Masked Rider EVOL 黒の宙   作:湧者ぽこヒコ

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赤羽「一体なんだったんすかぁ!?カシラぁ!?」

青羽「そうですぜい、いきなり」

一海「お前らには……わかんねえだろうな」

一海「男には……色々あるんだよ」

青羽「はぁ……?」



青羽「というか見逃してよかったんですかい?」

赤羽「おぉう!!そうだぜぇカシラぁ!?」

一海「色々あんだよ!ほら!さっさと行くぞ!!」




赤羽・青羽 ((何があったんだろう……?))




phase,46 感謝を忘れちゃ、めっ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もっと……もっと早く……

早くしねぇとあいつが……

 

 

 

 

 

 

 

あのバカから聞いた話が本当なら、かなりまずい事になってるはずだ。

 

あいつを……

聖をやったのが本当に一樹だったなら……

 

 

 

 

 

 

 

一樹はあのくそ婆の言いなりになってる。

もし……もし多治見が殺せなんて命令を本当にしてたら……

 

 

 

 

 

 

 

「お願いだ……頼むから間に合ってくれ……!!」

 

 

 

 

 

 

 

全速力で駆ける足が悲鳴をあげる。

心肺機能が絶叫する。

 

 

 

でも、止まってる暇なんかねえ。

 

 

 

 

 

 

 

早くあいつの元へ……護ってやらねえと!!

 

 

 

 

 

 

 

「おぉいカシラぁ!?本当になんなんすかぁ!?」

 

 

 

 

 

 

 

話の内容を聞いてないこいつらが困惑するのも当然だ。

こいつらは一樹の事も知らねえし……

 

 

 

でも、話してる暇はねえんだ。

 

 

 

 

 

 

 

「そうですぜいカシラ、ちゃんと説明して―――」

 

 

 

「時間がねえんだよ!!後で説明してやるから早く行くぞ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

もし、もし間に合わないなんて事になったら……

 

 

 

 

 

 

 

何が無念を晴らすだ。

何が仇を取ってやるだ。

何が想いを引き継ぐだ。

 

 

 

 

 

 

 

俺は……一体何をやってんだ……!!

 

 

 

 

 

 

 

「お願いだから、間に合ってくれ――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――おい!?大丈……夫……?」

 

 

 

 

 

 

 

兵士の奴らが話しかけてくるのをガン無視して、聖が休んでいる病室へと辿り着くと。

 

 

 

 

 

 

 

異様な光景が広がっていた。

 

 

 

 

 

 

 

「あー!!やっと帰ってきたのカシラあ!!どこ行ってたの全く!」

 

 

 

 

 

 

 

俺が心の底から心配してた泣き虫娘は、ベッドを起こしてリンゴをむしゃむしゃ食べながら俺を睨みつけていた。

 

 

 

 

 

 

 

……あれ。意識戻ってるし。

 

 

 

というかなんならすげえ元気そうだし。

めちゃくちゃリンゴ食ってるし。

 

 

 

 

 

 

 

というか……こいつは誰だ……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『やっと帰ってきたか?ん?お前がお嬢さんの言ってる頭、ってやつだろ?』

 

 

 

 

 

 

 

泣き虫がリンゴ食ってる横で座ってる……仮面ライダー?

見た感じスマッシュには見えないが……一樹でもなさそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

なんだ、この蛇みたいなバケモノは。

 

 

 

 

 

 

 

「カ、カシラ、速過ぎますって……っておぉい!?黄羽ぁ!?お前意識戻って……って、え?」

 

 

 

「……あんた、一体誰だい?」

 

 

 

 

 

 

 

後から遅れてきた赤羽と青羽もこの異様さに気付いたみたいだ。

 

 

 

本当に心配してた聖が目ぇ覚ましてて。

 

 

 

それは物凄く嬉しいけども。

 

 

 

 

 

 

 

隣でリンゴ剥いてる変な蛇が居るんだもんな。

 

 

 

 

 

 

 

『ったくよォ。遅せェ!!お前らがいつまでも帰って来ねェから延々とお嬢さんにリンゴ剥いてやってたんだぞ、おい』

 

 

 

 

 

 

 

えっ、なんだろ……怒られてんのかな。

いや、そもそもお前誰だ。初めましてだぞ。

 

 

 

 

 

 

 

「もお!カシラたちが居ないからずっとスタークさんが付いててくれたんだよ!?殺されそーだったんだから!」

 

 

 

 

 

 

 

やっぱり……狙われてたのか。

 

 

 

一樹に、なんだな。やっぱり。

 

 

 

 

 

 

 

そうするとこいつが護ってくれてたのか……?

