Masked Rider EVOL 黒の宙   作:湧者ぽこヒコ

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佳奈「ねーねー。めがねさん」

内海「ぶっ……メ、メガネさん!?」

佳奈「うん!めがねさんだよ?」

内海「おほん……私は内海という名前だ」

佳奈「ふーん?……あのさ、めがねさん」

内海「うん、だからね?私の名前は」

戦兎「お、メガっ……ナリさん」

内海「なんだお前。お前もか。お前も来るのか」

佳奈「メガナリさん……!」

佳奈「かっこいい……!!」

内海「いや違うから。なんだメガナリさんて」



惣一「メガナリさんみかんとってー」

万丈「メガナリさん俺もー」

一海「俺も頼むわ、メガナリ」

幻徳「俺は大丈夫。メガナリ」

内海「おい。おかしいだろお前ら」

内海「特にそこのブラック上司」

内海「言いたいだけだろお前」

佳奈「メガナリ!でばんすくないね!」



メガナリ「……結構ガチで気にしてるからやめて」

紗羽「がんば。メガナリ」




phase,47 信じる、信じられる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時は遡る事少し前。

あの純粋な少女がサプライズに驚く前の事――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――それにしてもお前、手酷くやられたなー」

 

 

 

 

 

 

 

おんぶを強要し、更にはケラケラと笑いながら痛い所をついてくるこのバカに本気でムカついているわたし。

 

さっきから何かとこの事ばかりをネタにしてくるこいつは、そろそろ姉の威厳を思い知らさなければならないのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

「いたっ!!頭殴るな!おい!?」

 

 

 

 

 

 

 

ざまあみやがれ。

そしてもっとバカになってしまえ。

 

 

 

 

 

 

 

「うっせ!あれは……油断してただけだし」

 

 

 

 

 

 

 

ちょっとしたわたしの意地が出しゃばる。

 

 

 

本当は全ての力を出し切って、その全てを軽く受け切られて、わたしは完全敗北した。

 

 

 

あの時にもし万丈が来なかったら、間違いなくわたしは殺されていた。

 

 

 

 

 

 

 

痛感するわたしとあのどこか非情な男との実力差。

どう足掻いても埋める事の出来ない、奈落過ぎる力の違い。

 

 

 

 

 

 

 

「……まぁあの野郎は強過ぎっから。気にすんなよ」

 

 

 

 

 

 

 

万丈の変な心遣いが更にわたしの傷を抉る。

改めてわかってしまう。わたしの力を。

 

 

 

 

 

 

 

わたしが、どうしようもなく弱い事を。

 

 

 

 

 

 

 

「……まあ少し強いかも。あんたより」

 

 

 

 

 

 

 

その事を認めたくなくて、つい強がってしまう。

わたしが弱い、勝てなかった、って事を認めたくない。

 

 

 

 

 

 

 

どう足掻いても、何も出来なかったのに。

膝をつかせるどころか、面白いなどと言われてしまったのに。

 

 

 

 

 

 

 

もし……またこんな事になったら……

 

 

 

 

 

 

 

「強がんなって……まぁ大丈夫。俺ん所の兵士に事の内容を通信しといたしよ。多分だけど北風が攻めてくる、なんて事はもう大丈夫だろ」

 

 

 

「それにあのじゃがいもが上手くやってくれんだろーしな」

 

 

 

 

 

 

 

じゃがいも……?

猿渡の事を言っているのかな。

 

 

 

そういや猿渡は万丈の事をエビフライだのなんだのって言っていたような気がするし。

この2人、仲良いのかね?

 

 

 

なんか、似合ってる気もするけど。

約束だのなんだのと色々あったみたいだし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……まあそんな事よりも、だ。

 

 

 

 

 

 

 

「そーだね……このまま上手い事話が進んで解決してくれればいーけど。猿渡も一応偉い立場なんでしょ?」

 

 

 

 

 

 

 

勘違いでわたしを殺そうとしていたあの男の事を考えると、なんだか上手くやってくれそうな気はする。

 

 

 

北風の団長って言っていたし。

それなりに立場はあるのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

……まあ万丈みたいなバカが団長になれるくらいだから、ちょっと怪しいけども。

 

 

 

もしかして北風の昇進はゆるゆるなのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

「あー……まあ確かに、そうだな。猿渡は北風でも一番偉いっつーか……多治見とも簡単に会えるくらいには偉い」

 

 

 

 

 

 

 

おいそれすげーやつじゃん。

一国の首相と簡単に会えるて。それ凄いよ。

 

 

 

いやわたしも泰山首相と会えるけども。

それでもあの人も忙しいし簡単には会えないからね?

