2020年。東京オリンピックが行われたその年。
その裏では超人的な力を引き出す「とある機械」が作成された。
1年後、発売されてからその機械は数ヵ月で日本中に広がることとなった。
医療現場での機械的な精密な動き、工事現場の並外れた怪力。全てそれだ。
しかし、その機能ゆえにやはり悪用する人々が増えていった。
センター試験での不正、スポーツ選手のドーピングにも近い行為、殺人。全てそれだ。
政府はこの緊急事態を打破すべく、様々な対策をとった。
約3年後、テレビで時たま見かける「とある機械」の事件。
「次のニュースです。政府は超能力者事件対策のため、対策組織を立ち上げ・・・」
その現実では不可能に近い能力を引き出す機械ということゆえに、ネットなどではこう呼ばれる。
『リアルチート』
「・・・。早くいかなきゃ」
いつも通り、支度を済ませていつも通り学校へ行く。それが私。
今年で高校二年生だけどいまいち変わらない毎日を過ごしてる。部活で賞をとったり、テストで百点をとったりとかもない。でも、そんな日常が私は楽しい。そんな日常が・・・。
「それでは帰りのホームルームを始めます」
「起立!礼!着席!」
「えー、最近この辺りでリアルチーター関連の事件が起こっているそうです。皆さんも出来るだけ一人で帰らず、夜遅い時間まで出歩かないよう、休日は気を付けてください。以上です」
「起立!礼!着席!」
授業が終わり、みんな友達と一緒に帰って行く。私は一人寂しく帰る。父は海外出張で数年間居ない。きっと帰っても一人だろう。
この事を考えるのはよそう。それより早く帰らないと。
小さい頃私は笑顔が絶えない子供だったと聞かされていたが、その時の私は余りにも無知だったことに今更気がついた。私は無力だった。
「おかあ・・・さん」
電車に揺られて、人混みにもまれて、ようやく家にたどり着いた頃にはもうへとへと。予約しておいたお風呂に入って、あがったらベランダでたそがれるのが私の日課だ。
「それにしても、今日は騒がしい」
ここからでも聞こえるほどに大きな悲鳴が数キロ離れたところから聞こえる。
「え?え?え?」
その矢先、爆音が聞こえてこっちに何かが飛んでくるのが分かった。
「このままだと、ヤ、ヤバイいい!」
部屋に戻って身を隠す時間などない。私は咄嗟にその場でしゃがみこんだ。
「う、うわああ!?」
飛んできたのは車だった。車は私の真上の上の階のベランダに当たってぺしゃんこになって地面に落ちた。物凄い地響きがした。
喜びもつかの間。頭上からピシピシッ、という音が聞こえたのだ。身の危険が迫っていることを悟った私は今度こそ部屋の中へ身を隠した。
上の階のベランダが崩れ落ちたのだ。
「あ、危なかったぁ・・・」
半分泣き目だった。霞む景色の先には炎上するビル群があった。パトカーや救急車のサイレンの音が目まぐるしく鳴り響いていた。
―――
――――
―――――
翌朝、休日だったのでマンションの管理人さんに頼んで手配してもらうことにした。
「その間に言ってもねー」
行く宛がないのだ。迷った末。
「試しに昨日の事件が起こった場所に行ってみようかな」
いつもはギュウギュウの電車に乗って事件が起こった場所に行った。
改札を抜けて、階段を登るとそこには・・・。
「な、なにこれ・・・。どういうこと?」
余りに残酷すぎる。消火活動を続ける消防隊に誘導を行う警察、次々に運び込まれる大勢の被害者や遺体。ボロボロに崩れ、壊された建物に道路。一面に広がる血。そこはまさに"地獄"だった。
「ひどい・・・。酷すぎるよこんなの」
自然と足から力が抜けてその場に座り込んだ。恐怖で体が凍る。涙すら出ない。
「皆さん!ここから先は危険ですので立ち入らないでください!ほら、そこの君も!」
「あ、は、はい!」
急いで駆け出した。私が駅に戻ろうとUターンした。その時だった。
バン!
一つの銃声。その瞬間、世界から音が消えたように静まり返る。
「く、来るなぁ!」
静寂を打ち破ったのは警察官だった。その悲鳴につられて周りの人たちも訳もわからず叫び、走る。
「あ、あぐうう、や、ヤメろ・・・、アガぁ、はな、せ・・・」
グシャッ。
声はそこで止まってしまった。首を握りつぶされて。
もう動けない。あの頃みたいに。人の形をした"カイブツ"がこっちに来る。ああ、誰か、誰か・・・。
「助けて・・・」
「はあああああ!」
誰かが"カイブツ"に凶器を突き刺す。悲鳴をあげて"カイブツ"は誰かに襲いかかる。意識がもうろうとする。
「その子を頼んだ!」
「了解」
そんなやり取りが聞こえたのち私の意識は途切れた。
目を覚ますと、私は見知らぬ空間でベットに横たわっていた。
「え?は?こ、ここは?」
「目が覚めたみたいだね」
ベッドの横の椅子に腰かけた大学生くらいの女性がいた。私はベッドから飛び上がり
「だっ、誰!?」
叫んだ。
「ふふ、そんなに慌てなくてもいいよ。私は
「と、とてもじゃないけど信じられないですね。あのカイブツはどこへ行ったんですか!?ここはどこですか!?」
そういった私に対して、予測していたように彼女は口を開く。
「じゃあ、あなたにも分かるように、単純かつ、的を射た回答をしよう。"リアルチーター機密対策本部"って言えば分かるかな?」
雨唯さんはマジックの種明かしのようにてを広げ、笑顔で私を見つめた。
「そ、それってリアルチートを使ってチーター達を逮捕してるって噂の・・・」
「Exactly!その通り!正解だよ」
子供をあやすようにパチパチと手を叩かれた。
「でも、どうしてここに私が・・・?」
「おっ、いい着眼点だ。確かに、ここには一般人が入ることはほぼ無い。連れてこられても、怪我人や、緊急時のみだ。その緊急時に連れてこられたのが・・・」
私って訳か。
「でも、ここはあくまでも国家機密情報が山ほどある場所。そんなところに女子高生なんか置いておけば、"国家機密ナウ"とか拡散されるに決まってるっ!」
「は、はぁ」
「でもね、あなたは特殊な体質だったからここにいる」
「特殊な・・・体質?」
「聞いたことないかな?リアルチートを扱うためにはそれなりに特殊な体質がなきゃだめなんだ。でも、それを一般人が使ってるってことは?はい!晴夜ちゃん!」
「あ、え?ああ、えっと、それは・・・、一般人にも使えるように改良した劣化版?」
「正解!これで二連続正解だね!」
「って、何で私の名前を知って・・・」
「そう、よく新聞やニュースで見る事件は犯罪者たちによって改造されてしまった劣化版なのでーす!」
やけに元気がいい。クイズ番組でもやっているのだろうか。
「そして、人口の約0.01%の特異体質者達がここに集められたって訳!」
「え!?0.01%って・・・、え!?」
二度口にしてしまった。まさか・・・。
「もともとスカウトするつもりだったんだけど、襲われてたからついでに連れてきちゃった☆」
こんな平凡な生活を送ってきた私に・・・。
「こんなあり得ないことが起きるなんて・・・」