ガンダム世界でスコープドッグを作ってたらKMF紅蓮に魔改造されてしまった件   作:勇樹のぞみ

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第29話 ジャブローに散撒(ばらま)く! Bパート

「結論を言うと、ホワイトベース隊は今までどおり任務についてもらう」

「はい」

 

 ブライトとミライはゴップ大将と対面し、その指示を受ける。

 

「なお、ティアンム艦隊に配属されるが、正式な通達は作戦前に行う」

「はい。それで、それまで我々は?」

「あてがわれた宿舎で休め、処罰はしない」

 

 ブライトの問いにそう答えて、ゴップはミライに向き直る。

 

「ミライさん、それがあなたのお父上への恩返しと思ってもらいたい」

「父の?」

 

 ゴップは頷いて、

 

「お父上には昔も今も、多大なご協力を頂いている。うるさいことを言う者も居るだろうが、しかし口には出させても手は出させんよ」

「そう、ですか……」

 

 ゴップとしてはミライ、そしてミヤビの身柄を保護したいところではあるが、「うるさいことを言う者」に手出しをさせないための理屈付けとして、ヤシマ姉妹にはヤシマグループを戦争に協力させる人質としての役割を負わせる必要があった。

 ジオンのメイ・カーウィン嬢、ゲーム『機動戦士ガンダム戦記 Lost War Chronicles』とその関連作品に登場の彼女は旧ジオン・ダイクン派のカーウィン家をジオンの戦争に協力させるための人質だった。

 娘が前線に送られればカーウィン家とて非協力では居られまい、というもの。

 ミヤビの『コロニーリフレッシュプロジェクト』もあってジオンに関わりの多いヤシマグループは、同様に連邦への戦争協力への証としてミヤビたちを用いることが求められてしまっているのだ。

 

 そこに、サイレンが鳴り響く。

 

『警報です。南ブロック第231ハッチ、第243ハッチに敵接近。第二戦闘配置』

 

 報告と共に大スクリーンに映し出されるジャブローの地図。

 

「またパトロールか」

 

 それを確かめたゴップはブライトたちに命じる。

 

「よし、宿舎に帰っていい。一応警戒態勢は取ってくれ」

「はい」

 

 

 

 ジャブローに向かうガウの編隊。

 その指揮官は先行するマッドアングラー隊のシャアと通信を交わす。

 

『フフフ、気にするな少佐』

「だがしかし、第一波の攻撃としては少なすぎることをお詫び申し上げます」

『なんの、少佐。どのぐらいでジャブローに着くのか?』

「一時間弱です」

『結構』

 

 

 

 ジャブローの司令部でも、侵入するマッドアングラー隊のモビルスーツの動きは捉えられていた。

 

「攻撃しますか?」

「いや、こちらの場所を知らせるだけだ。やめろ」

「二機は水中戦用のアッガイです。他の三機はコンピューターに入っていません」

「新型モビルスーツか」

 

 司令官は念のため、警戒レベルを引き上げるよう判断。

 

「よーし、ジャブロー南ブロック全体、第二戦闘態勢に入らせろ」

 

 即応を目的とした第一戦闘態勢ではない消極的なこの判断が彼の迷いと、悪い意味での慣れを物語っていた。

 

 

 

「先に行くわね」

「はい」

 

 子供たちの乗ったエレカーのハンドルを握るフラウに告げるセイラ。

 彼女自身は、

 

「やってちょうだい」

「はい」

 

 とアムロの運転するエレカーの助手席に着く。

 ……その背後で、フラウが血の涙でも流しそうな顔をしているのだが。

 

 

 

 一方、ジャブロー内の高架道路、ブライトとミライの乗ったエレカーは合流点で横から出てきたハヤトやカイたちが乗る6輪バギーと並走することになった。

 

「どこへ行くの?」

 

 ミライが声をかけると、

 

「ホワイトベースです。第二戦闘配置たって、俺達ホワイトベースに行くしかないでしょう?」

 

 と、カイ。

 ハヤトも、

 

「みんなも来ます」

 

 という答え。

 ベルファストで出奔しようとしたカイの口からそんな言葉を聞き、ブライトは我知らずほほ笑む。

 なんだかんだと言って、ホワイトベースは皆の拠り所になっているのだ。

 だからブライトは柔らかさを含んだ声で、

 

「うん、そうだな」

 

 とうなずくのだった。

 

 

 

「定時爆撃が近づいている?」

 

 ジャブローには、護衛のドップを引き連れたガウ攻撃空母が定期的に爆撃を行っていた。

 絨毯爆撃、であるとはいえ、硬い岩盤に守られたジャブローに損害はなく、ただ対空砲や迎撃機の破壊が目的と思われるものだ。

 