 

 

 

 

 

 

 

ていうかお前。多治見て。

首相呼び捨てってお前。だめだろ。

 

 

 

 

 

 

 

「ま、まぁそれなら……上手くやってくれそうだね」

 

 

 

 

 

 

 

首相を呼び捨てにする愚弟にちょっと心配になるも、猿渡が意外と偉いやつで安心した。

 

 

 

それだけの地位に居るならば問題は無さそう。

ちゃんと説明してくれればいいんだけど……

 

 

 

勘違い、ちゃんと解けてるのかな――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――ここ。ここで大丈夫」

 

 

 

 

 

 

 

少しずつ身体も動かせるようになってきて、おんぶという名の辱めから即座に逃げ出した先にあるのは、東都の護りの拠点。

 

泰山首相が坐す場所、首相官邸。

 

 

 

 

 

 

 

ここまで来るのに物凄い時間がかかった気がする。

なんだか永遠とまで感じたわ。

 

 

 

 

 

 

 

まぁ……それもそのはずだよね。

 

 

 

 

 

 

北風の軍服、しかも団長の軍服を着たやつが野兎の総隊長をおんぶしているのを見つけ、訝しげに近寄ってきた野兎の兵たちに説明したのはもう数え切れなかった。びっくりするぐらい詰め寄ってきた。

 

 

 

しかも変な目で。

いやこれには理由があるんだってと何遍繰り返した事か。

 

 

 

 

 

 

 

もうあんな思いは嫌だ。恥ずかし過ぎる。

わたし色んな意味でボロボロだし。

万丈はわけわからん事言って余計に大変だったし。

 

 

 

 

 

 

 

そんな好奇の目に晒され続けたらそりゃ長くも感じるわな。

時間止まれと思ったもん。どんより重くなれよみたいな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

でもまあ、無事に辿り着けてよかった……

 

 

 

 

 

 

 

「したら、俺は帰るよ……今北風がどうなってんのかもわからねーし」

 

 

 

 

 

 

 

踵を返そうとする万丈を見ると、やっぱりまだ帰ってきてはくれないのかな、と切なくて苦しい気持ちがわたしに襲いかかる。

 

 

 

やっぱり……

そのまま一緒に、ってわけにはいかないか。

 

 

 

 

 

 

 

「……もう北都とも争わなくて済みそうだし、いいじゃんよ。もう……帰ってきなって。待つの疲れたよ」

 

 

 

 

 

 

 

心からの本音。もう待つのなんて嫌だよ。

 

 

 

それに万丈はわたしの事を助けてくれた。

きっと、猿渡が言ってたあの約束っていうのも万丈との事。

 

 

 

 

 

 

 

わたしに手を出すな、みたいな。

多分そんな感じの事だと思う。

 

 

 

 

 

 

 

「……悪ぃな。そいつは無理だ……俺はもう、北都の人間だからさ」

 

 

 

 

 

 

 

……こんなに頑なに拒むなんて相当な何かがあるんだろう。

 

 

 

北都はなんだか怪しい所が多過ぎる。

姿形を変えるスマッシュや、東都が宣戦布告をしてきたなんていうわけのわからない事を言っていたり。

 

 

 

それに、自分たちの兵を……黄羽ちゃんを襲わせた事。

しかも用意周到にわたしに化けてまで。

 

 

 

 

 

 

 

北都は……多治見首相はやっぱり……

わざわざ戦争を引き起こすために自作自演を……

 

 

 

 

 

 

 

「万丈さ、何を言われたの?……脅されてるんでしょ」

 

 

 

 

 

 

 

きっと……多分間違いなく、北都に。

多治見首相に脅されているはず。

 

 

 

わたしたちと離れなければならない、もう二度と相容れないと思ってしまうような何かをされているはず。

 

 

 

 

 

 

 

……万丈は、真っ直ぐなバカだから。

 

 

 

 

 

 

 

「……本当に、悪ぃ。でもどうしようもねーんだよ。もう……こうするしか方法は無いんだ」

 

 

 

 

 

 

 

万丈の顔が辛く歪んだ気がした。

何かを抱え込んで、もう耐えきれないような。

 

 

 

わたしたちに頼らず、独りで背負うような。

 

 

 

 

 

 

 

「なんであんたは……頼れって言ってんじゃん。わたしはあんたのお姉ちゃんだよ!?なんで独りで抱え込むの!!頼れって何度も言ってんでしょ!!」

 

 

 

 

 

 

 

落ち着いて、冷静に話そうとしてもやっぱり感情的になってしまう。

 

何度言ってもわたしたちには関係ないみたいな態度を取り続けるこのバカな弟に。

本当に悲しくて、切なくて、腹が立ってしまう。

 

 

 

 

 

 

 

そんなに頼りないの?

