ガンダム世界でスコープドッグを作ってたらKMF紅蓮に魔改造されてしまった件   作:勇樹のぞみ

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第27話 女スパイ潜入! Bパート

 そして、夕食だが……

 

『お世話になるのですから私たちにやらせてください。ねぇ、カイさん』

 

 サラはカイに手伝ってもらい、簡単な調理をすることに。

 

「なんでぇ、自分でやらねぇのか?」

 

 そう無茶振りするカイに、サラは至って真面目な表情で、

 

『このサイズのドローンに、料理は鬼門なんです』

 

 と前置きして事故事例を語る。

 

『揚げ物を揚げている途中で油に足を滑らせ転落…… カラッと揚がる……』

「うへぇ」

『衣を取るのが大変でした』

「実体験かよっ!?」

『ミキサーに砕かれ……』

「分かった分かった!」

 

 慌てて遮るカイ。

 食事前にそんなホラーな事故体験など聞きたくなどない。

 キッチンには日が経って硬くなったパンと牛乳、砂糖があったのでミハルの許可を受け、サラはスプレータイプのアルコール消毒液を浴びて自分を洗浄した後、

 

『それじゃあ、パン粥にしますね』

 

 と言って、まずは硬くなったパンを一口サイズに千切ろうとする。

 サラの右手の肘から先はヒートワイヤーを仕込んだグフ・カスタム風のメカ腕になっているので、そのマニピュレータを使うのだが……

 全力でやっても千切れないパンに顔を赤らめ、はぁはぁ言いながらぺたんと座り込んで、涙目になってカイを見上げるサラ。

 

『カイさん…… 硬いです』

 

 このキッチン台、低めにできているので彼女はちょうどカイの腰のあたりの高さにあり、その位置からひざまずいて目の前のカイに対して上目遣いにそんなことを言うと、まるでカイの『何か』が硬いと言っているようにも見える。

 そして開けてはいけない扉を全力で蹴り開けそうになるカイの目の前で、サラは自分のスカートをめくり始めた……

 

 

 

『何やってるんですかっ、サラ姉さんっ!?』

 

 叫ぶサラスリー。

 サラはカイについていけない彼女のことを思って、自分の体験データをリアルタイムで渡しているのだが、

 

『なんかエッチだ……』

 

 と、一緒に見ていたサラツーが言うとおり、その言動は何だかエロかった。

 本人にはまったくそのつもりは無いのだろうが、これが天然というものだろうか?

 

 

 

 モビルドールサラの二重構造の樹脂製のスカートは、花弁のようにいくつものパーツで構成されており、その裾を広げるとパーツの間のスリットから人の手によるが故の芸術的な曲線を描く脚、そして危ない箇所が見……

 

『素直にナイフを使いましょう』

 

 と、スカートの中からグフ・カスタムが使用したヒート・サーベル、"Type-D III"と呼ばれる実体剣の形をした刃物、『機動戦士ガンダム 第08MS小隊』劇中では発熱させずに使用していたアレを、スカートの中に隠し持てるよう磨り上げ、短くしたようなナイフを取り出すサラ。

 それを使ってパンをカットし始める彼女の姿にカイは脱力する。

 

「勘弁してくれ……」

 

 続いてサラはカイに牛乳を鍋に入れてもらい、ゆっくりと過熱。

 パン粥は離乳食にも使われる消化の良いものだが、大人向けにはお好みで砂糖やはちみつで甘みを付けるのも良い。

 グラニュー糖を投入し、牛乳に膜が張らないようカイにかき混ぜてもらうのだが、ぽちょん、と跳ねたミルクが、

 

『あ、熱っ!?』

 

 鍋を覗き込んでサーモセンサーで温度監視していたサラの頬にかかる。

 

「だ、大丈夫か?」

 

 慌てるカイに、しかしサラは大丈夫だというように微笑んで。

 

『えへへ、カイさんにかけられちゃいました』

 

 そう言って頬にかかったミルクの雫を、指で拭ってペロリと舐め取る。

 

 

 

 頬にかかった白い液の熱さに驚き、舐め取るそのしぐさ!

