Masked Rider EVOL 黒の宙   作:湧者ぽこヒコ

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惣一「はぁ……三角関係か……どうすんのこれ」

美空「はぁ?お父さん何言ってんの?」

惣一「いやだってさ、万丈を巡る愛憎劇……」

惣一「こりゃこの世界もドロッドロのヤンデレラブストーリーにシフトチェンジだな……はあ……」

戦兎「何わけわかんない事言ってんの?マスターどっか頭ぶつけたん?」

美空「……もしかしたらお父さんの極マズコーヒーの副作用が今になって現れたのかもしれないし!」

万丈「へー。そんなに不味いのか、マスターのコーヒーって」

戦兎・美空「「あれは飲料じゃない。大量破壊兵器」」



惣一「うぅ……どうなるんだろ……本編をどうぞ……」





phase,7 桜に馳せるこの思い

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――くそ、間に合え。だめだ。嫌だ。変な事を考えるな。

一瞬でも早く香澄の元へと行くことだけを考えろ。

考えるよりも先に足を動かせ。もっと、もっともっと速く。

 

 

くそっ、くそくそくそっっ!!

 

 

 

 

 

 

 

「――おーい!ねえ!ちょっと待ってってば!万丈!!」

 

 

 

 

 

 

 

後ろから戦兎の声が聞こえる。

 

悪ぃけど今はそれどころじゃねえんだ!!

俺には行かなきゃならない場所が――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい!つーかまーえた!!」

 

 

 

 

 

 

 

はやっ。いや足はやっ。嘘だろこいつ人間じゃねえだろ。

どんだけ差をつけてたと思ってんだ!

 

ていうか背中に柔らかい豊満な圧力が……って違う!そんな暇はねぇんだよ!!

 

 

 

 

 

 

 

「離せ戦兎!……わりぃ、俺急いでんだよ!行かなきゃならねえんだ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

そうだ。立ち止まってる暇はねえ。

あいつの、香澄の笑顔を見るまでは……

 

 

 

 

 

 

 

「え?わたしたちがバカバカ言ってたから怒ってたんじゃないの?」

 

 

 

 

 

 

 

戦兎が間の抜けた声を現す。

いや確かにバカにされんのはムカつくけど違う!

 

そんな場合じゃねえんだっつうの!!

つかこいつどんなバカ力してんだ!?

 

 

 

 

 

 

 

「離せ……つぅの!!俺は行かなきゃ行けねぇんだよ!俺の……大切な彼女が危ねえかもしれねえんだ!!」

 

 

 

 

 

 

 

くそ、そうこうしてるうちにも香澄が……

 

 

 

 

 

 

 

「……どういうこと?」

 

 

 

 

 

 

あ"ー!ったく……

時間がねえって言ってんのによ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――スタークがそんな事を……」

 

 

 

 

 

 

 

戦兎は髪を掻きながらボソボソと呟く。

分かったらさっさと離してくんねえかな!

 

 

 

 

 

 

 

「そういう訳だ。香澄が連中に捕まったって決まってる訳じゃねえけど、あんな事を言われたばかりだしよ」

 

 

 

「……それに電話にも出ねえ。心配だから今から行くことにしたんだよ。だからさっさと離せ!!」

 

 

 

 

 

 

 

鼓動が早くなる。

まるで心臓が、早く助けに行けと囁いているように。

 

 

 

 

 

 

 

「わかった。うん。よし!わたしも一緒に行く!」

 

 

 

「はぁ!?」

 

 

 

 

 

 

 

何言ってんだこの自称天才バカ力女は。

 

 

 

 

 

 

 

「てめぇには関係無いだろ!?こいつは俺の問題だ!てめぇが出てくる問題じゃ――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

渇いた音が、兎と龍の空間に響く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ふざけんな」

 

 

 

 

 

 

 

……痛ぇな。何すんだよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……お前は。さっきマスターが言った言葉を忘れたのか?お前は……もう家族だ。わたしたちの家族。一緒に居る期間が長いとか、短いとか関係無い」

 

 

 

「……記憶が無いわたしにとってはそんなもの意味は無い。万丈。お前はもうわたしの、わたしたちの家族だ。それを……お前は関係無いって言うのか?」

 

 

 

 

 

 

 

戦兎の静かな怒りが俺を包む。

でもなぜか。全く不快じゃない。

 

 

 

 

 

 

 

「……悪い」

 

 

 

 

 

 

 

精一杯考えて、こんな事しか言えない自分が無性に嫌になる。

 

 

 

 

 

 

 

「……もう、二度と言うな。関係無いとか。約束」

 

 

 

「……おう」

 

 

 

 

 

 

 

消え入りそうな小さい声で、俺は呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……よし、じゃあ彼女さん救出に向かうよ!ほれ、一度戻ってバイクで行くから!早く!!」

 

 

 

 

 

 

 

まだ出会ってほんの少ししか経ってねえのに。

なぜだろう。こいつは俺の心に簡単に入ってきやがる。

 

 

 

マスターもそうだ。美空も。

あの笑顔が、俺をほわっと暖かくさせる。

 

 

 

 

 

 

 

……こんな気持ち、香澄以外、初めてだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……すぐに会いに行くから待ってろよ!香澄!!

