Masked Rider EVOL 黒の宙   作:湧者ぽこヒコ

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月乃「……なんですか?」

戦兎「いや、あんた誰?」

月乃「……名乗る程の者じゃないです」

戦兎「ふーん。わたしは戦兎。桐生 戦兎」

月乃「そう……戦、兎」

月乃「あなたは戦兎って言うのね」

戦兎「ん。そう……あんたの名前も教えてよ」

月乃「……知る必要、無いから」

戦兎「え?ちょっと!おーい――」






戦兎「――ん……うん……?」

戦兎「……ヘンな夢だったなあ」




phase,45 勘違いって止められない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あいつの仇を取ろうとしたその時、まるで見計らったかのように声がした。

 

 

 

最近……いや、結構前から聞き慣れている声。

東都から北都に来た、よくわからねえ男。

 

エビフライ頭。バカ丸出しの男。

 

 

 

 

 

 

 

……なんだか悲しみを背負ってるようにも見える、男。

 

 

 

 

 

 

 

「なんだよ……野兎の総隊長様がお前の家族だったなんて聞いてなかったぞ?」

 

 

 

 

 

 

 

ツインブレイカーを桐生に突きつけながら、色々と考える。

 

 

 

まさかこいつとあのバカが家族だったとはな……

 

 

 

 

 

 

 

……いや、そういうわけでもねえのか。

 

 

 

 

 

 

 

「てめーには関係ねーだろーが……いいから戦兎から離れろ」

 

 

 

 

 

 

 

あのバカは見るからにブチ切れてやがる。

身体中から殺気みたいなモンを感じ取れるし。

 

そんなに大切な存在なのか。こいつが。

 

 

 

 

 

 

 

だが苗字も違ぇし、似てる感じもねえ。

 

俺らと同じ……義姉弟、みたいな事なんだろう。

こいつにとっての家族、みたいな感じか。

 

 

 

 

 

 

 

それにしてもこのエビフライ頭……

まさかそんな……いや、しかし……

 

 

 

 

 

 

 

「悪ぃな。お前の大切なモンだろうがこいつを許すわけにはいかねえ……俺の大切なモンを傷付けたこいつを」

 

 

 

 

 

 

 

いくらこのバカの大切な存在だろうが、俺の大切なモノを侵したこいつを許すことは絶対に出来ない。

 

 

 

……お前の大切な存在だとしてもな。

 

 

 

 

 

 

「はぁ。やっぱりな……ちげーんだよ猿渡。そいつは、戦兎は本当に何もやっちゃいねー」

 

 

 

 

 

 

 

わかる!わかるぞエビフライ頭!!

心から大切なモンを傷つけられたくない気持ちはわかる!

 

 

 

でもな、いくらお前が大切なこいつを護りたいからと言って、そんなでまかせを信じるわけがねえだろう。

 

 

 

 

 

 

 

「悪ぃなエビフライ。いくらお前の想い人だろうが……そんな話は信じらんねぇ」

 

 

 

 

 

 

 

あのバカが桐生を見つめていたあの目。

あんなに真剣な出で立ちで現れたあのバカ。

 

 

 

 

 

 

 

……間違いねえ。きっとそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

このバカは……桐生の事を……

 

 

 

 

 

 

 

「想い人?……いや、だからちげーんだって。話聞けや」

 

 

 

 

 

 

 

きっと家族のような関係から始まって……

いつしか気付かぬ内に、桐生の事を……

 

 

 

 

 

 

 

1人の女として意識しちまったんだろうな、このバカは。

 

 

 

 

 

 

 

こいつの口から聞く話は大体が香澄ってやつ。

その他には美空とかいうやつの事と桐生、そしてマスターってやつの事だった。

 

 

 

香澄ってやつが彼女だって聞いていたが……

一緒に過ごす内に桐生の事が好きになっちまったのか。

 

 

 

思えばこのバカ、途中からずっと桐生と香澄ってやつの話ばっかだったしな。

確か、香澄ってやつは死んじまったって言ってたしよ。

 

 

 

 

 

 

 

その2人の中で揺れ動いてたんだな……お前はよ……

 

 

 

 

 

 

 

「あのな、猿渡――」

 

 

 

「言うな!もうそれ以上言うな!!……お前の気持ちは、わかる。全部わかってんだ!!」

 

 

 

 

 

 

 

「でもよ、エビフライ……俺も退けねえんだよ。本当に、申し訳ねえ」

 