「どういうことだ? 今潜入しているモビルスーツ部隊とは連携が取れていない? 指揮命令系統が別なのか?」

「迎撃させますか?」

「……いや、迎撃機は別ブロックから上げさせろ。対空砲火も無しだ。絶対に動くな」

「はぁ?」

「なぜジオンは定時爆撃なんぞという効果の薄い攻撃を繰り返してきたのだと思う?」

「はっ? まさか!」

「そおーだ。我々をそれに慣れさせ、感覚をマヒさせて油断を誘うためだ」

 

 人間は慣れてしまう生き物だ。

 最初は緊張感をもって注意深く対応しても、何度も続くとそれが日常になってしまう。

 いつものルーチン攻撃を、いつものルーチンワークで迎撃する。

 

「連中、こちらの動きでジャブローの配置や内部構造を探る気だ」

 

 ジャングル内に巧妙にカモフラージュされた防衛網も、迎撃時には露出させざるをえない。

 上空からは無理でも、地上のモビルスーツから発見され進入口として利用されるという可能性は高い。

 

「これまでの定時爆撃はすべてこのためだったのだ! 良いか? 絶対手出しはするな! 全隊に知らせよ! 警報も鳴らすな!」

 

 そう指示を出し、司令官は笑う。

 

「読み切ったぞ、ジオンめ。その手に乗るか」

 

 

 

 ホワイトベースブリッジに駆け込むブライトたち。

 

「フラウ・ボゥ、ミライ、参謀本部から情報を至急集めてくれ。我々には外の戦いがわからなければ手の打ちようがない」

 

 ブライトの指示に、フラウとミライは手分けして情報収集にあたる。

 ホワイトベースは修理中で使えないため、操舵手のミライは手が空いているのだ。

 

「はい、こちらホワイトベースです」

「作戦本部、敵の動きを教えてください」

 

 次いでブライトはオペレーターのマーカーに確認。

 

「出撃できるか?」

「はい。ジャブローの入り口の警備ということで、ガンキャノンとガンタンク、ドラケンE改可翔式を出します。リュウとハヤトは万が一に備えてホワイトベースの砲座で待機」

「そうだな、ジャブロー内ではコア・ファイターで迎撃というわけには行くまい」

 

 そういうことになった。

 

 

 

「こんな所まで追いかけてくるのかよ、ジオンめ」

 

 カイはガンタンクに乗り込みながらつぶやく。

 

「ミハル、俺はもう迷わないぜ。お前みたいな子を増やさせない為にジオンを叩く、徹底的にな」

 

 そして頭部、車長兼砲手席についたセイラからの通信。

 

「いいわね、カイ、サラスリー」

「ああ」

『どうぞ』

「ブリッジ、ガンタンク出ます」

 

 セイラの指示でガンタンクが進みだした。

 先行するアムロのガンキャノン、そしてミヤビのドラケンE改可翔式の後を追う。

 

『ミヤビさん、セイラさん、ジャブローの入り口の所で。敵は侵入してくると思いますから』

 

 アムロからの提案。

 

「了解。あっ、ガンキャノン?」

 

 セイラは視界の隅を過る赤いモビルスーツに声を上げる。

 答えたのはサラスリーだった。

 

『いえ、あれは量産型ガンキャノンです。ガンキャノンの生産タイプですね』

 

 

 

「量産型ガンキャノン、か……」

 

 つぶやくミヤビ。

 結局、地球連邦軍ではRX-78ガンダムがペーパープランで終わった結果、その量産機であるジムは生まれず。

 変わって量産機に選ばれたのはミヤビの前世の記憶の中にもある『機動戦士ガンダム0080 ポケットの中の戦争』に登場した量産型ガンキャノンだった。

 コスト低減のため、コア・ブロックと教育型コンピュータを廃止し、装甲材質をルナ・チタニウムからチタン合金セラミック複合材に変更。

 シミュレーションゲーム『ギレンの野望』シリーズではジムの3倍程度のコストがかかっていたが、性能、特に火力はそのコストに見合うだけのものを持っていた。

 というか、同コストのジム高級機より使えるという……

 何より実弾系のキャノンはビーム攪乱膜やIフィールド等、ビーム対策の影響を受けない。

 

(……もしかしてビグザム戦、数を頼みの力押しで行けるんじゃ?)

