Masked Rider EVOL 黒の宙   作:湧者ぽこヒコ

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――いつかの、平和な日本。
まだ絶望が来る前の、あの日――





多治見「あらやだ!泰山さんったら!おほほほ」

泰山「え!?まさかスーツにこんな落書きが……」




泰山「恐らく息子でしょうな。いやあ。お恥ずかしい」

御堂「和むじゃあないですか。はははは」

多治見「ふふふ。わんぱくなお子さんでいらっしゃいますね」

泰山「いやぁ……元気過ぎましてね」

御堂「いいじゃないですか!元気が一番ですよ」

多治見「お茶菓子もありますし。ゆっくりお子さんのお話でも聞かせて下さいな」

泰山「そうですか?はははは。いやあ。親の私が言うのもアレですが、結構出来た息子でしてね――」





phase,39 おともだち?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

かなりおかしい事になった。

何だこの状況。あたしは何をやってんだ。

 

 

 

 

 

 

 

あたしは北都の人間。北都の兵士。

北都の……怪物。

 

 

 

そしてここは東都。

あたしたちの国を滅ぼそうとしてきた国。

 

 

 

だから、東都は敵。

東都軍なんて当たり前のように敵。

 

そこの総隊長なんてもう。敵の中の敵。

むしろラスボスクラスだと思います。

 

 

 

 

 

 

 

なのに……なんでこーなった――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――なんでビルドのおねーさんがここに!?」

 

 

 

 

 

 

 

涙でぼやけてた視界が鮮明になると、目の前にはあのおねーさんが居た。

 

 

 

あたしたちと戦ったあのおねーさん。

あたしの背中を思い切り蹴飛ばしたおねーさん。

あたしたちがボロボロにしちゃったおねーさん。

 

 

 

 

 

 

 

東都軍の兵士のおねーさん。

そして多分、本物のみーたんにお姉ちゃんって呼ばれてた人。

 

 

 

 

 

 

 

東都の兵器にして仮面ライダービルド。

……東都軍 野兎総隊長、桐生 戦兎。

 

 

 

 

 

 

 

「こっちのセリフだよ!?あんたこんな所で何を……まさか、この辺りを襲う気!?」

 

 

 

 

 

 

 

おねーさんの言葉で、あたしの頭の上にクエスチョンマークが浮かぶ。

 

 

 

 

 

 

 

でも、すぐに納得した。

 

 

 

 

 

 

 

あたしは、北都の兵士だ。兵器だ。

辺りをうろついてたらそう思われるのは必然。

なんせあちこちで破壊して、色んな人を傷付けてる連中だもん。

 

 

 

 

 

 

 

……あたしだって嫌だ。もう帰りたい。

 

 

 

 

 

 

 

「……別になんもするつもりないよ。ただ……いや、なんでもないや」

 

 

 

 

 

 

 

何言おうとしてんだろ、あたし。

おねーさんに言ってもしょうがないのに。

 

それどころかあたしたちはおねーさんの敵。

あたしの事が憎くて憎くて、きっと今すぐに殺したいと思ってるんだから。

 

 

 

 

 

 

 

……ぽろっと零れ落ちそうになったのは。

 

 

 

きっとあの日の音に似てたから。

だからつい、零しそうになっちゃったのかな。

 

 

 

 

 

 

 

「んんん!ごめんよ!……さっきも痛い事しちゃって」

 

 

 

「……またね!おねーさん!」

 

 

 

 

 

 

 

いつものあたしを創っておねーさんとお別れ。

おねーさんもあたしの顔なんて見たくないだろうし。

 

 

 

 

 

 

 

おねーさんはあたしの事が絶対憎い。

 

 

 

……知らない人でも、ちょっと辛い。

 

 

 

 

 

 

 

でもあたしは、怪物だから。もう人間じゃないから。

 

 

 

 

 

 

 

そんな感情を持つのは許されないから。

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ――」

 

 

 

「ねぇ!……何か、あったの?」

 

 