そんなに信じられないの?

そんなにわたしは無力なの?

 

 

 

 

 

 

 

せめて……少しだけでも力にならせてよ……

 

 

 

 

 

 

 

「……あのな、姉貴。実は――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

愚弟が何かを言いかけたその時、弟の冷たい軍服の胸ポケットからけたたましい音が鳴り響いた。

 

 

 

それはきっと、何かを告げる音色。

 

 

 

 

 

 

 

「……なんだよ。俺だ、万丈……あ?猿渡?なんだどーした……は?……あー……よくわかんねーけど。居るぞ」

 

 

 

「おう……あ、じゃあ代わるわ」

 

 

 

 

 

 

 

きっと万丈が何かを言ってくれるのかもしれない、そう期待してた事が阻まれてちょっとタイミング悪過ぎだろーが、と憤慨しているわたしはきっと今、凄い顔をしてるはず。

 

 

 

 

 

 

 

それにしてもなんだろう。代わる?

猿渡、って言ってたけど。何かあったのかな?

 

 

 

 

 

 

 

「ほれ、戦兎……猿渡から。話があるって」

 

 

 

 

 

 

 

猿渡から?わたしに?話が?

 

 

 

なんだろ。怖いんですけど。

もしかしてやっぱりお前を殺すから待ってろとか?

それとも黄羽ちゃんがわたしにブチ切れてるとか?

 

 

 

わかんないな……

また変な勘違いじゃなきゃいいけど……

 

 

 

 

 

 

 

「はいもし……天才が代わりましたが」

 

 

 

 

 

 

 

やばいいつもの癖でやっちまった。

大丈夫かこれ。刺激してない?

 

 

 

もしこれが戦争の火種になったら……

 

 

 

 

 

 

 

やばいどうしよう。謝っとくのが正解なのか。

 

 

 

 

 

 

 

「あっ今のはっすね、ちょっとしたジョーク――」

 

 

 

「何わけわかんねえ事言ってんだ?……まぁいい。さっきは本当に済まなかった。しっかりと謝らしてくれ」

 

 

 

 

 

 

 

通話越しのあの恐ろしい戦士の声は、なぜだかとてもバツが悪そうだった。

まるで悪い事をして怒られた後の子供のような。そんな気がした。

 

 

 

 

 

 

 

とゆーか謝ってきたの?謝ってるよねこの人?

謝るって……つまりさっきの事だよね?

 

 

 

もしかしてこれ。いや、もしかしなくてもこれ。

 

 

 

 

 

 

 

大団円じゃね?解決してね?

勘違いが綺麗に収まってね!?

 

 

 

 

 

 

 

「いやー……こちらこそ、うん。だいじょぶ。よきにはからえ」

 

 

 

 

 

 

 

なんだかひと段落してすげー上から目線になっちまった。

でも大丈夫だよね。あんだけボロカスにされたんだから、これぐらいわたしには許されてるよね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とりあえず第一関門はセーフかな。

よかったあぁぁぁ……

 

 

 

 

 

 

 

「お、おう……?まぁそれでな、1つ頼みがあんだよ。あんな事しておきながら図々しいのはわかってんだけどさ」

 

 

 

 

 

 

 

わたしからの上から発言にも快く対応してくれた猿渡さん。

意外とこの人は器が大きいのかもしれん。

 

 

 

 

 

 

 

しかし頼み事とは……?

この感じだと悪い事ではなさそうだけども。

 

 

 

 

 

 

 

「もう誤解も解けて安心だし……わたしに出来る事なら頑張りますわいよ?」

 

 

 

 

 

 

 

まぁこんな事をしておきながら、とか言ってるし。

多分変な事じゃないでしょ。

 

 

 

 

 

 

 

 

もしかして黄羽ちゃんのお見舞いに来てくれないかとかそーゆー感じかな……!

