Masked Rider EVOL 黒の宙   作:湧者ぽこヒコ

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香澄『あら?なんでお父さんたちが北都に?』

香澄『もしかして龍我に会いに来たのかな』



香澄『……ふふふ』

香澄『本当に龍我の事お気に入りなんだから』

香澄『あの時も……ずっと信じてくれたし』

香澄『……会いたいな、お父さんたちにも』



香澄『……だめだめ!』

香澄『落ち込んでてもしょうがないよね!』

香澄『またお散歩でもしながら観察しよーっと……』




phase,52 危険な果実

 

 

 

 

 

 

 

 

 

思い切り蹴られたり殴られた所が痛む。

だけど……身体はもちろん痛いけど。

 

それよりももっと痛む所がある。

 

 

 

きっとそれは、まだ俺が甘い証なのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦兎がかなり強くなっていた事に想いを馳せる。

 

最初の頃などスマッシュとの戦いで毎回ボロボロになって帰ってきてたあの娘が。

なんというか、成長とは早いモノというか。

 

 

 

 

 

 

 

しかもあの力……

まさかラビットとタンクとはなぁ。

 

 

 

本当に感慨深いモノがある。

一種の感動のようなモノを感じてしまう。

 

 

 

 

 

 

 

……録でも無い感動だけど、さ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だがあのままじゃダメだ。

 

 

 

あの子にはもっと強くなってもらわねば困る。

更なる高みへと登ってもらわねば困る。

 

 

 

 

 

 

 

まだ……足元にも来ていないから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それにしてもあの強大な力を戦兎はどう奮うのだろう。

ずっとあのままでいられるだろうか……

 

 

 

あの力は破壊の力。

あの力は破滅の力。

 

 

 

あの力は……俺本来の力によく似た、絶望の力。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「しかしまぁ……まさかあんな事を口走っちまうとは」

 

 

 

 

 

 

 

つい戦兎に投げかけてしまった、懇願のような言葉。

傷だらけになっていく最愛の娘を見て、つい本心が零れてしまったあの言の葉。

 

 

 

 

 

 

 

正直、もう見たくなどない。

身も心も削れていく戦兎を見たくない。

 

 

 

だから、つい出てしまった。

親の……我儘なのだろう。

 

 

 

……言うべきではなかった言葉だったのに。

 

 

 

 

 

 

 

もしあの場で戦兎がこれ以上の戦いを拒んだら。

俺はどうするつもりだったんだろう。

 

その事を受け入れ、戦いから遠ざけるつもりだったのだろうか。

 

 

 

そんな事、出来るはずないのに。

 

 

 

 

 

 

 

戦兎の代わりなど誰もいない。

あいつにしかやらせられない事なのに。

 

 

 

 

 

 

 

俺は何をやってんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……もう覚悟は決めたはずだろう、くそ野郎。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかしあの時の戦兎の目は。

 

 

 

希望に輝いていた眼だった。

先を視る、未来を創ろうとする瞳。

決して屈しない、力強いモノだった。

 

 

 

 

 

 

 

……戦兎なら、大丈夫だよな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

闇に屈するなよ、戦兎。

 

 

 

その力は光の力などではなく、闇の力。

護るというよりも、壊すモノ。

 

ひとたび間違えてしまえば、自らが絶望を運ぶモノとなってしまう。

 

 

 

 

 

 

 

……信じているよ、戦兎。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、いつの日か――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――ごめんっ!許してお姉ちゃん♡」

 

 

 

 

 

 

 

美空ちゃんが煌めくようなお顔で謝罪してきても、わたしの心が晴れる事は無い。

 

 

 

むしろこの可愛い妹から悪意すら感じてしまう。

きっとわたしをいじめて楽しんでるんだ。

 

 

 

 

 

 

 

「ほんとにほんとにごめんよお、戦兎ねえ!今度なんか買ったげるから!」

 

 

 

 

 

 

 

うん黄羽ちゃん。とりあえずお口の周りの生クリーム落としてきてくれないかな。

 

余計わたしの心がブレイクしちゃうから。

ケーキが全て消え失せた現実がわたしに襲いかかってくるから。

 

 

 

 

 

 

 

「……まあ、はい。大丈夫っす。わたしが悪いんで」

 

 

 

 

 

 

 

少しくらい残しておいてくれてるよね?なんて甘い考えは通用しなかった。

現実はホイップクリームみたいに甘くはなかった。

 

 

 

むしろマスターが創造するコーヒー並の破壊力を持ったモノだったよ。

 

 

 

 

 

 

 

「……そしたらさ、パンケーキ作ったげるから!ね?」

 

 

 

 

 

 

 

……しょうがない子だ、美空たんは!