 

 

 

 

 

 

 

「あぁ!!さっさといくぞ!戦兎!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――ここだ」

 

 

 

 

 

 

 

懐かしい光景。捕まる前はしょっちゅう来てた香澄が住んでるアパート。

試合終わったあとによく2人で飯食ったっけな。

 

 

 

俺が捕まってからまだそんなに経ってないと思うけど、随分久しぶりな気がする。

 

 

 

 

 

 

 

「よし、行くぞ」

 

 

 

 

 

 

 

後ろに居る戦兎を見ずに語りかける。

あいつは無言で俺の後に着いてきた。

 

 

 

 

 

 

 

202っと……ここだ。

 

 

 

 

 

 

 

……お願いだ。居てくれ。

 

 

 

 

 

 

 

「香澄!香澄!!居るんだろ!?俺だ!龍我だ!!万丈 龍我だよ!」

 

 

 

 

 

 

 

ドアを乱暴に叩き、香澄の反応を期待する。

お願いだ。出てきてくれ……

 

 

 

 

 

 

 

「香澄!?居ないのか!?」

 

 

 

 

 

 

 

……くそ。ふざけんな!ふざけんな!!

 

 

 

 

 

 

 

ふと横から伸びてきた戦兎がドアノブに手を当て、ゆっくりと回す。

こんな状況にも関わらず、たったこれだけの仕草が綺麗だな、と思ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

「……空いてる」

 

 

 

 

 

 

 

戦兎が呟いてすぐ、土足だということも気にせずに中へと奔る。

だめだ、嘘だ。やめてくれ。それだけは……

 

 

 

 

 

 

 

部屋には誰も居ない。争った形跡もない。

俺の知っているいつもの部屋だ。

 

 

 

もしかして、鍵を閉め忘れて出かけたのか?

 

 

 

……そうだ。香澄はそういう所がある。ちょっと抜けてる所が。

そうだ。きっとそうだ……

 

 

 

 

 

 

 

「……万丈。これ。あっちの机にあった……」

 

 

 

 

 

 

 

戦兎が俺に手紙を渡してきた。表情は暗い。

なんだよ、やめろよ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【お前の最愛の女《小倉 香澄》は預かった。

 

生きて返してほしくば明日14時、お前らの思い出の地に来い。

 

来なかった場合は、女の命は無いと思え。

 

 

ナイトローグ】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くそがあああああ!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

全身に憎悪の龍が駆け巡る。

俺を俺じゃない別の何かに変えてゆく。

 

 

 

殺す。潰して殺す。切り刻んで殺す。目玉を抉り殺す。五臓六腑を撒き散らし殺す。脳漿を吐き出して殺す。殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――万丈!万丈!!!」

 

 

 

 

 

 

 

……俺は、何を。

 

 

 

戦兎の声で意識が少しずつ晴れていく。

なんだ?さっきまでの感じ……

 

まるで全身が黒くなっていって、意識がどす黒くなるような……

なんだったんだ、今のは……

 

 

 

 

 

 

 

違う、それどころじゃない……

香澄が……!香澄が!!

 

 

 

 

 

 

 

「万丈。落ち着いてね。香澄さんは多分あの蝙蝠みたいな奴に捕まってる」

 

 

 

 

 

 

 

蝙蝠……?蝙蝠……!

俺の身体を弄りまわした、あの蝙蝠!!

 

あの蝙蝠が、香澄を……

 

 

 

 

 

 

 

「万丈!だめ!!気をしっかり持って!!」

 

 

 

 

 

 

 

その言葉でまた俺を取り戻す。なんなんだ。

自分の身体じゃないみたいな錯覚が……

 

 

 

 

 

 

 

「この手紙には、【生きて返してほしくば】って書いてある。大丈夫だよ万丈。香澄さんは、生きてる」

 

 

 

 

 

 

 

生きてる、戦兎がそっと優しく放った言葉が頭に響く。

そうか、そうか。香澄は生きてる。

 

 

 

香澄……香澄……

 

 

 

 

 

 

 

「相手もバカじゃない。人質の香澄さんの命を奪うような真似はしないよ。……多分罠だろうけど、絶対大丈夫」

 

 

 

 

 

 

 

香澄……待ってろよ……

俺が、俺が絶対に香澄を助けるから……

 

 

 

 

 

 

 

「とりあえず一度、nascitaに戻ろ?みんなも心配してる」

 

 

 

「……あぁ」

 

 

 

 

 

 

 

……ありがとな

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――お帰り!!!……万丈!さっきは、ごめん……」

 

 

 

 

 

 

 

帰ってくるなり美空が盛大に謝ってきた。

なんだ?一体なんかあったのか?

