かす者を許しはしない。
「私が目覚めた今、首相は私であり、代理である幻徳とやらにそれら一切の権限は無い」
我が愚息、幻徳よ。
すまないな。気付いてやれなくて。
お前を正す事が出来なくて、本当にすまない。
「今から首相官邸に戻り、北都への一切の攻撃を禁止する旨を宣言しよう」
「……そして、東都に争いの脅威を招く首謀者……氷室 幻徳をその場で断罪する」
我が愛息、幻徳よ……
これが私に出来るお前への……
「……車は既に用意してあります。参りましょう、首相」
幻徳よ、今、お前を正しに行くぞ――
――暗闇の城。邪悪の窟。
ここに潜むは醜悪なる王。
「もう間もなく、始まる頃かと……東都の新設された軍、野兎は既に配置に着き準備が整っているとの情報が届きました」
醜悪なる王に滅びの足音を伝える、氷のような男。
その眼光は、鋭く尖ったレイピアのよう。
「ふん。やっとか……滝川から何か連絡はあったのか」
醜い欲を晒す外道の王。
全てが我が礎となりし養分と、信じてやまない愚かな王。
「いえ、特には……問題無いと思われます、閣下」
凍えるほど冷たくも感じるこの男から、僅かな綻びが見える。
貪欲な王は先の餌を欲し、その綻びに気付きはしない。
「ならよい……ならば始めるとするか」
どこまでも醜い笑を浮かべる邪なモノ。
絶望の人外とは、また異なる人外。
「いよいよだ、内海。
新型極超音速ミサイル《パンドラ》を使え。
狙うは北都の都市部だ。構わん、全て発射しろ」
滅びの足音は、すぐ後ろに迫っていた。
……To be continued
葛城忍「しかし私もクリパ楽しみたかったな」
惣一「おっさんがクリパとか言うなやめろ」
葛城忍「なんだ。パワハラか。パワハラ上司か」
惣一「何だどうした。そもそも俺は上司だったのか」
葛城忍「実はな。少し流行りに乗らなくては人気が出ないと思ってな」
惣一「……遅いし。そのワードもう多分流行ってない」
葛城忍「なっ!?……超ヤバイマジ卍」
惣一「そこまでして……安心しろ。多分人気は出ない」
葛城忍「……もっと頑張ろ」
惣一「……おっさん。クリパすっか。な?」
――これは。聖夜祭後の悪の……ちょっと悲しいお話。