 

 

 

 

 

 

 

「おい、あんた……スターク、とか言ったか?よくわかんねえナリしてっけど……助かった、ありがとよ」

 

 

 

 

 

 

 

どんな見た目してようがこいつを護ってくれたのには違いねえ。

この変な蛇……スタークが居なきゃ聖は殺されてた。

 

 

 

 

 

 

 

いやでも何者だこいつ。仮面ライダーの力を……?

 

 

 

 

 

 

 

見た感じ俺やバカたちとは違う感じだし、どこか禍々しいというか……

 

 

 

 

 

 

 

つうかなんで変身したまんまなんだこいつ。

そしてなぜ普通に北風の拠点に居るんだこいつ。

 

 

 

もしかして北都の兵士かなにかか……?

 

 

 

 

 

 

 

『ハッハッハァ!気にすんなよ。礼なんざむず痒くてしょうがねェ……じゃ、俺は帰るからよ』

 

 

 

「えー!!スタークさんもう帰っちゃうのお!?まだお喋りしよーよお!!カシラたちも帰ってきたし!」

 

 

 

 

 

 

 

うわっ。めちゃくちゃ懐いてるんですけど。

うちの妹、このわけわからん蛇とめちゃくちゃ仲良しなんですけど。

 

 

 

 

 

 

 

え……何これ……

 

 

 

 

 

 

 

『もういいだろ……仲間が帰ってきたら俺は帰るっつっただろ?忙しいんだ、俺も……』

 

 

 

 

 

 

 

なんか凄いタジタジなんですけどこの蛇。

俺はどうすればいいんですかね……?

 

 

 

 

 

 

 

「やだ……ふぇ……まだ帰っちゃやだ!!」

 

 

 

 

 

 

 

えっ。泣きそうなんだけどこの子。

なんなの。俺らが大変な思いしてる間にこの2人に何があったの。

 

 

 

 

 

 

 

えーと……どうしようこの状況。

とりあえずスターク……さんにお茶でも出せばいいのかこれは。

 

 

 

 

 

 

 

「カシラ……こいつは一体……?」

 

 

 

 

 

 

 

うん。俺が聞きたいよ。

とりあえず一番冷静なお前が考えろ。

 

 

 

 

 

 

 

「おぉい!?黄羽の事護ってくれたのかぁ!!見た目の割に良いやつだな、おめぇ!!」

 

 

 

 

 

 

 

おいバカ。ばしばしスタークさんを叩くな。

困惑してんだろ。ちょっと嫌がってんぞ。

 

 

 

つーかお前適応すんの早くない?

俺らまだ状況がよくわかってないんだけど。

 

 

 

 

 

 

 

うーん。とりあえず……

 

 

 

 

 

 

 

「あの……こいつを助けてもらいましたし、お茶でもいかがですか?」

 

 

 

 

 

 

 

これしか浮かびあがらねーもん。

聖も懐いてるし……なんかヤバそうな雰囲気出してるけど、悪いやつじゃないんだろうしさ。

 

 

 

その姿で……お茶飲めるのかな――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『――嘘だろ……いや、あのな。俺、忙しい。まだ、やる事、山のようにある。わかるか?』

 

 

 

「んんん?お仕事?」

 

 

 

「おぉいスタークさんよ!!仕事なのか!?」

 

 

 

 

 

 

 

なんかよくわかんねぇリーゼントまで懐いてきたんだけど。

なんなんだこいつら。俺はお前らの敵なんですよ?

 

 

 

お嬢さんはやたら懐いたし……

なんなんだ。おじさん怖いんだけど。

 

 

 

 

 

 

 

「あー……仕事ならしょうがねえよ、お前ら。無理に引き止めちゃならねぇ」

 

 

 

 

 

 

 

この姿の俺に初めてお茶を勧めてきたやつが、やっとまともな事を言ってくれた。

 

 

 

本当にこえーよ。お前らに疑う心は無いのか。

 

 

 

 

 

 

 

どう見ても怪しいだろこの姿……

 

 

 

 

 

 

 

『……じゃあな、しっかりとついててやれよ』

 

 

 

 

 

 

 

もうなんか変な感じだからさっさと帰りたい。

リンゴ剥いてんのも疲れたしさ。嫌だ。

 

 

 

 

 

 

 

……久々に楽しかったけどな。

 

 

 

 

 

 