 

 

 

 

 

 

こいつとは腐れ縁みてえになっちまった。

このバカの事を俺は嫌いじゃねえ。

 

だからこそお前の想うやつを殺すのは……心が痛むけどよ。

 

 

 

 

 

 

 

……俺にも大切なモンがあるんだ、万丈。

 

 

 

 

 

 

 

「わかってんなら……なんで――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺にも……お前とは感情が違うけどよ。大切なモンがあるからだよ」

 

 

 

 

 

 

 

すまねえな、万丈。

恨むなら俺だけを恨んでくれ――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――わ!?バカ!!お前何もわかってねえじゃねえか!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桐生に向けたツインブレイカーの顎から死の咆哮を放とうとしたその瞬間、あのバカが尋常じゃない速さで俺の左腕を捕まえ、その死を喚ぶ弾は何も無い宙へと放たれていった。

 

 

 

……桐生を、仕留め損ねてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

「放せ!!お前の気持ちはわかるが俺はこいつを――」

 

 

 

「本当にこいつはやってねえんだ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やったのは姿形を変えるスマッシュだそうだ!!それにな、早くあいつの元に戻らねえと、今度こそ本当に殺されちまうかもしんねーんだぞ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺を羽交い締めにするこいつの言葉が、俺の心に渦を巻かせる。

そして、ある1人を思い出す事となる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺がよく知っている、知らないはずのないあの存在を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい……ふざけた事言ってんなよ……」

 

 

 

 

 

 

 

姿形を変えるスマッシュ。

それは北都が有する、機密事項にして秘密の暗殺屋。

 

 

 

北風にも属さず、首相の命にのみに従う者。

北都でも……トップシークレットの存在。

 

 

 

 

 

 

 

「あるやつから聞いてな……急げ!!そいつが言うにはまだ命を狙ってるかもしれねーって話だ!!早く行ってやれ!!」

 

 

 

 

 

 

 

そいつは、俺がよく知ってる男。

よく知ってるけど、ずっと離れて暮らしていた男。

 

 

 

……ファームの連中ですら知ってるのは極わずかな、あの男。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う、嘘だろ……あいつがそんな事……第一、あいつは……」

 

 

 

 

 

 

 

あいつがそんな事するわけ……

そもそもなんであいつを……?

 

 

 

 

 

 

 

なんで一樹が……そんな事を……

 

 

 

 

 

 

 

「うだうだしてる暇ねーぞ!!お前が行ってやらねーでどーすんだ!!殺されるかもしんねーんだぞ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もし、もし一樹がやったんだとしたら確かに……

一樹がビルドに擬態して、あいつを襲ったんなら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……多治見のくそ婆か!!!

 

 

 

 

 

 

 

あの婆……戦争を悪化させるためにやりやがったのか。

だから桐生がやったと見せかけるように一樹を……

 

 

 

 

 

 

 

「……ありがとよ、目ぇ覚めたわ……ちょっと行ってくる」

 

 

 

 

 

 

 

もしそうだとしたらあいつが……聖が危ねぇ!!

一樹はもうあの婆の……くそっ!!!

 

 

 

 

 

 

 

早く行かねえと……本当に聖が殺されちまう!!

 

 

 

 

 

 

 

「あぁ。早く行ってやれよ」

 

 

 

 

 

 

 

まさかこのバカに助けられるとはな。

……桐生にも悪い事をしちまった。

 

 

 

 

 

 

 

「本当に悪かった。そこでぶっ倒れてるやつにも伝えといてくれ。それと……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺は応援してんぞ!いくら敵同士……家族だからって言ってもな」

 

 

 

 

 

 

 

血は繋がってねえし。

昔の女が心残りで……って言ってもよ。

 

 

 

前に進むのは、きっと香澄さんも喜んでくれるっつうもんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ?何言ってんだおま――」

 

 

 

「言うな言うな!わかってるからよ。想いは……止められねえよな」

 

 

 

 

 

 

 

俺がみーたんを想うように……

それは理性じゃ止められねえようなもんだ。

 

 

 

 

 

 

 

……頑張れよ、万丈!!

 

 

 

 

 

 

 

「いやお前さっきから何言って――」

 

 

 

「安心しろ、俺はお前の味方だ……ほら行くぞてめえら!!あの泣き虫んとこに最速で戻るぞ!!」

 

 

 

 

 

 

 

……バカのこれからの行く末も気になるが、今はあいつだ。

 

 

 

 

 

 

 

早く戻ってやらねえと。

早く俺が傍についててやらねえと!!