 

 

 

それで我慢しといてやるか、うんうん。

 

 

 

 

 

 

 

「そういやさ、戦兎ねえいきなり出てったけどどったの?」

 

 

 

 

 

 

 

あー……そういやケーキの話で忘れてた。

帰ってきてそうそうスイーツタイム終了のお知らせの悲報を聞かされたしね。

 

 

 

 

 

 

 

……まあでも。この子たちを巻き込む事じゃない。

 

わざわざ話して不安にさせる必要も無いし。

ただでさえ黄羽ちゃんは色々あったし。

 

 

 

 

 

 

 

「ただの知り合い!まあ……嫌いなやつから、かな」

 

 

 

「んんん!だから嫌がってたのかあ!そかそか――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――そーいやさ。黄羽ちゃんってどんなやつに襲われたのか覚えてる?」

 

 

 

 

 

 

 

生クリームとメイプルシロップがたっぷりのパンケーキを堪能しつつ、例の件を。

 

ちなみに美空と黄羽ちゃんはもう食べられないらしく、わたしだけ頂いている感じ。

どんだけケーキ食べたんだこの子ら。

 

 

 

 

 

 

 

「んんん……カシラに似た感じの人だったなー。それになんだかとっても冷たい雰囲気が出てた!」

 

 

 

 

 

 

 

一海に似た人?

もしかして一海に擬態してた……とかなのかな。

 

 

 

いやでもスタークが言うには確か、見分けがつかないほど完璧に擬態が出来るはず。

 

そうなると似てるっていうのはおかしいよね。

つまり……単なる偶然なのかな。

 

 

 

 

 

 

 

「あたしをもう一度襲いにきたのもその人だったし、間違いないよ」

 

 

 

「本当にまた来たの!?」

 

 

 

 

 

 

 

確かスタークに助言されて、あのスマッシュが黄羽ちゃんをまた襲いにくるかもしれないと一海に言ったって万丈はわたしに言ってた。

 

万丈の話、意味不明過ぎる所が多くてよくわかんない事だらけだったけど。

 

 

 

 

 

 

それは今はいいとして、万丈はあくまであの場を凌ぐために言っただけだったのに……

本当に襲いに来てたのか。

 

 

 

通りで一海があんなに慎重になったわけだよ。

 

 

 

 

 

 

 

「んんん!でもへーきだよっ!……ちょっと怖かったけど」

 

 

 

 

 

 

 

まだ16歳の女の子からしたらそりゃあ怖いなんてモノじゃないだろう。

ただでさえいきなり襲われて怖かったろうに、更に追い打ちをかけるようにその後も同じ人物から殺されかけたんだ。

 

 

 

トラウマになって怯え震えてもおかしくない。

 

 

 

それにしてもよく気付いてくれたよ。

北都の兵士も中々――

 

 

 

 

 

 

 

「スタークさんっていう人が助けてくれたんだよ!」

 

 

 

「見た目や雰囲気は最初怖かったんだけど、でも実はとっても良い人だったんだあ!」

 

 

 

「まあカシラには勝てないけど……ちょっとかっこよかったな」

 

 

 

 

 

 

 

……ん?

 

今この子……スタークって言わなかった?

しかも見た目や雰囲気が怖いって……

 

 

 

いや。いやいや、まさかそんなはずは……

 

 

 

 

 

 

 

「ねえ黄羽っち、スタークって――」

 

 

 

「しかもね、リンゴ剥いてくれたんだけどさあ。めっちゃ下手っぴなの!笑っちゃったよお」

 

 

 

 

 

 

 

姿を見た事無い美空も名前で気付いたみたいだ。

そりゃそうか。そんな名前の人が日本に、しかも身近に数多く居るわけがない。

 

 

 

いやでも……さすがにあいつなわけ……

 

 

 

 

 

 

 

 

……とゆーか待って。リンゴ?