 

 

 

 

 

あたしの言葉を遮るおねーさんの音はとても大きかった。

でもその音は、さっきみたいな優しい音だった。

 

 

 

 

 

 

 

「……なんもない。ただ……ちょっと疲れちゃってただけ」

 

 

 

 

 

 

 

あたしの心はもうぐちゃぐちゃだけど。

でもカシラの傍に居られるなら頑張れる。

 

 

 

頑張らないと、カシラの傍には居られないから。

もう離れ離れなんて絶対嫌だから……

 

 

 

 

 

 

 

「……泣いてた、でしょ。……見た目は大人っぽいけど……まだ子供なんじゃないの?あんた」

 

 

 

 

 

 

 

……バレてた。さいあく。

 

 

 

 

 

 

 

でも、このおねーさんなんなんだろう。

あたしの事が憎いはずなのに……

 

 

 

あんなに傷付けて、おねーさんのこの国をボロボロにさせてるのに。

なんであたしを心配してるみたいな事……

 

 

 

 

 

 

 

「はっ!?もしかして油断させて殺っちゃう気!?」

 

 

 

「何物騒な事言ってんだお前」

 

 

 

 

 

 

 

恐怖のあまりつい口に出てしまった……!

 

 

 

 

 

 

 

でもそうなるとなぜだろう。

何が目的なの……?

 

 

 

 

 

 

 

「……あのさ!あんた幾つ?」

 

 

 

 

 

 

 

どこか優しく感じられる表情でわけわかんない事を訪ねてくるおねーさんに、あたしの脳が悲鳴をあげる。

 

 

 

 

 

 

 

なんで?なんであたしの年を?

あたしが年下だったら敬語使えとかって感じ?

それとも年下ならもっと敬えとか!?

 

 

 

いやそれは無理。全然無理。

敬語なんかほとんど使った事ないし……

 

 

 

 

 

 

 

でももしここでおねーさんを怒らせちゃったら殺されるかもしれない!!

 

 

 

今はあたし1人だもんなあ……

カシラたちがいないと戦うなんて無理!怖い!!

 

 

 

 

 

 

 

「こ、今年でじゅ、16歳になったでございますけども……」

 

 

 

「え!!!あんた16なの!?」

 

 

 

 

 

 

 

おねーさんの更なる咆哮にあたしの脳が絶叫をあげる。

全くわかんない。どど、どーゆー感じこれ。

 

 

 

あれなのかな、未成年が生意気とかそんな感じかな……

 

 

 

で、ででもあたしも怪物だし!

んんん!みすみす殺されてたまるかー!!

 

 

 

 

 

 

 

「あ、あああたしだって1人でも――」

 

 

 

「そっか。まだ子供なのに……辛かったね」

 

 

 

 

 

 

 

……え?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おねーさんの暖かい手が、あたしの頭に触れた。

その温もりは、やっぱりあの時に感じた温もりみたい。

 

 

 

あの冷たい大雨の日。

あたしを護ってくれた、助けてくれたカシラが。

あたしを優しく抱きしめてくれたあの日の温もりに、とても似てた。

 

 

 

 

 

 

 

「……ふぇ……ふぇ……」

 

 

 

 

 

 

 

敵であるはずのおねーさんの暖かさで、なぜか涙が零れる。

絶対ダメなはずなのに。あたしの敵なのに。

 

 

 

でもこのおねーさんの優しさの温もりがどこか懐かしくて。

あの日のカシラが微笑んでくれてるみたいで。

 

 

 

 

 

 

 

あたしの想いが、止められなくなる。

 

 

 

 

 

 

 

「大丈夫……辛かったね?……大丈夫。もう、大丈夫」

 

 

 

「ひっ……ふえぇーん!!うわあぁん!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

柔らかな音の大丈夫、って言葉があたしの何かを纏ってく気がする。

 

 

 

もう無理しなくていいんだよ、我慢しなくていいんだよって。

 

暖かくて、ほんのりしてて。

それでいてちょっぴり甘いような。

 

