Masked Rider EVOL 黒の宙   作:湧者ぽこヒコ

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一樹「……何でしょう」

スターク『いやお前無口だなァと思ってよ』

スターク『やる事ない時何してんの?』

一樹「基本的に読書をしています』

一樹「最近はル〇ーのエ〇ールとか読んでますよ」

スターク『あのやたら難しい文章のやつか』

一樹「そんな事ないですよ。とても面白いです」

スターク『へェ。どんな感じなんだ?』

一樹「教育論としての彼の考えは――」



―3時間経過―


一樹「――であるからして、彼は当時の教育の在り方を皮肉ったわけで――」



スターク『兄弟って……似るんだなやっぱり』




phase,54 現実と真実と虚実と珈琲

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……本当は見せるかどうか悩んだんだけどね」

 

 

 

 

 

 

 

わたしの脳が固まってしまう。

目の前の映像を理解する事を拒否するかのように。

受け入れ難い衝撃に、身体が防衛反応を起こすかのように。

 

 

 

 

 

 

 

紗羽嬢が見せてきた映像には、万丈が先導して破壊活動を行っているモノが映し出されていた。

腰には……あのビルドドライバーが巻かれている。

 

 

 

周りにいる機械兵はあの難波重工のガーディアンだろう。

万丈が何を喋っているのかは聞き取れないが、恐らく周囲を破壊するための指示を飛ばしているんだと思う。

 

 

 

 

 

 

 

「それともう1つ……これも」

 

 

 

 

 

 

 

わたしたちが絶句している所に、あの有能で艶やかな彼女は更に追い討ちをかけるように、とある映像を見せてきた。

 

それも、拒否反応を起こしてしまうようなモノ。

 

 

 

 

 

 

 

「嘘だよ……万丈がこんな……」

 

 

 

 

 

 

 

美空もわたしと同じ感情なのだろう。

目の前に映し出されていたのは。

 

 

 

万丈の護れる力、仮面ライダークローズが。

民間人がいる場所に襲いかかろうとしている所が鮮明に映し出されていた。

 

 

 

恐らく美空も話の流れで、この蒼き焔の戦士が万丈だと察したのだろう。

わたしたちが知らない、人々を襲う万丈だと。

 

 

 

 

 

 

 

「正直信じたくはないし、本当に見せるのもやめようと思ったんだけど……でもやっぱり真実を伝えなきゃと思って」

 

 

 

 

 

 

 

紗羽嬢が持ってきた映像だ。

間違いはないはずだろう。

 

 

 

 

 

 

 

……でも、万丈がこんな事をするとは思えない。

 

しかもわたしの耳に入ってきた情報の中に、仮面ライダーが襲撃してきたなんてモノは無かった。

 

もしそんな事があれば、いの一番にわたしに連絡が入るはずだし……

 

 

 

なぜ情報が入らなかったのかは後で泰山首相に確認してみるとして。

 

 

もし本当に仮面ライダークローズが街を襲撃していたとしても、多分万丈じゃない。そんなはずはない。

 

 

 

 

 

 

 

……北都のスマッシュ、姿形を変えるスマッシュか。

 

 

 

 

 

 

 

「……ちなみに紗羽嬢、この映像っていつのものかわかる?」

 

 

 

 

 

 

 

もしわたしと一海が戦っていた所を万丈が止めにきた時間と被っているなら、間違いなく万丈は犯人じゃない。

 

そうなると……やったのはあのスマッシュだろう。

 

 

 

 

 

 

 

……大粒の雨が降っている所を見ると、多分昨日なのは間違いないと思うけど。

 

 

 

 

 

 

 

「昨日の話よ。確か……朝8時頃とかじゃなかったかな」

 

 

 

 

 

 

 

やっぱり昨日なのは間違いないか。

だとしても……8時となるとまだ万丈がわたしたちの元へと駆けつける前。

 

 

 

 

 

 

 

……そうだとしても、万丈はスタークと会って話したと言ってた。

 

そこから真っ直ぐに向かってきた事を考えると、やっぱりこんな破壊活動してる余裕は無いはず。

 