 

 

 

どういう事。リンゴって何。

リンゴ剥いてくれたとか言ってなかったかこの子。

 

 

 

 

 

 

 

「でね、他にも――」

 

 

 

「ちょっと待って!黄羽ちゃん、そのスタークって……どういう見た目の人だった?」

 

 

 

 

 

 

 

なんだか楽しそうに話してる黄羽ちゃんを見てると、やっぱりあの狂った蛇ではないと思うけど……

 

 

 

それにリンゴ剥いてくれたって。

あの蛇がそんな事してんの想像出来るわけないし。

 

 

 

 

 

 

 

まさかわたしがよく知ってる方のあのスタークじゃないよねー。

多分海外から日本に移住してきたちょいワルイケメン兵士みたいな――

 

 

 

 

 

 

 

「えっ?んーとね……身体が真っ赤っかで、カシラや戦兎ねえの仮面ライダーみたいな感じ!」

 

 

 

「それとねー……蛇!蛇みたいな人!」

 

 

 

 

 

 

 

身体が真っ赤で仮面ライダーみたいな。

そして更に蛇みたいなやつ……

 

 

 

 

 

 

 

あー。間違いないなこれ。

そいつわたしが知ってるスタークだわ。

間違いなくあの鮮血の蛇だわ。

 

どう考えてもちょいワルじゃなくて最悪の方だわ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかしなぜ……?

なんで黄羽ちゃんを助けたんだ、あいつ……

 

 

 

わたしに色々と寄越してくるのはまだバランスだのなんだのとふざけた理由でもわかるけど……

なんで黄羽ちゃんを……?

 

 

 

 

 

 

 

「そいつ……助けてくれた時に何か言ってた?」

 

 

 

 

 

 

 

黄羽ちゃんが連中にとって死んでしまっては困る存在、っていう事?

スタークやファウストにとって黄羽ちゃんは何か鍵を握る人物って事?

 

まさかあの連中が意味も無く誰かを助けるなんてしないだろうし。

 

 

 

その対極に存在する連中だしなあ……

 

 

 

 

 

 

 

「んー……怖かったね、って。もう大丈夫だよ、って。俺が着いてるから安心しろ、って。そんな感じだったと思う」

 

 

 

「ほんとにすっごい優しかったんだよー!カシラたちが帰ってくるまでずっとお喋りに付き合ってくれたし!」

 

 

 

 

 

 

 

……余計に謎が深まったんですけど。

 

 

 

うーん……なんだろ。

あいつは何がしたかったんだ……?

 

 

 

 

 

 

 

……やっぱりあいつらにとって、黄羽ちゃんが何か重要な存在だからなのかな。

 

 

 

でも聞いている感じだと初対面みたいだし。

元々一海たちと一緒に暮らしてたって聞いてるし、ファウストとの接点はないはず……

 

 

 

もしかして黄羽ちゃんのスマッシュと何か関係があるとか?

 

 

 

 

 

 

 

……どちらにしろ、これ以上接触させるわけにはいかない。

 

 

 

 

 

 

 

「だから今度ね、スタークさんにも言ったんだけど!戦兎ねえやみーちゃんにも――」

 

 

 

「黄羽ちゃん!そいつは……スタークは、悪いやつなんだよ」

 

 

 

 

 

 

 

なんだかスタークを気に入っちゃってるみたいだけど、あいつはそんな良いやつじゃない。

黄羽ちゃんみたいな女の子が関わっていい存在じゃない。

 

 

 

あれは……悪を具現化したようなモノだ。

 

 

 

 

 

 

 

「スタークはね、黄羽ちゃん。ファウストっていう……世界を混沌とさせようとしている悪い連中の集まりなんだよ」

 

 

 

「しかもね。わたしや万丈も、あいつらに人体実験されたりしたの」

 

 

 

 

 

 

 

なぜ黄羽ちゃんを助けたのか、その真意はわからないけど。

きっとそれすらもあいつらが描く、録でも無い何かから外れないため。

 

 

 

もしかして北都と仲違いしている原因も黄羽ちゃんにあったのかな……

 

 

 

 

 

 

 

「な、なに言ってるの戦兎ねえ!スタークさん、とっても良い人だったよ?あたしの事助けてくれたし、すっごい優しかったし――」

 

 

 

「黄羽ちゃん、それがあいつらのやり方なの。もしかしたら黄羽ちゃんを取り込もうとしているのかもしれない」

 

 

 

 

 

 

 