 

 

 

 

 

 

そんな何かが、あたしの心を抱きしめてくれてる気がする。

 

 

 

 

 

 

 

「……もしよかったら、わたしん家おいで?近くだし……暖かいホットミルクぐらいなら、あるよ?」

 

 

 

 

 

 

 

そこからはよく覚えてない。

 

ただおねーさんにぎゅー!って抱きついて。

おねーさんは優しく抱きしめてくれて。

 

 

 

 

 

 

 

何となく。本物のお姉ちゃんに慰められてる気がした――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――はい、ホットミルク。芯まで暖まるよ」

 

 

 

 

 

 

 

そしたら気付いたらおねーさんのお家に来てしまっていた。

 

 

 

なぜだ。なぜこうなった。

あたしは敵のはずなのに。

 

 

 

 

 

 

 

……しかも。あたしにホットミルクを手渡すこの女の子。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まさかのみーたんなんですけど!!!

 

 

 

 

 

 

 

「美空のホットミルクは癒されるよ?……ほら、飲んで飲んで!」

 

 

 

 

 

 

 

やっぱりみーたんはおねーさんの妹だったのか……!!

カシラが知ったらどうなるんだろ……

 

 

 

 

 

 

 

「外寒かっただろうし!ここなら暖かいし!」

 

 

 

 

 

 

 

みーたんも、おねーさんも優しく微笑んでくれてるのはなんでだろう。

あたしは憎い敵のはずなのに。

 

 

 

 

 

 

 

もしかしてあたしからなんか知るつもりなのかな……?

北風の情報とか、カシラの事とか。

 

 

 

 

 

 

 

……残念だったね。あたしはなーんも知らないよ!!

 

 

 

 

 

 

 

「……おいし♡」

 

 

 

 

 

 

 

恐らくあたしから何かを得ようとしている人たちが勧めたホットミルクは、とても美味しかった。

 

 

 

味もそうだけど、心が暖まるみたいな。

優しい気持ちにしてくれる、そんな味。

 

 

 

 

 

 

 

「……何があったかわかんないけどさ。落ち着くまで居ていいよ。……今は2人しか居ないし」

 

 

 

 

 

 

 

おねーさんの驚愕な発言。

ホットミルクでニヤニヤしてたあたしの頭はまたもやクエスチョンマークでいっぱい。

 

もしかして……寝込みを襲うとか……!?

 

 

 

 

 

 

 

「あ、あのさ……あたし、敵だよ?憎いでしょ?……何が目的なのかなでしょうか」

 

 

 

 

 

 

 

敬語の使い方なんて知らないけど、多分こんな感じでいーよね?

 

 

 

 

 

 

 

「なのかなでしょうって……ぷぷぷ……うひゃひゃひゃ!!!!やだ!!おっかしー!!!」

 

 

 

「もう……戦兎やめて……あははははは!!!だめ、おかしーし!!!」

 

 

 

 

 

 

 

な、なに。どうしたのこれ。

 

あたし変な事言ったかな……?

もしかしてノコノコと着いてきて殺されるなんてバカなやつめとかそんなんか!?

 

 

 

 

 

 

 

「あ、あああたしだって怪物だもん!!簡単にこ、こここ殺されなんかしないよーだ!!です!!!」

 

 

 

 

 

 

 

あたしは怪物だから。化け物だから。

……みーたんとは違うから――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――え……?」

 

 

 

 

 

 

 

また。まただ。

あたしは、この人たちがわからない。

 

 

 

 

 

 

 

おねーさんが、あたしの頭を優しく包み込んでくれた。

柔らかい何かでちょっと息苦しいけど、嫌な気持ちにはならない。

 

 

 

あたしは、敵なのに。

あたしは、怪物なのに。

 

 

 

 

 

 

 

「そんな事ないよ?……あなたはちょっと大人っぽい、可愛い女の子。……怪物なんかじゃない、ただの素敵な女の子だよ」

 