 

『エッチすぎるでしょう!?『カイさんにかけられちゃいました』じゃないです!!』

 

 もうサラスリーの声は悲鳴交じりだ。

 

『……えっち?』

 

 姉妹の中で一番、初心なサラツーには分かっていない。

 というかサラスリーが耳年魔というか、むっつりという話も。

 

『あざといです。さすが天然あざといです』

 

 と言うのはサラナイン。

 

『わ、私もリュウさんにだったら、かけられても……』

 

『ぽわわわわっ』みたいな擬音がぴったりくる夢見るような視線を宙に向けてつぶやくサラシックス。

 もうサラシリーズ姉妹による中継鑑賞会となっているのだった。

 

 

 

『うん、優しい味』

「分かるのか?」

『もちろん飲食はできませんけど、口には味覚センサーが付いてますよ?』

「すげぇな、ヤシマ重工」

 

 素直に感心するカイだったが、

 

『特技は汗の味でウソを見抜くこと』

「ウッソだろ、お前」

 

 続くサラの言葉に思わず冗談だろう、と目を剥く。

 しかし、サラは詳細分析を終えたのか、

 

『この味は!』

 

 ……ウソをついてる『味』。

 ではなく。

 

『……成分調整していない味です』

 

 と宣言する。

 

「驚くようなことか?」

『この地域ってカロリーの低い低脂肪なスキムミルク、セミスキムミルクが人気で、無調整牛乳(ホールミルク)はあんまり好まれていないんですよ』

 

 ミヤビの前世でも英国暮らしをすると分かることだったが、宇宙世紀でもそれは変わっていないのだ。

 

『でもまぁ、栄養があって美味しいからいいですよね、無調整牛乳(ホールミルク)』

 

 そういう話ではあるが。

 ともあれ、カットしたパンを入れ、

 

『できました!』

 

 麩のように柔らかくなったらできあがり。

 

『さぁ、食べてみてください』

 

 皿に盛って皆に出す。

 全粒粉パンと牛乳の組み合わせだから、これだけでも割と栄養バランスは悪くない。

 スプーンですくって一口食べたミハルは、

 

「へぇ、時間が経って固くなったパンも、こんな簡単に美味しく食べられるんだねぇ」

 

 驚いたように言う。

 

『そうですね。離乳食や病人に出す際にはすり潰す必要があるんですけど、常人にはこれぐらいの大きさにしたままで出すと食味が良く食べられますね』

 

 そう答えるサラ。

 日が経って硬くなったパン、パン屋でタダ、もしくは安値で売られているパンの耳なども、こうすると簡単に美味しく食べられる。

 

 なお、サンドイッチのために耳を切り落とすのは、白いお米や砂糖、小麦粉、白パン等が特に尊いものと捉えられる日本で顕著なもので、欧米ではあまり見られない文化だったりする。

 イギリスだとアフタヌーン・ティの三段トレイに盛られたキューカンバー(キュウリ)・サンドイッチなどがあるが、これはイギリスでは、最高級のサンドイッチと言えば、キューカンバー・サンドイッチであった時代が長く続いたその名残。

 ヴィクトリア時代の英国の上流階級では、それまで存在しなかった新食品であるキュウリを美味しく食べる最高の料理として、最初の一口で瑞々しく淡い甘さのほとばしるキューカンバー・サンドイッチを開発したと言われており、そのために特別にパンの耳を切り落としたのだ。

 だから普通に売られているサンドイッチにはパンの耳は付いているし、街のパン屋で余りのパンの耳が処分されたりということも無い。

 

「別に硬くなったって、スープやドリンクに浸して食べればいいだろ」

『カイさん、それはマナー違反ですよ』

 

 瞳を精一杯怒らせているつもりで『め~っ』と叱るサラだったが、その仕草は何とも愛らしい。

 

 

 

『こ、これが正妻力と言われるサラ=オリジナル、私たちの根源たる存在の力なんですか?』

 