 

 

 

 

 

 

 

「お、おぉい!?カシラぁ!?どうしたんです!?」

 

 

 

 

 

 

 

もうこんな思いは二度とゴメンだ。

護れなくって後悔するなんざ絶対にお断りだ。

 

 

 

 

 

 

 

「カシラぁ、一体何がどうなってるんですかい!?」

 

 

 

 

 

 

 

今すぐ俺がお前の元に行ってやるからな。

俺がずっと傍で護ってやるからな。

 

 

 

怖かったよな。助けて欲しかったよな。

 

 

 

 

 

 

 

待ってろよ、聖。

今すぐ俺がお前の傍に行って、護るから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うるせえ!!御託は後だ!!早く戻んぞ!!!」

 

 

 

「はぁ?ちょ、ちょっと待ってくださいよう!!カシラ――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――あいつは何を言ってたんだ?」

 

 

 

 

 

 

 

なんだかわけわかんねー事をずっと言ってた猿渡は、信じらんねー速さで戻っていった。

あいつは……何が言いたかったんだろーか。

 

 

 

 

 

 

 

「ばん……じょー……あり、がと」

 

 

 

 

 

 

 

もう傷だらけでボッロボロのうちの姉貴は泣いてんのか笑ってんのかわからない顔だ。

 

 

 

……でも。よかった。

 

 

 

 

 

 

 

本当に……本当に間に合ってよかった……!!

 

 

 

 

 

 

 

「どんだけやられてんだよ……ほら、送ってやっから」

 

 

 

 

 

 

 

きっと身体中あちこち痛いであろう戦兎に、しゃがんで背を向ける。

多分、歩くのもままならないだろ。

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……!?おんぶとか、恥ずかしーから……やだ」

 

 

 

 

 

 

 

ボロボロな顔で頬を膨らませる事が出来る程にはこいつは元気そうだ。

万が一を想像してたから、本当に一安心だよ。

 

 

 

 

 

 

 

……でもお前、歩けねーだろ。

 

 

 

 

 

 

 

「ちょ!?なに、やってんの!?」

 

 

 

 

 

 

 

身体中ボロボロのやたらとうるせー姉貴を無理やりおんぶさせるのなんて朝メシ前だ。

めちゃくちゃ鍛えてっしな。軽い軽い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……戦兎は……こんなにも軽かったんだな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おろせー!おろせー!!」

 

 

 

 

 

 

 

おいおい。実はめちゃくちゃ元気なんじゃねーのかこいつ。

さっきからボコスカ殴られたり蹴られたりして地味に痛いんですけど。

 

 

 

 

 

 

 

……ははは。本当に、よかったよ。

 

 

 

 

 

 

 

「怪我人は怪我人らしく大人しくしとけって!……ほれ、どこに連れてきゃいーのか案内しろよ」

 

 

 

 

 

 

 

諦めがついたのか、ようやく少し大人しくなったじゃじゃ馬なお姫さん。

本当にこいつ嫁の貰い手あんのかね?

 

 

 

 

 

 

 

「……わかった。したら首相官邸に――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――ところでさ、猿渡に何言ったの?なんか猛ダッシュで消えてったけど」

 

 

 

 

 

 

 

戦兎のよくわかんねー道案内で目的地に向かうさなか、先程の一件を聞いてくるこいつの言葉であのくそ野郎の事を思い出す。

 

 

 

 

 

 

 

……あのくそ野郎に救われた、って言ってもおかしくはねーけど。

 

 

 

 

 

 

 

「や、実はよ……あの黄羽ってやつをやったのは戦兎じゃねー、ってあるやつから聞いたんだよ」

 

 

 

「もちろん俺はお前がやったなんて信じてなかったけどさ」

 

 

 

 

 

 

 

昨日の夜中遅く、黄羽ってやつが北風の拠点にボロボロな有様で捨てられていたのを兵士の1人が発見した。

 

意識は無くて、発見が遅れれば死んでいたかもしれないような状態だったらしい。

 

 

 

それでそいつは拠点の医療室で救急治療をされて……

まあなんとか命に別状はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……そして朝早くに、多治見から緊急の通達があった。

 

 

 

調べた所、やったのは東都の野兎 総隊長、桐生 戦兎。

しかも黄羽はどうやら無抵抗で戦いを拒否していたらしい、ってな。

 

 