 

 

 

 

 

 

 

「……いや、何が?」

 

 

 

 

 

 

 

全く状況がわからない。

どちらかと言うと俺が謝らなきゃいけない気がすんだけどな……

 

 

 

 

 

 

 

「万丈にバカバカ言っちゃったから、怒ったかと思って……ほら、あんな事あったばっかだし……」

 

 

 

 

 

目を潤ませながら声を震わす美空。さっきとは別人みてーだ。

こんな所マスターに見られたらブチ切れられそうだな。

 

 

 

 

 

 

 

「いや、そんな事気にしてねえから気にすんなよ。出掛けてったのは……別の件だから」

 

 

 

 

 

 

 

口ごもってしまう。

……今何も出来ない自分に腹が立つ。

 

 

 

 

 

 

 

「それよりもね、美空。万丈の彼女がナイトローグに捕まったの。ほら、ナイトローグってやつはわたしたちが言ってた蝙蝠やろーのこと」

 

 

 

 

 

 

 

戦兎の言葉で更に実感する。

あの、あの忌まわしい蝙蝠に香澄が捕まってしまったという事を。

 

 

 

 

 

 

 

「そういえば美空、マスターどこいったの?マスターにも伝えなきゃと思ったんだけど……」

 

 

 

 

 

 

 

そういえばマスターが居ない。

まあバイトしてるって言ってたし、忙しいんだろうな。

 

 

 

店にも客が来ねえみたいだし。

 

それなのに俺なんかに住めって言ってくれんだもんな……

人が良すぎるぜ。

 

 

 

 

 

 

 

「……あ、うん。お父さん、バイト行ってくるってばたばたしながら行っちゃったよ……」

 

 

 

 

 

 

 

こんなに良くして貰ってんだ。

……あんまり心配かける訳にはいかねえ。

 

 

 

 

 

 

 

「そっか……あのさ、万丈。こんな時にだけどさ。……万丈って香澄さんのこと大好きだったんだね」

 

 

 

 

 

 

 

……俺の、俺にとって唯一の存在だからな。

代わりが居ない、唯一の、俺の、太陽だ。

 

 

 

 

 

 

 

「……あぁ。俺にとって、かけがえのない人だから」

 

 

 

「よかったら、聞かせて?香澄さんのこととか、後はまあてきとーに万丈の事とか」

 

 

 

 

 

 

 

 

戦兎と美空が眼を輝かせながらこっちを見てくる。

ホントに女子ってのはこういう恋バナってやつが好きなんだな。

 

つうか俺のはてきとーでいいのかよ!!

 

 

 

ったく、恥ずかしいっつうの。

 

 

 

 

 

 

 

……まあ、いいけどさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……わーったよ。あいつの名前は小倉 香澄。俺が出会った中で、最高の人だ――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――あいつはさ、俺が出会った時から既に身体がすげえ病弱だったんだ。

入退院繰り返すような日々。

でも、あいつはいつも笑顔だった。

 

 

ちょっと身体が元気な日にはよく出掛けた。色んな所に行った。

あいつは和食が好きだったから外食は大体和食。

俺はホントはラーメンが好きなんだけどよ。

でも、香澄が笑ってくれるならなんでも良かった。

 

 

 

映画も好きでさ。よく観に行った。

お嬢様みたいな見た目で大人しい優しい性格してんのに、ホラー系とかスプラッター系の映画が好きでな。

俺もそのうちそういう映画が好きになった。

 

 

 

身体が元気な日に試合がある時は、観に来てくれたよ。

あんなむさい中に1人だけ白いワンピースを来たお嬢様が居るからすっげぇ目立ってな。

ニコニコしながら手ぇ振り上げて「頑張れー!龍我ー!」って言ってんだよ。

ちょっと恥ずかしかったけど、めちゃくちゃ嬉しかった。

 

 

 

 

 

 

 

そして……やっぱり一番は桜、かな。

香澄は桜が大好きでさ。よく2人で見たんだ。

桜を見る度にいうんだよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「また一緒に、見に来れるかな」 ってさ。

 

 

 

 

 

 

 

……確かに病弱だったけど、治せない病気じゃなかった。

金があればなんとかなる、だから俺も色々頑張った。

 

 

 

 

 

