Masked Rider EVOL 黒の宙   作:湧者ぽこヒコ

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黄羽「ねーねー戦兎ねえ!」

戦兎「んにゃ?どしたの?」

黄羽「一緒にdigdog撮ろうよー!」

戦兎「何それ」

黄羽「えっ!知らないのっ!?」

黄羽「今めっちゃ流行ってる動画アプリだよっ!」

黄羽「誰でも投稿出来るし、めっちゃ面白いの!」

戦兎「へ、へえー。そーなんだ」

黄羽「ほらほら!早く撮ろっ」





戦兎「おお……すっげえなこれ」

黄羽「でしょでしょ?結構楽しいでしょ?」

戦兎「確かに、うん。楽しいぞこれ」

黄羽「んんん!もっと撮ろ!」

美空「何やってんのー?」

黄羽「あ!みーちゃんも一緒に撮ろー!」

美空「え?……これdigdogじゃん」

美空「いやー……私は……」

戦兎「いーじゃん!撮ろーよ!」

黄羽「そうそう!早く早くー」

美空「えっえっ!?ちょっと――」





葛城忍「うーむ……やはり流行りはこれか」

惣一「何見てんだおっさん?」

葛城忍「今超バズってるモノだ。digdogだよ」

惣一「digdog?なんだそれ」

葛城忍「まぁ見てみろ、ほれ」

惣一「……何やってんだあいつら」

葛城忍「あっはっは。あの子たちもさすがだ」

葛城忍「私も負けてはいられんな」

惣一「……おっさんがこんなんやって誰が喜ぶんだよ」





戦兎・美空・黄羽「「「〜♪」」」




phase,55 せめてこの時だけは

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今一番……いや、わたしの中でずっと一番会いたかった人が居る。

 

いつもと変わらぬ表情で、声で、言葉で。

 

 

 

わたしを優しく包み込むように。

辛苦を、惨苦を、痛苦を。

 

全てを癒してくれるように、わたしの心を暖めてくれる。

 

 

 

 

 

 

 

「ますたぁ……遅いよ……」

 

 

 

 

 

 

 

本当はもっともっと伝えたい事がある。

本当はもっともっと言いたかった言葉がある。

 

でもマスターに会えた事が嬉しすぎて。

マスターが生きてた事に、本当に安心して。

 

 

 

わたしの脳が上手く仕事をしてくれない。

 

 

 

 

 

 

 

「……パティスリー鴻上のケーキ買ってきたからさ。これで許してくれよ、な?」

 

 

 

 

 

 

 

こんな状況にも関わらず、平常運転で店を開けているあの超人気店のケーキをわたしに見せつけてくるマスターの顔はどこか、子供っぽく感じた。

 

悪戯した事を怒られた子供のような。

そんな表情をするマスターも、わたしはたまらなく愛おしく思ってしまう。

 

 

 

 

 

 

 

「……しょーがないな。許したげる」

 

 

 

 

 

 

 

さっきまでどん底に居たわたしは、たった1人の男性によってなんだかとても晴れやかな気持ちになる。

 

この人さえ隣に居てくれたら何でも上手くいってしまうような。

そんな気持ちになるんだ。

 

 

 

 

 

 

 

「本当に遅くなってごめんな……ほら、一緒に帰ろう」

 

 

 

 

 

 

 

目の前に差し出されたマスターの手。

わたしの手より大きくて、でも凄く綺麗で。

 

まるでピアニストの手のようなマスターの手。

そんな手も、わたしは大好きなんだ。

 

 

 

 

 

 

 

「……身体中痛くて立てないなー。こりゃ自分で立つのは無理だなあー。あーあ。どーしよーかなー」

 

 

 

 

 

 

 

今までずっと居なかったんだから。

これぐらい甘えてもいいよね。

 

ずっとわたしの傍に居てくれなかったんだから。

ちょっとぐらいワガママ言ってもいーよね。

 

 

 

 

 

 

 

「ぷっ……はいはい。失礼しますよお嬢様、っと」

 

 

 

 

 

 

 