 

 

 

 

 

俺はどうしてそんな事がわかるんだ?って思ったけどよ、周りの兵士たちは怒り狂っちまって。

 

特に猿渡や赤羽、青羽ってやつなんかは身体中から殺意が迸ってた。

 

 

 

 

 

 

 

それで猿渡のやつらはすぐさまどっか行っちまってな……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで俺はなんかおかしいよなー?って外で1人で考えてたらさ、あいつが現れたんだよ」

 

 

 

 

 

 

 

あの、絶対的な俺らの敵。

そして俺に、力を与えたあの狂気。

 

 

 

 

 

 

 

「あいつ……?誰?」

 

 

 

 

 

 

 

決して交わる事の無いモノ。

絶対にこれから先俺らの前に立ちはだかるモノ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの蛇野郎だよ……スターク。ブラッドスタークだ」

 

 

 

 

 

 

 

おんぶしてる後ろの戦兎の顔は見えないけど、多分驚いてるだろーな。

 

あの鮮血の蛇が、まるで助け舟を出したかのように。

 

 

 

 

 

 

 

俺に、ある事を話したんだ――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――何の用だよ……スターク……!!」

 

 

 

 

 

 

 

拠点から少し離れた場所で、考え事をしながら景色を意味も無く見ていると。

 

 

 

あのよく覚えている姿が目に入った。

まるで、旧友に会いに来たかのような雰囲気で。

 

 

 

 

 

 

 

『よォ万丈?元気にしてたか?ん?』

 

 

 

 

 

 

 

俺に力を与えたやつ。

俺に護れる力を寄越したやつ。

 

 

 

でも……こいつはどうしようもなく、敵だ。

 

 

 

 

 

 

 

「なんだよ。今ここでぶっ倒してほしいのか、おい」

 

 

 

 

 

 

 

視線を外さぬまま臨戦態勢に入る。

こいつは強い。猿渡と比べたら……あのじゃがいも野郎の方が上かもしれないけど。

 

 

 

でも俺もかなり強くなった。

それこそ、戦兎よりも強くなった自信すらある。

 

 

 

 

 

 

 

今の俺なら、こいつにだって……

 

 

 

 

 

 

 

『悪ィけどよォ。今日はそんなんじゃねェんだ……戦兎が、殺されるぞ』

 

 

 

 

 

 

 

スタークの言葉が俺の頭の中で反響していく。

わかっていたのかもしれない。でも現実から目を背けていたのかもしれない事。

 

 

 

さっき猿渡が走り出してった、その本当の理由。

 

 

 

 

 

 

 

『おめェも鈍いんだかなんだかなァ……早く行かねェとお前の大切なモンが惨殺されるぜ?』

 

 

 

 

 

 

 

俺の頭の中に、あの日の光景が鮮明に映し出される。

あの日、強くなると決意した、あの夜。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【選べ万丈ォ!!力を持たずにお前の大切なモノが惨殺される様をただ指を咥え見ることしか出来ないままで死ぬのか!!】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は……護るために力を得たのに……!

 

 

 

 

 

 

 

戦兎を……姉貴を殺されるわけにはいかない!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「スターク!!てめーに構ってる暇はねぇ!!次会った時には――」

 

 

 

『まァ待て。お前に1つプレゼントをやろう』

 

 

 

 

 

 

 

プレゼント……?

何わけわかんねー事言ってんだこの蛇野郎は。

 

 

 

 

 

 

 

大体俺はそれどころじゃねーん――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『黄羽とかいうお嬢さんをやったのは戦兎じゃねェ……北都の有するスマッシュだ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『北都の兵器、姿形を変えるスマッシュが……戦兎に化けてやったんだよ』

 

 

 

 

 

 

 

その言葉を……俺はよく知っている。

北都が有する、姿形を変えるスマッシュ。

 

 

 

俺が縛られる全ての源の、恐ろしき存在。

 

 

 

 

 

 

 

俺の心に嘘を吐かせる、最大のモノ。

決して俺が戦兎たちと相容れない、最悪の原因。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんで……アレが……?」

 

 

 

 

 

 

 

あれは北都の……多治見の最悪にして最大の秘密兵器のはずだ。

それがなんで自分たちの兵を……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『本当にバカだなァお前は?……そんなモン戦争を更に激化させるために決まってんだろうよ』

 

 

 

 

 

 

 

茶化す口調でバカ呼ばわりしてくるこの腐れ蛇に本当にムカつきながらも、納得してしまう俺がいた。

 