 ここまでしないと自分の好きな人にはアピールできないのかと、愕然とするサラスリー。

 自分がそんな風にやってみるところを想像するも、

 

『む、無理です。私にはとても、とてもそんなことできません』

 

 がっくりとうなだれる。

 

 

 

「むぐっ」

「………」

 

 ミヤビの前世の記憶の中にある史実では固過ぎるパンを噛み千切るのに必死だったミハルの弟と妹、ジルとミリーも頬を緩ませ、皿に盛られたパン粥をスプーンですくって食べている。

 ミハルはそんな弟と妹を優しい目で見守りながら、カップに入れられたハーブティーを飲んでカイに聞く。

 

「あんたの乗ってた軍艦だけどさ」

「ああ」

「すごいんだろ?」

「まあな。船、好きなのか?」

「うん。浜育ちだからね」

 

 ミヤビの前世、西暦の時代でも世界最大の乾ドックがあった街。

 様々な船が出入りするのを目にしながら育ったのだろう。

 しかし、

 

「だけどホワイトベースは船っても、宇宙戦艦って方だからな」

 

 ということで、毛色が違うものだ。

 

「そうか、宇宙船なの」

「ああ」

 

 そしてミハルの顔を見つめるカイ。

 

「なに?」

 

 カイは表情を崩して、

 

「いや、俺の思い過ごしさ」

 

 そう答える。

 

「あんた疲れてんだろ。毛布持ってくるから休みなよ」

「うん?」

「遠慮することないよ」

 

 そう言って、毛布を取るためにだろう席を立つミハルだったが、その後をジルとミリーも追いかける。

 

「ヘッ、よく仕込んであるよ」

『カイさん?』

 

 首を傾げるサラに、何でもないというように首を振るカイ。

 

 

 

「いいかい、あいつが外に出たらすぐ姉ちゃんに知らせんだよ」

 

 部屋の外、弟、妹にそう言い聞かせるミハル。

 

「うん」

「わかってる」

 

 

 

 いかにも英国風といったアンティークなカウチソファに身体を預けるカイ。

 ふと気になってミハルが持っていたバスケットの中を確かめると、売り物の食品の下には黒光りする小型拳銃が。

 

『ベレッタM1934、のクローンですね。オリジナルとはスライド先端部のデザインが違ってますし』

 

 と、一緒にのぞき込んでいたサラが言う。

 

 ミヤビの前世の記憶では某アニメ誌にて「M1934そのままである」と紹介されたせいで誤解が広まったが。

 コルト社のM1911ガバメントやM4など、パテントの切れた銃器は他社でクローンモデルが造られる場合がある。

 おそらくはこの拳銃もその中の一つなのだろう。

 そもそもオリジナルのM1934は第二次世界大戦当時の代物で、西暦1980年代には戦後の生産も終了しているアンティークガンということもあるし。

(逆に言うと『機動戦士ガンダム』放送時にはまだ造っていたということでもあるが)

 

『一応、この地域では拳銃の私的所有は認められていますが』

 

 ミヤビの前世でも警官が拳銃を所持しない、というほどに銃規制が厳しいのが英国だったが、その中で北アイルランドのみがその歴史的背景から別扱いで拳銃の私的所有が認められていた。

 マンガ的に言うと『ヘルシング』にて、

 

「あの土地は連中(プロテスタント)のものではない。我々(カトリック)の土地だ!!」

 

 ということでバチカン第13課からアンデルセン神父が派遣されて主人公たち英国の王立国教騎士団(HELLSING)と殺し合いをしていたが。

 つまり「北アイルランド問題」から無差別テロがあったりする物騒な土地柄ゆえか、自衛目的の銃所持が認められているのだ。

 

『カイさん、マガジンと薬室を確かめてみてください』

「あん?」

 

 カイはグリップの尻にあるマガジンキャッチを操作してマガジンを引き抜く。

 素早い操作はできない反面、確実にマガジンをロックする特徴があるものだが。

 

『ホローポイント弾ですか』

 