 

 

それに万丈が絶対にこんな事するはずないもん。

 

 

 

 

 

 

 

 

「紗羽嬢、多分これ例の北都のスマッシュだよ……なぜ万丈に擬態してこんな事をしていたのかはわからないけど」

 

 

 

「万丈がこんな事するはずないし、時間的にも少しおかしいもん」

 

 

 

 

 

 

 

絶対に不可能ってわけじゃないけど……

それでも助けにくる最中に、わざわざ人々を襲うなんて考えられない。

 

 

 

あの万丈がそんなサイコパス野郎には見えないし……

 

 

 

 

 

 

 

「う、うん、そうよね。あの万丈君が……それに時間的におかしいなら戦兎ちゃんがいうスマッシュの――」

 

 

 

「んんん。でもそーするとおかしいよ?」

 

 

 

 

 

 

 

わたしたちが少し安堵のような雰囲気を恐らく出していただろうその時、その例のスマッシュに襲われた黄羽ちゃんがゆっくりと口を開いた。

 

何かを思い出すように、珍しく難しい顔をしながら。

 

 

 

 

 

 

 

「黄羽っち、何か変な所あった……?」

 

 

 

「うん。あたしの病室にね、目覚めたらすぐに目の入る位置に壁掛け時計があったの。それでたまたま覚えてたんだけど……」

 

 

 

 

 

 

 

「あの身体を変えるスマッシュの人があたしを殺しに来た時の時間って、確か8時過ぎ頃だったと思う」

 

 

 

 

 

 

 

黄羽ちゃんが思い出すように呟いたその言葉を、まるで脳が処理する事を拒んでいるかのようだった。

 

その言葉はわたしの考えを打ち砕くモノ。

わたしがそうであってほしいと望んでいたモノを崩していくモノ。

 

 

 

その事実のせいでわたしの中の何かが脆くなり、消えていくような気がした。

 

 

 

 

 

 

 

「ちょ、ちょっと待って黄羽ちゃん……勘違いとかしてない?」

 

 

 

 

 

 

 

何かに縋りつきたくなる。

あの弟が……あのバカな万丈が。

 

 

 

一緒に強くなろうと誓ったあの男が。

一緒に護ろうと約束したあの弟が。

 

 

 

 

 

 

 

そんなふざけた事を……

罪の無い人を傷付けるなんて絶対に……

 

 

 

 

 

 

 

「んんん、間違いないよ。あたしも万ちゃんがそんな事するなんて信じられないけど……でも、間違いない」

 

 

 

 

 

 

 

まさか……本当に万丈が……?

 

 

 

いやでも万丈に限ってそんな事するはずは……

 

あいつは口が悪いし見た目もヤンキーみたいだけど。

でもあの弟は、本当は凄い優しい心の持ち主だ。

 

 

 

だからきっと何かの間違いなはずだよ。

 

 

 

 

 

 

 

「黄羽ちゃん……嫌な事思い出させちゃって本当にごめんなんだけど、2回目に襲いかかってきたやつって、本当にその最初のスマッシュだった?」

 

 

 

 

 

 

 

本当はこんな事聞きたくない。

襲われた張本人が見間違えるはずがない。

 

 

 

でもわたしの中の万丈を信じるわたしが。

大切な弟である万丈を疑えないわたしが。

 

きっと何かの間違いだと警鐘を鳴らしてやまない。

 

 

 

 

 

 

 

「間違いないよ。絶対に見間違えてない」

 

 

 

 

 

 

 

「あの人は……あのカシラに似た人は。間違いなくビルドに姿を変えてあたしを襲ってきた人だった」

 

 

 

 

 

 

 

最後の砦が儚くも崩れ落ちていく。

そうでありますように、そう想い続けたわたしが砂となり消えていく。

 

 

 

もう……彼が犯したとしか考えられない事実が出揃ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

「……本当に、万丈が……」

 

 

 

「でも戦兎!あの万丈に限って……そんな事……」

 

 

 

 

 

 