なぜか笑いを吹き出したマスターがわたしを抱き抱えて立ち上がらせてくれる。

わたしはマスターにぎゅっと抱き着いて。

 

 

 

久しぶりのこの感触。

久しぶりのこの暖かさ。

 

想いが、どんどん溢れていく。

 

 

 

 

 

 

 

「……どうした、戦兎?」

 

 

 

 

 

 

 

立ち上がっても尚離れないわたしに優しく問いかけてくれるマスター。

 

その音色のせいで、もっともっと溢れていく。

 

 

 

わたしの我慢していた想いが流水のように、流れ出していく。

 

 

 

 

 

 

 

「ずっと……ずっとずっと待ってたのに……ひっぐ、本当に遅過ぎるよ……どんだけ我慢してたと思ってんの……!」

 

 

 

 

 

 

 

マスターの暖かさがわたしに触れれば触れる程、想いがとめどなく流れていく。

 

まるで小さな子供みたいに。

大人なのに、その感情が止められない。

 

 

 

わたしの想いをマスターに伝えたくて、伝えたくて。

伝えなきゃいけない気がしてしまう。

 

 

 

 

 

 

 

「……寂しかったな。苦しかったな。辛かったな」

 

 

 

「本当によく頑張ってるよ、戦兎は」

 

 

 

 

 

 

 

ずっと言ってほしかった言葉。

マスターに言ってほしかった言の葉。

 

貴方にだけ、慰めてほしかった。

 

 

 

わたしの弱い部分がどんどん姿を現していく。

あれから誰にも見せないようにしてた、本当に弱いわたし。

 

 

 

 

 

 

 

「もう限界だったよお……本当に、もうボロボロだったんだからぁ……」

 

 

 

 

 

 

 

マスターの香りが、わたしの鼻先にふわっと漂う。

わたしが落ち着く、あの匂い。

 

芳ばしくて、心地良い刺激がする。

いつものあのコーヒーの香り。

 

わたしが大好きな、マスターの匂い。

 

 

 

その香りがボロボロのわたしを、少しずつ癒してくれる気がする。

 

 

 

 

 

 

 

「戦兎はすぐに無理するから……でももう大丈夫。お前が壊れる前にちゃんと帰ってきたろ?」

 

 

 

「……ちゃんと、俺が傍に居るから」

 

 

 

 

 

 

 

わたしはマスターの大丈夫って言葉が好き。

彼が大丈夫って言うと本当に何でも大丈夫な気がするから。

 

 

 

それに……マスターが傍に居てくれれば大丈夫。

どんなに辛くても、苦しくても大丈夫。

 

貴方の微笑んだ顔が見れれば、わたしは何でも出来る。

 

 

 

 

 

 

 

「……もう離れないで。離さないで。ずっとわたしたちの……わたしの傍に居てよ、マスター」

 

 

 

 

 

 

 

もう貴方が居ないなんて耐えられない。

離れ離れになって改めて気付いたよ、マスター。

 

わたしはやっぱり貴方が居ないとダメだ。

何をしようにも貴方の事を考えてしまう。

スタークの事ですら、貴方の面影を感じてしまう。

 

 

 

わたしはもう重症なの。

石動 惣一という名の病原菌に感染して、もう末期なんだよ。

 

もう治せないの。手の施しようがないの。

特効薬なんて無いんだから。

 

 

 

だから唯一のワクチンでもある貴方がわたしの傍に居てくれないと……

 

わたし、壊れちゃうんだよ……

 

 

 

 

 

 

 

「……ああ。これからはなるべくバイトが長引かないように頑張るよ」

 

 

 

「俺も……戦兎や美空たちの傍に居たいから」

 

 

 

 

 

 

 

……ちょっと不満だけど。

 

そこはわたしの傍に居たい、って言ってほしかったけど。

娘としてじゃなくて、1人の女として見てほしいけど。

 

 

 

でも今回は我慢してあげよう。

何せ……マスターが帰ってきてくれたから。

 

こうやって今、わたしの事を抱き締めてくれてるから。

 

 

 

