Masked Rider EVOL 黒の宙 作:湧者ぽこヒコ
葛城忍「むむ。海外ドラマを見るのも飽きたな」
葛城忍「監獄をブレイクするやつも何回観た事か」
葛城忍「アプリも飽きたしなー……」
葛城忍「お。To witterからメッセが」
葛城忍「……理解されない孤独さんからだ」
葛城忍「前はスルーしてしまったからな……」
葛城忍「今回はちゃんと返さねば」
葛城忍「なになに……」
葛城忍「【近くにオシャレなカラオケ店があります】」
葛城忍「【一緒にいかがですか。ぜひオールしましょう】」
葛城忍「うん……いや、だからさ」
葛城忍「しかもオールとかさ。何このノリ」
葛城忍「私の事幾つだと思ってんだこの人」
葛城忍「……スルーで」
希望が見えた気がした電話の後、急いで野兎が有する車を出動してもらい、黄羽ちゃんたちが待つ北風の拠点へと着いたわたしたち。
ここまで来るのにも色々大変だったけども。
まずわたしと万丈は共に車の免許を持っていない。
こんな状況だからといって無免許運転はさすがに出来ないし。そもそも車なんて運転出来ないし。
だから野兎の兵士に運転してもらったのだが。
まず万丈の事で一悶着。
そりゃそうだ。自分の所の総隊長が、敵側の団長と一緒に自分たちの最終防衛ラインである首相官邸に居るってのもまずおかしな話だろうし、しかも車を出せ。目的地は北風の拠点だ、とか言い始めてるもんだから余計に困惑してましてね。
何しに行くんだこいつら、って話ですよね。
まあでもちゃんと説明したらわかってくれて、兵士1人とわたし、万丈の3人で向かう事になったのだけれども。
めちゃ気まずそうだったなー。彼。
まあそんなこんなで無事に向かったんだけどね。
万丈の道案内が酷すぎてわけわからん森に出たり、気付いたらスカイウォールに来てたり。
こんな所でバカを発揮するなと思ったよ。
運転してるうちの兵士が完全に冷や汗かいてたもん。
本当に悪い事をした。すまん。
そんなこんなで目的地になんとか到着。
本当にお疲れ様でしたの兵士さんには車で待って頂いて。
帰りも頑張ってもらわねばだからね……
まあ無事に着いたけどさ。
無事とは言い難いかもしれないけどさ。
うん、着いたのはいいんだけどさあ……
何というか……これは……
「……想像してたのとはかなり違うね」
考えてた拠点とは全く違くて呆然としてしまう。
なにこれ。いつの間にこんなの用意してたんだ。
わたしが想像してたのは……
なんていうかこう、テントみたいなのとかを考えてたんだけど……
木のログハウスみたいなのがいっぱいあるんですけど。
なんなの。どうやって用意したのこれ。
「これなー。車で持ってきたらしーぞ」
軽そうに言ってる万丈の顔はバカ面だった。
普通に言ってるけどそんな事出来んのか。
いや、というかいつの間にだよ。
そもそもそんな事出来んのか。
恐るべし北都……
「したら行くぞ。こっちだ――」
「――あ!!戦兎ねえ!!」
万丈の案内で無事に黄羽ちゃんが待つ部屋へと到着したわたし。
道中、よく現状がわかってなさそうな兵士たちが対応に困りながら挨拶してきたけども。
一海、お前しっかりと伝えたんじゃなかったのか。
なんだかわたしが悪い事してるような気分になったんですけど。
まあ、でも……
「黄羽ちゃん!!……元気そうで、よかった」
道中の事で微妙な感情になっていたけど、心配していたあの少女の元気な声と笑顔で全てがまっさらになる。
彼女の笑顔を見ると、わたしも笑が零れてしまう。
痛々しい姿だけど……本当に大丈夫そうだ。
「ほんとにほんとに会いたかったよー!戦兎ねえー!!」
「わたしもだよー!会いたかったよ、黄羽ちゃん!!」
彼女が身を委ねるベッドに近づくと、力いっぱい抱きしめてくれた黄羽ちゃん。
もう可愛くて仕方がない。
本っ当に会いたかったよお!!
