リアルチーター   作:glaci

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File 09  エクステンド ザ マーダー

「はぁ~。見つかんないなぁ~」

 

とある昼下がり。私と桃園さんにフォッグくん。我々一同はパソコンの前にすわり画面をにらみつけていた。

 

「ところで、このぱそこんってやつはどうやって使うのニャ?」

 

「まぁ、フォッグくんは仕方ないとして・・・。藍沢さん?」

 

「な、何でしょうか・・・、晴夜ちゃん・・・?」

 

「どうして地べたに寝っ転がってだらけているのでしょうか?私達は茜さんに関する情報をつかまなきゃいけないんですよ」

 

藍沢さんは非常に気の抜けた声でうなったのち、ゆっくりと体を起こした。そもそも地べたで何もしかずに寝ている時点でおかしいと思うのだが・・・。

 

「だってさー、そもそもどうしてあいつは名前を教えてくれたのかなぁ。どう考えても怪しくない?」

 

「確かに、ういちゃんの話も一理あるかもしれないわね。でも、それ以外にも身元がばれない自信があったとか・・・?」

 

「私たちを弄んでいるってことですか。そうだとしたら相当な余裕があって私たちの前に出て来たってとこですか?」

 

茜さんは確か、〝主様"と呼ぶ人物がいる。それが組織の中のボスなのか、それとも中間あたりの人物に雇われているだけなのか。どちらにせよ、調べればきっと手掛かりはつかめるだろう。

 

「あの様子からして相当の強者の感じがするわね。何というか〝執行官"のような・・・」

 

見た目にそぐわないあの残虐的な処刑。とても正気な人間にできる業ではない。

 

「とにかく、私たちが食い止めない事には始まりませんし・・・。ほら、藍沢さんもそんなだらけてないで調べますよ」

 

「――!二人とも!お話し中悪いけど緊急事態よ!」

 

桃園さんの声に空気が一気に張り詰める。私は声に耳を傾けた。

 

「ニャニャニャ!?」

 

「隣町のパトロールが見つけた情報でチーターの出現を確認したわ。"住人が襲われている、今すぐ応援を!"らしいわ」

 

「了解!行くよ晴夜ちゃん!」

 

「分かりました!」

 

私は藍沢さんと共に現場へと急行した。

 

――

 

―――

 

――――

 

「フォッグくんおいていっちゃいましたけど大丈夫でしょうか・・・」

 

「いや、危ないしこっちの方がいいと思うよ。・・・あそこだ!晴夜ちゃん―――いや、え?」

 

そこには・・・、大勢の人々に見える"同一人物達"がいた・・・。

 

「いや、これは・・・チートってことですか?」

 

「あいつは、脱獄犯・・・。私たちが前に捕まえたリアルチーターだよ。前はこんなチートじゃなかったのに・・・」

 

『よぉ、久しぶりだなぁ!』

 

『てめぇに牢にぶちこまれてからは本当にサイアクだったぜぇ!』

 

『だが今はサイコウの気分だなぁ~』

 

『お前をぶち殺せるんだからよぉ!』

 

ざっと数えただけでも10・・・いや、15人はいる。しかも、一人一人が脱獄するだけの凶悪思考を持った艦隊。周りには味方の部隊が1人あたり5人ほどで応戦している。だが全員満身創痍。それがあとどのくらいもつかはわからない。

 

「そしてあいつの名前は・・・、獅子 剛也(しし たけや)!」

 

『ああそうさぁ!』

 

『俺こそが獅子 剛也だぁ!』

 

『まぁ、名前を知ったところでムイミだろうがなぁ』

 

『てめぇら全員ここで死ぬんだからよぉ!』

 

「いや、死なないよ。私たちがあなたを倒すからね!」

 

「気をつけて三人とも!そいつは十人もの人間を虐殺した殺人鬼・・・、一筋縄じゃいかないわ!」

 

大量殺人・・・!そんな奴が野放しになっているなんて・・・。

 

「何としても食い止めます!」

 

「うん!行くよ晴夜ちゃん!」

 

『お前らが何人来てもよぉー』

 

()()()()()()()にかなうわけねぇだろぉが!』

 

まずは冷静に・・・。叫び声にひるまないように飛ばす物(だんがん)を―――。

 

「あ、あれ?まずいです藍沢さん!いつもだったらポケットに弾丸(ボルト)とか忍ばせてたり、偶然弾丸(ぶんぼうぐ)を持ってたりするのに今日は何にもありません!」

 

「何その偶然!てか、文房具飛ばしてたの今まで!?とりあえず何か探してみて!」

 

周囲には何も落ちていない。味方は手が離せない。相手は目の前・・・。あれ、これ詰んだのでは・・・。

 

『ヒャッハー!死ねぇ!』

 

「え、ええっと・・・。どうにかなれ!」

 

私はとっさの勢いで相手の腹部に指を押し付けトリガーを引いた。

 