それだったら喜んでいくけど。美空も連れて。

 

 

 

 

 

 

 

「いや、実はな……俺は全軍を率いて北都に一度戻る事になった。よくわかんねえ事が入り交じってるしよ、多治見首相に確認もしなきゃならねえ」

 

 

 

 

 

 

 

まさかの。これは朗報だ。

北風が北都に戻れば被害も無くなる。

それに裏で嗤う連中を探し出すのもそれだけ早くなる。

 

 

 

 

 

 

 

ただ……一度戻る、か。

やっぱりまだ、完全には和解出来てる感じじゃないね。

 

 

 

多治見首相に確認って事はまだ、彼女がどう動くかもわからないし。

それにもし多治見首相が本当に全ての黒幕だったらと考えると……まずい状況に変わりはない。

 

 

 

 

 

 

 

まあでも猿渡がわかってくれたり、北風が北都に戻ってくれるだけでだいぶ有難いけど。

これからの対応もかなり変わってくるはずだし。

 

 

 

 

 

 

 

「そっか……助かるよ。東都は戦う気が本っ当に全く無いし、このまま和解出来れば一番だから」

 

 

 

 

 

 

 

もし……多治見首相が関わってなければ、ね。

 

そうすれば東都と北都の戦争は終結して、本当の黒幕を共に探し出す事が出来る。

 

 

 

それを願いたいものだよ。

まあ万丈の事や姿形を変えるスマッシュ……幻徳や黄羽ちゃんの事があるから、めちゃ怪しいけどね……

 

 

 

 

 

 

 

それにこの事を猿渡に言ったとしても……

余計に混乱を招くかもしれないし。

 

事態が悪化する可能性もある。

 

 

 

もし伝えるとしたら、確実な証拠を掴んだ時に……

 

 

 

 

 

 

 

この一件で溝はかなり埋まったと思うし。

わたしの言葉の信憑性だって高まったはず。

 

 

 

 

 

 

 

雨降って地固まった、って事かな。

痛い思いしたけど、これがまさか解決の糸口になるとはねー。

 

 

 

 

 

 

 

身体中死ぬほど痛い代償がこれなら儲けもんだ。

 

 

 

 

 

 

 

「ああ。これだけの事をしちまったしな。これ以上惨い事にならないように何とか尽力する……それで、だ」

 

 

 

 

 

 

 

猿渡の口からまさかこんな言葉が聞けるとは。

あの一切歯が立たなかったあの男からの、和解を望む言葉。

 

 

 

これ程頼もしい言葉はない。

しかもこの猿渡は北風全軍を率いるほどの地位にいる男。

更には多治見首相と簡単に謁見すらもできる。

 

 

 

 

 

 

 

これは本当に和解しちゃうかも。

 

 

 

多治見首相さえ……黒い考えを持っていなければ、の話だけどさ。

 

 

 

 

 

 

 

それにもしかしたら……

最悪の場合でも、猿渡が力を貸してくれるかもしれないし……

 

 

 

 

 

 

 

ちょっと、難し過ぎるかもしれないけど。

 

 

 

 

 

 

 

「ここからがその頼み事ってやつね。なーに?」

 

 

 

 

 

 

 

今までのはいわゆる前置き。

ここからが本題。

 

 

 

なんだろう。話の感じだとやっぱり悪い事では無いみたいだし。

黄羽ちゃんのお見舞いでも……うん。無いな。

 

 

 

 

 

 

 

もしかして北都についてきてくれとか!?

 

 

 

有り得る。めちゃ有り得る。

うーむむむ……まぁ別に構わないか……

 

 

 

でも北都寒いって言うしなー。

わたし寒いの嫌なんだよなー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺らが北都に帰ってる間……あいつを、あの泣き虫を預かっててくんねえかな?なんか、仲良くなったみたいだし」

 

 

 

 

 

 

 

「……ほえ?」

 

 

 

 

 

 

 

考えていた事と180度違う答えが帰ってきてつい変な声が出てしまった。恥ずかしっ。

さっきもおんぶとかいう辱めにあったのにっ。恥ずかしっ。

 

 

 

 

 

 

 

いやそんな事よりも。

 

泣き虫って……黄羽ちゃんだよね、多分。

仲良くなったって……そうだよね。

 

 

 

 

 

 

 

まさかあのリーゼントや冷静なおっさんのことじゃないだろーし。

あの2人を泣き虫と言ってるならなんかキモいし。

 

 

 

 

 

 

 

 

お見舞いだったらいいのになとか思ってたけども。

 

 

 

 

 

 

 

まさかの預かり希望!?