でもさ、頑張る先を間違えちまった。

 

金になるからさ。俺、八百長試合しまくったんだよ。

香澄のためだから。全く嫌じゃなかった。

これで香澄を治すんだ、って。

 

 

 

でもバレちまってさ。格闘技界を永久追放されちまった。

 

 

 

 

 

 

 

でも金がなきゃ、香澄をまた桜の樹の元に一緒に行くことが叶わなくなる。だから奔放したよ。

でも俺ろくに学校出てねえし、なかなか今のご時世厳しくてな。

 

 

 

そんな中、香澄がある人を紹介してくれたんだ。

確か……学者かなんかだったな。

名前は……なんだっけ、確か《葛城 月乃》だとかいう女だ。

 

 

 

で、その女の所に行けば仕事を紹介して貰えるって香澄から教えてもらったからよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

行ってみたら……死んでた。

 

 

 

 

 

 

 

状況を理解出来ないで居たら守衛兵たちが大勢来て、捕まった。

その後はこっちの話もろくに聞かねえで監獄送りさ。

 

 

 

 

 

 

 

そんな頃だ。監獄暮らしにも少し慣れてきた時だな。

後ろから注射みたいなの刺されて気失ってさ。

 

 

 

後は戦兎と同じ様な感じ。人体実験されたよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これが、香澄と俺の話だ――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――素敵」

 

 

 

 

 

戦兎が目を輝かせて視線を飛ばしてくる。

 

だから言いたくねーんだっつの!

……恥ずかしいしよ。

 

 

 

 

 

 

 

「……でもさ、香澄、さんってちょっと怪しくない?ほら、万丈にその葛城 月乃って人を紹介したのも香澄さんだし……」

 

 

 

 

 

 

 

美空が俺を窺いながら呟く。

 

違う。香澄が俺を嵌めるわけねえ。

……きっと何かあったんだ。

 

 

 

 

 

 

 

「……わかんねえ。わかんねえけど!香澄はそんな事する様な奴じゃない!きっと……きっと何か事情があったんだ」

 

 

 

 

 

 

 

唇を噛み締める。俺は、俺だけは香澄を信じる。

こいつらが俺を信じてくれたように、俺も香澄を……

 

 

 

 

 

 

 

「……まあ!話は香澄さんを救出してからにしよ!それからそれから!」

 

 

 

 

 

 

 

戦兎……ありがとう。

 

 

 

 

 

 

 

「……確かにそうだし!きっと何かあったんだよ!大丈夫大丈夫!」

 

 

 

 

 

 

 

美空……わりぃな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……絶対、絶対助けるからな、香澄。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「とーこーろーでー!万丈くぅん?随分と香澄さんにお熱なようですねーえ?えぇ?うらやましーなー!わたしもそんな人がほしーなー!あーあ!うらやましーなー!!」

 

 

 

「ほんとだしーぃ?香澄さんの事を話す万丈くぅんの眼はきらきらと輝いていましたもんねーえ?私もそんな風に思ってくれる王子様に早く出会いたいしー!うらやましーしー!!」

 

 

 

「うっせーな!茶化すんじゃねーよ!!だから言いたくなかったんだっつーの!!おい!待て!!逃げんな――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『――おいローグ。こいつァ一体どういうことだ?』

 

 

 

 

 

 

 

静かなる悪の巣窟。相対するは黒と朱。

 

 

 

 

 

 

 

『――どういうこと……だと?何の話だ?』

 

 

 

 

 

 

 

王座に君臨せし蝙蝠。

その蝙蝠に突き刺さる様な視線をとめどなく放つ蛇。

 

 

 

戦慄が走る。

 

 

 

 

 

 

 

『――っ。言ったはずだろう?ここでは俺が王だ。……それに。これはやつの成長のためだ』

 

 

 

 

 

 

 

言葉を詰まらせる暗黒の蝙蝠。

顔は見えないが、おそらく額からとめどなく汗が滴っている。

 

 

 

 

 

 

 

『……あまり勝手に事を進め過ぎるな。忘れるなよ。俺を』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それだけ言い残し、鮮血の蛇は何処と無く消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『――どいつもこいつも……くそがァ!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

蝙蝠の怒号が、哀しき闇に振動する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――よし、行くか」

 

 

 

 

 

 

 

晴れやかな空。香澄が大好きな晴天。

あいつの嫌いな雨じゃなくて良かった。

 

 

 

準備はバッチリだ。

香澄の事を考えるとなかなか眠れなかったけど、頭ははっきりとしている。大丈夫。

 

 

 

 

 

 

 

「よっし!香澄さんを助けに行きますか!」

 

 

 

 

 

 

 

戦兎も気合い充分、って感じだ。

 