 

「んんん!スタークさん!!また会えるよね!?」

 

 

 

 

 

 

 

俺に延々とリンゴを剥かさせたお嬢さんが、キラキラさせた目で俺に問いかけてくるのを見ると、こいつには勝てない気がしてくる。

 

 

 

……どっかの娘にそっくりだな、なんか。

 

 

 

 

 

 

 

『あァ?……あー。またいつか、な。Ciao♪』

 

 

 

 

 

 

 

そう。またいつか。

きっと遠くない、いつの日か。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その時は最凶の敵として、な。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやーホントに。うちの泣き虫が本当にありがとうございました」

 

 

 

 

 

 

 

……本当に何してるんだろう、俺――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――そおだよ!そこでスタークさんが助けてくれたのー!」

 

 

 

 

 

 

 

聖の命の恩人……俺らにとっても恩人みてえな存在、スタークさんって人の話やらその他の話やらを改めて聞いたらやっぱり、やったのは一樹みたいだ。

 

 

 

 

 

 

 

俺に似た男。冷たい感じがした男。

 

 

 

 

 

 

 

……間違い無い、一樹だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうか……じゃあ、お前を襲ったってのも……」

 

 

 

「うん。意識が無くなる前に見えた男の人と同じだと思う。多分間違いないよ」

 

 

 

 

 

 

 

……桐生じゃなかったのか、やっぱり。

 

 

 

なんだかすげぇ悪ぃ事しちまったな。

いくら敵だとはいえ、エビフライ野郎の好きな女を殺そうとしたなんて……

 

 

 

もう一度しっかりと謝っとかなきゃな。

 

 

 

 

 

 

 

「おぉい、まじかよ……じゃああのビルドの女にゃ悪ぃ事しちまいましたね、カシラ……」

 

 

 

 

 

 

 

傷を抉るなバカ。わかってんだよ。

まさか一樹がな……あのくそ婆と話をしねえと。

 

 

 

 

 

 

 

「え!?戦兎ねえに何かしたのカシラあ!?」

 

 

 

 

 

 

 

また言ってる。戦兎ねえってなんだ。

さっきから話の合間にちょこちょこ言ってて気になってたけども。

 

 

 

なんだこいつ。どうなってんだ。

いつの間にかスタークさんとだけじゃ飽き足らず、まさか敵の総隊長とも仲良くなってたのか。

 

 

 

凄すぎんだろ。どういうスキル持ってんだこいつ。

 

 

 

 

 

 

 

「あ、ああ……ちょっと、殺しかけちまった」

 

 

 

 

 

 

 

きっと大丈夫だとは思う……多分

女相手と思ったら、わかってんのに急所外しちまったしさ。

 

 

 

……俺も甘々だな。

 

 

 

 

 

 

 

「何すんのカシラあ!!酷いよ!!あたしの大切な人なのに!!ちゃんと謝ったの!?」

 

 

 

 

 

 

 

凄い形相で殴ってくるこの泣き虫は、もう本当に大丈夫なんだろう。

 

 

 

身体は……もう平気そうだな。

 

 

 

 

 

 

 

「いてっ、いてて!大丈夫、ちゃんと謝るから!わかってるから!!」

 

 

 

 

 

 

 

もう一度、すぐに会いそうだしよ。

もしそうなったら……な。

 

 

 

 

 

 

 

「いてて……ったく、それとよ。本当なのか、その話?」

 

 

 

 

 

 

 

泣き虫に殴られた所が普通に痛くて少し焦ってる中、もう1つの驚いた事。

 

 

 

 

 

 

 

「んんん。間違いないと思う……東都は何もしてないって」

 

 

 

 

 

 

 

……嘘だろ、笑えねぇよ。

 

 

 

 

 

 

 

聖の話によると、東都はミサイルなんぞぶち込んできてないって事だ。

それどころか戦う気も全く、ゼロらしい。

 

 

 

普通なら信じるわけねえけど、確かに東都の連中が自ら襲いかかってきたなんて事はなかった。

 

全部、自衛のためにのみだった。

つうかほとんどが避難誘導や救命作業ばっかしてたしな。

 

 

 

 

 

 

 

それに……聖をやったのも一樹だ。

一樹がやったって事なら、裏にいるのは多治見。

 

 

 

 

 

 

 

全部……多治見の策略か。

ミサイルすらももしかしてあの婆が……

 

 

 

 

 

 

 

「だからね、カシラ!戦兎ねえたちと戦っちゃだめなんだよ!東都のみんなも悪い事してないしさ?ね?」

 