まあなんかいつの間にか戦兎ねえって呼ばれてるけども。
……妹が1人増えちゃったな。えへへ。
「悪ぃな戦兎……改めて。本当にすまなかった」
1人部屋の広い病室に居たのは彼女だけじゃなかった。
あの万丈と似てる赤羽、冷静でちょっとおかしな喋り方の青羽。
そしてここに来てくれと頼み、たった今また謝ってきた一海。
「いーよいーよ!誤解が解けたなら安心だしねん!」
本当にそれに尽きる。
しかも一海はわたしよりも遥かに強い。
あのままでは本当に東都は壊滅してたかもしれない。
でも今は……心強い仲間な気がする。
「お、おぉう。でも本当に悪かった……すまん」
「勘違いとはいえなぁ。本当に申し訳なかったよう」
赤羽と青羽もバツが悪そうにしながら頭を垂れてきた所を見ると、やっぱりこの人たちは悪い人じゃなかったんだなと改めて思う。
……黄羽ちゃんといい、一海といい。
北都の人はもしかしたら純粋なのかもしれない。
「ほんとだよっ!ほら、もっとちゃんと謝って!!」
黄羽ちゃんに詰められて更にバツが悪そうに頭を下げてきた一海たちを見ると、なんだか笑えてきてしまう。
多分、とても平和で暖かい事なんだろうな。
「ほんとにっ……ほんとに大丈夫だから、ね?」
少女に詰められて頭を下げる3人組の絵面がとてもおかしくて、何とか笑いを堪えるのに精一杯だ。
やっぱり女は強し!なのかな。
「本当にすまねえ。それとありがとうな戦兎……そして、この泣き虫を頼む」
力強く信頼した面持ちで一海は言ってくれるけど、きっと離れ離れになるのは心配なはず。
ただでさえ黄羽ちゃんは襲われたし、しかもここは全く知らない地。
それでもわたしを信用して託してくれるんだ。
わたしが、絶対に護り抜くから。
「ちょっとお!?泣き虫泣き虫言い過ぎだよっ!?」
頬を膨らませる黄羽ちゃんのなんと可愛い事か。
黄羽ちゃんは、その場に居るだけで周りが明るくなるような子。
こんな子に愛された人は幸せだろうな、なんて想ってしまうわたしはもう、お姉ちゃんの感情なのかもしれない。
「はいはい……そしたら準備が出来次第、俺らは北都に一旦戻るからよ。黄羽の事を……頼んだ」
「任せんしゃい。しっかりと護るから」
一海の言葉で、わたしの心に少し靄がかかる。
万丈は……どうするんだろう。
「ねぇ、万丈……あんたは……」
「俺も、戻る……あの婆に話さなきゃならねー事もあるし」
やっぱり、そっか。
多分、多治見首相の事なのだろう。
婆とは随分と思うけど、色々あるんだと思う。
きっと……縛られている何かが。
「……戻って……くるよね」
あの時万丈がわたしに言いかけた言葉。
何かを伝えようとした言葉。
あの後、向かう道中も言いかけた言葉が一体何だったのかは結局教えてくれなかったけど。
でもあの時、何かを言いかけた時の万丈の目は……
淀んだモノじゃなく、どこか澄んだような目だった気がしたから。
帰って……くるんだよね……
「……またな、戦兎」
その言葉を残して、万丈はどこかへ行ってしまった。
その顔はどこか寂しげだったけど。
でも、今の言葉の意味は。
またな、って言葉は……帰ってくるから、って事だよね。
そういう風に受け取っていいんだよね、万丈……
「戦兎ねえ……だいじょぶ?」
想いが顔に出ていたのだろうか。
身体中痛くて辛いだろうに、わたしの心配をしてくれる黄羽ちゃんになんだか悪い気持ちになる。
……万丈なら、大丈夫だよね。うん。
「うん!だいじょーぶ!そしたら黄羽ちゃん。動くのは……難しいかな?」
いくら元気そうとは言え、先程まで意識不明の重体だったんだし。
さすがに歩くなんて事はでき――
「んんん?らくしょーだよ?」
ぴょこっ、とベッドから飛び降り立ち上がる黄羽ちゃん。
まるで健全そのものみたいに。
すげーな。若さか。これが若さなのか。
これが20代と10代の差なのか。
なんて事を考えて少し落胆してしまうが。
それにしても凄すぎないか。回復力凄まじくないか。
「お、おい!?お前歩いて平気なのか!?」