きっと貴方はわたしの事をまだまだ娘としか思ってないんだろーけどさ。

わたしは今少しだけ、ほんのちょっぴり。

 

 

 

恋人気分になれてるから、許したげる。

 

 

 

 

 

 

 

「ばぁか……約束だから」

 

 

 

「バカってお前……ああ、約束だ。俺は何があっても戦兎たちの……戦兎の傍にちゃんと居るから」

 

 

 

 

 

 

 

心がどんどん豊かになっていく気がする。

 

荒野のようだった景色が、まるで綺麗な花々が咲き誇る楽園に変わっていくような。

 

 

 

そんな風にわたしの全てが、色鮮やかになっていく。

 

 

 

 

 

 

 

「……嘘ついたら浮気しちゃうから」

 

 

 

「ん?何か言ったか?どした?」

 

 

 

 

 

 

 

聞き取れないように、小さな小さな声で。

貴方の事が好き過ぎてたまらない事を、消え入りそうな声で。

 

 

 

 

 

 

 

貴方以外の誰かなんて見れないし。

考えもしないけど。全く興味も無いけど。

マスターだけしか愛せないけど。

 

 

 

でもあんまり放ったらかしにしてたら、戦兎さんどっかに行っちゃうかもしれないんだから。

 

だからどこにも行かないように、しっかりとわたしの手を握っててね。

 

 

 

 

 

 

 

「戦兎?何、どした?なんて言ったんだ?」

 

 

 

「いーの!何でもないから!ほら、とりあえず早く頭撫でて」

 

 

 

 

 

 

 

わたしのこの想いがいつ届くのかはわからない。

いつ叶うのかもわからない。

 

もしかしたら叶わぬ想いなのかもしれない。

 

 

 

でも。何年経っても、何十年経っても諦めない。

わたしは、この人だけを愛してるから。

 

この人以外の誰かなんて考えられないから。

 

 

 

 

 

 

 

……いつか、この戦いの全てに決着が着いたら。

 

 

 

その時に、わたしの想いを――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――幸せ♡」

 

 

 

「どした?さっきからなんか変だぞ?」

 

 

 

「なっ、何でもないよっ!ほら、みんな待ってるからそろそろ――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――あっ、戦兎!おかえ……って、お父さん!?」

 

 

 

 

 

 

 

久しぶりの我が家。何も変わらない雰囲気。

そして何も変わらないむす……め?

 

 

 

 

 

 

 

……おいおい、帰ってきて早々これかよ。

 

 

 

 

 

 

 

「嘘っ……お父さん、やっと帰ってきたの……?」

 

 

 

 

 

 

 

今にも泣き出しそう……というかもう既に号泣し始めてしまった可愛い可愛い我が娘。

 

やっぱり寂しかったよな。本当にごめん。

俺もずっと会いたかったよ。

 

 

 

 

 

 

 

……うーん。でも何だろうな、この感じ。

 

感動の再会なはずなんだけども……

 

 

 

 

 

 

 

「うわあああん!!会いたかったよおとーさあああん!!」

 

 

 

 

 

 

 

泣きながら猛烈な勢いで抱き着いてきた我が娘。

本当に可愛くてしょうがないし、申し訳なくて本当に心が痛いんだけど……

 

 

 

 

 

 

 

「み、美空……ごめんな、寂しかったな……た、ただいま」

 

 

 

 

 

 

なんだか微妙な感情に襲われながら周りを見ると、やはりあの女が居た。

 

そいつとは別に、もう1人の女の子。

この場所では見慣れない、あの凄まじかったあの子。

 

 

 

 

 

 

 

「んんん?みーちゃんのおとーさん?」

 

 

 

「初めまして!あたしは黄羽ってゆーの!よろしくお願いしますなんだよっ!」

 

 

 

 

 

 

 

まさかここにいるとは思わなかったわ……

またリンゴ剥く事になんのかな、俺。

 

 

 

 

 

 

 

「いや……あはは、どうもどうも。美空と戦兎と……あともう1人、バカな男の父です」

 

 

 

「石動 惣一、っていうんだ。よろしくね、黄羽ちゃん」

 

 

 

 

 

 

 

なんだか物凄く変な感じ。

そもそも初めましてじゃねえし。恐ろしい数のリンゴ剥かされたかんな、お前に。

 

 

 

 

 

 

 

 

いやそれよりも、だ。そんな場合じゃない。

可愛い娘や純粋な少女に変な事をしやがるあのオソロシイ女。

 

 

 

やはり貴様か……滝川ァァ!!!