 7発の.380ACP弾が入るマガジンに装填されていたのは着弾すると人体の中で変形し、そのパワーを余すところなく発揮するホローポイント弾。

 

『.380ACP弾は低威力ですから護身を考えるなら定番ですし、室内戦で跳弾が起きやすいフルメタルジャケットよりは扱いやすいのですが』

「んでも薬室は空だったぜ」

 

 チャンバーは空だからスライドを引いてハンマーを起こし、送弾しなくては撃てない状態だった。

 

 M1934のようなシングルアクションの拳銃ではトリガーを引いただけではハンマーは起きないため、コック&ロックと言って、

 スライドを引いてハンマーを起こし、薬室に初弾を送る。

 マニュアル・セーフティをかける。

 という状態で携行することで即座に撃てるようにするのが定番だ。

 ここでマガジンを抜いて弾を足せば、マガジン装弾数+1発が装填できる、コンバットロードと呼ばれる装弾数を増やすテクニックも使えることだし。

 そうして撃つ直前にマニュアル・セーフティを外してトリガーを引くわけである。

 

 つまりそうしていないということは素人臭いと考えるカイだったが、しかし、

 

『M1934はシンプルなシングルアクションの拳銃ですが、マニュアルセーフティのレバー位置が悪いうえ、切り替えの時には180度近くも回転させる必要があって薬室に弾を入れて携帯するコック&ロックにはあまり向かないんです』

「つまり?」

『とある諜報機関では、薬室を空にしての携帯を推奨していました。銃を抜いたらスライドを引き、初弾を薬室に送って発砲するまでがセットの動作です』

 

 どういうことかというと、

 

『確実性を重要視した射撃法ですね。弾を込めて引き金を引けば必ず弾が出るリボルバーと違って、オートマティック、自動拳銃というのは面倒なもので薬室の弾丸の有無、ハンマーの位置、セイフティの位置、それぞれが射撃可能状態でないと撃てないわけですが』

「……つまり、銃を抜いたらスライドを引く癖をつけておけば、どんな状態で携帯していても必ず撃てるってわけか」

 

 不確実性を極限まで排除し、確実に相手を殺傷するための方法論。

 暗殺業(ウェット・ワーク)を主眼とした物騒なテクニックだったりする。

 暗殺は不意打ちで相手を殺害するもの。

 片手で抜き撃ちができなければならないわけでもないので両手を使った操作を前提としても問題ないし、撃ち合いをするわけでもないので装弾数にこだわること、マガジン装弾数+1発が装填できるコンバットロードに固執する必要も薄いのだし。

 

『もみ合いになって万が一銃を奪われても即座に発砲されないという利点もありますしね』

 

 いわゆる『イスラエル・キャリー』というやつだ。

 

「……ほんと、イヤだねえ」

 

 そういったサラの物騒な情報提供に嘆息し、銃を元どおりに戻すカイ。

 

 

 

 ミハルが毛布を手にリビングに戻ると、カイは何食わぬ顔でカウチソファに身体を預けていた。

 

「手間かけるねえ」

「気にしないで」

 

 そう言うミハルにカイは、

 

「ホワイトベースな、夜にはここ出るぜ」

 

 しれっとそう漏らす。

 

「え?」

「右のエンジンが手間取ってるらしいんだ。あそこを狙われたらまた足止めだろうけどさ」

「カイさん……」

 

 カイは目をつぶって、

 

「いいじゃねえか。弟や妹の面倒を見ているあんたの気持ちはよくわかるぜ」

 

 そう伝える。

 

「カイさん」

 

 ミハルは複雑な表情でカイの身体に毛布を掛けるのだった。




 フレームアームズ・ガールか武装神姫か超可動ガールかといったお料理回でした。
 さらに次回ではダメ押しでサラによってカイが寝取られ、サラスリーが打ちのめされる模様。
 なお、後半スパイものっぽい話もありましたが、その流れで諜報戦、からの戦闘も開始される予定です。

 みなさまのご意見、ご感想等をお待ちしております。
 今後の展開の参考にさせていただきますので。

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