そういやマスターは帰って来てないみたいだな……

意外と忙しいんだな、あの人。

 

 

 

 

 

 

 

「2人共……気をつけてね」

 

 

 

 

 

 

 

美空が真剣な眼差しで見つめる。

大丈夫。ガツンとやってくるからよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……よし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「行ってきます!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――ここだ。俺と、香澄の思い出の場所」

 

 

 

 

 

 

 

誰に語りかけるわけでもなく、呟く。

 

そう。香澄との思い出の場所。

それは……ここしかない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

香澄の大好きな、桜の樹がある、この場所。

香澄との、約束の地。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『――やっと……会えたな。初めまして、は可笑しいか』

 

 

 

 

 

 

 

この声……覚えてるぞ……

あの忌々しい研究所にいた、あの――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい……あんたがローグとかいうクソ野郎か」

 

 

 

 

 

 

 

俺より先に戦兎が反応した。

その眼には憎しみが迸っている。

 

 

 

 

 

 

 

『なんだ。モルモットも一緒か……まぁ、丁度いい』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『そうだ。俺がローグ……ナイトローグだ』

 

 

 

 

 

 

 

あの顔、あの姿、あの声。

忘れもしない。憎き敵。

 

 

 

 

 

 

 

……だが、それどころじゃない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おいクソ蝙蝠野郎。てめぇには色々聞きてえ事があるがな、それよりもまず香澄だ!香澄はどこだ!?」

 

 

 

 

 

 

 

自分の事なんてどうでもいい。

まずはあいつを……

 

 

 

 

 

 

 

『あー……あの女か。いいだろう教えてやる。……だがな、まずはこいつと戦ってからにしてもらおうか』

 

 

 

 

 

 

 

そういった蝙蝠野郎の後ろから、もう見慣れたスマッシュが現れる。

 

くそっ、くそが!!

早く、早く香澄を返せ!!

 

 

 

 

 

 

 

「……そいつを倒せば、香澄さんを返すんだな?」

 

 

 

 

 

 

 

感情が無いような、冷たく刺さる声で戦兎が蝙蝠に対峙する。

 

 

 

 

 

 

 

『……クク。あぁ。あの女の居場所を教えてやろう』

 

 

 

 

 

 

 

蝙蝠野郎がその言葉を吐いた瞬間、戦兎が取り出す。

“正義のヒーロー”の力を与えるアイテムを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【ラビット! タンク!】

 

 

 

【ベストマッチ!】

 

 

 

【Are you Ready?】

 

 

 

 

 

 

 

「……変身」

 

 

 

 

 

 

 

【鋼のムーンサルト!!】

 

 

 

 

 

 

 

【ラビットタンク!!yeah!!!】

 

 

 

 

 

 

 

「……すぐに終わらせる。待ってて、万丈」

 

 

 

 

 

 

 

戦兎は俺に語りかけた瞬間、目にも止まらぬスピードでスマッシュに詰め寄った。

 

 

 

大振りなスマッシュの攻撃を簡単にいなし、的確に打撃を加えていく。

 

 

 

 

 

 

 

「グオオオォォォオ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

ドリル状の剣のようなものを呼び出し、電光石火の連撃を喰らったスマッシュの声にならない叫びが辺りを包む。

 

 

 

 

 

 

 

お願いだ。頼んだぜ、戦兎……

 

 

 

 

 

 

 

「ごめんね。今、終わらせてあんたも元に戻してあげるから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「勝利の法則は……決まった!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【Ready go!!】

 

 

 

 

 

 

 

【ボルテックブレイク!!!】

 

 

 

 

 

 

 

エネルギーを纏った刀身が勢いよく回転し、轟音をあげる。

こんな攻撃を喰らえばひとたまりもないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

「うおおおおおおおおおお!!!!」

 

 

 

 

 

 

迷い無く突き進む戦兎。

あともう少しで、香澄が……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……あぁ。そういえば夢中になって言い忘れてたよ、万丈。お前の愛する女の居場所だったなぁ』

 

 

 

 

 

 

 

『……そこだよ。そこ。そこに居るだろ?今お前らの目の前に居るだろう?その化け物 』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『そのバーンスマッシュがお前の愛する女だよ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……は?

香澄が……スマッシュ……?