 

万丈に対しての信頼が崩れていくわたしに。

なんとかそれを支えようとしてくれる美空の表情も、とても険しいモノだった。

 

 

 

 

 

 

 

……それにわたしは、万丈の事を本当に深い所までは知らない。

 

 

 

万丈の事を、わたしの中で勝手にそういうやつだと決めつけていたのかな……

 

 

 

 

 

 

 

「実はね戦兎ちゃん、万丈君はもしかしたら……本当に無理やりじゃなくて、自分の意思で北都に居るのかもしれないの」

 

 

 

「……どういう事?」

 

 

 

 

 

 

 

万丈が本当に自分の意思で?無理やりじゃなくて?

 

だってあいつは何か弱味を握られて北都に忠誠を誓ってるんじゃ……

 

 

 

確かスタークもそんな事を言ってたし、間違いないはずじゃ――

 

 

 

 

 

 

 

「北都はね、ネビュラガスを応用する事によって、スマッシュとして死者を蘇らす研究をしているらしいの……眉唾過ぎて信じていなかったんだけど」

 

 

 

「どうやらその話が本当みたいでね。それで……多分、万丈君は……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【万丈にはな……北都に忠誠を誓ったある理由がある。家族を救いたければそいつを探せ。ヒントは“桜の樹”と“大切なモノ”だ】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

わたしの脳裏にあの時の事が鮮明に映し出される。

あの時あの蛇が、万丈を助け出すヒントを与えてきた事。

 

 

 

あの狂気の蛇が、わたしに渡してきた情報。

 

 

 

 

 

 

 

わたしの中で点と線が繋がる。

あの時のヒント。桜の樹、大切なモノ。

 

桜の樹はあの人の事だと思ってはいた。

でもそれは多分、桜の樹に、あの最愛の人に誓った事だと思っていた。

 

 

 

それは、強くなるという事。

そのために北都へ行き、強くなると決めたんだろうな、と思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

そして大切なモノ……

これはわたしたちの事だと思っていた。

 

 

 

何があったのかはわからないけど、きっと何かわたしたちのために北都に居るものだと思っていた。

だからわたしの窮地を救ってくれたりだとか……

 

 

 

 

 

 

でも、違う。全部違う。

 

答えは簡単だった。

あの蛇は最初から答えを言っていた。

 

 

 

桜の樹、大切なモノ。

こんな事は万丈を少しでも理解出来てたらすぐにわかったはず。

 

 

 

それはただ1つしかない。

あいつの中で何よりも大切で、唯一の存在。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あいつは香澄さんを……生き返らせるために……」

 

 

 

 

 

 

 

最初からわたしはずっと間違えていたんだ。

万丈が何か、無理やり従わなければならない何かががあるのだと。

本当は帰りたいのに、何か脅迫されているのだと。

 

 

 

でも違う、そうじゃなかった。

あいつは、自分の意思であの北の地に居たんだ。

 

全ては香澄さんのために。

己の全てを投げ売ってでも。

 

 

 

 

 

 

 

あの時にスタークが言ってた時間が無いっていうのは……今ならまだ間に合うぞ、って事だったのかな。

 

 

 

……なんでもっと早く気付けなかったんだ。

 

 

 

 

 

 

 

「で、でも!まさか死んだ人が生き返るなんて……そんな事絶対あるわけないし!!」

 

 

 

 

 

 

 

……確かに。美空の言う通り。

 

あまりの衝撃に我を忘れてたけど、そもそも一度死んだ人間が蘇るだなんて有り得るわけがない。

 

 

 

それは既に科学の範疇を超えている。

人間が出来る事の場から大きく外れてる。

 

そんな事……出来るはずがない。

今もこれから先も、そんな事は絶対に不可能だ。

 

 

 

 

 

 

 

という事は万丈は騙されてるって事か。

あいつバカだし、簡単に騙されそうだもんね。

 

 

 

きっと多分そうだ。

香澄さんを生き返らせるって嘘に騙されて……!