 

 

 

 

 

 

 

「あら久しぶりですわね!Mr.石動?」

 

 

 

 

 

 

 

よくもいけしゃあしゃあと……

俺の娘とそこの少女に何やってんだお前は!!

 

 

 

 

 

 

 

「えっと……美空ちゃんと黄羽ちゃん。何かなー……その格好は……」

 

 

 

 

 

 

 

恐らくこの少女たちの様を見て固まっていたのであろうもう1人の我が娘が、やっと口を開いた。

 

なんだか憐れみの目になっている気がする。

やめてあげて。多分これ本人たちの意思じゃないから。

 

 

 

多分あそこで堂々としてる悪女のせいだから。

 

 

 

 

 

 

 

「へ?……ってあぎゃあああ!!忘れてたあ!!」

 

 

「んんん!!やだあ!!見ないでえっ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

自分たちの服装に気付いたのか、絶叫をあげながら顔を真っ赤にする2人の少女。

まるでどっかの蛇野郎みたいに赤いな。はっはっは。

 

 

 

 

 

 

 

しかしなんだ……この罪悪感に溢れる感じ。

 

今の俺は何もしてないのに、なんだか犯罪を犯してる気がする。

 

 

 

 

 

 

 

「どーお!?2人とも似合ってるでしょ!?」

 

 

 

「予備でもう1つ持ってたから良かったわぁ。黄羽ちゃんもさいっこーに似合ってるわよ!」

 

 

 

 

 

 

 

予備ってなんだ。何の予備なんだ。

一体お前は何のために予め備えていたんだ。

 

 

つーかこれ……本当にダメなやつだろ……

 

 

 

 

 

 

 

美空は……何これ。

髪の毛青いし……つうか露出し過ぎだろ。

 

というか俺の大切な娘に何やってんだてめえええ!!!

 

 

 

 

 

 

 

「美空ちゃんに施したのは発音メクっていうキャラクターのコスなの♡ものすっごいクオリティ高いわああ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

発音メクだか初音メカだか知らんけども。

お前は俺の娘にホント何やってんだ。

 

なんなんだこいつ。いい加減怒るぞ?

あれか、まず先にこいつから消した方がいいか。

 

 

 

本気出すぞ。本気で殺しにかかるぞお前。

 

 

 

 

 

 

 

「美空……うん、似合ってるよ……」

 

 

 

 

 

 

 

ほら、姉がリアクションに困ってるじゃねえか。

お前どうしてくれんだ。姉妹でギクシャクした感じになっちゃってんじゃねえか。

 

もうなんだかこっちが恥ずかしくなってくるんですけど。

 

 

 

 

 

 

 

「お姉ちゃん、お父さん……お願いだから忘れて……」

 

 

 

 

 

 

 

ごめん、それは無理だ。

インパクトが強過ぎて多分これ一生忘れない気がする。

 

 

 

……この事には触れないようにするから。

 

 

 

 

 

 

 

「そして黄羽ちゃん!!見て、この煌めくような姿を……まさかこんなに似合っちゃうとは……♡」

 

 

 

「やだあ……見ないでえ……」

 

 

 

 

 

 

 

……これはダメ。うん。絶対にダメ。

 

これはね、アンタ。

おいわかってんのかそこの悪女。

 

 

 

これは捕まりますよ。犯罪です。

むしろお前は監獄で頭を冷やしてこい。

 

 

 

 

 

 

 

「黄羽ちゃん、それ……スク水……?」

 

 

 

 

 

 

ほら、うちの戦兎さんがさっきより動揺してんじゃねえか。

どうしてくれんだ。むしろ俺はどうすればいいんだ。

 