 

 

 

 

 

 

 

「大丈夫だよ万丈!スマッシュになったとしても、倒した後にガスを抜き取れば人間に戻る!!」

 

 

 

 

 

 

 

ああ、そうだ。そうだった。

そうだそうだ。忘れてた。

 

倒しても、ガスさえ抜き取れば香澄は元に戻る。

元の、俺の愛する香澄に……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……残念だ。非常に残念だよ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……なんだよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『確かに、スマッシュになった人間を倒したとしても、ガスを抜き取れば人間に戻る事ができる』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……何が言いてーんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『だが、ハザードレベルと呼ばれる肉体的な数値が1以下の場合。その原理は通用しない』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……やめろ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『つまりハザードレベル1以下の人間は、ガスを抜き取られるとどうなるか?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……答えは簡単だ。肉体が消滅する』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

お願いだ……やめてくれ……

 

 

 

 

 

 

 

それ以上……言わないでくれ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『残念ながら。小倉 香澄のハザードレベルは1だ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あ……あ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『もしそのスマッシュを倒し、ガスを抜き取れば……小倉 香澄は消滅する』

 

 

 

「あ……あ……あ……」

 

 

 

 

 

 

 

香澄が……消滅……?

か……すみが……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

死……ぬ……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あああぁああああぁぁぁ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ロォォォォォォグウウウウ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

許さない……!!

お前だけは!絶対に!!わたしの手で!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……いいのか?俺に構ってそのスマッシュを放っておけば大惨事になるぞ?……どれだけ、人が殺されていくだろうな』

 

 

 

 

 

 

 

くそ、くそくそくそっ!!

こんなやつに、こんなやつに万丈の最愛の人が!!!

 

 

 

どうすれば……どうすればいい――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――あ……あ……」

 

 

 

 

 

 

 

香澄が……香澄が消滅する?死ぬ?

なんで……?なんで、なぜ香澄がそんな目に……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【ほら!龍我ったらまたラーメンばっかり食べてるんだから!】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【映画、何見る?……やっぱりホラーでしょ!】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【試合お疲れ様!……えへへ、応援してたら喉枯れちゃった】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【また一緒に……観に来れるかな】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

香澄……香澄……かす……み……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「危ない!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

スマッシュが近くに居た万丈に襲いかかろうとする。

 

 

 

 

 

 

 

香澄さん!!その人はあなたの!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やば……間に合わないかも……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

万丈!意識を取り戻して――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ……」

 

 

 

 

 

 

 

ふっと気付いた時、スマッシュが……香澄がもう目の前に居た。

 

 

 

そうか……俺は、香澄に殺されるのか……

香澄が居ない世界なんて俺にとっては……

 

 

 

……このまま殺してくれ。

 

 

 

香澄を救うことすら出来ない俺なんて、せめて香澄の手で――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――殺された、そう思ったが痛みはない。

 

 

もう死んだのか。

そうか。痛みを感じる間もなく殺してくれたのか。

香澄の、最後の優しさなのかな――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『――自我が……あるだと?』

 

 

 

 

 

 

 

え?自我?どういうことだ――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――かす……み?」

 

 

 

 

 

 

 

目の前のスマッシュは、振りかざしていたはずの右腕を、左腕から放出した炎で焼き切っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「香澄……なのか?」

 

 

 

 

 

 

 

涙が滝のように押し寄せる。

止まることを知らぬ流れのように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ご……めんねぇ……りゅう……が。わた……し、どんくさ……いからさぁ。こん……なのに……されちゃったぁ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

香澄……香澄!!!

 

 

 

 

 

 

 

「もういい……もういいんだ……大丈夫。俺がいる。俺が着いてる。一緒に帰ろう?な?」

 

 

 

 

 

 

 

もういいんだ。大丈夫だから。

……一緒に帰って、笑い合おう。香澄……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごめん……ねえ。いっしょには……かえれないや」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

辛いよな、苦しいよな……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう……いしきが……なくなり……そう……なの。だか……ら、せめてさい……ごは、りゅうが……が、わた……しを、こわ、して?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何言ってんだよ!お前が暴れたら俺が止めてやる!!!だから、だからそんな事言うな!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だめだ……やめてくれ香澄。

そんな……そんな事言わないでくれ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「わた……し、ひと……を、ころ……すかい、ぶつなん……て、いや」

 

 

 

 

 

 

 

「それ……に、ね?か……いぶつに……のっとら……れたま……ま、しにた……く、ない……の。だか……ら、ね?おね……がい、りゅ……うが」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

香澄……香澄……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「りゅう……がの……しって……る、わた……しのま……ま、こ、ろ……して?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

か……すみ――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「グオオオォォ!!!グガアアアァァァ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

――一瞬、香澄さんに戻って……た?

 

 

 

……いや、でもまた暴走してる。

それよりも早く万丈を!!

 

 

 

 

 

 

 

「……戦兎、この剣……借りるぞ」

 

 

 

 

 

 

 

え!?万丈!?いつの間に……

ていうかそれ!生身じゃ扱えないから!!

 

 

 

 

 

 

 

「……大丈夫。俺には、香澄の想いが詰まってるから」

 

 

 

 

 

 

 

え?万丈……?