 

あいつ、香澄さんの事になったら周りが見えなくなっちゃうし――

 

 

 

 

 

 

 

 

「――私も全く信じていなかったんだけどね……どうやら、成功例があるらしいの」

 

 

 

 

 

 

 

「その人の名前は猿渡 一樹、北風第1師団 団長、猿渡 一海の弟さんよ……もう既に亡くなっているはずの」

 

 

 

 

 

 

 

一海の……弟……?

 

 

 

まさか……そんな、いや、そんなはずは……

 

 

 

 

 

 

 

「ここからは本当に噂なんだけど……どうやらその弟さんは現在、首相側近の暗殺者として仕えているみたい」

 

 

 

 

 

 

 

暗殺、者……

 

 

 

 

 

 

 

確か紗羽嬢は今、スマッシュとして死者を蘇らせると言ってた。

もしかして……あのスマッシュは……

 

 

 

 

 

 

 

「あたしを殺そうとしたのが……カシラの弟さんって事……?」

 

 

 

 

 

 

 

黄羽ちゃんがどんどん呆然となっていく。

だけどそれは黄羽ちゃんだけじゃない。

 

美空も……もちろん、わたしもだ。

 

 

 

 

 

 

 

「とある事故に巻き込まれて亡くなったらしくてね……これが生前の写真よ」

 

 

 

 

 

 

 

紗羽嬢が見せてきたその写真には、確かに一海とそっくりな若い男が写っていた。

 

一海に比べると幼く。

そしてとても優しそうに笑う、感情が豊かそうな男の人だった。

 

 

 

 

 

 

 

間違いなく、一海の弟なのだろう。

笑った顔がまるで一緒だ。

 

 

 

 

 

 

 

「この人……この人だよ!あたしを襲ったの!!もっと冷たい感じがしたけど……間違いないよ!!」

 

 

 

 

 

 

 

まさか……そんな事があるのか。

一度命の灯火が消えてしまった者が、もう一度その蝋燭に火を灯すなど。

 

死んだ人間が、もう一度この世に生を現すなど。

そんな、まさかそんな事が……

 

 

 

そんな……そんなふざけた事が有り得るの……?

 

 

 

 

 

 

 

「私もまさかとは思ったけど……現実に起きている事なの。北都は死者を、蘇らせているわ」

 

 

 

 

 

 

 

……非現実的過ぎて未だに信じられないけど。

 

もし、もしそんな事が出来てしまうのなら全てが繋がってしまう。

 

 

 

万丈が北都に忠誠を誓う理由。

万丈がわたしたちと道を違える理由。

万丈が罪無き人々を襲う理由。

 

そして一海が……

 

 

 

北都の戦士として、わたしたちに立ちはだかった理由。

 

 

 

恐らく一海もこの弟さんの事が理由で戦士としているんだろう。

あいつからは……なんだか悲しいモノを感じたし。

 

 

 

 

 

 

 

「そう言えば忘れちゃってたんだけど、カシラに弟さんが居るって昔聞いた事ある……」

 

 

 

「猿渡ファームに昔から居る人でさ、カシラをちっちゃい頃から知ってる人なんだけどね。その人が言うには、事情があって弟さんとむかーしに離れ離れで暮らす事になったんだって」

 

 

 

「この話はタブーだったから、知ってる人はみんな絶対話にしなかったけど……」

 

 

 

 

 

 

 

いよいよ現実味を帯びてきてしまった。

 

本当に一海に弟が居たという真実。

黄羽ちゃんが言うのだから……間違いはないのだろう。

 

 

 

という事はやっぱり、本当に北都は……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……でも。やっぱりそうであろうと、万丈が誰かを襲うだなんて信じたくない。

 

仮に北都が死者を蘇らせる技術があったとしても、万丈がそのために誰かを傷付けるだなんて信じたくない。

 

 

 

それにもし蘇ったとしてもスマッシュだなんて……

あの悲劇を目の当たりにした万丈が、そんな事を選択するだなんて思えないもん。

 

 

 

というかその一海の弟だっていう人も……スマッシュが化けている可能性だってある。

むしろそっちの方が可能性は高いはず。

 