物凄い勢いで取り乱す一海を見ると、なんだかお父さんのようだな、って思えてしまう。
一海にとって黄羽ちゃんたちは……
本当に大切な存在なんだな、と改めて思う。
黄羽ちゃんたちを見る一海の顔は、どことなく優しいモノを感じる。
何というか、家族に向ける愛情みたいな。
「んんん!よゆーよゆー!だいじょおぶ!!」
このくらい元気なら車椅子もいらないな。
そんな事を考えながら黄羽ちゃんたちを見ていると、さっきまで戦っていた事がまるで嘘のように感じる。
こんなにも平和な空間。
こんなにも優しい笑が広がる場所。
こんなにも暖かい雰囲気。
このままこの関係が続く事を。
わたしは、心の底から願うよ――
「――あ。そろそろ北都に戻る準備しなきゃまずいな……後は頼んだぜ」
黄羽ちゃんがリンゴを食べたいと言い始めたのがきっかけで、誰が一番皮剥きが上手いのかで盛り上がっていた時、そろそろお開きとなる言葉を一海が呟いた。
ちなみに一番は赤羽だったんだけど。
綺麗なうさぎリンゴまで披露してちょっと引いた。
「そーだね!そしたら行こっか、黄羽ちゃん」
そういえば車に運転手を待たせっぱなしだったし。
やばいな。完全に怒ってるよ。
……遅すぎて帰っちゃったとかないですよね。
「うん!……カシラ、お迎え待ってる」
黄羽ちゃんの顔が、どこか切なく見える。
頭と仰ぐ男を見つめるその顔は、まるで恋人を待つ乙女のようにも見えた気がした。
十中八九勘違いなんだろうけど、何となく……
もしかしたら黄羽ちゃんは一海の事が好きなのかもしれないな、とか思って少しにやけてしまったかもしれない。
「おう、待ってろ……じゃあな、頼んだ」
「おぉい!頼んだぜえ戦兎ちゃんよ!」
「黄羽の事……本当に頼んだよう」
それぞれが力強くわたしに言葉を投げかけてきたのが、なんだかちょっとくすぐったい気もしたけど。
でも、笑顔になれるような良い気分だ。
変なリーゼントがわたしの事をちゃん付けで呼んできたのには驚いたけど。
あんたそういうキャラだったのか。
「あ!!あとよ、戦兎……万丈、あいつ良いやつだぞ。良い男だ……旦那にすんならああいう男がいいよな、うん」
……ん?いきなりどーした一海くん。
なんなんだろう。なんなのこいつ?
もしかして万丈の事を気にしてんの?
えっ。もしかしてそんな事気にしてあげる程に万丈と仲良いのこの人。
というかそれをなぜわたしに。
あいつの結婚事情とかわたしに言われても。
というかあのバカは香澄さん一本だろ。
「あー……ええと、あのバカ……万丈には香澄さんが居るし、多分他の女には興味無いんじゃないかなー……」
あいつが香澄さんにベタ惚れなのは、わたしたち家族の間ではもうこれ周知の事実だし。
だからあいつは他の女に見向きもしないと思うんですが。
それほどまでに……万丈は香澄さんを想ってる。
わたしはそんな2人の関係が凄く綺麗な純愛だと思うし、なんだか凄く羨ましく思える。
「まぁな。確かに……でもな、あいつが前に進むのを香澄さんは願ってると思うんだ、俺は」
なんだこいつめちゃ良いやつじゃん。
そんなに万丈の事を考えてんのかこの人。
これもう友達なんてもんじゃないと思うんだけど。
いつの間に北都最強の男と親友レベルのお知り合いになっていたんだうちの弟は。
「ま、まぁ確かに……わたし的にもあいつがこのままずーっと1人なのは心配だけど……でも、あいつの中での香澄さんはそのぐらい大きなモノだと思うし」
そりゃやっぱりお姉ちゃん的には心配だけども。
でも……香澄さんは、やっぱり万丈にとってかけがえのない最愛だし。
あいつが他の女の人と、なんてちょっと考えらんないけどなあ……
「わかる……わかるぞ、戦兎」
なんなんだろうこの感じ。
なんかそもそもこいつは何かを間違えてる気がしてならないんだけど。
なんだこの違和感は……
「だけどな、戦兎……あいつは良い男だ」
うん。バカだけど悪い男では無いと思います。
一途だろうし。バカだけど。
貯金もしてたって言ってたからお金の使い方も荒くないだろうし。バカだけど。
