仮面ライダーエグゼイド×魔法少女まどか☆マギカ [改編]翻転のstory 作:柳川 秀
「何かあったんじゃないかと心配していましたの。
ここのところ物騒なニュースばかりですし、私もつい最近……」
風見野に行ってる間に仮面ライダーが戦ってたって聞いた、その翌日の放課後。
あたしは仁美に呼び出されて、ファストフードショップに来ていた。
ちょっと前まではみんなでよく来てたし、後に控えてる魔女との戦いは怖くても、仲良く喋ってたのに。
なんだかすごく久し振りにやって来た気がする。
つい癖でホットドッグセットを頼んじゃったけど……。
対称的に仁美がドリンクしか頼んでいないのは、マミさんもいつもそうだったのを思い出させた。
……話がしたかったけど、マミさんは昨日も学校を休んでいたらしい。
昨日どうしていたかもよくわからない。
「ごめん、心配かけちゃって」
「お友達を心配するのは当り前ですわ。
でも、ごめんなさい。今日はそのことではなくて……恋の相談ですの」
「……」
「私ね、前からさやかさんやまどかさんに秘密にしてきたことがあるんです」
冗談なんかで言ってるんじゃない。鈍感なあたしでも、仁美が真剣だってことは察せた。
「ずっと前から、私、上条恭介くんのことお慕いしてましたの」
「っ……そ、そうなんだー」
動揺を誤魔化そうとして、余計に声が上ずってしまう。
「あはは、まさか仁美がねぇー。恭介の奴、隅に置けないなぁー」
「さやかさんは、上条くんとは幼馴染でしたわね」
「あー……まぁその、腐れ縁っていうかなんていうか……」
「本当にそれだけ?」
やめてよ……そんな風に綺麗な目で、あたしのこと見ないでよ。
「私、決めたんですの。もう自分に嘘は吐かないって。
あなたはどうですか? 自分の心に嘘を吐いていませんか? 目を背けてはいませんか?」
「な、何の話をしてるのさ……」
「あなたは私の大切なお友達ですわ。だから、抜け駆けも横取りもしたくないんですの」
いつか自分もしていたような気がする、真っ直ぐな目。
ハッキリと見るものを絞ることができているということでもあるし。
逆に、見えていないものとか知らないものとか、その存在すら眼中にないということでもある。
でもそれは魔法少女や魔女のことを知らないんだから当たり前だって、自分の心に言い聞かせた。
何度も何度も、脅迫するみたいに言い聞かせた。
「上条くんのことを見つめていた時間は、私よりさやかさんの方が上ですわ。
だから、あなたには私の先を越す権利があるべきです」
「先って――」
「私、明日の放課後に上条くんに告白します。
丸一日だけお待ちしますわ。さやかさんは後悔なさらないよう決めてください。
上条くんに気持ちを伝えるべきかどうか」
――
思ったのはほんの一瞬だけ。けどあたしはそんな自分の心が許せなくて、とてもとても憎かった。
仁美は、恭介には勿体ないくらいいい子だ。
告白されたら多分……あたしなんかよりお似合いで……。
部屋の中にいてもずっと2人のことを考えてしまう。
身勝手な魔法少女にはならない、そう誓った。
それを胸に、これは気分転換だなんて思いを否定して、夜の街にパトロールに出る。
「役には立たないかもしれないけど……さやかちゃんをひとりぼっちにしたくないから」
一昨日のことや、昨日休んだこと、今日の学校での様子から心配して家まで来たまどかが、そう言ってついてきてくれた。
嬉しいけれど、その優しさが今のあたしには眩し過ぎて、痛い。
すぐに発見した魔女の本体は、髪が長い少女のような姿で手を組んでいて、まるで祈りを捧げ続けているかのよう。
人の生命と笑顔のために祈って戦ってるのはこっちの方だってのに……ふざけるな。
「うあぁぁぁッ!」
木の枝みたいな触手が伸びてきて、あたしの身体をどれだけ切り裂いて突き刺しても、あたしは止まらない。
構わずどんどん前に進んで、傷付いて、血を流して、ただ魔女を仕留めに向かう。
「さやかちゃん、何してるの!? 痛くないの!?
危ないよ……死んじゃうかもしれないんだよ!?」
「あたし、もう死んでるもん。ゾンビだもん。
こんな身体で抱き締めてなんて言えない。キスしてなんて言えない。
魔女を殺して人を救うためだけの存在に……特別な聖人君子になってやろうじゃん。
強迫的でも病気でも、どうでもいい!」
「ダメだよっ!!」
まどかは悲痛な声であたしに叫び続けた。
「そんなやり方で戦ってたら、さやかちゃんのためにならないよ!」
「……だったらあんたが戦ってよ」
ああ、でもダメだ。真っ黒で醜い気持ちが、言葉が溢れてきて止まらない。
「キュゥべえから聞いた聞いたわよ。あんた誰よりも魔法少女としての素質があるんでしょ?
あたしみたいな苦労をしなくても、簡単に魔女をやっつけられるんでしょ?」
「わたしが……?」
「あたしのために何かしようって言うんなら、まずあたしと同じ立場になってみなさいよ。
ひとつしかない命張って、必死に戦ってみなさいよ。
無理でしょ? 当然だよね。ただの同情で人間やめられる訳ないもんね!?
何でもできるクセに何もしないあんたの代わりに、あたしがこんな目に遭ってるの!
それを棚に上げて、知ったようなこと言わないで!!」
……バカだ。
頭ではそんなこと言ったって仕方ないってわかってるのに、心は誰にも止められない。
自分でも、吐き出さないとやっていけなくて。あたし、壊れちゃったのかな。
「あはは……! その気になれば痛みなんて完全に消しちゃえるんだ……!!」
このまま身体の痛みごと、心の痛みまで壊れて消えてしまえばいいのに。
「やめて……もうやめてっ!」
何度も何度も、どれだけ反撃を喰らっても返り血を浴びても、剣を振り続ける。
先に壊れたのは、魔女の方だった。
Fellow soldier(フェロウソルジャー):戦友。soldierの語源は金貨を意味するsolidusらしい。
タイトルとしての由来はVシネマ『仮面ライダーブレイブ&仮面ライダースナイプ』の主題歌。
慣れ合うという感じでもなく、しかしただの仕事仲間という訳でもなく……愚直で不器用な彼らには「戦友」がとても的を射てるなと思いました。