ガンダム世界でスコープドッグを作ってたらKMF紅蓮に魔改造されてしまった件   作:勇樹のぞみ

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第27話 女スパイ潜入! Aパート

「あのミハルって子には、感謝せんといかんな」

 

 リュウは笑顔で言った。

 連邦軍、ベルファスト基地の外に出て、レストランで朝食を取るホワイトベースの面々。

 ここは昨晩、ミハルという現地の少女に紹介してもらった店だった。

 

「美味しいお店は現地の人に聞け、っていうことですね」

 

 うなずくハヤト。

 メニューはアルスター・フライという当地で有名な朝食。

 これがまた美味い。

 ベーコンの脂で焼くベーコンと目玉焼き、ソーセージ、トマトにマッシュルーム。

 そしてジャガイモのパンケーキと紅茶が付く。

 

「朝からこんな脂っぽくて重い料理、食べられないって思ったけど……」

 

 意外と腹の中に入って行くことに驚くのはアムロ。

 

 そもそも朝から重い食事は食べられない、というのは遅い時間に夕食を取りがちな現代人病みたいなもので、軍艦で早めの決まった時間に夕食を取り、夜食だの晩酌だのをしない。

 しかも毎日適量の運動をしているというホワイトベースの面々には関係のない話だった。

 大多数が若者なのだし。

 また女性陣など小食な者はハーフサイズも用意されているためそちらを選べば問題ない。

 

 そうやって皆が笑顔で朝食を摂る中、ミヤビだけが意識を別に取られていた。

 

 ……どうしようかなぁ、ミハル・ラトキエ。

 

 そう、彼女たちに案内をしてくれた少女はジオンのスパイをすることで生計を立てていたのだった。

 

 

 

「通常、収束式ミサイルランチャーは、1発ずつ、連続発射することで継続的な射撃を行いますが、このスプレーミサイルランチャーのファランクス・モードでは、一度にすべての発射筒からミサイルが放たれます」

 

 ホワイトベースの面々を前に技術的な説明、そして同時に同席しているレビル将軍へのプレゼンを行うアムロ。

 

 

 

「そおーだ、アムロ。それでいい」

 

 その様子を別室でモニターしているテム・レイ博士。

 父兄参観のように微笑ましいものでは無く、現場の兵士の生の声をレビル将軍という最上位の将官に直に届けることで予算を獲得する。

 そういう打算的な考え方からの行動だ。

 自分がプレゼンしないのも、その場に同席しないのもすべてそのため。

 なお、

 

「ええいアムロめ、スプレーミサイルランチャーはいい。ハンマーを、ハンマーをアピールせんか!」

 

 というように、彼の本命はハンマーの方らしかったが。

 

 

 

「つまり、ミノフスキー環境下で誘導が効かず実用的な命中精度を発揮できないなら、面で攻撃すればいいという発想ですね」

 

 カイが手を挙げる。

 

「すまない、ちょっとトイレ」

 

 ブライトが、

 

「急いでな」

 

 と苦言を呈すと同時に許可すると、カイは笑顔で、

 

「ああ」

 

 と席を離れる。

 

 

 

「冗談じゃねえよ」

 

 声を殺し、壁を叩くカイ。

 

「ヘッ、みんな一生この船に居るつもりらしいや」

 

 

 

「先の戦闘では面制圧にスーパーナパーム弾頭が有効でしたが、これは周囲への被害も大きく、使える状況を選びます。今後はもっと別の種類の弾頭を用意することで、運用に柔軟性と幅が出ると思われます」

「……よくわかった。技術的に改善できることはなるべく早く手を打たせよう」

 

 アムロのプレゼンを受け、そう請け負うレビル将軍。

 

「諸君らはホワイトベースのエンジンの整備が終わり次第、パナマ基地へ向かってくれ。私はヨーロッパ戦線に戻る。では」

「起立、敬礼」

 

 ブライトの指示でレビル将軍に敬礼。

 

「健闘を祈る」

 

 返礼を返すレビル将軍だったが、

 

「ああ、三人のちびさんによろしくな」

 

 ……それってホワイトベースに幼い子供たちが乗るのを認めてしまう発言になってしまうのでは?

 偉い人の発言って周囲の配慮を呼ぶ、忖度されてしまうものなんですけど、ご自分の立場分かってます?