 

 

 

 

 

 

 

「いやな、お前ももしかしたら知ってるのかも知れないんだけどよ……あいつ、多分北都の人間に命を狙われててな」

 

 

 

「あいつ怪我もしてるし……一緒に北都に行ったら危ねえかもしれないからさ」

 

 

 

 

 

 

 

黄羽ちゃんを襲った相手……姿形を変えるスマッシュ。

それを有するは北都。

今まではまだ少し確証は無かったけど。

 

 

 

多分、猿渡が言ってるのはこいつの事だろう。

見分けのつかない暗殺者、北都の掃除屋。

 

 

 

 

 

 

 

やっぱり……確信した。

スタークが言ってたのは間違いなく本当だったんだな。

2人の、しかも団長が言うならば間違いはないだろう。

 

 

 

……万丈はちょっと怪しかったけどね。

 

 

 

 

 

 

 

万丈と猿渡が同じように言った、スマッシュ。

北都が有する、スマッシュ。

 

 

 

 

 

 

 

少しずつ見えてきたな……うん。

 

 

 

 

 

 

 

それと前にも考えてた事。

 

もしこれらの一件が北都の……

多治見首相のある1つの目的のためだとしたら。

 

 

 

……あの超エネルギーの塊のためだとしたら。

 

 

 

 

 

 

 

もしかしたらそのためだけにこの戦いを起こしている可能性がある。

 

 

 

でもまだ確実な証拠がない。

もしかしたら多治見首相が、北都が関係無い所で蠢いている連中の仕業かもしれない。

 

東都からミサイルが放たれているのは間違いないし……

 

 

 

 

 

 

 

戦争を激化させないためにも、慎重に行動しなきゃ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まぁ今はそれは置いておいて。

 

 

 

なんでわたしの所へ……?

 

 

 

 

 

 

 

「あいつ、お前の事が大好きみたいでな。やたらと信用してるし……さっきもよ、なんでそんな事したの!って怒られたばっかなんだよ、ははは」

 

 

 

 

 

 

 

わたしの事を大好き、って言葉が。

わたしの心をとても暖かくする。

 

 

 

最初は敵で。わたしに襲いかかってきたあの子。

その後に泣いてるあの子を見つけて、色々な話をしたあの子。

わたしの大好きなホットミルクを、美味しそうに飲んでいたあの子。

 

 

 

東都と北都の和解のために、駆けていったあの子。

笑顔が綺麗な、あの純粋のあの子。

 

 

 

 

 

 

 

そんなあの子が……

黄羽ちゃんがわたしの事を大好きと言ってくれていたなんて。

 

 

 

嬉しくて、でも凄い照れちゃう感じがして。

にやけっぱなしなのを通話越しの彼にバレないのが幸いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ん……?いや、それよりも。今、猿渡は……

 

 

 

 

 

 

 

「さっきも、とか……大好きって言ってた、とか……もしかして黄羽ちゃんは……」

 

 

 

 

 

 

 

黄羽ちゃんは多分、猿渡の所に行く途中に襲われたはず。

大好きだなんて、あの戦いの直後には思わないはず。

 

 

 

 

 

 

 

それに……さっきも、って……なんでこんな事したの、って……それってもしかして……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああ……あの泣き虫なら、意識が戻った……今もピンピンしてリンゴ食ってるよ。身体中痛いみてえだけど、元気そのものだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よかったぁ……黄羽ちゃん……本当に大丈夫だったんだぁ……」

 

 

 

 

 

 

 

もう1つ気にかけていた事。

黄羽ちゃんの容態。

 

 

 

死んではないとわかったけど、万丈の話だと意識不明の重体だったと聞いていた。

万丈の説明が意味不明過ぎて、実際どんなものなのか全くわからなかったけど。

 

 

 

もしかしたらもう二度と目を覚まさないかもしれないと。

ずっと眠り続けてしまうのではないかと。

 

 

 

 

 

 

 

ずっと、ずっとあってはいけない事を想像してしまっていた。

 

 

 

 

 

 

 

恐らく心から安心したからなのだろう。

引っかかっていた何か重いモノが解き放たれたからなのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

優しくて、暖かい涙が頬を伝う。

悲しくない、切なくない、幸せな雫。

 

喜びの、綺麗な雫。

 