顔は……わたしの好みじゃないけど、悪くは無いんじゃない?バカだけど。
身体も鍛えてるから逞しいしね。バカだけど。
そりゃまあ……彼女作ろうと思えば出来るんじゃないですかね。
「な、戦兎。あいつ良い男だろ。きっと幸せな家庭を築くやつだろうなぁ……うんうん」
だからそれをわたしに言ってどうすんだ。
なんだ、姉のわたしが女見繕ってこいってか。
あいつの彼女候補探してこいってか。
ただでさえ自分の恋が大変な状況なのに、あの香澄さん一直線のバカに将来の嫁さん探してこいってか。
そのうざったい前髪毟りとってハゲにしてやろうかてめえ。
「……まぁ、本人がその気なら善処します」
まあ無理だけど。
わたし自身の恋愛模様で無理だけど。
あいつのお嫁さん探すなんて無理ですけどね。
とりあえず言っとかなきゃなんかめんどくさいし。
しつこいしね、うん。
変だけどこいつが良いやつなのも何となくわかった。
「そうか!よろしく頼んだぜ!!うんうん……じゃ、またな」
いきなり始まったこの話、最初から最後までわけわからなかったけど。
とりあえずこいつが万丈の将来を心配してるのは凄くわかった。
……あいつ親戚のおじさんかなんかなのかな。
「なんか……カシラわけわかんない事言って消えたね……」
どうやら黄羽ちゃんも同じ事を考えてたようです。
やっぱり今のわけわかんなかったよね。
よかった、北都はみんなあんな感じなのかと一瞬思っちゃったよ。
「多分……万丈の心配、してくれてたんだと思う……」
やたら目輝かせてたし。
そんなに心配ならあんたが紹介してやれよと思うけども。
……でも、万丈はきっとあのままだろうな。
ふとした時、しょっちゅう香澄さんの写真を柔らかい笑顔で見てたし。
あいつの中での香澄さんは本当に大きいから。
……一海くん。変なお節介焼かなきゃいーけど。
「そしたら黄羽ちゃん!お家に行こっか?」
「んんん!楽しみだよ戦兎ねえ!!いっぱいお喋りもしよーね――」
――人1人いない場所。
静寂に包まれた、冷たく感じる森。
僕は少しあの時の事を考え、あの方に止めてもらった事がなぜか嬉しかったのを思い出していた。
なぜあんな感情になったのだろう。
僕は何も感じないはずなのに。
僕の存在価値は、主の命に忠実に従う事だけ。
それ以外は、僕には無い。
なのに僕はなぜあの時に喜びのような何かを感じたのだろう。
僕は……なぜ殺す事をあんなにも躊躇ったのだろう。
僕には、何も無いはずなのに。
スターク様からの言伝を主に報告した時にも、どこか安堵していたような気もする。
なぜそういった感情になったのだろう。
僕は、どうしてしまったのだろう。
僕の存在価値は、速やかに任務を遂行する事。
それが出来なければ僕に価値は無い。
こんな時、兄ならば……どうするのだろう。
兄の事を思い出そうとすると、なぜか心が締め付けられるような気がしてしまう。
なぜなのかは、わからない。
……わかろうとも思わない。
それになぜか、遠い昔に暖かな感情があったような気がする。
……だけど、そんなはずはない。
僕は最初から何も無い、主に付き従う忠実な駒のはず。
そうしたら……過去の僕はなんなのだろう。
幼少期の僕は一体何だったのだろう。
何も……思い出せない。
あの兄……一海というモノが存在しているという事以外、何もわからない。
……でもきっとそれは些細な事。
今の僕には関係の無い、粗末な事。
今の僕には意味の無い、瑣末な事。
僕は……何も無い、主にのみ忠実な下僕。
それが、それだけが僕の存在価値。
兄も何も、僕には関係無い。
僕はあのお方の物にすぎないから。
こんな事を考えてしまう辺り、やはり疲れているのかもしれない。
……僕はただの……道具だから。
……To be continued
一樹「そういえばお腹減ったな」
一樹「パフェ……食べたい気がする」
一樹「疲れている脳には糖分だろう」
一樹「速やかに栄養を摂取しないと」
一樹「かなり疲労が蓄積しているはず」
一樹「……だから、こんな事を考えるんだ」