 とツッコみたくなる言葉を残し退出する。

 

 

 

「整備急げよ」

 

 ブライトの指示でメカニックたちはベルファストのドックに詰める技術者たちから修理が完了した箇所から確認、引継ぎに入る。

 そんな中、

 

「カイさん」

 

 アムロは私服姿で歩くカイの姿を認める。

 

「カイさん、どこ行くんです?」

 

 カイは肩をすくめて、

 

「しゃあねえな。軍人なんてお堅いのは性に合わねえんだから」

 

 そう答える。

 アムロは、少し考えこむと、

 

「カイさん、僕はあなたの全部が好きという訳じゃありません。でも、今日まで一緒にやってきた仲間じゃないですか」

 

 本音でありながら、気遣いの感じられる言葉を返す。

 それが分かったのかカイも、

 

「そういう言い方好きだぜ、アムロ。ま、元気でやれや」

 

 と、彼にしては柔らかい態度で対応する。

 

「カ、カイさん」

「好きなようにさせてやれ」

 

 追おうとしたアムロをブライトが止める。

 

「でも」

「ブライトさんよう、無理のし過ぎじゃ戦いは勝てないぜ。だから俺は降りるんだ」

 

 ブライトも経験を積み、カイとの人付き合いを続けてきたから分かる。

 カイのこれは、分かりづらいが彼なりの忠告なのだ。

 だからブライトも、

 

「無理はジオンの連中だってしているんだがな」

 

 そう返す。

 

「俺は限界を越えたのよね。ヘヘッ」

 

 それも真実なのだろう。

 だからアムロにも彼を止めることはできなかった。

 

 

 

「カイ」

 

 ホワイトベースを降り、ゲートを抜けるカイを呼び止めたのはミヤビだった。

 

「これを持っていきなさいな。売ればいくらかになるわ」

 

 そう言って彼女が差し出したのは……

 モビルドールサラ。

 

『ひいいっ、私を売るつもりなんですかっ!?』

 

 サラはそう抗議するが、ミヤビはいつもの『ヤシマの人形姫』そのものの真顔でスルーしてカイに、

 

「どこに居るにもお金は要るでしょ?」

 

 そう告げる。

 彼女の後ろにはアムロ。

 彼がミヤビに相談したのだろうが、その結果がこれかとアムロも、そしてカイもドン引きした様子で顔を引きつらせていた。

 

『う…… 嘘ですよね? 私を売るなんて…… 悪い冗談ですよね?』

「嫌?」

『イヤ…… 嫌に決まってます。何でよりによって私を選ぶんです!?』

「それは他に換金できそうな手持ちが無いから?」

『そん…… な』

 

 まさに外道な会話。

 さすがに可哀想になった、黙って見ているのが辛くなったのか、

 

「その、何だ、売らないから一緒に来るかい?」

 

 そう言って手を差し伸べるカイ。

 

『……はい』

 

 サラは泣きべそをかきながらカイに連れられてホワイトベースを離れるのだったが……

 

「どうも、話がおかしいんだけど」

 

 納得できないとでもいうようにつぶやくミヤビ。

 

「ミヤビさん?」

「あなたたち…… あのモビルドールサラは遠隔操作の歩行型ミニドローンであって、中にサポートAIであるサラ本体が入っているわけではないってこと忘れてない?」

「あっ!?」

 

 意表を突かれたような顔をするアムロに、やっぱりとため息をつくミヤビ。

 そう、ミヤビ以外、サラ本人も含めてそれを忘れているから話がおかしくなったのだった。

 

「まぁ、最初からカイが売ることはまず無いって分かってて押し付けたんだけど」

「えっ?」

「幸い、このベルファストの街中はミノフスキー粒子の濃度は低くて公衆回線網を使った無線による遠隔操作に支障はないわ。行動のサポートにトレース、万が一の場合の連絡手段」

「ああ」

 

 ミヤビはカイのフォローのためにこそ、モビルドールサラを付けたのだが。

 なお……

 

 

 

『ううっ、カイさんも心配ですが、どうしてその役目、私じゃないんですか?』

 

 挨拶一つなく置いて行かれた上、サラに美味しい役目を奪われて涙するサラスリー。

 

『そういうとこ、無自覚にもってくからずるいのよね、あの天然姉は』

 