 

 

というかね。冬真っ盛りのこの時期にスクール水着て。

いや確かにここは暖房効いてますけど。

 

 

 

違う、そういう問題じゃない。

おまっ……スクール水着て。

 

犯罪だから。嫌がる子にそれ着させるの罪だから。

 

 

 

……まぁ違和感は無いんだけども。

 

 

 

 

 

 

 

違う。違う違う、そういう事じゃない。

リンゴ娘、半べそかいちゃってんじゃねーかよ。

 

 

 

 

 

 

 

「ふぇ……カシラにも見せた事ないのに……」

 

 

 

 

 

 

 

えっ。基準そこなの。

いいのかリンゴ娘。そういう事なのか。

 

猿渡に見せたら良かったのか。

むしろ猿渡にそれ見せてもいいのか。

 

 

 

やめとけ、多分あいつリアクションに困るぞ。

固まると思うから。フリーズするから多分。

 

 

 

 

 

 

 

「……とりあえず、着替えておいで」

 

 

 

 

 

 

 

せっかくの感動の再会なのにぶち壊されちゃったし。

この雰囲気のままなんて無理。俺が無理。

 

 

 

変な髪色で凄まじい露出の変な服着た娘と、スクール水着を纏った女の子がいる空間でいつも通りとか無理だもの。

 

俺の精神はそこまで強靭じゃないんですよ、悪女。

 

 

 

 

 

 

 

「ええぇー!いーじゃない!せっかくこんなに可愛い――」

 

 

 

「なんか言ったか?滝川 紗羽」

 

 

 

「なんでもありません」

 

 

 

 

 

 

 

それにあまりにも少女たちが可哀想過ぎる。

おじさん見てられません。

 

まだ何か言おうとしていたあの悪魔はとりあえず睨みつけて黙らせたから。早く着替えてらっしゃい。

 

 

 

 

 

 

 

「ありがとう、お父さん……」

 

 

 

「カシラ、ごめんね……あたし、汚れちゃったよ……」

 

 

 

 

 

 

 

いい子だ美空。早く行きなさい。

 

そしてリンゴ娘。安心しなさい。

おじさんもう忘れたから。頑張ったから。

大丈夫、君は汚れてない。ただ水着を着ただけだ。

 

猿渡には絶対言わないから。

おじさん、うっかり言わないように気をつけるからね。

 

 

 

 

 

 

 

「さあさ!早く着替えてきなさい!パティスリー鴻上のケーキ買ってきてあるからな。着替え終わったらみんなで食べよう!」

 

 

 

「ほんとに!?パティスリー鴻上のケーキなら別腹だしっ♡そしたらすぐ着替えてくるー!」

 

 

 

「んんん!あたしもなんだかお腹減っちゃったし食べるーっ!待っててねー!」

 

 

 

 

 

 

 

嘘のように元気になった2人は風の如く去っていった。

女の子というのはわからないもんだな。

 

 

 

それにしても……良かった良かった。

2人には寂しい想いをさせたと思って大量に買ってきといたのが功を奏したようだし。

 

物で釣るのはどうかと思うけど……まぁ喜ぶんだったらいいだろ。

 

 

 

 

 

 

 

「さっきお腹いっぱいって言ってなかったっけ……10代ってすげえな」

 

 

 

 

 

 

 

なんだ。腹一杯なの?

いやでも今あの子たち食べるって言ってなかった……?

 

 

 

若いってすげえな。まじかよ。

葛城のおっさんなんかすぐに胃もたれとか胸焼けすんのに……

 

 

 

 

 

 

 

「あのー……私も頂いてもいいのかなー、なんて……」

 

 

 

 

 

 

 

……念の為にちゃんと買ってきといてあるわい。

 

有難く食せ、オソロシイ女め。

そして次からはあんな悲しみしか生まない行為をするんじゃないぞ。

 

 

 

 

 

 

 

「……ほれ。レアチーズケーキだろ、お前が好きなの」

 

 

 

「ひゃああああ♡ありがとうございます!Mr.石動♪」

 