泣いて……る……?

 

 

 

 

 

 

 

もしかして……!!

 

 

 

 

 

 

 

「香澄。お前の事は、俺が止めるよ」

 

 

 

 

 

 

 

その時の万丈は、悲しく。でも暖かく。

優しく微笑んでいた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さよなら。香澄……ごめん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「万丈おおぉ!!!待ってええ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――その瞬間。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……今、スマッシュが自分から刺されに行ったような――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その冷たい刀身に、 深々とスマッシュが刺された――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――香澄!香澄!!」

 

 

 

 

 

 

 

あの時、香澄は抵抗もせず、むしろ自分から刺さりに来た。

間違いない。間違える訳がない。

 

 

 

 

 

 

 

戦兎がガスを抜き取ってくれた香澄は、もう間もなく光の粒となり消えようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

「香澄!香澄!!!」

 

 

 

 

 

 

 

分かっていても、受け入れられない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「龍我……?」

 

 

 

 

 

 

 

今にも消えそうな声で語る香澄。俺の最愛の人。

その表情は晴れやかで、涙で崩れてる。

 

 

 

 

 

 

 

「……ありがとね……最期もワガママ言っちゃって……ごめんね。いつもいつも……」

 

 

 

 

 

 

 

そんな事ない!そんなわけない!!

香澄に迷惑ばかりかけてたのは俺なのに……

 

 

 

 

 

 

 

「私……いつもいつも龍我に迷惑かけてた……だからね、いつも思ってた……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……私と出会わなければ、もっと幸せな人生があったはずなのに……ごめんね……」

 

 

 

 

 

 

 

なんでそんな事言うんだよ……!!

 

 

 

 

 

 

 

「ふざけんな!!これ以上の人生があってたまるかよ!……俺は……お前に、小倉 香澄という存在に出逢えて……最高に幸せだった……!!!」

 

 

 

 

 

 

 

俺も、香澄も涙が止まらない。

 

 

 

嫌だ、消えないでくれ。

もっともっと俺の傍で笑っていてくれ。

 

頼むから……俺を1人にしないでくれよ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……うん、うん。ありがとう、龍我。……あのね?龍我……貴方に言わなきゃ行けないことがあるの……」

 

 

 

「なんだ!?どうした!?」

 

 

 

 

 

 

 

「……私のせいで、お金のために八百長試合してたの、知ってた……ずっとずっと龍我に申し訳なかった……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だからね、なんとか龍我を格闘技に復帰させたくて……そんな時に鍋島って人に出会ったの……その人が、あの葛城 月乃って人の所に行けば、龍我が格闘技に復帰出来るって……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……そしたら、龍我が殺人犯だなんて……ずっと早く謝りたかったの……本当に、ごめんなさい、龍我……」

 

 

 

 

 

 

 

喋るのももう凄く辛いだろうに。

いいんだよ。そんな事……

 

 

香澄が俺の事を嵌めるはずないなんて俺が一番よくわかってる。

だから、もう……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ごめんね。もう……無理そう……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ラーメンばっかり食べてないで、ちゃんとご飯食べてね?……筋トレも無理しないで……あと、龍我が無実だって事が、みんなに伝わるように祈ってる……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あとね。龍我は良い男だから、すぐにいい人が見つかるよ……だから、私の事なんて……早く、忘れてね……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

涙で香澄の顔が見えない。

もっと、もっともっとこの眼に香澄の顔を残したいのに……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前だけが、俺の最愛だ……忘れんな。もう、何処にも行くな……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごめんね……また、会えたらいいなぁ……」

 

 

 

 

 

 

 

いやだ……待ってくれ!!

行くな、行くな香澄!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「待てよ!行くな!!約束しただろ!?また、一緒に桜を見ようって!!なぁ!!香澄!!!逝くな!!!」

 

 

 

 

 

 

 

待ってくれ……香澄……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ずっと、あの桜の樹から……ずっとずっと龍我を見守ってるから……約束の場所で……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最期にその言葉を遺して。

香澄は光となり天へと登っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「香澄ぃぃぃ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『――まさかな……たかだかハザードレベル1のスマッシュが、一瞬とはいえ自我を取り戻すとは……興味深い』

 

 

 

 

 

 

 

ローグ……こいつが……

こいつのせいで香澄さんが……

 

 

 

 

 

 

 

「お前は……絶対に許さない……!!」

 

 

 

 

 

 

 

香澄さんの命を、万丈の心を……

わたしの全てを弄んだこいつだけは!!!