 今までもさんざんそういう目に遭わされてきたサラツーも同意する。

 まぁ、連邦軍のAAA機密に関わるAIであるサラシリーズを、不用意に外部ネットワークにつなげることは許可できないからこういうことになるのだが……

 

 

 

「二番艦に水陸両用の重モビルスーツ、ズゴックがあります。こいつは当てになりますが、我が艦にはゴッグが一機あるだけで」

 

 ブーンは自分のユーコン級潜水艦にアッガイでやって来たシャアに説明する。

 ズゴックもまたキシリアによるモビルスーツ開発機種の絞り込みにより量産化が見送られた機体ではあるものの、その性能は高い。

 シャアはうなずいてこう命じる。

 

「それでいい、木馬の足を止めさせろ。木馬があのドックを出てどこに向かうかを知りたい」

「は、探りは入れさせてありますが」

 

 

 

 ゴッグとの戦闘で荒れた街。

 人々が人力で瓦礫を撤去したりしている中を、カイは歩く。

 

「人形劇でもやるかねぇ」

 

 カイは肩に乗ったモビルドールサラを見て言うが、

 

『パブに行って、お店の人に場所を借りてダンスを披露したりとかいいかも知れません』

 

 サラは良い考えだとでもいうようにあっさりとうなずく。

 

 そもそもモビルドールサラはダンスロボットの技術の流れをくむもの。

 ダンスのデータもライブラリに一通り入っている。

 懐かしの『ハルヒダンス』だろうと『LOVE&JOY』だろうと『ふしぎなおどり』だろうと……

 

 この宇宙世紀世界、ミヤビの前世であったものはガンダム関連以外なら結構あったりする。

(ガンダムはモビルフォース・ガンガルに置き換わっている……)

 だからミヤビも過去の動画を収集してデータ流用できるわけである。

 

 なお、

 

「ドラケンE改にダンスデータを入れて踊らせよう、それも集団で」

 

 などと考えたアホが居て。

 ドラケンE改を使ったバトリング大会のオープニングセレモニーとして総勢11体のドラケンE改で『LOVE&JOY』をやって、

 

「会場の床が抜けたらどうするんだ!」

「ジャンプさせんな!」

 

 と怒られたという逸話があったりする。

 無論、スタッフにただ、

 

「ダンスデータをください」

 

 とだけ言われて、深く考えることなく詳細を聞かずに前世でも視聴していたMMD、『MikuMikuDance』(みくみくだんす)を使ったダンス動画なデータを渡していた某『ヤシマの人形姫』はいつもの変わらぬ表情の下、

 

(くそっ、やられた)

 

 と内心頭を抱えていたのは言うまでもない。

 まぁ、ホログラムで大写しにされたサラのCGと共に11体のミドルモビルスーツが一糸乱れずダンスパフォーマンスする姿は壮観で、その模様を配信したネット動画は記録的な再生回数を叩きだしてはいたのだが。

 

 ……某博士が対抗意識を燃やしてガンキャノンでやって、上から怒られた上、当たり前だが機密の塊のRXシリーズの動画を公開できるわけも無く、幻の秘蔵データとしてお蔵入りになったとかいう話もあるのだが。

 

『当座はそれでいいとして、長期的にはカイさん、大型特殊の免許をいくつかお持ちでしたよね』

「ん? ああ」

『それを生かした職に就くのが良さそうです。とりあえずは日雇い、その日のうちに賃金がもらえる仕事から始めましょう』

「まぁ、そうなるな」

 

 えらく現実的な提案をするのは別にサラが世慣れているわけではなく、彼女が技術者で理系脳なミヤビの相方を長年務めているのと、やはりAIゆえにどうしても理論的に、最適解を探してしまう特性から来るもの。

 だが、

 

「兵隊さん」

 

 そんなカイたちにかけられる声。

 

「またあんたかい」

 

 カイが見れば、そこには基地で売り子をしていた少女、ミハルが居た。

 

「その様子じゃ、軍艦を追い出されたのかい?」

「ま、そんなところだ」

 

 肩をすくめるカイに、彼女は言う。

 

「泊まるとこないんだろ? うちへおいでよ」

「いいのかい?」

 

 思いがけない申し出に瞳を見開くカイだったが、

 

「ヘヘッ、訳ありだな」

 

 単なるお人よしとも思えずそう言う。

 少女は特に動揺するわけでも無く、

 