死者を蘇らせるなど、あるはずかない。

あっていいはずかない。

 

 

 

 

 

 

 

それにそもそもわたしに、仮面ライダーが襲撃してきたっていう連絡が入ってこないのはおかしいし。

 

 

 

……泰山首相に確認しなくては。

 

今からまた首相官邸に行って、泰山首相に話を聞いてみなきゃ。

 

 

 

 

 

 

 

やっぱりわたしは……あいつを信じたいから。

 

 

 

 

 

 

 

「……色々あり過ぎて脳が大変な事になってるけど。とりあえずちょっと泰山首相の所に行ってくるよ」

 

 

 

「紗羽嬢。わたしが帰ってくるまで美空と黄羽ちゃんをよろしく頼めるかな」

 

 

 

 

 

 

 

信じたくない。あの弟が。

いくら香澄さんのためだったとしても……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【ふざけんな!!これ以上の人生があってたまるかよ!……俺は……お前に、小倉 香澄という存在に出逢えて……最高に幸せだった……!!!】

 

 

 

 

 

 

 

 

【待てよ!行くな!!約束しただろ!?また、一緒に桜を見ようって!!なぁ!!香澄!!!逝くな!!!】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの時の光景が脳裏から離れない。

香澄さんが消えゆく、あの瞬間。

 

 

 

万丈……お前は――

 

 

 

 

 

 

 

「任せて。私が責任をもって2人を護るわ……それに、ごめんなさい」

 

 

 

「本当は……こんなモノ……」

 

 

 

 

 

 

 

紗羽嬢が悪いわけじゃない。

むしろ真実を……正しいモノを運んでくれる。

 

 

 

わたしたちのために。

東都の平和のために。

 

彼女は身を粉にして情報を持ってきてくれる。

その行為には感謝しかない。

 

 

 

……紗羽嬢も辛いだろうに。

 

 

 

 

 

 

 

「ううん!本当に紗羽嬢には感謝してる。いつもありがとっ!」

 

 

 

「……そしたら、行ってきます」

 

 

 

 

 

 

 

なぜ野兎にその情報が入って来なかったのか。

なぜわたしにその情報が入って来なかったのか。

本当にただその情報が得られていなかっただけなのか。

 

 

 

それとも内部に裏切り者が居るのか。

それか……本当に何かの間違いだった、とか。

 

 

 

 

 

 

 

どちらにしろ、早く話をしなきゃ――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――すまない、話さない方がいいと思ってね」

 

 

 

 

 

 

 

……おいおい。まさかそういう事か。

 

さすがにそんな事は想像してなかったよ。

 

 

 

 

 

 

 

わたしが超特急で首相官邸に赴き事を伝えると、いつも通りに首相室へと通された。

暇なのかな、泰山首相。

 

 

 

そんな事はともかくとして、どうやら仮面ライダークローズ……万丈が襲撃してきていた事はわかっていたらしい。

 

しかし万丈がわたしの親密な人間だという事、それにその襲撃で重傷者が出なかった事からわたしには連絡がいかなかったらしい。

 

 

 

 

それに北風第1師団……一海が侵攻してきているという事が一番の理由だったみたいだ。

 

 

 

確かに前もって泰山首相に万丈の事を話してたし……

気遣ってくれたってわけね。

 

 

 

 

 

 

 

「それに第1師団の件の後に、万丈氏が貴女を背負いながらここへと来たという事もあって……何かの間違いだったか、あるいは戦兎さんとの間で何か解決されたものと思ってね」

 

 

 

「変に戦兎さんたちを惑わすような事を言ってはならない、と思ったんだよ」

 

 

 

 

 

 

 

確かに……言われてみればそうだ。

万丈におんぶされてるわたしに異様なまでに物凄い勢いで詰め寄ってきた兵士たち。

 

あの時は、敵の団長におんぶされてる自軍の総隊長っていう光景が意味不明過ぎて話かけてきてたんだと思ってたけど……

 

 

 

