仮面ライダーエグゼイド×魔法少女まどか☆マギカ [改編]翻転のstory 作:柳川 秀
「昨夜は、病院やら警察やらで夜遅くまで……。
なんだか私、夢遊病っていうのか……それも同じような症状の方が大勢いて。
気がついたら、みんなで同じ場所に倒れていたんですの。
お医者様は集団幻覚だとか何とか……。
今日も放課後に、精密検査に行かなくてはなりませんの。
本当になんともないですし、今までもそんなことなかったですし、私は平気なのに……。
学校を休むと、それではまるで本当に病気みたいで、家の者がますます心配してしまいますもの。
はぁ……面倒臭いわ……」
珍しく授業中眠たそうにしていた仁美に、さり気なく大丈夫だったか探りを入れて、無事を確認してから。
放課後、あたしは恭介の病室にお見舞いに来ていた。
もちろん、彼の腕が治ったって報告には知らなかったフリをして、驚いたり喜んだりしてみせた。
……まだマミさんと話せてないのは少し気がかりだけど、きっとそれもすぐどうにかなる。
「――そっか、退院はまだなんだ」
「足のリハビリがまだ済んでないしね。ちゃんと歩けるようになってからでないと」
左手をグーパーしながら、恭介は何度も本当に動くようになったことを確かめているみたい。
「手の方も、一体どうして急に治ったのか、全く理由がわからないんだってさ……。
だから、もうしばらく精密検査がいるんだって」
そりゃあ、今の医学じゃ治せないってなってたのにいきなり治ってたらビックリするよね。
なんでそうなったのか調べなきゃってなるだろうし、リハビリとかも必要になるんだろうし。
退院までもう少しかかるのも仕方ないかぁ。
……魔法のおかげでした! なーんて、絶対にわかるハズないから。
ヘタすると思ったよりまだ時間かかるのかも……。
「あっ……恭介自身はどうなの? どっか体におかしなとこ、ある?」
「いや……なさ過ぎて怖いっていうか、事故に遭ったのさえ悪い夢だったみたいに思えてくる。
なんで僕、こんなベッドに寝てるのかなって。さやかが言った通り、奇跡だよね、これ……」
そこで恭介は気まずそうに視線を下に向けた。
「どうしたの?」
またなにか思い詰めているんじゃないかと思って、あたしは心配になる。
「さやかにはひどいこと言っちゃったよね……。いくら気が滅入ってたとはいえ――」
「変なこと思い出さなくていーの!
今の恭介は大喜びして当然なんだから! そんな顔しちゃだめだよ?」
謝ってほしくてやったことなんかじゃ、ないんだもの。
「うん……。なんだか実感なくてさ」
「まぁムリもないよね」
あたしだって、自分の目で見るまでは魔法の存在なんか信じられなかったし。
魔女とか魔法少女とか異世界とか人に感染するコンピューターウイルスとか、人類を救うためのゲームとか……。
今はもう、多少の出来事だとビックリしない自信があるけどね。
「……そろそろかな」
腕時計を見て約束の時間が近付いていることを確認し、あたしは恭介に提案した。
「恭介! ちょっと外の空気吸いに行こう?」
不思議そうな彼を車椅子に乗せて、それを押してエレベーターに向かう。
あたしがパネルを操作して屋上行きにすると、やっぱり不思議そうな顔で聞かれた。
「屋上なんかに何の用?」
「いいからいいから♪」
エレベーターから降りて、少し進んで、屋上へのドアを開けると。
そこには恭介の家族はもちろん、主治医の先生や看護師さん、病院のスタッフの人たちがいて。
「みんな!」
パチパチパチパチ――。
彼のことをあたたかい拍手が出迎えた。
「本当のお祝いは退院してからなんだけど……。足より先に手が治っちゃったしね」
「恭介……」
進み出てきた恭介のパパは、バイオリンケースを持っていた。
「そ、それは……」
「お前からは処分してくれと言われていたが、どうしても捨てられなかった……私は」
パパが手を震わせながら差し出してきたバイオリンを、恭介も同じように震える手で受け取る。
父親でもあるしバイオリンの先生でもあるから、きっと余計辛かったんだ……。
「さぁ、試してごらん。怖がらなくていい」
「……」
恭介は最初不安そうにしていたけど。
やがてバイオリンを肩に乗せて、弦に弓を当てて、恐る恐る弾き始めた。
ラフマニノフのヴォカリーズ。
とても悲しい雰囲気だけど、でもどこか情熱的なイメージもある曲。
段々と熱を帯びていくのは、元のメロディがそうだからだけじゃなくて、恭介の心も重なっているからだと思う。
ドクターも、看護師さんも、恭介のパパもママも……みんなその演奏にうっとり聴き入っていた。
弾き続ける恭介の頬には嬉し涙。
あたしもぐっと何かが喉にこみ上げてきて、堪らず澄んだ青空を見上げる。
「あなたは彼に夢を叶えてほしいの? それとも、彼の夢を叶えた恩人になりたいの?
そこを履き違えたまま先に進んだら、あなたきっと後悔するから」
他の人のために願い事できるか聞いた時、マミさんにそうピシャリと言われた。
その時は狼狽えちゃったけど……CDプレイヤーを叩き割った恭介を見て思ったのは、ただ彼を救いたいということだけ。
だから――後悔なんて、あるわけない。
あたし今、最高に幸せだよ……!
「ダメだなぁ……。レッスン、サボりすぎちゃったから……全然なってない……」
「これからはまたいくらでも練習すればいい……。何度でも、繰り返しやり直せばいいんだ」