 

 

 

 

 

 

「……お前も、いいやつだな。敵であるはずのあいつに……本当にすまなかった。そして、ありがとう」

 

 

 

 

 

 

 

わたしからしたら黄羽ちゃんは敵じゃない。

それに……猿渡だって。

 

 

 

これは全てどこかのふざけたやつが仕組んだ、大きな陰謀。

黄羽ちゃんも、あの烏も、猿渡も。

 

 

 

 

 

 

 

……万丈だって、もちろん敵じゃない。

 

 

 

 

 

 

 

真なる敵は……まだ闇に蠢いている。

 

 

 

 

 

 

 

「ぐすっ……別に敵じゃないし……でも、いいの?わたしで……?」

 

 

 

 

 

 

 

いくらわたしの事が少し信用出来たからといっても、彼からしたらまだまだよくわからない存在のはず。

 

まだその者の真実が見えない、そんな存在のはず。

 

 

 

 

 

 

 

それなのに、大切な存在を託すなんて……

 

 

 

 

 

 

 

「いいんだ。むしろ、ぜひ頼む……あいつが、あの泣き虫があそこまで慕ってるのなんて初めてだしな……」

 

 

 

「俺が心から信じているあいつが言うんだ。俺はそんなお前が信じられる」

 

 

 

 

 

 

 

きっと猿渡も、わたしたちが家族を想うように。

黄羽ちゃんたちを想い、信じてるんだろう。

 

 

 

なぜだか、猿渡にも凄く親近感が湧いた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

わたしの命を奪おうとした相手だけど。

きっとそれは自分の大切な存在を。家族を。

踏み躙られたと思ったから。

 

 

だから猿渡はわたしに牙を剥いたんだ。

きっとわたしが同じ立場だったら、同じように行動するだろうし。

 

 

 

 

 

 

 

こいつは……凄く暖かい男なんだな。

 

 

 

 

 

 

 

そう思うとなんだかこの男が凄く近しい存在に感じられた。

今はまだ、相容れない関係かもしれないけど。

 

 

 

でもいつか、同じ道を進めるような気がして。

その道はきっと、暖かい光に満ち満ちている気がして。

 

 

 

 

 

 

 

わたしは猿渡が1人の人間として好きなのかもしれないな、って思ったら。

 

 

 

くしゃっ、と笑が零れ落ちてしまった。

これはきっと、平和な証なんだと思う。

 

 

 

 

 

 

 

「任せて!喜んで託されるよ。……わたしが黄羽ちゃんを絶対に護るから。安心して」

 

 

 

 

 

 

 

きっとこれは、平和への。解決への。

小さいけど大きな一歩なのかもしれない。

 

 

 

争い憎んでいた東都と北都。

わたしに憎悪の全てを刺した猿渡。

 

 

 

 

 

 

 

手を合わせ共に進めるのは、きっと遠くないのかもしれないな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……助かる。本当に助かる。この恩は絶対に忘れねぇ……そしたら拠点で待ってるからよ。他の兵にもしっかりと伝えておくから、気兼ねなく来てくれ」

 

 

 

 

 

 

 

「あのバカ……万丈が場所をわかるからよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……待ってるぜ、戦兎」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つい先程わたしの命を刈り取ろうとした猿渡が。

わたしの大好きな、心から誇りに思うわたしの名前を、まるで信頼する仲間に伝えるように呟いたその言葉が。

 

 

 

 

 

 

 

わたしにはとても心地よくて。

あの強過ぎる黄金の戦士が味方になったみたいで。

これから共に歩もうと力強く手を握りしめてくれたみたいで。

 

 

 

 

 

 

 

わたしの心はとても清々しくて、眩しかったんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……うむ!これから準備する!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今から行くから待ってて、一海!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……To be continued

 

 

 

 








一海「……一海って。なんだかこそばゆいな」

一海「まさか下の名前を普通に呼ばれるとは」



一海「はっ……!!」

一海「あいつ……もしかして……」

一海「それはだめだ!!俺にはみーたんが!!」

一海「いや、でもあいつも中々……」


一海「それはだめ!だめですよカズミン!」

一海「それに万丈があいつの事を……」

一海「もしかしてこれは……大変な事に……!」




一海「いや……でも悪ぃけど、それは出来ねぇ」

一海「みーたん一筋だからな……!」




一海「俺は……罪な男だぜ……」




香澄『この変な人……大丈夫かしら……』



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