あれはそういう事だったのね。

わたしも心配無いから大丈夫ってあしらってたし……

 

余計にそういう風になってしまってた、って事か。

 

 

 

 

 

 

 

「……じゃあ本当に、万丈が……クローズが襲撃してきたんですね」

 

 

 

 

 

 

 

嘘であってほしかった事実。

何かの間違いであってほしかった現実。

 

 

 

 

 

 

 

「ああ……間違いない。重傷者や死傷者こそ出なかったが……何十人もの人々が傷付いた事には違いない」

 

 

 

 

 

 

 

万丈、お前は……

本当に。本当に香澄さんのために……

 

本当にわたしたちと決別したの……?

 

 

 

 

 

 

 

これだけの証拠。

これだけの事実を見せつけられても尚、わたしはあの弟がこんな事をするはずがないと思ってしまう。

 

 

 

あの北都のスマッシュの犯行と信じたくても、物理的に不可能。

……未だに信じられないけど、北都の死者を蘇らせるという技術。

 

 

 

そして、万丈の最愛の人。

もう既にこの世と切り離された存在。

 

 

 

万丈の大切なモノ、香澄さん。

 

 

 

 

 

 

 

でも、わたしは……

 

 

 

 

 

 

 

「……泰山首相、ありがとうございました。今後はこういった気遣いは無用です。何かあったら、すぐに連絡を」

 

 

 

「わかった。これからはそうしよう……すまないね、戦兎さん」

 

 

 

 

 

 

 

この人はわたしの事を想ってくれただけ。

長として、1人の民を護ろうとしたのかもしれない。

 

それはきっと、素晴らしい事。

 

 

 

 

 

 

 

わたしは、でも……

やっぱり万丈がそんなやつだなんて思いたくない。

 

 

 

思いたくはない、けど……

 

万丈がやったであろう証拠が数々と押し寄せてくる。

その動機も……納得出来てしまうモノ。

 

 

 

わたしは、何を……

一体……何を信じれば――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――首相官邸からの帰り道。本当はみんなが心配してるから真っ直ぐ帰らないといけないけど、気分的に少し、雨に当たっていたい。

 

 

 

わたしが色々と辛く苦しい時によく来る公園。

ここは人も少なく、1人になりたい時にはベストマッチな場所。

 

この場所は……

マスターとの思い出の場所でもあるな。

 

 

 

 

 

 

 

雨に打たれながら想う。

やっぱり雨は嫌いだな、と。

 

わたしの汚いモノを残して、全てを流していく気がするから。

 

それに……冷たい。

 

 

 

 

 

 

でも……なんだか今日は雨に当たっていたい。

 

処理出来ない現実を。

受け止め切れない事実を。

 

 

 

全て流してくれそうな気がするから。

 

 

 

 

 

 

 

わたしは……どうすればいいのかな……

 

 

 

 

 

 

 

会いたいよ……マスター……

そろそろわたし、本当に無理そうかも。

 

 

 

信じていたモノが崩れそうになって、わたしは一体どうすればいいのかが全くわからない。

 

あの大切な弟が何を考えているのかが、全くわからない。

 

 

 

わたしの愛すべき大切な存在が。

一体何をしたいのかがわからないよ。

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……早く会いに来ないと浮気しちゃうぞ……」

 

 

 

 

 

 

 

大好きで大好きで何よりも愛しい。

あの、だらしがない最愛に想いを馳せる。

 

 

 

へこんだ時。悲しい時。

辛い時。苦しい時。

 

もうわたしの許容できるモノから溢れ出しそうな時。

 

 

 

貴方はわたしに優しく微笑んでくれた。

貴方はわたしを暖かく包んでくれた。

 

 

 

 

 

 

 

でも……今は居ない。

貴方はわたしを、包んでくれない。

 

 

 

もう……辛いよ……

貴方が居ないと無理だよ……

 

 

 

 

 

 

 

「ますたぁ……もう、やだ……」

 

 

 

 

 

 

 

辛い雫がとめどなく溢れる。

わたしの目から大量に創造されていく。

 