 

 

 

 

 

 

……お前の言う通りだよ、聖。

 

 

 

 

 

 

 

「あぁ……俺はちょっくらあの婆と話してくる……戻ってくるから、待ってろ」

 

 

 

 

 

 

 

やっぱり一度北都に戻らなければ。

あの婆が何を言おうと1回きっちりと話をしなきゃな。

 

 

 

こいつらも、北風の連中も皆連れて1回戻らねえと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……だけど、聖は連れてく訳にはいかねえ。

 

 

 

また命を狙われるなんて事だってありうる。

だから、こいつが慕うお姉さんの所なら……

 

 

 

 

 

 

 

そこなら、安心だしな。

話を聞いた感じ引き受けてくれそうなやつだし……

 

 

 

 

 

 

 

「うん!カシラ、待ってるよお!」

 

 

 

「カシラぁ、黄羽には俺らが付いてますから。安心して下さいよう――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――くっ……」

 

 

 

 

 

 

 

涙が溢れ出る。

誰も居ないことを確認したら、想いが溢れてくる。

 

 

 

あいつが……聖が無事だった。

 

 

 

あのスタークさん、って人が居たから色々困惑したけど、あの人が居なくなって徐々に状況が理解出来始めたら、感情が昂っちまった。

 

 

 

護れなかったと思っていた大切な存在。

もしかしたらもう二度と目を覚まさないかもしれないと覚悟していた、俺の大切な家族。

 

間に合わなくて、もしかしたら殺されていたかもしれなかった俺の、大切な妹。

 

 

 

 

 

 

 

「無事だった……元気だった……」

 

 

 

 

 

 

 

あいつらにこんな所を見せるわけにはいかない。

俺はあいつらと距離を置かなきゃいけない。

 

 

 

俺みたいなモンを、あいつらに近付けるわけにはいかない。

 

 

 

 

 

 

 

……それでもいくら遠ざけようとしても、あいつらはくっついてくるけど。

 

 

 

いつかは離さなきゃいけない。

俺も甘えちまってなあなあになってるけど。

 

 

 

いつかは……返さなきゃいけない。

 

 

 

だから、泣いてる所なんて見せられない。

 

 

 

 

 

 

 

……だから、みんながいない所で泣く。

 

 

 

独りぼっちで、俺は泣く。

かっこ悪ぃけど……耐えるのも大変なんだよ。

 

 

 

本当はあいつらの名前を呼んで一緒に居たい。

本当はあいつらと平和に暮らしたい。

 

 

一緒に農作業して、みーたんネット見て、飯食って……

 

 

 

 

 

 

 

でも俺は、穢れてるから。

あの婆の、操り人形でしかねえから。

 

 

 

だからせめて、あいつらだけは……

 

 

 

 

 

 

 

「くっ……悪ぃな、本当にごめんな――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――本当に大丈夫なのかぁ?黄羽ぁ?」

 

 

 

 

 

 

 

青羽がリンゴ剥きながらあたしの体調を心配してくれてるのを見ると、なんだかキモい絵面だな、とか思っちゃうあたし。

 

 

 

そんな事を思っちゃうくらい元気になったのかな。

身体中めっちゃ痛いけど。

 

 

 

 

 

 

 

「んんん!だいじょぶ。へーきだよ」

 

 

 

 

 

 

 

身体は……へーき。

痛いけど、多分だいじょぶ。

 

 

 

 

 

 

 

……傷物になっちゃったけど。

 

 

 

多分凄い心配するし。

それに……見せたくない。

 

 

 

特にカシラには……絶対。

 

 

 

 

 

 

 

「おぉい?どうした?なんか元気ねぇぞ?」

 

 

 

 

 

 

 

ちょっとボリュームを抑え気味の赤羽。

でもやっぱうるさい。響くから。傷に。

 

 

 

でも、こうしていつもの感じになると。

ああ、あたし生きてた。死んでなかったんだって改めて再認識できる。

 

 

 

 

 

 

 

生きてて本当に良かったな、って。

またカシラたちに会えて本当によかったな、って。

 

 

 

戦兎ねえたちにも早くまた会いたいな、って。

そう、心から想える。

 

 

 

 

 

 

 

スタークさんに感謝しないとなあ。

 

 

 

 

 

 

 

「ところでさあ!あたしをほったらかしにしてどこ行ってたの!?死にそーだったのにさあ!!」

 

 

 

 

 

 

 

本当に酷いよカシラたちは!

