仮面ライダーエグゼイド×魔法少女まどか☆マギカ [改編]翻転のstory 作:柳川 秀
一日経ってもマミはまださやかと話せないでいた。
俺は学校に行ったことがないし、クラスメイトや先輩もいなかったけど。
なんとなく気まずくてお互い何も言えないでいるんだろう、と推測はできる。
駅前のショッピングモールのファストフードショップ。
少し前まで……ゲンムがマミを助けた日まで、魔女探しの前の集合場所にしてた店。
ダブルチーズバーガーとポテトMとオレンジジュースMのセットを俺と永夢が食べていると、学校を終えたマミがやって来た。
本当はブレイブも来る予定だったが、閉める直前にちょっと大きな怪我をした患者が来て、そっちを優先している。
「……昨日、夕飯ちゃんと食べた?」
「えっ?」
マミが注文して席に持ってきたのは、グレープフルーツジュースS。
さやかやまどかとは違ってドリンクだけの注文なのはいつものことだけど、確かに少しやつれて見える。
目の下に隈もできていた。
「うん……食欲なくなっちゃうよね。でも、だからこそ食べないと。
僕も飛彩さんもまどかちゃんも、さやかちゃんも……。
元気で笑顔なマミちゃんでいてほしいから」
差し出されたフライドポテトを1本取って、マミはちょびっとそれをかじる。
2、3口噛んで、残ったポテトを全て口に含んで食べ切った。
それから、ゆっくりと詰まりながら声を零し出す。
「私、昔一緒に戦っていた魔法少女がいたんです。
私のことを先輩って慕ってくれて、一緒に魔女と、ずっと……。
その子もこんな風によくお菓子を勧めてくれました。
でも、これからはもう自分のためだけに魔法を使うって言われて、喧嘩して……」
「その魔法少女、今はどうしてる?」
「わかりません。多分、隣の風見野を縄張りにしています。無事なら……」
俺の質問に答えたマミのグレープフルーツジュースの紙容器が、少し凹んだ。
「私のせいね……」
「マミちゃん……」
「あの子にも、色んなことがあったのに、私気付いてあげられなかった。
なのに鹿目さんに慕われてまた調子に乗ってしまった。美樹さんも止められなかった!
こんなの、先輩失格よ……!!」
テーブルに突っ伏して、喉を引きつらせて泣き始めるマミ。
永夢はそっとその背中をさすってやる。
しばらくそうしながら考えた後、語り聞かせるように話し始めた。
「元いた世界で、僕は大きな病院で小児科医をしてる。
毎日毎日色んな患者さんが来るし、その子たちの笑顔を守ろうと一生懸命頑張ってる。
けど――助けられなかった笑顔もあった」
「助けられなかった、笑顔……」
永夢と暮らして数年が経つ。
その間に永夢やポッピーが、ドクターや病院スタッフが苦悩する姿もたくさん見た。
患者自身が苦しむ姿も、患者の家族が悩む姿もだ。
「僕はドクターのみんなを、医療を、自分を信じてるよ。
それでも僕は、自分のことを全知全能の神様だなんて思わないし、思っちゃいけないんだと思う」
ハッと顔を上げたマミは、下瞼を赤くしているが永夢のことをしっかり見ている。
「僕はドクターで仮面ライダーだけど、人間なんだ。
たくさん後悔してたくさん傷付いて、それでも生きていく。
それこそが全ての人が持つ運命を変える力だ!
君も、魔法少女だけど人間でしょ?」
マミの目から再び涙が溢れ出した。
だが、少し俯いてももう顔を隠そうとはしていない。
頑張って踏ん張って、受け入れようとしているみたいだ。
「自分で決めたなら、心は誰にも止められない。
お前にできるのは支えることだろ? ……先輩として」
「できるのかしら、私に……」
俺に向かって自信なさげな表情を見せるマミ。
「やってみせればいい」
現れてそう言ったブレイブは、白衣のままで息を切らしていた。
「Say and Do」
「口にして、行動する……?」
「そうだ」
フーと深呼吸してから服を整え、マミの隣に座るブレイブ。
チラッと俺のことを見てから呟く。
「まさかお前に教えられるとはな」
俺たちにできることは何だ? への答えをって意味か。
言い方は上から目線のように感じるが、褒められているようにも思えて、あまりイヤじゃなかった。
「親父が言っていた。人という字は人が支え合う姿を表している」
「院長が……!?」
「実際の成り立ちは違うらしく、おそらく昔のドラマの受け売りだが」
何故だ、ブレイブの親父が向こうの世界でクシャミしているのがわかる。
「俺は当然世界一のドクターだが、俺一人がいたところで患者は救えない。
他のスタッフがいて初めて適切な治療ができる。
自分を奮い立たせることも、誰かに寄りかかることも、両方必要だ」
戦い始めたばかりの永夢・ブレイブ・スナイプを思えば、あの頃だと言わなさそうなセリフだ。
お前もレベルアップしてるな、と勝手に上から目線を返してみる。心の中だけ。
「仲間と協力することや友人と遊ぶこと……。
今までひとりで気張ってきて、できなかったこともたくさんあるんだろう。
誰かに頼ることも含め、これからやってみればいい」
「そう……ですね。恋愛なんて考えられなかったし、部活をしてる暇もなかったし」
ブレイブとマミの言葉に、あの時と同じように永夢の心が揺れた。
「遠足もゆっくり楽しめなかったし」
「遠足に行っても魔女退治か……」
「ええ、あすなろ市で――。あの時の子も元気だといいけれど」