「それにあいつらは万丈の彼女を……香澄さんを殺したんだよ」

 

 

 

 

 

 

 

香澄さんが死んでしまったあの日。

万丈が決意したあの日。

 

 

 

……香澄さんを死に追いやったのはローグだったけど。

 

 

 

 

 

 

 

でも、その組織の一員であるのは間違いない。

香澄さんを殺したローグが所属する組織に、あのスタークも属している。

 

 

 

しかも、かなり上の立場のモノだと思う。

 

 

 

 

 

 

 

そんな連中が、良いやつなわけがない。

あんなふざけた思想を持つやつが善良なわけがない。

 

 

 

人が簡単に死んでしまうような事を平然とゲームと称しやるような輩が、正義なわけがない。

 

 

 

 

 

 

 

「スタークさんが……万ちゃんの……?」

 

 

 

 

 

 

 

いつの間にか万丈は黄羽ちゃんとも仲良くなっていたのか。

まさか万ちゃんとは……それでいいのか団長。

 

 

 

 

 

 

 

そんな事はどうでもいいとして、黄羽ちゃんにはしっかりと理解しておいてもらわないと。

 

また接触してくる可能性は非常に高い。

あの狂気の蛇の事をそんな風に認識していたら大変な事になってしまう。

 

 

 

きっと……悲惨な結果になってしまう。

 

 

 

 

 

 

 

「助けてもらったのは事実なんだろうし、受け入れるのは難しいかもしれないけど……」

 

 

 

「あの蛇は、スタークは。わたしたちが考えてる以上に悪意に満ちたやつなんだよ」

 

 

 

 

 

 

 

もしかしたらそれがあのふざけた連中の狙いなのかもしれない。

わたしもあの蛇がもしかしたら良いやつなのかもしれないと思ってしまった事があるぐらいだし。

 

 

 

人心掌握に長けているんだろうな、あいつは。

 

 

 

 

 

 

 

……あの人類の敵は。

 

 

 

 

 

 

 

「おろおろしながらリンゴを剥いてくれたスタークさんが、あたしにはそんな人に思えないけど……」

 

 

 

「でも……うん、わかった……」

 

 

 

 

 

 

 

黄羽ちゃんの表情は未だに晴れないし、スタークの事をそんな風に思えないように感じられる。

 

 

 

でもこれ以上は……

この子がパンクしちゃうかもしれない。

ただでさえ色々な事があり過ぎていたんだし。

 

 

 

 

 

 

 

……わたしが気をつければいいか。

 

連中が接触出来ないようにわたしが気を張っていればいいだけ。

 

 

 

 

 

 

 

それに一海たちにも伝えなきゃ。

一海たちが帰ってくるまでスタークは居たみたいだし、もしかしたら黄羽ちゃんと同じような勘違いをしているかもしれない。

 

 

 

黄羽ちゃんの身が危ない、って事を真摯に伝えたらわかってくれるだろう。

特に一海は黄羽ちゃんの事をとても大切な存在だと思っているし。

 

 

 

わたしの事を問答無用で殺そうとしたぐらいだからね。

きっと黄羽ちゃんよりもわかってくれるはず。

 

 

 

 

 

 

 

「でも……そんな人には見えなかったんだけどなあ……」

 

 

 

 

 

 

 

不思議そうに思い出しているように見えるこの子は、やっぱり純粋だからなのだろう。

 

あの蛇の事さえも友達の事のように話してしまうんだから。

 

 

 

 

 

 

 

……それにしても。

 

 

 

 

 

 

 

「ちなみにさ……ぶっ……黄羽ちゃん。ぶふっ……リンゴって、どゆ事?」

 

 

 

 

 

 

 

想像したら吹き出してしまった。

 

あのいつも狂ってる蛇がリンゴ剥いてたって……

どういう状況なんだそれ。

 

 

 

全く似合わないんですけど。

ただのコントにしか見えないんですけど。

何やってんだあの狂った道化は……!