でもそれは雨のおかげで、涙なのか天からの雫なのかわからなくしてくれる。

 

 

 

わたしはそんな天というモノが、なんだかとても優しい存在に思えた。

 

 

 

 

 

 

 

でも、あの人には勝てない。

わたしの愛するあの人には。

 

 

 

 

 

 

 

「まー……隣に居てくれないけどね……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その時、わたしの名を呼ぶような気がした。

 

もしかしたら空耳かもしれない。

想うがあまり、幻聴が聞こえてしまったのかもしれない。

 

 

 

でも、あの愛おしい声で呼ばれた気がしたんだ。

 

 

 

 

 

 

 

「……ふふふ。わたしってどーしよーもねーな」

 

 

 

 

 

 

 

まさか幻聴が聞こえてしまうほどの重症だったとは。

恋の病とは治す事が出来ない難病だな。

 

 

 

そう想うと、クシャッ、と笑ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

「……はあーあ!ほんとに違う人の事を――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい戦兎!こんなで所なーにやってんだ?」

 

 

 

 

 

 

 

その声は。

 

そのしっかりと聞こえた懐かしい声は。

そのわたしが大好きな暖かな声は。

 

 

 

確かにはっきりと、わたしの耳を貫いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「雨降ってんのに傘もささないで……ったく、相変わらずだな」

 

 

 

 

 

 

 

時が止まった気がした。

比喩じゃないと思う。本当に止まったと思う。

 

 

 

声のした方向に振り向く事が出来ない。

さっきよりも更に涙が溢れ出る。

 

まるで現実ではない何かに遭遇してしまったみたいに。

 

 

 

 

 

 

 

「ほら、何してんだ!……帰るぞ」

 

 

 

 

 

 

 

その人はいつも通りに。

 

以前と全く変わらない口調で。

以前と全く変わらない言葉を。

 

 

 

わたしに優しく、暖かく言の葉を投げかけてくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「嘘だよ……夢見てんのかな……」

 

 

 

 

 

 

 

脳が仕事をしてくれない。

今起きている出来事を理解する事が出来ない。

 

 

 

一番会いたかった人がすぐ傍にいる現実に、脳が追いつく事が出来ない。

 

 

 

 

 

 

 

頑張って声のした方を振り向くと、あの人がいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ……言い忘れてたわ」

 

 

 

 

 

 

 

わたしの一番大切な人。

わたしにとって、一番特別な人。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごめんな、帰ってくんの遅くなっちまった」

 

 

 

 

 

 

 

わたしが辛い時。

わたしが苦しい時。

 

 

わたしが本当にもう限界の時に、隣に居て欲しい人。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本当はもっと早く帰ってきたかったんだけどなー……まぁでも、やっとな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

涙で視界がぼやけてるけど、はっきりとわかる。

絶対に間違えるはずがない。

 

 

 

 

 

 

 

わたしの最愛の人を、わからないわけがない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま、戦兎」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……To be continued

 

 

 

 








美空「大丈夫かな、戦兎……」

黄羽「色々とびっくりしたもんね……」

紗羽「……大丈夫。戦兎ちゃんなら大丈夫よ」

美空「……そだね!お姉ちゃんだもん!」

紗羽「そうよ!だから私たちこそ明るくしないと!」

黄羽「んんん!そだね!」

黄羽「あたしたちが暗くなっちゃだめだねっ!」



紗羽「そうよ!だからね、黄羽ちゃん……♡」

黄羽「え?何?怖いよさーちゃん……?」

紗羽「んふふ……♡」

紗羽「鞄にいれておいて良かったわ……♡」

黄羽「えっ!?何するつもりっ!?」




黄羽「ちょっ、ちょっと!?」

黄羽「何すんの!?さーちゃん!?」

黄羽「やだあっ!!こんなの恥ずかしっ」

黄羽「ちょっとさーちゃん!?って、やめてっっ!!」



美空「なんだかこれ見覚えがあるような……」

紗羽「美空ちゃんの分もあるわよ♡」

美空「……え"っ」


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