Masked Rider EVOL 黒の宙 作:湧者ぽこヒコ
惣一「やー。俺がこっちきてからずーいぶんと経ったなぁ。そりゃおっさんになるわけだよ」
?「何言ってんのマスター?」
惣一「やや!これこれは。まあまあなんでもないよ。気にすんな」
?「ふーん。へんなの。まあいいや。そうそう!わたしこそは!」
惣一「やめろやめろ本編ネタバレなっから。とりあえずほら、nascitaの名物コーヒーを味わえ♪」
?「けっちぃな!たくもー……まっず!相変わらずまっじぃな!ぺっぺ!」
惣一「なー。まずいなー。なんでだろなー。という訳で!本編が始まりますよー!」
phase,3 泥だらけの兎と美しい空
――雲一つ無い晴天の青空。行き交う人は少なくはないながらも、落ち着きがあり、風情を感じるこの地。
そこの一角にある派手さは無いが、どこか親しみやすい喫茶店。それこそがCafe《nascita》である。
今日もいつもの他愛がなく、しかしそれでいて大切な日々が始まるのだ。
こんな日はブルボン種のブラックコーヒーに限る……
そう。このまるでダークマターに満ち満ちているかのような深淵の黒。この芳しくもほのかに香る甘さ。
まるでワインを嬲るかのように香りを楽しみ、勢いよく口にその甘美なる漆黒の闇を口に含む……うーんまさに至福の……
「うぇー!ぺっぺっ!!まっず!凄まじくまずいなおい!」
うーん。なぜこうも不味くなるのだろうか。豆は良いものを使ってるはずなんだが……なぜだ。
……あ、ははっ!どうもどうも!俺は石動 惣一。年は……聞くな。40代とだけ言っておこう。一応言っておくが、見た目は30代のはずだ。きっと多分。そして、ここ東都でちょいと小洒落たCafe nascitaを経営しているマスターってわけだね。
まあコーヒーが不味すぎて客は全く来ないがな。
たまには来てもいいのになあ……
「どーしてこう上手くいかないのかしらねえ?」
最近独り言が増えたな。歳のせいか?
「マスター!!きたよ!!きたあ!!!!」
とんでもない勢いで冷蔵庫から出現した女は《桐生 戦兎》。うちの居候だ。とりあえず店もこんな状態でやばいからはよ家賃払え。
「見てみて!これはね剣型の武器なんだけどさ、ここのグリップエンドを引く……っと、強化されんの!回数に応じて技の特性も変わるんだよー!名付けて《ビートクローザー》!!どうどう?凄いでしょ?最高でしょ??天才でしょー!?」
「あー……はいはい。凄いね凄いねー。とりあえず店の中でシュコシュコするのやめて頂ける?」
ほんとこいつはこうなると周りが見えねえんだよなあ。黙ってりゃいい女なのによ。でもこれじゃあなあ……嫁の貰い手はいないだろうな。うん。心配。
「もー!マスター聞いてんの!?ほんとに凄いと思ってる!?これはね、てんっさい!物理学者のこの桐生戦兎だからこそ創りあげたものなのだよ!ねえ!聞いてんの!」
あーもう。ねえねえうっせーな。兎って言うより子犬だな子犬。
つーかその剣振り回しながら暴れんのやめろて。普通に危ないから。あ、おい!店を壊すなあああああああ!!
「はあ……お前な。気をつけなさいよ」
「……はい。ごめんなさい」
すっかりと意気消沈している戦兎。だが侮ってはいけない。こいつはすぐに調子に乗る。
「まあわかったならいいんだけどさ。……そんなお前に俺からスペシャルなプレゼントがある!」
「え!?なに!?焼肉!!?」
「いや、違いますけどね」
膝から崩れ落ちていく戦兎。いやほんとお前うちに1ドルクもいれないくせにいい度胸してんな。
「これだよこれ!ほら!見てみろ!」
「えっと……なになに?就職??東都先端物質学研究所?」
かなりテンションが低くなった戦兎が口を尖らせながらもごもご言う。まっ、焼肉はいつかな。
「俺はタダで人を寝泊まりさせるほど甘くはないんでな!馬車馬のようにびしびし働いて我にドルクを貢ぐがよい。そしたら焼肉も考えないではない」
「や、誰だよ。どこの王だよ」
戦兎はゲラゲラ笑いながら渡した用紙をじっと見ている。
なぜだろうか。戦兎のこの笑い方に懐かしさを覚える。それと同時に、なぜだか少し切なくなる。
デジャヴュ、ってやつなのか?