 

 

 

 

 

 

 

「へ?んんんー……お腹減っちゃってさ。近くにリンゴがいっぱいあったから、剥いてって」

 

 

 

「最初は嫌がってたけど、なんだかんだ剥いてくれたんだあ!途中からノリノリだったよ!」

 

 

 

「ぶふぉ!!だめだお腹痛い!ひゃあー!!!」

 

 

 

 

 

 

 

だめだ笑いが止まんねーんすけど。

面白過ぎるだろあの蛇。

 

 

 

ノリノリでリンゴ剥いてるスタークとかなんだよ。

お前そんな事してる暇があったのか。

 

ぜひ見たいわその姿……ぶふっ。

 

 

 

 

 

 

 

というか……あの蛇にリンゴ剥かせる黄羽ちゃんがすげーな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ひゃっひゃっひゃ!だめ、想像したら笑いが……」

 

 

 

「みーちゃん。戦兎ねえ、頭大丈夫かな?」

 

 

 

「うーん。まぁいつもおかしいからね、この姉は」

 

 

 

 

 

 

 

なんだかとてつもなくバカにされた気がしたけど、今のわたしはそれどころじゃない。

 

あのスタークが『リンゴ美味しいだろォ?ん?』って少女に言ってる姿がリピートされて止まらない。

 

 

 

 

 

 

 

だめだろ。破壊力あり過ぎだろ。

あれか?そういう感じなの?

あの角みたいな所にリンゴ刺して渡すの?

 

 

 

だめだっ。辛いっ。面白過ぎるっ。

 

 

 

 

 

 

 

「……『今回は上手に剥けたぞォ、おい?』」

 

 

 

「ちょっ、黄羽ちゃん!!真似っ、真似しないでっ……!」

 

 

 

 

 

 

 

ちょっ、ほんとにっ……無理だからっ。

あいつそんな事をっ……ぶふっ。

 

 

 

 

 

 

 

だめだ……次あいつに会ったら確実にリンゴが頭から離れない。

 

 

 

 

 

 

 

……逆にリンゴをネタにしてバカにしてやろうか。

 

いつも舐められてるし。

たまにはやり返してやらなきゃな。そうだそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『リンゴォ……リンゴォ……』」

 

 

 

「ぶっひゃっひゃっひゃ!黄羽、ちゃんっ!もう無理だからっ」

 

 

 

 

 

 

 

「『リンゴいかがっすかァ』」

 

 

 

「止めて美空っ!!なんで知らないのに……ひゃっひゃっひゃ――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――笑い過ぎた。腹痛ぇ。

 

 

 

いきなり始まった【どきどき!?第1回ものまね禁断の果実杯!】で、わたしのお腹は瀕死状態となってしまった。

盛り上がり過ぎた。面白過ぎたわ。

 

 

 

ついわたしもやっちゃったし。

『これがリンゴの現実だ、戦兎』は会心の出来だったと思う。

 

 

 

というか美空は知らないはずなのにクオリティ高過ぎるだろ。

『皮剥きィ……したァい……』はダメだった。あれは反則だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「とりあえずそれはいいとして、っと」

 

 

 

 

 

 

 

もう美空と黄羽ちゃんはおやすみタイム。

2人仲良く同じベッドで寝るらしい。

 

わたしも眠いけど、その前にnascita laboでちょっとある事を。

 

 

 

 

 

 

 

それにしても美空と黄羽ちゃんは本当にめちゃ仲良くなったみたいで、2人のお姉ちゃんとしては嬉しい限り。

 

 

 

 

 

 

 

……これが終わったらわたしもベッドに潜り込んでやろうかな。

 

なんか仲間外れみたいで寂しくなってきたぞ。

 

 

 

 

 

 

 

「……いやいや。そんな事考えてる場合じゃないっての」

 

 

 

 

 

 

 

さっきのものまね祭の余韻がまだ残っているからなのだろうか。

集中出来ないわたしがいる。いかんいかん。

 

 

 

 

 

 

 

これを調べないといけないからね。

あの……ぶふっ。スタークから渡されたUSBの中身を。ぶふぉっ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ふう。やっと少し落ち着いたかな。さて、と」

 

 

 

 

 

 

 

前と同じように愛用のパソコンにUSBメモリをセットして開くと、以前とは少し違う画面が出てきた。

 

 

 

 

 

 

 

今回のは真っ黒の背景に、パスワードを打ち込む所が出ているのみ。

なんだか禍々しい感じがする。

 

 

 

 

 

 

 

「さーてと。まずは何回ミスれんのか解析すっか――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――やっぱり。全く同じ。

 

 

 

結果から言うと以前と全く同じ。

正しいパスワードを入力しない限り開く事は出来ないし、3回間違えたら即終了のくそ仕様。

 

 

 

……いる?このセキュリティ?