 

 

 

 

 

 

 

『ふん。だからどうしたというのだ?……まぁいい。貴重なサンプルはとれた。俺はここで撤収するとしよう』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……逃がすと思ってんのか?」

 

 

 

 

 

 

 

万丈の瞳に憎悪の炎が宿る。

やばい、またこの前みたいに――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『――おいおい、盛り上がってんじゃねぇか?んん?』

 

 

 

 

 

 

 

現れる血塗られた狂気。

それはまさにゲームメーカー。

 

 

 

 

 

 

 

「お前も……まとめて殺してやる……」

 

 

 

 

 

 

 

万丈の全身から殺気が迸る。

まるで、闇を纏うような……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『わりぃなぁ、【愚かな龍】?今日は急ぎでよ。また今度な。』

 

 

 

 

 

 

 

『……戦兎、その龍から目ェ離すなよ。言っただろ?闇に堕ちるぞ、ってよ。その産まれたての龍は既に堕ちかけてっからな。という訳で、Ciao♪』

 

 

 

 

 

 

 

そう言った蛇は、蝙蝠と共に煙を誘い消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――くそ……くそ!!!俺は……何もできなかった……」

 

 

 

 

 

 

 

大切な人を目の前で失った想い……わたしが簡単に口を出してはいけないことだと思う。

 

 

 

でも……このまま、になんて。出来ない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぁ戦兎……俺、強くなりたい。護れる強さを!!!……もう、こんな思いは嫌だ……」

 

 

 

 

 

 

 

……うん。わかったよ。

 

 

 

 

 

 

 

「わかった……護れる強さを。でも、忘れないで万丈。その強さは破壊する強さや憎しみの強さじゃない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「誰かを護れる……弱き者の味方になれる、そんな“正義のヒーロー”の強さってことを」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

わたしがマスターに教えて貰った“正義のヒーロー”としての強さ。

わたし自身も忘れてはならない矜恃。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「強くなろう、万丈。わたしも強くなる。一緒に……もっともっと強くなろう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

香澄さんが舞っていった青空に、わたしたちは誓う。

桜吹雪に誘われるように、天高いあの宙へと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『――ぐっ!……何をするスターク!?』

 

 

 

 

 

 

 

人を拒むような森林で対峙する蛇と蝙蝠。

先程の威勢がよかった蝙蝠が、見事に弾き飛ばされる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……それは俺の台詞だローグ。なぜ万丈の女をスマッシュにした』

 

 

 

 

 

 

 

蛇が蝙蝠を睨む。その肉体からはおぞましい程の気が放たれる。

それは、狂気というよりも憎悪に近いモノ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『くっ……ああすれば万丈のハザードレベルはより高まる!!これも全て計画のためなのだ!!!なぜわからない!?』

 

 

 

 

 

 

 

なりふり構わず絶叫する蝙蝠。

それはまるで、玩具をねだる幼子のよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……もう一度だけ言ってやる。二度目はない。……勝手な事をするな。俺が全てを担う。その事を絶対に忘れるなよ』

 

 

 

 

 

 

 

何かを吐き出すように呟く蛇は、存在しなかったかのように煙と共に消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『くそ……なぜ誰もわからない!?俺は……俺はァ!!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――はぁ……こうなる事をわかっていた自分が居たのが。本当に嫌になる……」

 

 

 

 

 

 

 

心が重い。思考する事が嫌になる。

もう何もかもが嫌になる。

 

……でも、やめることは許されない。

 

 

 

 

 

 

 

「……全ての罪は、俺だ。全部俺が背負うさ……」

 

 

 

 

 

 

 

みんなが居る場所。

俺が唯一心から笑顔になれる場所。

 

他愛のない、それでいてかけがえのない日々を過ごせる場所。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「nascitaで何シタ?……ってね」

 

 

 

 

 

 

 

……進むしかない。

自分が何をすべきなのか、それを忘れてはならない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

万丈、俺だけを……

俺の全てだけを憎んでくれ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――あ、お父さんおかえりー!あのね、さっき万丈たち帰ってきたんだけどさ、また――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――おう!ただいま!そうかそうか――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……To be continued

 

 

 

 

 








万丈「香澄……見ててくれよ。俺、強くなるから」




戦兎「なーに独り言言ってんの?きもち悪っ」

美空「そういう立ち位置狙ってんの?むりむり」

惣一「おいおい、やめなさい!!」




惣一「いいかね?男というのは厨二病という黒歴史の期間があってだな、こういう時は優しく見守ってあげるのが……」





万丈「あのなぁ……お前らはもっとこうないの!?励ますとか!」

戦兎「ないね」

美空「ないし」


惣一「ねえなぁ。それより腹減らない?なんか食べようよ」

戦兎「わたし卵焼き!」

美空「私はパスタがいいし!」

惣一「おうおう。万丈は?」



万丈「はぁ……ラーメン!プロテインラーメン!!特盛!!!」


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