「とりあえず話は既につけてあるから。お前の履歴書も以前のやつを送ってある。だから支度して行ってこい」
「うっし!わかった!とりあえずそしたらここ行ってくる!」
「おう!あんま調子乗りすぎないよーにな」
戦兎はにひひ、と笑い鼻をぽりぽりかいた。ほんとに大丈夫かよ……
「したらいってきまーす!」
兎なんだか子犬なんだかよくわからない戦兎は足早に店を出ていった。
「……いってらっしゃい」
嵐のように過ぎ去っていった戦兎の残り香に送る。
どうか、無事に帰ってこい。と。
桐生 戦兎。自称天才物理学者のやばめな女だ。
半年ほど前にうちの店の近くに倒れているのを俺が発見・保護し、流れでうちの店に居候することになった。
そして彼女は……記憶喪失。自分の事を一切思い出せない。
自分が誰なのか、名前すらも。どっかの誰かに似てんなぁ。
「まあ全て……俺がやったんだけどね」
戦兎の残した面影にぼそっと呟く。きっとこの事を知ったらあいつは怒り狂うだろうなあ。
でも、まだ早い。
「おとーさーん!!いるー?」
パジャマ姿の少女が気だるそうに冷蔵庫からもぞもぞと出てきた。
せめて着替えなさいよ。もうすぐ開店するんですけど。
「おう。たった今戦兎を見送ったとこだ。店開ける前に飯にするか?」
「うん!そだね!そしたら作るから待ってて」
この年の割には少しあどけない少女、《石動 美空》は俺の愛娘だ。
最初は実感湧かなかったんだけどな……10年も経ちゃあ俺も立派なお父さんだよ。
「そしたらパパはコーヒーでも淹れるかな♪」
「やめて。まずいし。倒れるし。死んじゃうし。」
美空の教育をどこで間違えたのだろうか。
「……泣いちゃうぜ?」
一瞬、美空の左手首にある金色のバングルに視線を移し、大げさなジャスチャーをしながら美空に反論する。彼女は「だって事実だしー」とか言いながら手際よく朝食の準備をしている。父親が頼りないと娘がしっかりとするもんだな、とか考えたらなんだか可笑しな気分になった。
「どうかした?」
表情に出ていたつもりは無いんだけどなぁ。相変わらず聡い子だ。
「いや、なんでも」
手をひらひらさせながら、てきぱきと動く美空に言った。
もう10年か。本当に早いな。
10年前――葛城 忍と出逢った俺は色々な事を教えてもらった。
エボルトとしての、石動 惣一としての自分の事。これからの壮大な計画の事。その計画を進めるためのこれからやらなければならない事。
そして……石動 惣一の娘、石動 美空の事だ。
当時9歳だった美空はオープンセレモニーの前に、迷子になりパンドラボックスの保管庫に来てしまった。
そしてパンドラボックスの前で倒れているの発見された。その際に現在美空の左手首についている金色のバングルが装着されていたらしい……。
美空はこの時の事をほとんど覚えていない。なぜ保管庫に行ったのかも、なぜ勝手に歩き回ったのかも全て覚えてないと本人は言っている。
これは我々にとっても大誤算だったらしい。
パンドラボックスの本来の力を引き出すために必要な60本の《ボトル》。
このボトルを生み出すために必要な《浄化》の力は元々パンドラボックス自体に搭載されていた。そして、そのボトルも中身が入っている状態でパンドラボックス内部に入っていた。
が、しかし浄化の力は何故か姿をバングルに変え、美空にその力を全て与えてしまった。
元々はエボルトが全て行えるはずだったらしい……。
60本あったボトルも、その際にほぼ全てのボトルの中身が消失し、各地に散りばめられた。現在三都にそれぞれ20本ずつ厳重に保管されている。
まあ、とある2本のボトルは俺が回収したけどな。
もちろん。中身が入ってるボトルをな。
俺が来る前のエボルトはこの一連の騒動に全く関与していないらしいんだが……果たして本当なのだろうかね。
まあ、計画には支障はない、か。
「ここかあ!随分と立派な建物だこと」
てぇんさい!物理学者のわたし、桐生 戦兎はマスターの計らいにより東都先端物質学研究所に来ている。いつまでもニートやってんじゃねえ、働けってやつだ。
「もー……。わたしだって忙しいんだけどなあ……」
ぶつぶつ言いながら建物の中に入る。わたしだって働きたくない訳じゃないよ?でもよくわかんないんだけど受からないんだよねー。
まあ、自分の研究に没頭したいからいいんだけど。
「こんなこと言ったらマスターに追い出されそ……」
想像したら、くすっと笑ってしまった。
マスターは記憶の無いわたしを拾ってくれた恩人だ。わたしにとって……父親みたいな存在……?かな。恋人とか言ったら無視されそ。ははは……。
「関係者の方でしょうか?」
すらっとした警備員が話しかけてきた。あー。そうだよね、初めて見る女がずかずか入ってきたら怪しいか。
「あー、あの。今日面接予定の桐生 戦兎です。石動 惣一からの……」
「ただいま確認致しますので、あちらの椅子に腰掛けて少々お待ち下さい」
警備員はてきぱきと受け答えし、足早にどっかへと消えた。やつ、できる……!