 

 

 

 

 

 

確かに……俺はバカかもしれない。

考えりゃ単純な事だ。

 

 

 

 

 

 

 

向こうの軍の総隊長が自分とこの兵を、しかも無抵抗で更に戦いを拒否したやつを一方的に捩じ伏せたのならば。

 

 

 

これは戦争の良い火種となる。

 

 

 

 

 

 

 

つまり……その無抵抗だなんだとかいうのも全て、多治見のくそ婆が勝手に宣ってるだけ、って事か。

 

 

 

 

 

 

 

『それを一目散に飛び出してるアホに伝えとけ……そうしたら収まんだろうよ』

 

 

 

 

 

 

 

確かに。確かにそうすりゃ誤解も解ける。

でも、俺の言葉をあいつは……

 

 

 

 

 

 

 

「俺がそう言っても……信じねーかもしんねーだろ」

 

 

 

 

 

 

 

俺とあいつは仲が良いわけじゃない。

むしろ悪い方だと思う。

 

 

 

それに猿渡は俺が東都のやつだって知ってるし……

しかもあいつには戦兎の事も話してたしな。

 

 

 

 

 

 

 

『あ"ァー!お前はァ!!少しは考えろ!!……色々あんだろ、お嬢さんの命が狙われてっから早く戻れだの、殺しに来てんのがわかったぞ、とかよ』

 

 

 

 

 

 

 

『どんだけ俺に頼るつもりなんだお前は!本物の馬鹿かァ!?』

 

 

 

 

 

 

 

久々にここまでバカバカ言われて、腹が立つというよりもなんだか懐かしく思えてしまう。

 

 

 

nascitaに居た頃。

戦兎や美空、マスターと過ごしたあの日々。

 

 

 

 

 

 

 

そういやマスターにもしょっちゅうバカって言われたりしたっけ。

 

 

 

……その分たくさん褒めてもらったりもしたな。

 

 

 

 

 

 

 

「うっせー!!……確かに上手くいきそうだけどな、礼なんて絶対に言わねえぞ、ド腐れ蛇」

 

 

 

 

 

 

 

なんだかアドバイスをもらったみたいでムカつくが……しょうがねー。その案は確かに一番良い。

 

 

 

なんだかマスターみたいなとこあんだよな、こいつ。

 

 

 

 

 

 

 

『ハッハッハァ!要らねーよそんなモン!……早く行け。間に合わなくなっても知らねェぞ』

 

 

 

 

 

 

 

しかしなんでこいつはこんな事を……?

まるで俺らの事を助けるような……

 

 

 

 

 

 

 

……でも今はそんな事考えてる暇はねー。

 

 

 

 

 

 

 

戦兎の所に……急いで助けに行かねーと!!!

 

 

 

 

 

 

 

「覚えとけよ蛇野郎!!次会った時は絶対にぶっ飛ばすからな!」

 

 

 

 

 

 

 

『簡単にやられてくれんなよォ?おい――』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――って感じだ。癪に障るけどよ、スタークのおかげで間に合ったんだ」

 

 

 

 

 

 

 

万丈の話がわかり辛いというか……あまりにもバカ丸出し過ぎて意味不明な部分もあったけど、大まかな事はわかった。

 

 

 

まず第一に……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「黄羽ちゃん……生きてたんだあ……よかった……」

 

 

 

「なんだ戦兎?知り合いだったのか?」

 

 

 

 

 

 

 

北風の兵士が襲われたと聞いてからずっとずっと心配だった。

死んじゃったのだろうか。どういう状態だったのだろうか、って。

 

 

 

でも話を聞く限りとりあえずは大丈夫みたいだし……

 

 

 

 

 

 

 

本当によかった。

あの子が生きててくれて本当によかった。

 

 

 

 

 

 

 

「あ、うん……たまたま仲良くなってさ」

 

 

 

 

 

 

 

きっと怖い想いをしたのだろう。

凄い痛い思いをしたのだろう。

 

 

 

でももう大丈夫。

あの強い男が護りに行ってくれたしね。

 

 

 

 

 

 

 

……それと、同じ痛い思いでお揃いだ。

 

 

 

 

 

 

 

「なに!?笑ってんのお前!?どうした、頭やられたのか!?」

 

 

 

 

 

 

 

このふざけた愚弟に頭の心配をされた事が不満で仕方無いけど、そう思われてしまうくらいに笑いが出てしまっていたのだろうか。

 

