仮面ライダーエグゼイド×魔法少女まどか☆マギカ [改編]翻転のstory 作:柳川 秀
黎斗さんが助けてくれなきゃマミさんは死んじゃってた。
だから彼には感謝しなくちゃいけない、んだけど……。
まず、永夢先生たちは異世界から来た。
それはもうそうなんだって感じ。
魔法があるんだし、信じられないような話じゃない。
次に、バグスターっていう人に感染するコンピューターウイルスが向こうにはいて、それと戦ってたこと。
パラドさんが永夢先生に入るのとか見たし、それもへえーって感じ。
ゲーム病とかのことも聞けば、なんでドクターの人たちが戦ってるのかもわかった。
で、肝心なのがその後。
永夢先生が世界で初めてバグスターウイルスに感染したのも。
大我先生の患者で飛彩先生の恋人がゲーム病で消滅したのも。
貴利矢先生が消滅したことがあるのも。
……いやいやいやいや、全ての元凶ってヤツじゃん!!
一度人間だった時にパラドさんに倒されて消えて。
バグスターとして蘇った後は協力してた時期もあるけど。
結局大勢の人を巻き込んだゲームを始めて、貴利矢さんに倒された。
でもガシャットを直せるのが黎斗さんだけだし、今は大丈夫そうだから協力してる。
……う~~~~~ん。
なんでそんな人がマミさんを助けてくれたのか全っ然わっかんない。
みんなが問い詰めても答えてくれなかったし。
だから、黎斗さんにはマミさんもあたしたちも素直にお礼を言えなかった。
「何を、聴いてるの?」
その次の日。
あたしがいつもと同じように恭介に面会に来ると、彼はもうイヤホンをしてCDを聴いていた。
「亜麻色の髪の乙女」
「ああ! ドビュッシー? 素敵な曲だよね!」
「……」
そういうことは今までだってよくあったけど。
でも今日はずっと窓の方に顔を向けていて、なんだか違う雰囲気がする。
「あ、あたしってほら! こんなだからさ!
クラシックなんて聴く柄じゃないだろってみんなが思うみたいでさ。
すごい驚かれるんだよね! 意外すぎて尊敬されたりしてさ!」
普段なら、あたしが来たら顔をこっちに向けて挨拶してくれて。
それからイヤホンを半分こして、一緒に聴こうって言ってくれるのに。
今は彼の左腕に巻かれた包帯に、どうしても視線が向いてしまう。
ああ……なんで恭介なのよ?
あたしの指がいくら動いたって、恭介みたいに人を魅了する音楽を奏でられることも、ドクターみたいに誰かを治すこともできないのに。
なんであたしじゃなくて恭介が事故に遭うの?
もしもあたしの願い事で恭介が治ったとして、それを恭介はどう思うんだろう?
ありがとうって言われて、それだけ? それとも、あたしはそれ以上のことを言って欲しいの?
……あたしってイヤな子だ。
マミさんのピンチとか見て、どれだけ魔法少女になるのが大変なのかわかったつもりなのに。
マミさんに自分の望みをハッキリさせておかないとダメだって言われたのに。
まだ奇跡や魔法なんかにすがろうとしてる。
……ううん。きっと大丈夫。
ドクターの人たちは患者のために一生懸命頑張ってる。
永夢先生や飛彩先生たちの話を聞いて、医療のことを信じ始めていた。
だから、きっと恭介の腕だって治るし、またバイオリンを弾いてくれる。
そんな風に思っていた、のに――
「恭介が教えてくれなきゃ、こういう音楽ちゃんと聴こうと思うきっかけなんて、多分一生なかっただろうし……」
「さやかはさぁ」
「ん、なぁーに?」
「さやかは、僕をイジメてるのかい?」
「……えっ?」
「なんで今でもまだ、僕に音楽なんか聴かせるんだ? 嫌がらせのつもりなのか?」
「だって、恭介、音楽好きだから――
「もう聴きたくなんかないんだよッ!
自分で弾けもしない曲、ただ聴いてるだけなんて!!
僕は……僕はッ!!」
恭介が、あれだけ大事にしていたプレイヤーを左腕で叩き割った。
CDとプラスチックの破片が皮膚に突き刺さって、白いシーツに真っ赤な血が飛び散って。
「あっ、ああ……あっ!!」
構わず振りかざされる左腕を、あたしは慌てて押さえ込む。
恭介の左手からは赤い血が、目からは透明な涙が流れ落ちていた。
「動かないんだ……もう痛みさえ感じない! こんな手なんて……ッ!」
「大丈夫だよ……きっとなんとかなるよ! 諦めなければ――
「諦めろって言われたのさ」
「っ!」
「もう演奏は諦めろってさ。先生から直々に言われたよ……
「で、でもっ! 今は無理でも、きっといつかは――」
「いつかっていつだよ!? 気休めを言うなッ!!」
それは、銃で撃ち抜かれたような鈍痛があたしの頭に響くようだった。
そうだ。どれだけドクターが頑張っていても、どれだけ医療が発展しても。
今苦しんでいる人は今でなければ救えない。
来るかもわからない未来を待ち続けることなんてできないんだ。
そんなの信じ続けられる余裕なんか持てるハズがないんだ。
「僕の手はもう二度と動かない! 奇跡か魔法でもない限り治らない!!」
「……あるよ」
「えっ?」
窓のサッシに座るキュゥべえの、赤い瞳があたしを捉えていた。