あたしがこんな目にあってたのに!

 

 

 

 

 

 

 

……ふふふ。早く戻ってこないかな、カシラ。

 

 

 

パフェをうーんと創ってもらうんだあ♪

 

 

 

 

 

「いや、違ぇんだよ黄羽ぁ。これには深いわけがあってな?」

 

 

 

「んんん!知らないよっ!ほら、早くリンゴ剥いて――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――どういう事だよ、わかってんだぞ」

 

 

 

 

 

 

 

感情の昂りもだいぶ落ち着き、頭も冷静になった。

都合よくあのくそ婆が電話に出てくれたし、聞きたいことは山ほどある。

 

 

 

 

 

 

 

「……何の事かしら?」

 

 

 

 

 

 

 

通話先のこのくそ婆の口調が、まるで俺の事を小馬鹿にするような気がしてならない。

 

 

 

……俺は確かに操り人形かもしれねえけどよ。

 

 

 

 

 

 

 

「ふざけてんじゃねえぞ……一樹を使って聖を襲わせたのもてめえだろコラ」

 

 

 

 

 

 

 

殺意が漲ってしまう。

俺の大切なモノを葬り去ろうとしていたこのふざけた婆に、心の底から憎しみが湧き上がる。

 

 

 

……しかも一樹をいいように使いやがって。

 

 

 

 

 

 

 

「怖いですこと……しょうがないでしょう。あなた方の行動が遅いんだもの」

 

 

 

「全ては東都との戦争を早く終結させるため……兵の士気を上げるためよ」

 

 

 

 

 

 

 

北都を牛耳る女帝の声が、急に命令的なモノになった気がした。

全てはお前の責任だ。そう言われてるような。

 

 

 

 

 

 

 

大切な存在を襲われたのに俺は……こいつに牙を剥ける事が出来ない。

 

 

 

そんな自分が本当に心底大嫌いで。

憎くてしょうがない。

 

 

 

 

 

 

 

「くそが……それにまだ1日2日だぞ?しかも東都はミサイルなんぞ撃ってねえらしいじゃねえか」

 

 

 

 

 

 

 

こいつに俺は逆らう事は出来ない。

俺はこいつの飼い犬だ。

 

 

 

……でも、さすがにこれは違う。

 

 

 

 

 

 

 

これは、ただの侵略行為だ。

戦いを拒む者を淘汰する、外道の所業だ。

 

 

 

 

 

 

 

しかも自らの兵を犠牲にしようとしてなんて……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「東都から飛来しているのは確認が取れているの……変な情報に惑わされるなんて愚かよ」

 

 

 

 

 

 

 

……確かに、東都から飛来しているのは間違いないのかもしれない。

 

 

 

でも聖があんな風に言うようなやつが……

聖が言う桐生が、嘘をつくとは思えねえ。

 

 

 

 

 

 

 

確かに俺は一度あいつの全てを信じなかった。

でも今は……何となく信じられる気がする。

 

 

 

 

 

 

 

だからあいつがあの時言っていた、裏で絵図を描いているやつ……そいつがやったんだと今は思う。

 

 

 

東都と戦争なんざしてる場合じゃねえ。

 

 

 

 

 

 

 

「どちらにしろ……北風を率いて一度北都に戻る。兵の連中もざわついてやがるしな」

 

 

 

 

 

 

 

俺らが騒いでるのを聞いたのか知らねえが、他の兵士にもこの情報が出回ってるらしい。

 

 

 

それとももしかしたらあのバカが……?

 

 

 

 

 

 

 

「……いいでしょう。こうなっては私も改めて話をしなければならないしね。早急に戻りなさい」

 

 

 

 

 

 

 

……意外だ。

 

 

 

予想では渋ると思っていたんだけどな。

まさかこんなにあっさりと……

 

 

 

 

 

 

 

……ろくでもねえ事をまた言ってくる気もするけどよ。

 

 

 

 

 

 

 

「わかった。準備が整い次第、北都に戻る……その時に話をしようじゃねえか」

 

 

 

 

 

 

 

ふざけた事をぬかしてくるかもしれねえが……

今は好都合だ。その方がいい。

 

 

 

 

 

 

 

「わかったわ……それでは、また」

 

 

 

 

 

 

 

通話を断った多治見に、改めて憎しみが湧き上がる。

俺の大切な家族を傷付けたあの婆に。

 

 

 

 

 

 

 

俺の……大切な家族を、奴隷にするあのくそ婆に。

そして、それら全てに何も出来ない、俺に……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……俺は、本当に無力だ――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――あ!カシラおかえりい!……どしたの?」

 

 

 

 

 

 

 

随分と長い事出ていっていたカシラの顔は、どこか元気が無いように見える。

 

きっと多治見首相と電話してたんだろーけど……何かあったのかな?