 

 

 

 

 

 

 

渡すぐらいだったらパスワード外せっつーんだよ……

 

 

 

 

 

 

 

「確か……Pericoloと世界で最も使われている言語、だったかね」

 

 

 

 

 

 

 

あのリンゴみたいに赤い蛇が言っていた、この錠を開けるための鍵に繋がる2つのヒント。

 

 

 

まあそのヒントの言葉の意味自体は簡単だけど……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Pericolo。

これはイタリア語で危険や危機、危険有害性って意味を現すモノ。

 

簡単に言えばとても物騒な言葉だ。

 

 

 

 

 

 

 

そして世界で最も使われている言語。

これは英語で間違いないだろう。

 

中国語も可能性としては高いけどね。

でも世界全体で使用されている言語となれば、まず間違いなく英語だろう。

 

 

 

世界共通言語として頭1つ飛び抜けてるだろうし。

 

 

 

 

 

 

 

Pericolo……危険、危機。そして英語。

簡単に考えればPericoloを英訳しろ、って事なのだろうけど……

 

 

 

 

 

 

 

……Hazard、でいいのかね。

 

これまた物騒な言葉だなあ。

 

 

 

 

 

 

 

そういやあの蛇、力がどうとか言ってたな。

もしや危険が伴う力、って言いたかったのかね。

 

 

 

いやでも闇に呑まれるなよって言ってたし……

 

 

 

 

 

 

 

……もしかしたら録でも無いモノなのかもしれない。

 

 

 

でも今のわたしには……

必要な力だという事も間違いない。

 

 

 

 

 

 

 

どちらにしろ、わたしがしっかりとすればいいだけの話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それ以前に……正解かどうかもわからんけど」

 

 

 

 

 

 

 

そもそも間違えてる可能性だってあるしね。

 

 

 

わざわざこんなバカみたいなセキュリティにしてるんだし、前みたいに簡単にいくなんて事は――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――これもう最初からパスワード外せよ」

 

 

 

 

 

 

 

うん。やっぱり正解だった。

普通に一発クリアでした。

 

 

 

こんなのもうパスワード要らないじゃん。

何これ?誰がセキュってんのコレ?

暇なの?やる事ないの?

 

 

 

 

 

 

 

……まあわたしとしては有難いけども。

 

 

 

 

 

 

 

「……えーっと、なになに?」

 

 

 

 

 

 

 

このセキュリティを創ったやつにかなり呆れながらも画面に注目すると。

 

 

 

そこにはわたしが今まで考えつかなかったモノが記されていた。

 

 

 

 

 

 

 

新たなるわたしの力になるであろうモノ。

その概要と、設計図。

 

 

 

それは恐らく、ほとんどの人間が理解出来ないシロモノ。

 

 

 

 

 

 

 

……わたしには手に取るように理解が出来るシロモノだった。

 

 

 

 

 

 

 

この時、わたしはまだ知らなかった。

 

わたしを更なる高みへと誘う新しい力が手に入る喜びと、科学を追求する者としての好奇心が、その黒い影を見えなくさせていたからなのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

この力を……Hazardの名を冠すこの力の意味を知ろうともせずに。

 

 

 

わたしはただ、目の前に広がるその狂おしいまでに魅力的な存在に。

 

 

 

ただただ、胸高鳴っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふんふん……なるほど……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……【ハザードトリガー】か」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……To be continued

 

 

 








戦兎「はい!戦兎さんいっきまーす!」


戦兎「……『憐れなリンゴ』」

戦兎「『そして愚かなリンゴよ』」

黄羽「あはははは!似てるー!そっくりっ!!」



美空「私も負けないしぃ!う"ぅんっ」


美空「『あァ?皮剥きは俺の十八番だぜェ?』」

戦兎「ぶっふぉぉ!!!!」

黄羽「ひーっ!あひゃひゃひゃひゃ!!」



黄羽「んんん!あたしもまだまだ!」


黄羽「『お嬢さん。リンゴと俺、どっちが好きだ?』」

戦兎「イケメンっっ!!ぶっひゃっひゃっひゃ!」

美空「かっこよすぎるっ!!あはははは!」







惣一「へっくしゅ!」

惣一「ずずっ……なんだ。風邪引いたかな」



戦兎・美空・黄羽「「「あははははは!」」」


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