まあそんな妄想を一頻りしていると、すぐに関係者らしい2人組がわたしに近づいてきた。
「初めまして。桐生 戦兎さんですね?私はここの所長を務めている、氷室 幻徳と申します。そして隣に居るのは秘書の《内海 成彰》と申します。この度はよろしくお願いします」
ダンディーなおじさんが聞きやすい喋り方で話しかけてきた。や、以外と若いのかな?
内海、って人はメガネが似合う青年って感じ。正にメガネ。感情をあまり表に出さない人なのかね……なんか機械みたい。
「はい。桐生 戦兎です。よろしくお願いします。石動 惣一の紹介で来ました」
なるべくいつも通りにならないように気をつけなさいと。敬語とか苦手なんだよなあ……。
「はい。それではこちらへ」
幻徳さんが先導し、後ろから着いていく。
つかなんでこのメガネ(内海)はわたしの後ろから着いてくんの?怖いんですけど。このメガネサイボーグ怖いんですけど。
「どうぞ」
ヒゲダンディーな幻徳さんに進められ、座り心地の良い椅子に座った。ふっかふかだなこれ。
それにここは……試験場かな。建物もまあまあ大きいと思ったけど、この地下空間は更に広い。迷子になりそうだねここ。
「それでは幾つかお聞きしたいと思います。以前のご職業など。……桐生 戦兎さんは……えー……多分天才物理学者……?」
幻徳さんはあからさまに困惑している。隣で立っているメガネさんもだ。なんだ、メガネさんにも感情あるんじゃん。
「あー。えっとですね。わたし、記憶無いんです。所謂、記憶喪失ってやつです。でもわたし天才なんで。色々発明してるんですけどね!?……まあそこは置いといて、だから物理学者以外ありえないなー、って。なんで多分天才物理学者です!」
戦兎は自信満々に答えた。目が輝いている。まるで『ふんす!』とでも聞こえるようだ。
「……あー。そうですか。なるほど。他にも色々と聞きたいのですが――」
「あ゛ー。づがれだー。あのヒゲダンディーとメガネサイボーグ、幾つかって言ってたのにめちゃくちゃ質問してくんだもん。はあー。お腹すいたぁ……」
ゾンビのようにぴこぴこ歩いてくる戦兎。
彼女はまだ知らない。ここから目まぐるしく、物語が進んでゆくことを。
そして物語は、もう決して止められないという事を。
「ただいまー!!」
「おう、戦兎!おかえり!」
……To be continued
惣一「はい!という訳で第3話終了です!」
戦兎「だねー。ていうかさ、いいの?これ?」
惣一「え?何がだよ?」
戦兎「いやだって……仮面ライダーまだ出てないんですけど……一欠片も」
惣一「……ふっふっふ。大丈夫です!ご安心くださいよぉ!」
戦兎「びっくりした!……え!?じゃあやっと第4話で!?」
惣一「ふっふっふ。驚くなよ……第4話では……」
美空「おとーさーん!戦兎ー!ご飯だよー!」
惣一・戦兎「「はーい」」