 

 

ついさっき殺されるかもしれなかったのに。

身体中痛くて痛くて泣きそーなのに。

 

 

 

 

 

 

 

黄羽ちゃんが生きてるっていう安心と、黄羽ちゃんとわたしが同じように痛みを共有してるんだな、と思ったら笑いがこみ上げてしまう。

 

 

 

おかしな事なのかもしれないけど。

きっとこれは幸せな事なのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「黙って進め脳筋バカ!……それにしても、スタークはよくわかんないなー……」

 

 

 

 

 

 

 

あの鮮血の蛇、スターク。

 

 

 

なぜわたしを助けるような事をしたのか。

なぜこんなにも手助けをしてくるのか。

 

 

 

今思うとあの仇敵は、今までに何度も助けの手を差し伸べてきたような気がする。

 

 

 

 

 

 

 

まるでわたしたちの親のような……

試練を与え、自分じゃ乗り越えられないような壁にぶち当たってしまうと、助力してくれるような。

 

 

 

 

 

 

 

こんな事を考えてしまうわたしは、かなり疲れているのかもしれない。

事実、ボッロボロだし。死にそうなくらい痛いし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まーなー……でもスタークの事だ。なんかまた狂った事考えてやったんだろ」

 

 

 

 

 

 

 

万丈の言葉で、わたしの脳があの蛇の事を再認識する。

あの、狂気の塊のような存在を。

 

 

 

 

 

 

 

あの蛇は自分の事をゲームメーカーと言っていた。

今起きている事が全て、自分の遊びのような。

 

 

 

人が死ぬゲームなんて絶対に許されない。

大切なモノを簡単に滅ぼしていくゲームなんて、絶対に許されていいわけがない。

 

 

 

 

 

 

 

やっぱり、あの狂った蛇は何か思惑があったんだ。

きっと自分が思い描くシナリオを狂わされたからなのか……

 

 

 

 

わからないけど、きっとそれはわたしたちにとって最大の害を成すモノ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな事を考えながら、万丈の逞しくなった背中で揺られ、首相官邸へと向かう。

 

 

 

このまま万丈は戻ってきてくれるのかな、なんて事も考えたりして。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スタークとマスターが、まるで同じように感じてしまうのをわたしは必死に止めていた。

絶対に無い、絶対にそれだけはないと。

 

 

 

あの狂気の塊が、慈愛の塊のようなマスターが同じなわけが無い。

 

そもそもマスターがスタークと同一なんて……天地がひっくり返ってもあるわけがない。

 

 

 

 

 

 

 

マスターは……今は多分、バイトが凄く忙しいんだ。

わたしたちにケーキや何やらを買ってくれるために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それに……マスターを泣かせてしまったあの日、わたしは誓ったんだ。

 

 

 

絶対にマスターを信じると。

絶対にマスターの事を信じ抜くと。

 

 

 

もうあの人に涙を流させる事など、絶対にしないと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マスター……今何やってるのかな。

あなたは今、何を見ているのかな。

 

 

 

わたしは今、頑張ってるよ。

 

自信を無くしそうだけど、なんとか踏ん張ってる。

あなたから貰った力と意思で、頑張って戦ってるよ。

 

東都軍の総隊長とかにされちゃってさ。

マスターびっくりするよね。驚いちゃうよね。

 

 

 

喜んでくれるのかな。

褒めてくれるのかな。

 

それとも……道を見失うなよ、って優しく叱ってくれるのかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あなたの声が聞きたい……

あなたの身体に触れたい……

あなたの、暖かさに包まれたいよ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

会いたいよ……ますたぁ――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――どうした?泣いてんのか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さっきからうっせーな!埃が目に入ったの!!……早く行けバカ!まるでバカ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……To be continued

 

 

 

 








香澄『え!?まさか龍我がっ!?』

香澄『い、いやー……そんなまさかあ……』

香澄『だって戦兎ちゃんだって……ねえ?』

香澄『そーよそーよ!!そんな事あるはずわけ!』

香澄『あはは……はは』

香澄『いや……でもよく考えたら龍我ったら前に』

香澄『戦兎ちゃんのお山でにやけてた事あったし』
(香澄『phase,7を参照下さい♪』)



香澄『……あわわわわわわ』

香澄『い、いやいや私はおおお応援すすするわ』

香澄『あ、あはあはあはあは……』






香澄『……嘘でしょ……』

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