 

 という話に……

 

 

 

「ふっ、爆撃に力が無いな。立つのは煙ばかりではないか」

 

 広域にわたるガウ攻撃空母の空爆はいたずらに煙を上げるだけで効果はない。

 ジャブロー本体は厚い岩盤の下に守られているが、それだけではない。

 

 防衛のための対空砲や観測所も密林が天然の掩体となり砲爆撃の効果を削減してしまう、いわゆるジャングル・キャノピーに覆われ、ピンポイントの直撃、あるいは至近弾でなければ効果は薄い。

 そして直撃を狙おうとしても対空砲陣地は巧妙な偽装が施されている上、発見を逃れるために射撃後、砲はすぐに隠される。

 移動式の対空砲に至っては射撃後速やかに移され、場所によっては陣地をつないだ地下道を使っての運搬ができるようになっていた。

 

 要するに『機動戦士ガンダム』が放映された西暦1979年当時にはまだ記憶に新しかったベトナム戦争で培われた、あのアメリカ軍を敗退させたジャングル戦闘のドクトリンが生かされているのである。

 

 しかも今回は、

 

「護衛のドップの下面をパープルに塗って、ガウの大編隊に見せかけるなど」

 

 という失笑物のカモフラージュを仕掛けて来ていた。

 確かにドップとガウは真下から見ればシルエットは似ているし、ミノフスキー粒子の影響でレーダーが効かず、目視に頼らざるを得ない状況では誤認も有り得る。

 ガウは今回、その両翼にある艦載機発進口のカタパルト上部に多数の空対地ミサイルランチャーを仮設。

 それにより進行方向に広く発煙弾を撃ち込み煙幕のカーテンを展開し、真下以外から視認できないようにしてからジャブロー上空へ侵入するという手を使っていた。

 そのため実際に一部の観測所からは当初、パニックめいた報告が届いていたのだが、

 

「そんな姑息な手を使わざるを得ないほど、ジオンが摩耗していると自ら露呈させたにすぎん」

 

 冷静になって観察すればあっさりと見抜けるものである。

 

「終わりだな。ジオンにはもう、このジャブローを落とすだけの力は無い……」

 

 哀れむように言う司令だったが、次の瞬間、

 

「ガウです!」

 

 悲鳴のような報告に眉をひそめる。

 

「そんなのは分かっている」

「いえ、そうじゃありません、定時爆撃とは別にガウの大編隊が上空に迫っています!」

 

 戦術マップに追加される光点。

 

「ばっ、バカな、なぜ気付かなかった!」

「繰り返される定時爆撃の度に広域に振り撒かれるミノフスキー粒子により一帯はレーダーが効かない状態となっている上、発煙弾と爆撃による煙により現在、地上からでは視認が困難となっています。これは他のブロックからの報告で判明したもので、さらに先ほどのドップを使った偽装による誤認報告と混同され、その分、ここまで報告が上がってくるのが遅れました」

 

 苦し紛れに思えた見え見えの偽装は、それを見破った連邦軍に油断を、そして同時に情報の混乱を誘発させていた。

 そう、最初から見破られることを前提とした策だったのだ。

 

「迎撃に上がったフライマンタ隊はどうした、目をつぶったまま戦っていたのか?」

 

 ドップとのドッグファイトに懸命なフライマンタの部隊に、さらに周囲への警戒を要求するのは酷な話だったが、それでも問わざるを得ない。

 しかし、

 

「ミノフスキー濃度が濃く、フライマンタ隊とは連絡が付きません」

「レーザー通信があるだろう!」

「先の定時爆撃、いや定時爆撃を装ったガウから広域にばら撒かれた発煙弾、そして爆撃による煙で、地上からではレーザー通信も途切れがちで上手くつながりません」

 

 レーザー通信はミノフスキー粒子の影響を受けないが、雲や霧などの遮蔽物が間にあると阻害されるのだ。

 そしてこの煙はガウの編隊の発見を遅らせるだけではなく、更なる混乱をこのジャブローにもたらすものなのだった。




 地獄のジャブロー攻略戦。
 今回は降下前の謀略戦でした。
 どうしてジオンは『定時爆撃』なんていう効果が薄い攻撃を仕掛けていたのか、その辺を考えてみたものです。
 無論、これは下準備というだけで更なる仕掛けがあるわけですけど。

 一方、地球連邦軍の量産機は無難に量産型ガンキャノンに決定。
 高コストによる数の不足は、ドラケンE改で補うということなのでしょうね。

 次回はジオン、モビルスーツ部隊の降下開始。
 そしてウッディ大尉配下のSM(サム)が登場予定です。

 みなさまのご意見、ご感想等をお待ちしております。
 今後の展開の参考にさせていただきますので。

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