 

 

 

 

 

 

おねーさんの暖かい言葉と身体に、またあたしの心が騒ぎ始める。

敵なのに。カシラが戦う相手なのに。

 

 

 

この人を愛おしく思ってしまいそうなあたしが居る。

 

 

 

 

 

 

 

「……いーから、そーゆーの。あたしは怪物だから……もう人じゃない……醜い化け物だから……」

 

 

 

 

 

 

 

あの姿を思い出すと吐き気がする。

 

 

 

醜くて、おぞましいあたし。

もう引き返せないと実感する姿。

 

 

 

 

 

 

 

……カシラの傍に居るためだから。後悔はしてない。

 

 

 

 

 

 

 

してないはずだけど……

でもちょっと、辛い。

 

 

 

 

 

 

 

「……ほら、鏡見てごらん?」

 

 

 

 

 

 

 

みーたんが差し出してきた手鏡を見ると、涙でぐちゃぐちゃなあたしの顔がこちらを見ていた。

 

 

 

まだ人間のあたし。

ほんのちょっとだけ自信のある、あたしの顔。

 

 

 

 

 

 

 

「なーに?……泣き顔見せて落ち込まそうとでも――」

 

 

 

「こんなにも可愛い女の子が怪物なわけないでしょ!」

 

 

 

 

 

 

 

「……どこでその力を得たのか知らないけどさ。わたしには。ふっつーの女の子にしか見えないけどなー?」

 

 

 

 

 

 

 

……んんん。ちょっと嬉しい。

 

 

 

今まで知らない人から可愛いとか言われた事ないし……えへへ。

 

 

 

 

 

 

 

……でも。もうこれは仮の姿。

 

 

 

 

 

 

 

「……あたしはスマッシュだから。もう人間じゃないもん……あの怪物が、本当のあたしだから」

 

 

 

 

 

 

 

あの人の傍に立つために選んだ姿。

……もしカシラに醜いって思われててもいいんだ。

 

 

 

 

 

 

 

「……わたしから見えるあなたは、とっても元気な女の子にしか見えなかった。明るくて天真爛漫な、ただの女の子だよ」

 

 

 

 

 

 

 

この人と居ると、あたしの何かが脆くなる気がする。

ずっと我慢してた事が溢れ出しそうになる。

 

 

 

……多分それはいけない事だ。

 

 

 

 

 

 

 

「……んんん。苦しーよおねーさん」

 

 

 

「おっと!すまんね!」

 

 

 

 

 

 

 

危うく窒素で殺されかけたよ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……ほんっとにさあ。なんなんだろ。

 

 

 

この人は、あたしが憎くないのかな。

 

 

 

 

 

 

 

「おねーさん……1つ、聞きたい」

 

 

 

 

 

 

 

あたしの感情を弄ぶこのおねーさん。

あたしが決意した事を揺るがすおねーさん。

 

 

 

 

 

 

 

敵なのに、好きになっちゃいそうなおねーさん。

 

 

 

 

 

 

 

「あたしってさ、敵じゃん。おねーさんの……なのに、なんでさ?そんなによくしてくれんのかなーって」

 

 

 

 

 

 

 

あたしがずっと疑問に思ってる事。

さっきからずっとヘンな感じの事。

 

 

 

この人は、あたしの事嫌いじゃないのかな……

 

 

 

 

 

 

 

「え?敵?……うーん。味方じゃあないけどさ、確かに」

 

 

 

 

 

 

 

やっぱり。やっぱりそうだよね。

あたしはにっくい敵。憎い怪物。

 

 

 

色んな人を傷付けちゃうような怪物だもん……

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱり憎いよね、あたしの――」

 

 

 

「でも敵ではないな!!そもそも勘違いなんだし、これ」

 

 

 

 

 

 

 

勘違い……?

なにそれ。どーゆー事だろ?

 

 

 

 

 

 

 

そーいえばカシラとおねーさんが喋ってた時、おねーさんは東都は何もやってない、って言ってた。

 

特に気にもしてなかったけど、あれなんだったんだろ?