 

 

 

 

 

 

こいつも大人の女に見えるけど、やっぱりこういう所は少女みたいだな。

 

まあそういうモンなのかね……

戦兎とあんまり年も変わらないらしいしな。

 

 

 

 

 

 

 

「ぶう……ますたぁ!わ・た・し・は!?」

 

 

 

 

 

 

 

何やらやたら怒ってるように見える戦兎。

頬を膨らませながら詰め寄ってくる娘に困惑しながらも、でもとても愛おしく思う。

 

俺の最愛の娘。

本当に……大切な。

 

 

 

 

 

 

 

「もちろんあるぞ!ほら、1日限定10個のモンブラン。予約しといたんだよ」

 

 

 

「戦兎はモンブラン、好きだもんな」

 

 

 

 

 

 

 

パティスリー鴻上で唯一の個数限定ケーキ。

それは戦兎が大好きなモンブラン。

 

 

 

……これからより大変になるから。

 

せめて、俺からの気持ちだよ。

 

 

 

 

 

 

 

「ひょおお!!すっごーい!初めて食べるよこれ!?ありがとーマスター!」

 

 

 

 

 

 

 

さっきまでの態度が嘘のように見える戦兎。

なんだかそれがとても面白くて、笑が零れてしまう。

 

 

 

久しぶりの、和やかな時間。

久しぶりの、優しい空間。

久しぶりの、暖かい一時。

 

心から安らげる、俺の大切な場所。

 

 

 

 

 

 

 

……もう、俺の居場所じゃなかったとしても。

 

 

 

 

 

 

 

「着替えてきたしー!先に食べたりしてないよね!?」

 

 

 

「んんんー!待っててくれたよねーっ!?」

 

 

 

 

 

 

 

なんだか家族が増えたみたいだ。

あのリンゴ娘とも……上手くやってんだな。

 

 

 

 

 

 

 

悪ぃな、リンゴ娘。

……俺だけを、恨んでくれよ。

 

 

 

 

 

 

 

「食べてないよー!早く食べよ食べよ!」

 

 

 

「待ってたわよー!食べましょ♡」

 

 

 

 

 

 

 

色々あるけどさ。

俺はお前らの、どうしようもない敵だけどさ。

 

 

 

今は……たまには、いいよな。

そんな事を忘れて、こうやって触れ合うのも。

 

いつか来るその日までは、いいよな。

 

 

 

 

 

 

 

きっとお前らは俺の事を全身全霊で憎む。

その時が来たら今すぐに殺したくなるはず。

 

でも……もしそうなったとしても、俺はお前たちの事を愛してる。

 

 

 

お前たちと相対し、戦わなければならない運命だとしても。

俺は、お前たちの事を心から愛してる。

 

 

 

 

 

 

 

だから、ごめんな。

だからせめて、俺はお前らに色々な事をしてあげたい。

 

史上最低な父親だけど。

せめて父親としてお前たちに色々なモノを与えたい。

 

 

 

 

 

 

 

いつか来たる、裏切りのその日まで。

俺が全ての悪を纏いし、絶望となるまで。

 

 

俺は……せめてその日までは人として在りたい。

戦兎や美空、万丈の父親で在りたい。

 

 

 

 

 

 

 

俺が人で無くなる、その日までは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……さて!ケーキと言ったらコーヒーだろう!そしたら俺が新しく考案した《nascitaで成シタ?》をだな――」

 

 

 

「「「要らない」」」

 

 

 

 

 

 

 

「んんん?みんなコーヒー嫌いなの?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……To be continued

 

 

 

 








惣一「……狭くないか?」

戦兎「んーん……だいじょぶ」

惣一「うーん。やっぱりどっかで傘を――」

戦兎「いいの!!このままで……これが、いい」

惣一「はぁ……?」


惣一「でもこんなおっさんと相合傘だなんて恥ずかしいだろ?」

戦兎「マスターとなら恥ずかしくなんて無いもん!」

惣一「ふーん……ならいいんだけどさ」

戦兎「……♡」

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