『うおああ!?』

 

『ぎゃあ!なにすんだてめぇ!』

 

『早く俺から降りろ!俺!』

 

殺人鬼(だんがん)は何人かの分身を巻き込んで後ろに吹き飛んだ。よく考えてみれば、私の能力は()()()()()()()()()()()()()()・・・。それは人も例外じゃないって事か。でも、何とかなってよかった・・・。

 

「ナイス晴夜ちゃん!晴夜ちゃんはとりあえずそれで何とかして!」

 

「いや、あれ割とまぐれで・・・。って聞いてます!?」

 

「はるよちゃん。ここはういちゃんに任せたほうがいいわ。相手の体勢が崩れてきたらそこで乱して!」

 

「わ、分かりました!」

 

――

 

―――

 

――――

 

『く、くそ。まさかこんなガキにやられるなんてよ・・・。』

 

『晴夜・・・。覚えたぜ!』

 

『次に会う時は・・・。どうなるかカクゴしておけよなぁ』

 

そう言ってあの殺人鬼は包囲を掻い潜り、逃げてしまった。あの人数を分身を使って錯乱させながら逃げるとは・・・。

 

「まずい、あいつを逃がしたらとんでもないことになる!」

 

「全力で追跡して!死者が出る前に!」

 

「急ぎましょう藍沢さん!」

 

これ以上、リアルチートで悲惨なことは起こさせない!

 

「はっ!追ってみろよ!でもまあてめぇらじゃ追いつけねぇだろうがよ!」

 

「まぁ、あいつらにはな」

 

「だ、誰だ!か、体が動かねぇ・・・!」

 

「あ、あなたは!柳葉さん!」

 

どうやら応援に来てくれたようだ。恐らくあれは柳葉さんのチート・・・。()()だ。

 

「ほら、あと五秒だ」

 

「あ、すみません。これですね・・・」

 

私は無力化カプセルを殺人鬼のチートに狙いを定めた―――。

 

「!?か、体が重い・・・。うまく・・・動けません」

 

「私もだよ晴夜ちゃん・・・。これはチート?・・・、まさか!」

 

ゆっくりと近づいてくるその人影は明らかに見おぼえがあった。それはあの月明かりの下で会った時と同じオーラを放っていた。

 

「・・・、どうしてお前がここに」

 

「あなたに消えてもらっては困ります。主様の命令によりあなたの回収に来ました」

 

「チッ・・・。分かったよ。気に食わねえがな。ほらずらかるぞ」

 

例のごとく彼らは浮遊して消えてしまった・・・。重力を操るチート。物理法則を完全に書き換えてしまうチート。その力はやはり並のものじゃない・・・。

 

「くそっ!逃がしたか・・・!」

 

「ういちゃん・・・。確かに深刻な状況だけど一旦落ち着いて基地に戻った方がいいわ」

 

「・・・。そうだね。分かった。晴夜ちゃん、柳葉一旦戻ろう」

 

やはり、一度捕まえた犯人を取り逃がしてしまうのは悔しいらしい。基地に戻る間ずっと藍沢さんは悲しい顔をしていた。どこか不安に感じているようにも見えた。

 

――

 

―――

 

――――

 

と、思ったのだが・・・。

 

「藍沢さん。さっきまでこの世の終わりみたいな顔してませんでしたか・・・?」

 

「にゃー♪」

 

「いやー、それとこれとは別だよー!やっぱりモフモフしてるなー」

 

帰って来てからずっとフォッグくんの耳を触っているのだ。

 

「この方がういちゃんらしくていいんじゃないかしら?」

 

「それもそう・・・、ですかね」

 

「とはいえ、あいつを取り逃がしたことはでかい。何か策はあるのか?」

 

「無い!」

 

即答だった。柳葉さんは深いため息をついて―――。

 

「しゃーねーな。俺が探しといてやるよ」

 

「それでいいんですか柳葉さん・・・」

 

「こいつ、今動きそうにねぇしな・・・」

 

どうやら一時休戦になりそうだ。それまでに私も策を考えなければ。

 

「戦ってて気づいたんだけどさ、あいつの分身撃ってみたけど他の分身には影響がないみたい。だからチートの無力化が一番の策だね」

 

「そうですか・・・」

 

あの武器なしで襲い掛かってくる怪力の化け物。あいつに近づくのも難しそうなのだが・・・。それに茜さん対策もしなくちゃいけないし・・・。やることは山積みだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

某時刻。???にて。

 

「回収に成功しました」

 

「よくやった!さんきゅー、あかね!」

 

「・・・」

 

少年は心底嬉しそうに話す。それに対し少女は何も語らない。

 

「じゃ、次もよろしくね。()()()()()()のために!」

 

「・・・」

 

世界征服と少年は軽々しく口にした。だがその言葉には確かな自信と執念のようなものが垣間見えた。


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