 

 

 

 

 

 

 

「勘違いってどーゆー事?」

 

 

 

 

 

 

 

そもそも北都に爆弾が落ちていっぱい人が死んだのは間違いないし、凄い大騒ぎだったし。

 

しかも東都から飛んできてたのもちゃんとわかってるって、カシラが教えてくれたんだけどな……?

 

 

 

 

 

 

 

「えーっと、黄羽ちゃん?だっけ?」

 

 

 

 

 

 

 

おねーさんが怪しそうに訪ねてくるあたしの名前。

新しいあたしの名前。

 

 

 

 

 

 

 

……カシラがまだ一度も呼んでくれない、あたしの名前。

 

 

 

 

 

 

 

「んんん。そお。あたしの名前は黄羽ってゆーよ」

 

 

 

「うん。そしたら黄羽ちゃん。これはね……なんて言うかな、黄羽ちゃんには難しいかもしれないんだけどさ」

 

 

 

 

 

 

 

んんん。なんか今サラッとバカにされた気がする。

なんだい!あたしだって立派なへーたいなんですけど!?

 

 

 

 

 

 

 

「北都で起こった残酷な事件。これは東都と北都が戦争して喜ぶ連中が、裏で糸を引いてるんだよね」

 

 

 

 

 

 

 

うらでいとひいてる……?

 

 

 

なんて意味だろ……

裏で……意図?井戸?

引いてる?挽いてる?

 

うらでいどって言ったのかな……?

 

 

 

 

 

 

 

「んんん……その裏で井戸挽いてたのは東都じゃないの?」

 

 

 

 

 

 

 

意味わかんないけど、多分これで大丈夫。

裏で井戸挽くって一体どんな連中なんだろーか。

 

 

 

 

 

 

 

「裏で井戸?……まあいいや。うん、だからね。東都と北都が戦争して喜ぶ連中を今、探してるんだ」

 

 

 

 

 

 

 

んんんー。どーゆー事だろ。

おねーさんの言ってる事がよくわかんね。

 

 

 

 

 

 

 

「んーんん。でも北都にミサイル飛ばしたのは東都じゃん!」

 

 

 

 

 

 

 

だって……だから戦争になったんでしょ……?

だから、あたしたちもこんな事を……

 

 

 

 

 

 

 

「黄羽ちゃん、よく聞いてね。東都はミサイルなんか撃ってないんだ……それどころか戦争なんて望んでない。戦う気なんて全く無いんだよ」

 

 

 

 

 

 

 

ん……?

 

 

 

戦う気が無いって。ミサイル撃ってないって。

そんな話誰が――

 

 

 

 

 

 

 

「あ……!」

 

 

 

 

 

 

 

1つの何かが頭に浮かぶ。

 

 

 

確かに、東都の兵たちは自ら襲いかかってきてなかった。

見かけてたのは全部、みんなを助けるとこばっかり。

 

 

 

東都の兵士たちが北風を襲うなんて、なかった。

 

 

 

 

 

 

 

戦闘も、破壊活動をしてる北風の兵士を止めてる感じだった。

それに拠点が攻められたとか、北都に侵攻してたとかも聞いてない。

 

 

 

 

 

 

 

でも……たまたまってことも有り得るよね……

それに東都だって、確か……

 

 

 

 

 

 

 

「でも……多治見首相は東都も宣戦布告してきた、って……」

 

 

 

 

 

 

 

確か、北風が集合してた時に言ってた。

東都も宣戦布告をした、って。

 

 

 

だから攻撃しないと北都もやられる、って……

 

 

 

 

 

 

 

「え!?北都の首相が!?……おかしいな、絶対にそんなはずないのに……」

 

 

 

 

 

 

 

おねーさんの感じを見てると嘘ついてるよーには見えない。

それにおねーさんは東都軍、野兎の一番偉い人でしょ……?