 

 

 

それとも改めて戦兎ねえに怪我させたの気にしてんのかな?

 

 

 

 

 

 

 

「今、多治見首相と話をしてきた……北風は一度、北都に戻る」

 

 

 

 

 

 

 

あたしの頭に喜びの星々が舞い踊る。

ずっと気にしてた事が、上手くいったような気がしたから。

 

 

 

カシラが……上手くやってくれたんだ……!!

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあもう東都とは戦わなくてすんだんだねっ!?もう戦兎ねえたちと戦わなくていーんだね!?」

 

 

 

 

 

 

 

あたしの心はすっごく嬉しくて、飛び跳ねてるけど。

なんだかカシラは嬉しそうな感じじゃない。

 

 

 

東都と仲良くなるのが……嫌なのかな。

 

 

 

 

 

 

 

「……準備が出来次第、すぐに帰る」

 

 

 

 

 

 

 

どうしたんだろう。

さっきまでは元気だったのに。

 

お腹痛いのかな……?

 

 

 

 

 

 

 

「ねーねーカシラあ?どしたの?元気、ないよ?」

 

 

 

「おぉい黄羽ぁ!俺もそう思うぜ!?……どうしたんすか、カシラぁ!?」

 

 

 

 

 

 

 

だから。赤羽あんた本当にうるさいっての。

あたし怪我してんの。傷に響くから黙れっ!

 

 

 

 

 

 

 

「あ、いや……んで、泣き虫。お前は連れてけねー」

 

 

 

 

 

 

 

泣き虫って……相変わらず酷いなあ。

ちゃんと名前を呼んでほしーよ!!

 

 

 

 

 

 

 

……ん?え?というか今、カシラ……

 

 

 

 

 

 

 

「どゆこと……?あたしは連れてけない、って……?」

 

 

 

 

 

 

 

なんで……?

あたしが戦えなくて、弱っちいから……?

 

 

 

足でまといになるから……?

なんで……なんでよ、カシラあ……

 

 

 

 

 

 

 

「おい、泣くなって……お前の命を狙ってるやつは、北都のやつだ。一緒に帰ったら危ねぇ……だから、お前はここに残れ」

 

 

 

 

 

 

 

あたしの目がどんどん潤んでく。

身体も痛いけど、心はもっと痛くなってく。

 

 

 

こんな所であたしは独りぼっちなの?

誰もいないこんな所で?

 

 

 

逆にこんな所、怖いよ……

カシラたちが居なくて、またあの男が来たら……

 

 

 

 

 

 

 

「ふぇ……やだ、怖い……怖いよ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大丈夫だって。お前を1人にはさせねえし。ちゃんと迎えにも来る。だからな……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ちょっと、桐生んとこで待っててくれよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へ……?戦兎、ねえ……?」

 

 

 

 

 

 

 

既に涙が零れてたあたしは。

戦兎ねえの所に行くなんてまさかの予想外で。

 

 

 

 

 

 

 

とゆーかこんなすぐ会えるなんてびっくりで。

 

 

 

 

 

 

 

あたしの頭が理解した時、心が喜んで踊り始めてた。

カシラと離れ離れは辛いけど……迎えに来てくれるなら。

 

 

 

 

 

 

 

初めてのお友達のお家へのお泊まりで。

あたしはすっごく。うきうきしてる気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これから少ししたら迎えに来るってから。もうちょい待ってろな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これは……凄いサプライズだ……!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……To be continued

 

 

 

 








一海「あー……あの、これ。お菓子です」

スターク『いや、いらないから』

赤羽「おぉい!遠慮すんなって!?」

スターク『いやホントに。大丈夫なんで』

青羽「まぁうちの妹が世話になったし……ねえ?」

スターク『いやホントに、大丈夫です』

スターク『え?ていうか何コレ』

スターク『凄いグイグイ来るじゃん』


黄羽「ねーねースタークさん!リンゴ!!」

スターク『いや君も凄いな』

スターク『グイグイなんてもんじゃないね』




スターク『……もうやだ。帰りたい』

黄羽「ねーねーねーねー!リンゴ!!!」

スターク『……はい』




――これは。北都の人間性が垣間見えたお話。


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