仮面ライダーエグゼイド×魔法少女まどか☆マギカ [改編]翻転のstory 作:柳川 秀
「こんな所まで連れて来て、なんなのよ?」
学校サボって部屋でショボくれてるボンクラを呼び出して、風見野までやって来て。
ゆまも入れたアタシたち3人がいるのは、廃墟となった教会の中。
当然会ってすぐゆまについて聞かれたから、道すがら説明もした。
普段なら何かうるさく言ってきそうなのに、そう、としか返してこなかったのは、それだけ落ち込んでるってことなんだろう。
不思議だけど幸いなことに、道中は魔女にも使い魔にも出くわさなかった。
「ちょいとばかり長い話になる」
持っていた紙袋からリンゴを取り出して投げ渡す。
「食うかい?」
「……っ」
キャッチはしたが、美樹さやかはそれをゴミでも捨てるかのように床に転がしやがった。
テメェ、ふざけ――
「てぇーいっ!」
ベローンとゆまに捲られる美樹さやかのスカート。
「きゃあーっ!?」
思いっ切り見えたパンツ。
「なっ、なにすんのよぉ!?」
「食べ物を粗末にするとダメなんだよ! そんな悪い人はゆまがやっつけてやる!」
「お、おう……ゆま、ちょっと大人しくしてような」
ポンポンとゆまの頭を撫でて宥めて、リンゴを拾いに行かせて。
ふぅ、とアタシはひとつ息を吐いてから昔話を始める。
「ここはね、アタシの親父の教会だった」
ギョッとしたように美樹さやかは辺りを見回した。
割れたステンドグラスが散らばってるし、床の木だってカビが生えてる。
「正直過ぎて優し過ぎる人だった。毎朝新聞を読む度に涙を浮かべて、真剣に悩んでるような人でさ……。
新しい時代を救うには新しい信仰が必要だって、それが親父の言い分だった。
だからある時、教義にないことまで信者に説教するようになった。もちろん信者の足はパッタリ途絶えたよ?」
「あの人、とうとう本部からも破門されたんだってな」
「ただの胡散臭い新興宗教に成り下がっちまった」
「テロリスト紛いのことでもやらなきゃいいが……」
「親父は間違ったことなんて言ってなかった。ただ、人と違うことを話しただけだ。
5分でいい、ちゃんと聞いてくれれば正しいこと言ってるって誰にでもわかったハズなんだ。
なのに、誰もあの人の言葉に耳を傾けさえしないのが我慢できなかった。悔しかった。許せなかった。
一家揃って食う物にも事欠く有様でも、アタシは裕福になりたいとは願わなかったよ。
ただ
拾ったリンゴを拭くゆまも、泣き出しそうな顔をまたしていて、でもそれをぐっと堪えていた。
「次の日から怖いくらいの勢いで信者は増えた。アタシはアタシで、晴れて魔法少女の仲間入りさ」
「……マミさんは、あんたの願い知ってたの?」
「ああ。みんなの幸せを守りたいって思いは同じ、アタシもそうバカみたいに意気込んでたよ。
親父とアタシたちで、表と裏からこの世界を救うんだって。
……でもね、ある時カラクリが親父にバレた。ここに結界を張った魔女を倒した後、見つかっちまったんだ。
大勢の信者がただ信仰のためじゃなく魔法の力で集まってきたんだと知った時、親父はブチ切れたよ」
「全部お前が生み出した幻じゃないか。
信仰を踏みにじり人を惑わし嘲り笑う……悪魔に魂を売ったんだろう?
それすらの自覚もなく嬉々として語るお前の姿を、魔女と呼ばずに何と呼ぶんだ」
「笑っちゃうよね。アタシは毎晩、本物の魔女と戦い続けてたってのに。
それで親父は壊れちまった。酒に溺れて、頭がイカれて。
とうとう家族を道連れに無理心中さ。アタシひとりを置き去りにしてね」
天罰か、運命か。……いや自分で自分に掛けた呪いだ。
叶えた願いを無意識に拒絶しちまって、それからアタシは自分特有の魔法が使えなくなった。
「キョーコ……キョーコはもう、ひとりぼっちじゃないよね?」
「……そうかもな。でも、奇跡ってのはタダじゃないんだ。
希望を祈れば、それと同じ分だけの絶望が撒き散らされる。
そうやって差し引きをゼロにして世の中のバランスは成り立ってるんだよ」
「……。なんでそんな話をあたしに?」
「アンタも誰にどう思われようが気にしなきゃいいのさ。
さっさと開き直って、好き勝手に自業自得の人生を生きればいい」
「……それって変じゃない?
あんたは自分のことだけ考えて生きてるハズなのに、なんであたしやその子の心配してくれる訳?」
「……アンタも昔のアタシもゆまも、他人のためっていう間違いから始まった。
でも、アンタはもう対価としては高過ぎるもんを支払っちまってるんだ。
だからさ、これからは釣り銭を取り戻すことを考えなよ。
それは普通のことだし外野に否定する権利はない。
アタシは弁えてるが、アンタは今も間違い続けてる。見てられないんだよそいつが」
汚れの落とされたリンゴをゆまから受け取って、美樹さやかに改めて差し出す。
「マミの場合は――アイツは他人のために戦うことそのものを生き甲斐にしてる。
だからこそ多少の無茶なり融通なり利かせられる。あんなの例外だ。
普通はそうじゃない。聖人君子で居続けるとしたら、ソイツが特別なだけさ。
むしろそっちの方が強迫的だし、よっぽど病気だよ」
「……アンタも特別になれなかったから、マミさんから離れたの?」
「……そうさ。マミはアタシを止めようとしたけどな」
こんな相棒幻滅だろ? 一緒になんか戦えないだろ?
そう言ったのに、マミはアタシの手を掴んで、アタシはそれを振り解いた。
マミならきっといい仲間が見つかるとも思ってたのもある。
あの時、マミが容赦なく撃ってきてたのは本当だ。意外と脳筋みたいなところもあるし。
でも、それはあくまでもアタシを
その甘さのせいでマミはアタシを止められなかった。アタシはマミを拒むことができた。
逆に言えば、マミがもし本気で殺しにきてたら――。
「……あんたのこと色々と誤解してた。そのことはごめん、謝るよ」
よかった。ようやくわかってくれたんだ。
って思った、のに
「でもね、あたしはあんたみたいに割り切れる程器用じゃないんだ。
恭介のために祈ったことを後悔だなんて思いたくない。その意思を嘘にしたくない。
だから、利益のために使い魔を野放しにするような身勝手な魔法少女にはなりたくない」
美樹さやかはリンゴを手に取ろうとはしなかった。
「それからさ、あんたそれはどうやって手に入れたの? お店で払ったお金はどうしたの?」
「これはゆまが、おばちゃんの気を引いて――
「ならあたし、そのリンゴは食べられない。貰っても嬉しくない」
何も言い返せずに黙り込んだゆま。
後ろの出入口に向いて歩き去って行く美樹さやか。
声は出ていなかったけど、その口はごめんねの形に動いていた。
「バカヤロウ! アタシたちは魔法少女なんだぞ!? 他に仲間なんていないんだぞ!!」
「あたしはあたしのやり方で戦い続けるよ。
それがあんたの邪魔になるなら前みたいにこ――掛かってくればいい。
あたしは負けないし、もう恨んだりしないよ」