 

 

 

 

 

 

 

その人が戦う気は無い、って。

それって東都は北都になんかするつもりは無いんじゃ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……じゃあ、あたしたちは何しにここに来たの?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もしそれがほんとならあたしたちは……なんて事を……

 

 

 

 

 

 

 

「ねえ!?ほんとに!?ほんっっとに東都は北都に何もしてないの!?戦争しようとしてないの!?」

 

 

 

 

 

 

 

あたしの心に色んな疑いが溢れる。

 

 

 

東都の兵士はずっと護る事しかしてなかった。

あたしたちはずっと壊してた。

 

 

 

 

 

 

 

もし、もしほんとに東都が何もしてなかったら……

これは、なんのために戦ってんの……?

 

 

 

 

 

 

 

「当たり前だよ!!わたしたちは……東都はそんな事絶対にしない。……だからこんな争いは無意味なんだよ……」

 

 

 

 

 

 

 

怒号にも聞こえるおねーさんの言葉には。

やっぱり嘘が感じられない。

 

その眼差しも、多分嘘ついてる人の目じゃない。

 

 

 

 

 

 

 

「カシラに伝えなきゃ……!!」

 

 

 

 

 

 

 

カシラに、赤羽や青羽に……!!

みんなに早く伝えないと……!!!

 

 

 

 

 

 

 

「おねーさん!!今からカシラに伝えてくる!!!こんなのだめだって!東都は悪くないって!!言ってくる――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――お、おぉう……行っちゃったよ……」

 

 

 

 

 

 

 

あの元気な女の子……黄羽ちゃんは勢いよく出ていってしまった。

ほんとに元気な女の子だな、あはは。

 

 

 

 

 

 

 

「それにしてもさ、戦兎。あの子……なんか純粋な子だったね」

 

 

 

 

 

 

 

黄羽ちゃんの面影へ愛おしそうに呟く美空は。

なんだかあの子のお姉ちゃんに見える。

 

 

 

 

 

 

 

「……うん。自分の事を怪物、って言ってたけど。わたしにはただの明るい女の子にしか見えないよ」

 

 

 

 

 

 

 

きっと……あの子には何か暗い過去があるんだろう。

あんな力を手にしなくてはならなくなった、辛くて苦しい何かが。

 

 

 

 

 

 

 

しかも16歳……美空よりも年下なんて。

 

 

 

……あんな子に戦争だなんて重い十字架を背負わすなんて間違ってる。絶対にだめだ。

 

 

 

 

 

 

 

「……戦争が無事に終わったら、友達になりたいな。黄羽ちゃんと」

 

 

 

 

 

 

 

美空の顔は少し嬉しそうにも見えた。

新しい友達と出会えたような。そんな顔。

 

 

 

 

 

 

 

……美空には年の近い人が傍に居ない。

一番近くても万丈だし、その万丈も今は、居ない。

 

それに女の子だと一番近いのでわたしだし。

 

 

 

 

 

 

黄羽ちゃんなら年も近い。

 

お姉ちゃん面する美空が簡単に想像できるな、って思ったら。

くしゃ、っと笑いがこみ上げてきた。

 

 

 

 

 

 

 

「美空と黄羽ちゃん、お似合いだよ?……一緒に買い物、とか。いーんじゃない?」

 

 

 

 

 

 

 

うちの美空たんは既に妄想で彼女と買い物をしているのか。

やたらと楽しそうに身体をくねくねさせている。可愛いっ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……それと、だ。

 

 

 

黄羽ちゃんが言ってた事……かなり気になる。

東都が宣戦布告をしてきた、って。どういう事かな。

 

 

 

ミサイルの事を宣戦布告と受け取ったのか……

いやでもその後に泰山首相が釈明したはずなのに……

 

 

 

 

 

 

 

明日、泰山首相に報告した方がよさそうだね――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――急がないと!急がないと!!

 

 

 

 

 

 

 

全力で走ってるあたしの足は悲鳴をあげてるけど、そんな場合じゃない。

 

あのおねーさん……戦兎ねえの話がほんとなら、こんなのすぐにやめないと!!