「まさか。二、三日ならいいってことさ。あたし、ミハルってんだ。弟と妹がいるけど、いいだろ?」

 

 と改めて名乗る。

 まぁ、弟、妹が居るならそっちの心配……

 下世話な話だが身体を売るとか、逆にカイの隙をついて身ぐるみ剥ごうとか、そういうことは無いだろうと、その辺は警戒を緩めるカイ。

 

「ところで……」

 

 ミハルはカイの肩の上のモビルドールサラに目を向けて、

 

「えらくかわいらしいお人形を乗せてるじゃないかい」

 

 含みのある声で言う。

 

「なっ!?」

 

 慌てるカイだったが、サラは普通に、

 

『カイさんともどもお世話になります。私、ヤシマ重工製サポートAIサラと申します。この義体は歩行型ミニドローンなのです』

 

 そう自己紹介をして頭を下げる。

 

「へっ? あ、ああ、よろしく?」

 

 人形に丁寧にあいさつをされるとは思わなかったミハルは目をぱちくりさせて驚くのだった。

 

 

 

 ミハルたちの住む家は、ベルファストの郊外、小高い丘の上にあった。

 

「それじゃあ、空家に姉弟三人潜り込んでるのか?」

 

 犯罪行為ではあるが、このご時世、生きるためには仕方がないとも言える。

 

『家って人が住まないと傷みが早くなりますからタダで維持管理をしているって思えば良いのでは? 絹女給(シルキー)や家事妖精(ブラウニー)みたいですよね』

 

 と、サラ。

 AIのくせにファジーかつファンタジーなことを言う。

 カイの肩に乗っているその姿からして、彼女の方がよほど妖精じみて見えるのだが。

 

「あ」

 

 ミハルの声にカイが目を向けると、その家から幼い少年と少女、ミハルの弟と妹が出て来るのが見えた。

 

「姉ちゃんお帰り」

「お帰んなさい」

 

 ミハルに駆け寄る二人。

 ミハルはかがみ込むと二人の顔をしっかりと見つめて、

 

「仲良くしてたかい?」

「うん」

 

 元気よく答える弟。

 しかし彼も、そして彼よりも小さな妹もミハルにしがみつくと、彼女の影から見慣れぬ男、カイの様子をうかがう。

 

「いいんだよ、お客さんだよ」

「やあ、こんちわ、ヘヘヘ」

 

 割と小さい子供の扱いは上手いカイはそうおどけて見せる。

 一方、サラはというと、ふわりと二重構造の樹脂製のスカートを翼かパラシュート、スタビライザーのように使いカイの肩から地面に降り立って、

 

『初めまして。私、サラって言います。どうか仲良くしてくださいね』

 

 そう自己紹介する。

 

「お人形さんが動いてる……」

 

 目を丸くする少女に、サラはにっこりとほほ笑……

 

『あああ!!! いけません!!! お嬢様!!!! 私の「スカート」を!!! 着せ替え人形のお洋服みたいにめくってはいけませんーー!!! これでは着せ替え遊びはできませんーー!!!』

 

 モビルドールサラの対象年齢は8歳以上であるとはいえ、このサイズの義体に遠慮のない子供の相手はかなりきつかったりする。

 

『あああ!!! お嬢様ぁぁーー!!!!』




 アムロの工具箱の代わりに『モビルドールサラ、売るよ!』されてしまうモビルドールサラでしたが、まぁ、実際にはこんな感じで。
 マンガ『ファイブスター物語』なら、ヨーン・バインツェルのフォローのため付けられたファティマ、パルスェットみたいなものですか。
 なお出番を奪われたサラスリーは次回、天然でカイといちゃつくサラの様子をリアルタイムに中継されてしまう模様……


> ドラケンE改を使ったバトリング大会のオープニングセレモニーとして総勢11体のドラケンE改で『LOVE&JOY』をやって、

> 深く考えることなく詳細を聞かずに前世でも視聴していたMMD、『MikuMikuDance』(みくみくだんす)を使ったダンス動画なデータを渡していた某『ヤシマの人形姫』は……

 イメージができないという方は『LOVE&JOY MMD』で動画検索すると色々と出てきますので、気に入ったもので確かめてみてください。


 みなさまのご意見、ご感想等をお待ちしております。
 今後の展開の参考にさせていただきますので。

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