 

 

 

 

 

 

 

カシラにちゃんと話せばわかってくれるはず!!

もし納得しなくても、あたしが戦兎ねえと会わせてちゃんと場を作れば大丈夫……!!

 

 

 

でもってカシラが軍に伝えて、それかカシラが多治見首相に話せば全部解決するはず!!

 

 

 

カシラは北風でもめっちゃ偉い人だし……!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしたら、戦兎ねえと仲良く出来るかな……

この勘違いが無事に終わったら、仲良くしてくれるかな。

 

 

 

 

 

 

 

あたしの事をふつーの女の子、って言ってくれたあの人。

あたしの事を暖かくしてくれたあの人。

あたしの事を優しく抱きしめてくれたあの人。

 

 

 

 

 

 

 

昔のカシラとちょっと似てる、お姉ちゃん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

みーたんとも……別に好きじゃないけどさ!

……でも、同じくらいの年の女の子の友達いないし。

 

 

 

 

 

 

 

……一緒に買い物とか。ご飯食べたりとか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さっきまで敵だと思ってたのに。

今はあの人たちが、凄い好きな感じに想える。

 

 

 

 

 

 

 

あの人たちと……仲良くなりたいな……えへへ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そのためにも早く、早くカシラに伝えないと――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――せん、と……ねえ……?」

 

 

 

 

 

 

 

あたしの目の前に立ち塞がる、戦兎ねえ。

ついさっきまで、あたしの事を暖かくしてくれた戦兎ねえ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ……?さっき……?」

 

 

 

 

 

 

 

あたしの頭がこんがらがる。

さっきまであのカフェに居たはずの戦兎ねえ。

 

 

 

そんな事よりも――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんで戦兎ねえ……ビルドになってるの……?」

 

 

 

 

 

 

 

仮面ライダービルドの姿で、何も言わずにあたしの前に立ち塞がる戦兎ねえの雰囲気は。

どこか恐怖を感じてしまう。

 

 

 

 

 

 

 

「ど……どしたの?戦兎ねえ……?なんか、怖いよ……?」

 

 

 

 

 

 

 

あたしの心が恐怖で覆われるような気がする。

早く逃げろと身体が指示している気がする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねえ……?何か言ってよ……?んんん!わかった!あたし何か忘れ物しちゃったん――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日のあたしは、とても幸せな気持ちだった。

同じくらいの友達が出来た、そんな気持ち。

 

 

 

カシラの事で落ち込んでいたあたしは、もうずっと孤独なままなのかな、と感じてた気がする。

 

 

 

 

 

 

 

でも、あのおねーさんと。みーたんに会えて。

なんだか友達が出来た気がして。

 

 

おねーさんはお姉ちゃんな気がして。

みーたんは……前よりちょっと好きになれた気がして。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この人たちと、仲良くなりたいなって。

そう心から思ったんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「せん……とね……え……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なん……で……?……しん……じ、た……のに……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……To be continued

 

 

 

 








黄羽「ねーねーカシラぁ」

一海「あん?なんだ?」

黄羽「パフェ食べたい」

一海「……食ってこいよ。ほら、金」

黄羽「やーだー!カシラのパフェがいーい!!」

一海「……めんどくせー。食ってこいて」

黄羽「やだやだやだやだやだ!!!」

黄羽「カシラのパフェが食べたい!!パフェ!!」

黄羽「パーーーフェーーー!!!!」

一海「はぁ!?お前な――」

黄羽「パフェ!食べたい!カシラの!手作り!!」

一海「……わかった。作るから。作りますから」

黄羽「いえーい!やったあ♪」

一海「ったく……しょうがねえなぁ……」






赤羽「……カシラは本っ当に黄羽にはあめぇよなぁ?あぁん?」

青羽「記憶が無くなってても……何となくわかるんだろぃ」






黄羽「んんんー!おいし♡」

一海「……♪」



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